LIVE SHUTTLE  vol. 81

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吉澤嘉代子が『ひとりカラオケOL』を演じ伝えたかったことは?

吉澤嘉代子が『ひとりカラオケOL』を演じ伝えたかったことは?

「吉澤嘉代子とうつくしい人たちツアー」追加公演
2016.11.18 恵比寿ガーデンホール

吉澤嘉代子とうつくしい人たちツアー追加公演。同名のコラボアルバムのテーマに則り、開演前の恵比寿ガーデンホールには樹木希林と郷ひろみ、石川優子とチャゲ、セルジュ・ゲンスブールとジェーン・バーキン、リンダ・ロンシュタットとアーロン・ネヴィル……といった古今東西の“コラボ”ヒッツが流れていた。

ステージには大画面テレビと大きなソファー。毎回、趣向を凝らしたシアトリカルなステージを展開する吉澤だけに、ファンも察しよく「カラオケボックスだね」などとささやき合っている。BGMがやむと、モーニング娘。「LOVEマシーン」のイントロが流れ、チェック柄の半袖ジャケットに同系色の膝丈の巻きスカートという銀行員っぽい衣装の吉澤が登場。ソファーに座って歌い始めるや、陰アナが流れて「わたしはどこにでもいる、しがないOL。名前はカヨコ。趣味は、そう、ひとりカラオケ……」と、当夜の物語の主役と舞台を一瞬にして知らしめた。

カヨコがやけっぱちで「LOVEマシーン」を歌っている間にキーボードの横山裕章とドラムの能村亮平がステージに上がり、1番を歌い終わるとおもむろに「綺麗」の演奏が始まった。ベース、ギター、ストリングス、ホーンズ、コーラスをシークェンスで補う大胆な編成。MCなしで「ユキカ」「恥ずかしい」を続け、まずまずの滑り出しだ。

カヨコがソファーに腰かけてフロントを呼び出し、ドリンクを注文すると、やけに力んだ美声が「レモンスカッシュおひとつ、かしこまりました」。グラスを運んできたのは長身の二枚目、妙に見覚えのある顔と体格である。「お客さま、こちら当店自慢のガリスカッシュです」「わたしが頼んだのレモンスカッシュなんですけど」「お客さまにはレモンよりガリがお似合いですよ」とオフビートなやりとりを経て、カヨコはカラオケマシーンに「吉澤嘉代子メドレー(寿司屋は不良編)」を入力。テレビ画面に歌詞が出て、観客に唱和を促す。「ガリ」「ブルーベリーシガレット」「ケケケ」「チョベリグ」と、以前ならクライマックス級の名曲を惜しみなくメドレーに押し込んで、客席も盛り上がる。吉澤嘉代子

そしていよいよ『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』コーナーだ。謎のカラオケ店員のおすすめで、まずは「ねえ中学生」、そして「アボカド」「ゆりかご」。次は「じゃじゃじゃ」を入れようと歌本を開き、「ザ・プーチンズがおともしますって書いてある。どういうことだろう?」とフロントに電話すると、先ほどの力んだ美声が「当店はザ・プーチンズに非常に力を入れておりまして、街角マチオと街角マチコが常駐しております。実はわたし、街角マチオでございます」と衝撃の告白! かくして当夜のゲスト、ザ・プーチンズが現れ、マチオのフリップ芸が火を噴く「じゃじゃじゃ feat. ザ・プーチンズ」を披露した。続けて「ナニコレ feat. 吉澤嘉代子」をかまし、マチコ店員が「7万3千円になります」と法外な料金を請求。「さ、どうぞ。ATMはこちらです」「えーっと、カード使えますか?」と3人一緒に引き揚げていった。

セットのテレビに第一興商の通信カラオケDAMとのコラボ映像「DAMチャンネル ライブツアー特別編」が流れる間にお色直しが完了し、ブルー系とブラウンのフェイクファーのパッチワークをあしらったドレス姿の吉澤とバンドメンバーが再登場。未音源化の新曲「残ってる」は〈かき氷色のネイル〉という表現が素晴らしくイマジネイティヴな、夏の終わりの恋を描いた短編小説のような歌だ。コンサートも終盤にさしかかり、「ちょっとちょうだい」「シーラカンス通り」と官能的なレパートリーを連打する。吉澤嘉代子

「泣き虫ジュゴン」ではシアトリカルな雰囲気がガラッと内省的に。学校になじめず、命綱にすがるようにサンボマスターを聴きながら、彼らに会うためにステージの向こう側に行きたい、と思っていた少女時代を歌った曲だ。〈だけど伝えなくちゃ何も変わらないから ほら いま歌うよ〉という歌詞が、本編ラストの「ものがたりは今日はじまるの」につながる。〈私を連れていってください〉という歌い出しについての「子供のころ、ここじゃないどこか違う場所に誰か連れて行ってくれないかな、って思っていた時期があったので、自分の気持ちがサンボマスターを経由して巡ってきたような気がして、幸せで不思議な体験でした」というMCにもあったが、気持ちというのは不思議に通じるものだし、恩や縁は巡っていくもの。それを知る体験は彼女にとって貴重なものだったはずだ。

