Interview

ただの“JK部活もの”じゃない…超異端作『映像研には手を出すな!』まさかのTVアニメ化によせて。原作:大童澄瞳が語った“勝利への確信”

ただの“JK部活もの”じゃない…超異端作『映像研には手を出すな!』まさかのTVアニメ化によせて。原作:大童澄瞳が語った“勝利への確信”

空想に身を躍らせ「私の考えた最強の世界」を描くことに没頭する浅草みどり、金儲けが好きなプロデューサー気質の金森さやか、人気のカリスマ読モでありながらアニメーターを志す水崎ツバメ。3人の女子高生が「映像研」に集い、自主制作アニメという夢を現実にしていく“冒険”を描いた人気コミック『映像研には手を出すな!』(連載:月刊!スピリッツ)。連載開始当初からマンガファンの高い評価を集めていた本作がTVアニメ化。2020年1月5日よりNHK総合テレビにて放送をスタートさせた。

原作ファンにとっては“まさか”の本作映像化を手掛けるのが、『ピンポン THE ANIMATION』(2014年)や、『夜は短し歩けよ乙女』(2017年)など、数々の傑作を手掛けてきた湯浅政明監督&サイエンスSARU! 「アニメ制作を描くアニメ」という、極めて難しい素材を彼らがどのように料理するのか。今、それを最も期待しているであろう原作者・大童澄瞳(おおわらすみと)に、その制作最前線を聞いてきた。

取材・文 / 山下達也(ジアスワークス) 構成 / 柳 雄大


湯浅監督が手掛けてくれるなら…『映像研』は、タイトルさえ残っていればOKです!

『映像研には手を出すな!』が、あの湯浅政明監督率いるサイエンスSARUによってアニメ化されることについて、まずは率直な感想を聞かせてください。

大童澄瞳 湯浅監督については、アニメ化の話をいただくずっと前から存じあげております。監督をつとめられたTVアニメ『四畳半神話体系』(2010年)や『カイバ』(2008年)などはもちろん拝見しておりましたし、それ以前の「劇場版クレヨンしんちゃん」シリーズ(1993年~)などではアニメーターとしても活躍されておられました。監督としても、アニメーターとしても優秀な方だと認識しています。

そんな”もちろん知ってる”湯浅監督が、僕の作品を作ってくださると言うことで、驚きと同時に勝利を確信したところはあります(笑)。

大童先生は、学生時代に自主制作でアニメを制作していたとのことで、アニメ制作への造詣も深いと思うのですが、実際に、原作者としてプロの現場に関わることになってどのように感じられましたか?

大童 私は確かにアニメーションが好きではあったのですが、動画の動きの部分で周りと語り合う機会があまりありませんでした。友人との切磋琢磨の中で詳しくなっていくことができなかったんです。ただ、そんな私でも、「原作者がいろいろ文句を言うことで現場の動きが止まる」とか、そういった話は聞いていました(笑)。

そこで今回は、湯浅監督やサイエンスSARUさんへの信頼が大きかったこともあって、好き勝手やってもらおうと決意しました。原作を無視しても全然かまいません。それで絶対に良いモノができるはずなので、とにかく口出ししないようにしよう、と。ただし、何か質問されたら「1に対して100を返す」くらいの気持ちでやろうと思っていました。

その後、サイエンスSARUさんからオファーをいただき、EDアニメにアニメーターとして参加するなど、本当に制作チームに入れていただき、一緒に作っているというかたちになっています。

「1に対して100を返す」について、具体的にはどういうことを聞かれるのでしょうか?

大童 たとえば、原作単行本1集に「パーソナル・ディフェンス・タンク」っていう戦車が出てくるんですけど、そういったものの構造だとか、作中ロケーションの意味などですね。マンガの中では詳細に描けていないけど、おそらくディテールが隠れているのだろうと先方が察知すると、僕に質問が飛んでくるんです。それに対して、かなりの部分を解説して戻すというやりとりをしています。

あとはマンガの中で印象的な絵として描かれているけれど、それがキャラの妄想なのか、あるいはそこにもっと深いディテールがあるのか、描いた私にしか分からないところがあって、そういうところを質問されたりもします。具体的には単行本2集に水崎が「私はここにいるって、言わなくちゃいけないんだ」って言うシーンがあるんですが、その足もとにある絨毯が「空飛ぶ絨毯」なのか、それとも「隣接する飛行船に結びつけられた床みたいなもの」なのか、といった感じですね。

さすがに動かす必要もあって、細かいところまでの情報が必要なんでしょうね。

大童 そうしたやりとりを繰り返していくうちに、サイエンスSARUが表現したいこと、重要だと考えていることが何となく分かってくるんですよ。それがすごく楽しかったです。

そうして実際にできあがってきたアニメの映像を観て、どのように感じられたか。ファーストインプレッションをお聞かせください。

大童 やはり印象に残ったのは、原作から変わっているところですね。アニメ第1話ですと、浅草と水崎、金森がGHQの男たちから逃げるシーンなどは原作にないアクションが追加されていて、とても良かったです。あそこはアフレコでもいろいろなパターンで声を収録しているんですけど、何テイク目でも笑ってしまいます(笑)。

私が『映像研には手を出すな!』の原作者として、唯一損だと思うのは、話の筋に詳しいせいで、どうしても新鮮味に欠けるということです。ただ、できあがったものを見てみると、原作と同じシーンでもしっかり“新しく”なっているので、結局は全て楽しめています。

先ほど「原作を無視しても全然かまいません」とおっしゃっていましたが、とはいえ、ここだけは変えてほしくない……たとえば、浅草たち3人組はそのままのキャラクターでやってほしいといった気持ちはありましたか?

