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桑田佳祐「君への手紙」。挫折から未来へ向かう人への励ましの歌

桑田佳祐「君への手紙」。挫折から未来へ向かう人への励ましの歌

すでにご存知かと思うが、桑田佳祐の新曲「君への手紙」が誕生するキッカケは、映画『金メダル男』であった。主題歌として書き下ろされたのだ。そしてカップリングとして収録されることになる作品も含め、レコーディングは進められ、4曲入りのシングルとしてリリースされた。その初回限定盤には、桑田自筆の便箋3枚に及ぶ手紙が封入されている。〈「君への手紙」を手に取ってくださった皆様へ〉と題され、途中、ナイスなギャグを挟みつつの近況報告であり、さらには「君への手紙」に込めた想いも綴られていた。

取材・文 / 小貫信昭


〈「君への手紙」を手に取ってくださった皆様へ〉と題され手紙

そう。少し引用させていただくと、この曲は「人生うまくいかないことや、悲しいこともたくさんあるけれど、それでも諦めずに頑張っていこう!! 例え他人に嗤われようとも、多少の躓きがあろうとも、ひたむきに夢を追い続けようよ!!」という気持ちを、ファンの人たちへ、そして、「ひょっとしたら自分自身に向けて?」のメッセージとして、歌ったものだという。すでに曲を聴いた人は、大いに頷くと思う。いや、すでに「桑田さん、たしかに肩を押してもらいましたよ」と、そんな報告をしたいヒトも大勢いることだろう。

ところで、せっかくの手紙なので、しばしその便箋を眺めていたのである。文字を眺めつつ、「もしかしてこの筆跡は、ボーカル・スタイルにも通ずるものがあるのでは……」と、そう思ったのだ。それは楷書だが、どこか草書的な柔らかさを持ったものであり、毛筆における“連綿”、つまり文字と文字の動的な繋がりも伝わってくる書き方なのだ。そこに歌と共通する印象を持ったのだ。

歌における“連綿”。それは、シンコペーションであり、小節と小節を滑らかに繋げて聴かせるためのもので、桑田はデビュー以来、その類い希な使い手でもある。ちなみに、彼は今も作詞の際にはフリーハンドで書いているそうだ。少し前に訊ねたときは、詞を書けばその横に〈by けいちゃん〉という印を押していたと記憶するが、今でもそうしているのだろうか……。

「ヨシ子さん」とはガラリと違う作風について

ここで前回のシングル、「ヨシ子さん」からの流れを見てみよう。桑田佳祐の音楽キャリアの中でも、ひときわ異彩を放つ大胆な作風であったあの曲は、人間の本能が剥き出しになる季節、夏にピッタリだった。J-POPの範疇でありつつアバンギャルドの極みでもあり、本人も“やり切った”感は強かったと思われる。それに較べて「君への手紙」は、秋から冬へと胸にしみる、まさに王道ともいえるバラード作品である。

作風はガラリと変化したが、これは「ヨシ子さん」からの「反動と言えば反動なのかも」と本人は言う。ただこの言葉の真意としては、何かを否定しての次、というわけではなく、それはそれとして、でも今回は別の引き出しを開けてみた、ということだろう。アレンジの音数的にも派手な作品が続いたので、「次はもうちょっと気楽にいこう」という、そんな心持ちでもあったそうだ。

たしかにイントロのギターのストローク、そして、ふと口をついて出てきたかのような歌い出しのコトバからして、「さぁ音楽するぞ」みたいな、肩の力が入った雰囲気は皆無なのである。

ロッカ・バラードとしての「君への手紙」

先に発表された「君への手紙」のプレスリリースの中に“アコースティック・ロッカ・バラード”という文字があった。それは桑田にとって、どのようなイメージなのだろう。実はここ最近、インタビューしていてキーワードと思える言葉があり、それは“80年代”。彼自身が影響を受けた音楽は、50〜60年代以降の洋邦を含め、実に多様なものであるが、“80年代”というのは、ちょっと意外な気がしないでもない。というのも、すでに桑田はサザンオールスターズの一員として、まさに“80年代”のシーンを担う立場だったはずだからだ。でも、アーティストはいっさい、同時代に影響されないとは言い難いわけであり、また、プロとして自分の活動をし始めたからこそ、すぐ近くで鳴っている音は、意識するなと言われても意識せざるをえないものだったかもしれない。

もしかして「君への手紙」は、“80年代”への手紙でもあるのかも……。

「君への手紙」の、例えばコード進行にも、そんな質感があると本人も言うし、でも実は、「80年代とは、60年代へと回帰した部分もある時代だった」というのが、桑田の分析なのである。この言葉を受けて、改めて“アコースティック・ロッカ・バラード”という言葉を眺めてみて、特に“ロッカ・バラード”の意味するところは、そのあたりにもあるようだ。さらにアレンジ、サウンドの面でも“80年代”が香るものになっている。リズム・トラックに関しては、ちょっと響きが硬質というか、シンセサイザーが大いに活用されたあの時代を彷彿させる。星がキラめくかのように♪キン、♪コンと入る単音のピアノのオブリガートもアクセントになっていて、これは桑田いわく、「原さんのアイデア」だったという。