アンコールに応えて「東京絶景」、そして「誰かにどこかへ連れていってくれるっていうのではなくて、自分で自分を連れていかなければいけないし、それができるかもしれないのがうれしい。『ものがたりは今日はじまるの』の〈あなた〉は自分自身なのかなって思ったりして。自分の心の隙間は自分で埋めようって」と「がらんどう」を歌った。予定外のダブルアンコールでは、来春のアルバム発売を告知して(内容は「バーン!と濃いもの」とのこと)、その中から二十歳のころ書いたという「一角獣」を披露し、トータル2時間を超える公演は幕を閉じた。

「一角獣」の前のMCは胸に染みるものがあった。「わたしは歌があったから社会復帰できましたけど、それでよかったよかったじゃ終わらないのが人生で、何か幸せなことがあってもまた落ち込んだりとか、波があるじゃないですか。そうして何回も何回も、浮いて沈んで……ってするのが生きていくってことで、そのたびに言葉を失うし、すごく苦手なんだけど、でもそれをやって、言葉にして音楽にして、これからも歌いたいなと思っています」。やるしかない。仕方がない。これしかできないんだもの。そうして自分の限界も可能性も引き受けていくことが、たぶん大人になるということだと思う。この夜、吉澤嘉代子は大人の階段を一歩のぼってみせ、僕たちはそれを見届けた。こんなに幸せなコミュニケーションがあるだろうか。彼女のライヴはこれまでもそういう場だったし、おそらくこれからもずっと彼女とファンが出会い、心を通わせ合う場であり続けるだろう。吉澤嘉代子

前半はコミカルに、後半はパーソナルに。コラボレーションをテーマにした『うつくしい人たち』の世界をどうひとりで膨らませるか、その他の曲とどう接合させるか、に僕は注目して見ていた。それを100%クリアした、完璧なショーだったとは思わない。思わないが、課題に正面からぶつかり、工夫を凝らしたこだわりの演出と、特に終盤に見せた感情の力、そして先述したとおりの成熟の自覚、彼女の思いの深さと強さは、それを補って余りある感動を満場の観客に与えたと思う。ちょっとクレイジーケンバンドやカエターノ・ヴェローゾのコンサートに通じるものを感じた。

 終演後の吉澤のコメントで本稿を締めよう。「『東京絶景』のときに照明さんが客電をつけてくれて、“あーやめて、泣いちゃうよ”って思っていました。これが絶景だって思っちゃって。今日はザ・プーチンズとご一緒できてすごく楽しかったし、いろんな方から温かい気持ちをもらったので、どうにかそれを形に変えて、ずっと歌っていきたいです」

文 / 高岡洋詞 撮影 / 田中一人

セットリスト

「吉澤嘉代子とうつくしい人たちツアー」追加公演
2016.11.18 恵比寿ガーデンホール

1. 綺麗
2. ユキカ
3. 恥ずかしい
4 . 吉澤嘉代子メドレー ~すし屋は不良編~
5. ねえ中学生 feat. 私立恵比寿中学
6. アボカド feat. 伊澤一葉
7. ゆりかご feat. 岡崎体育
8. じゃじゃじゃ feat. ザ・プーチンズ
9. ナニコレ
10. 残ってる
11. ちょっとちょうだい
12. シーラカンス通り
13. 泣き虫ジュゴン
14. ものがたりは今日はじまるの feat. サンボマスター
<アンコール>
15. 東京絶景
16. がらんどう
<ダブルアンコール>
17. 一角獣

吉澤嘉代子

1990年6月4日、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街育ち。
父の影響で井上陽水を聴いて育ち、16歳から作詞作曲を始める。 ヤマハ主催”The 4th Music Revolution” JAPAN FINALにてグランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2016年、2nd アルバム『東京絶景』をリリース。自身初となるホールツアーを全国7箇所にて実施。国際フォーラムCでの公演を成功させた。2016年夏、「ROCK IN JAPAN .FES 2016」、 「JOIN ALIVE」など大型フェスヘ出演。私立恵比寿中学、南波志帆らへの楽曲提供も行う。
2016年8月には、サンボマスター、私立恵比寿中学、岡崎体育やザ・プーチンズなどが参加した、コラボレーションミニアルバム「吉澤嘉代子とうつくしい人たち」をリリース。

オフィシャルサイトhttp://yoshizawakayoko.com/

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