大童 アニメ化企画が動き始めた最初の頃、初めて湯浅監督にお会いした時には、タイトルさえ『映像研には手を出すな!』であれば、主人公3人が全く変わってしまっていてもかまいませんとお伝えしています。

というのも、アニメの企画は原作付きの方がお金を引っ張ってきやすいと(業界の事情について)聞いていたので……それで出資者が揃って、現場が楽しいことができるのであれば、原作がどう変えられてもかまわんだろうと思っていたんですね。湯浅監督の新しいTVアニメが見られるんであれば、それでいいじゃないですか。それに、メタな視点でみれば、それはそれで『映像研には手を出すな!』になってるんじゃないかと(笑)。

アニメ化が決まってもブレない原作!「やれるもんならやってみろ、という意識」

大童澄瞳

単行本記載の経歴によると、高校生時代は映画部に所属し、その後は専門学校絵画科に進学、卒業後は独学でアニメーションを学び、あわせてマンガの同人活動を始めたとのことですが、『映像研には手を出すな!』に至る、その創作の歩みについて、もう少し詳しく聞かせていただけますか?

大童 イラストを描き始めたのは小学校高学年のころですね。両親と姉が趣味で絵を描く人だったので、その影響が大きかったと思います。そんな中、中学1~2年生くらいのころにアニメーションブーム、オタクカルチャーの勃興がありまして、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)や『らき☆すた』(2007年)などが人気を博していました。

最初は「イラスト」だったんですね。

大童 はい、そして、それとほぼ同時期にFlashアニメの全盛期があったんですよ。棒人間のGIFアニメとかも大人気で。それで自分でもやってみたいと思って、何本かGIFアニメを作ったのが「映像」を作り始めた最初です。本当はFlashアニメもやってみたかったんですが、難し過ぎて断念しました。

その後はイラストを描くのがメインになっていたのですが、やっぱりどこかにアニメーションを作りたいという気持ちもあって……そうしたら高校の映画部ではアニメを作るらしいよって聞いて入部したんです。まあ、入ってみたら作ってなかったんですけどね(笑)。

あらら……(笑)

大童 でも、ちょうどそのタイミングで「GoPro」(アクションカメラ)が世の中に出てきていて、そのカッコいいプロモーション映像がYouTubeなどで見られるようになっていたんです。それを見ていて、ひょっとしたら自分はアニメだけじゃなくて、「映像」全般が好きなのではないかってことに気がつきました。映像のアングルなんかにこだわり始めたのはそのころですね。幸い映画部にはそうしたこだわりを実現できる環境があって、そこからの地続きで『映像研には手を出すな!』の「映像」っぽい表現に繋がっていきます。

そのあたり、もう少し素人にも分かりやすく教えていただくことはできますか。

大童 そうですね、「映像」っぽく見せるにはどうすればいいか……。一番分かりやすいのは、人物の寄りのカットで額から上と胸から下をトリミングするとかでしょうか。引きの場合はちょっとだけパースを付けるとか、アングルをちょっと低めにするとか……。そうすると「映像」っぽくなるんですよ(笑)。『映像研には手を出すな!』は、そういったものを多用して画作りをしています。

浅草みどり(声:伊藤沙莉)

そうして生み出された原作の『映像研には手を出すな!』ですが、今回のアニメ化で得た経験がフィードバックされたりということはありますか?

大童 絵が上手くなった感じがします(笑)。アニメーションって絵柄のブレを極力排していかないといけませんし、キャラクターデザインもしっかり統一されていますよね。それを踏まえて仕上がってきたものを見て、「あっ、上手いな!」って思わされました。自分が作ったキャラクターなのに、(アニメだと)自分より数段上手いんですよ。

自分がデザインしていないキャラクターの絵だったら「上手ェ! やべェ!」で終わるんですが、自分がデザインしたキャラクターの絵が洗練されて出てくると、自分に足りない部分がはっきり分かるんです。それは絵の上達に直結しますよね。これは原作者の役得と言っていいと思います(笑)。単行本で言うと第4集あたりから、その成果が出て、若干、絵が上手くなっている……かも?

金森さやか(声:田村睦心)

水崎ツバメ(声:松岡美里)

……ちなみに、逆にアニメ化の影響を受けないようにしたことはありますか?

大童 「アニメ化しやすいように描こう」ということはしないようにしています。アニメになることを意識しすぎて、原作に制限をかけるのはよそうと。今は、アニメ化しづらそうなものでもバリバリ入れて、やれるもんならやってみろという意識でやっていますね。アニメ化の際に関係者を苦しめそうなお金の話題とか……(笑)。

イラストから始まり、映像、マンガ、そしてアニメとさまざまな分野に携わってきた大童先生ですが、最終的には「どこ」に向かっているのでしょうか?

大童 う~~ん、どこなんでしょう。どこにも向かってないのかも(笑)。中学生の頃はアニメーターになりたいと思っていましたが、きつい仕事と聞いていましたし、実ははなから諦めていたところもあるんですよね。ただ、何となくアニメに関わる仕事はしたいと思っていました。

そう考えた時、自分の取り柄や経験を活かせる分野は絵くらいしかなくて……。ほかに映画を撮るという方向性もあったと思うのですが、専門学校への進学時には絵画科を選びました。それは絵画がいわゆる「ファインアート」で、そこで基礎さえ学んでおけば、例えば絵コンテとかには活かせるんじゃないかと思ったから。アニメーターになるのは無理でも、もしかしてコンテを切るなら特性があるんじゃないかとか、まだ試していない方向に逃げ道を探していたところもあります(笑)。

ただ、実際、学んだことは将来、絶対何かに使えると思っていましたし、それまで具体的なビジョンを決めずにやってきたので、今後も決めずにやっていくんだと思います。もしかしたら隠居を選ぶかもしれませんし(笑)。

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