なお、ヘッドホンで聴けば、オーディオ的にとても奥行きのある音の意匠が随所にあることも書き添えておく。フルートをサンプリングして鍵盤弾きした音とか、途中、“エンヤートット”のコーラスが被さってくるドメスティックかつ胸騒ぎな感覚とか、スタジオで施された様々なアイデアも、ぜひ堪能して欲しい。

改めてこの歌のメッセージについて考えてみる

ところで、冒頭の桑田の手紙の紹介の部分で、この歌に彼が込めたメッセージに関しては本人の言葉の引用で紹介させてもらったが、人生における挫折というのは、桑田自身も「経験あること」だと言うし、経験があるからこそわかるし、なので曲を書いていて自然と「ガンバレと言いたくなった」という。もちろん、歌で励ますというのは簡単じゃない。ヘタすりゃ上っ面の言葉になりかねない。でもこの歌の説得力は、近視眼的なことに陥らず、小節が進むにつれ、さらに“生きていく”ということをたしかに見据えたうえでの説得力を纏(まと)っていくところにあるのだ。

サビで切々と歌い上げられる〈Brother, sister, mother & father〉のあたりでは、聴いてて胸を締め付けられるほどの感動が舞い降りる。そこに在るすべての魂がひとつの塊となっていくかのような、崇高な気分でもある。

カップリングも超充実である

「悪戯されて」は、歌謡曲のパロディも上手な桑田が今回は別の回路でもって、歌謡曲に対する“オマージュ”という、この言葉のほうがしっくりくる世界観を築いた作品。「あなたの夢を見ています」は、ファンの人たちの顔を思い浮かべつつ、この曲を聴いてくれたら「なんて思うのかな……」という、そんな心持ちで綴った作品だ。そして「メンチカツ・ブルース」は、桑田が敬愛するエリック・クラプトンの、さらにルーツであるロバート・ジョンソンあたりを探訪しつつ、しかし途中でドゥワップにもなっていき、コマネチなども登場するという問題作なのだ。

リリース情報

初回限定盤

初回限定盤

通常盤

通常盤

アナログ盤

アナログ盤

「君への手紙」
SINGLE
2016年11月23日発売
[初回限定盤 “君への手紙”パッケージ ]
VICL-38200 ¥1,296+税
[通常盤]
VICL-38201 ¥1,296+税
[アナログ盤]
VIJL-61700 ¥2,037+税

〈CD収録曲〉
01. 君への手紙 映画『金メダル男』主題歌/WOWOW開局25周年CMソング)
02. 悪戯されて
03. あなたの夢を見ています
04. メンチカツ・ブルース

〈初回限定盤 [“君への手紙”パッケージ ]封入特典〉
01. 直筆 桑田佳祐から“君への手紙”
02. オリジナル切手ステッカー
03. “年越しライブお楽しみ特典!”ライブ・ビューイング参加応募券
※ライブ・ビューイング参加には別途チケット代が必要となります

■君への手紙 (Full Ver.)


初回限定盤

初回限定盤

通常盤

通常盤

『THE ROOTS〜偉大なる歌謡曲に感謝〜』
映像商品
2016年11月30日発売
[初回限定盤/ Blu-ray+7inchレコード+Book]
VIZL-1500 ¥7,000+税
[初回限定盤/ DVD+7inchレコード+Book]
VIZL-1501 ¥7,000+税
[通常盤/Blu-ray]
VIXL-800 ¥6,000+税
[通常盤/DVD]
VIBL-1000 ¥6,000+税

〈収録曲〉※曲名/オリジナル歌手
01. 東京の屋根の下/灰田勝彦
02. あゝ上野駅/井沢八郎
03. 赤坂の夜は更けて/西田佐知子
04. 有楽町で逢いましょう/フランク永井
05. ウナ・セラ・ディ東京/ザ・ピーナッツ
06. 東京ドドンパ娘/渡辺マリ
07. 車屋さん/美空ひばり
08. すみだ川/島倉千代子
09. たそがれの銀座/黒澤明とロス・プリモス
10. 東京ナイト・クラブ/フランク永井・松尾和子
11. 男はつらいよ/渥美清
12. 新宿の女/藤圭子
13.新宿そだち/大木英夫・津山洋子
14. 紅とんぼ/ちあきなおみ
15. 北国の春/千昌夫
16. 神田川/かぐやひめ
17. 東京砂漠/内山田洋とクール・ファイブ
18. 唐獅子牡丹/高倉健
19. 東京/桑田佳祐
Bonus Track. 悪戯されて/桑田佳祐

■悪戯されて(歌謡サスペンスビデオver.)+映像作品「THE ROOTS 」トレーラー