映画『アズミ・ハルコは行方不明』  vol. 4

Interview

枝見洋子プロデューサーと松居大悟監督の最強タッグでここだけの製作秘話

枝見洋子プロデューサーと松居大悟監督の最強タッグでここだけの製作秘話

松居さんがズルいのは、現場でも最終的に監督がどうしたいのかをみんなが気にするっていう状況になるんです(笑)

枝見さんが手がけたドラマ『ゆとりですがなにか』では少し下の世代を描いてました。

枝見 下の世代は怖いんです。自分が若さを武器にやってきたという自覚があるから、あのときの自分の無敵な感じ、「大人にはわからないでしょ?」みたいな感じが、身に覚えがあるから怖いんです。だから、急がなきゃっていう気持ちがすごくあります。

松居 はさまれてる感じがすごいあるよね? 今、下の世代がワーって来てる。もしかしたら、4〜5年前に上の世代に僕たちが感じさせてたことかなって考えたこともあるんですけど、いや、そんなことはない気がすると思って。下からの突き上げと上から押さえつけられてる感じの両方があって、生きづらさも感じてます。

枝見 今の若い子たちほど自由じゃないというか。私たちの世代は今ほどいろんな道具を手にしてなかったし、かといって、上の世代ほど下の世代を無視もできない。後輩世代から感じるプレッシャーもたしかにありますね。

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デジカメで撮って、すぐにネットにあげる世代と、高価なフィルムで撮ってた上の世代との狭間にいる?

枝見 そうそう、現代っ子たちは瞬発力がすごい。

松居 「消費されるもんでしょ?」っていう価値観だしね。

枝見 それに、ちゃんとお金をかけて撮っていた、贅沢な映画作りの現場も知らないし。中間な感じがありますね。

松居 たしかにそうだね。

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松居監督、枝見プロデューサー、蒼井優さんという、1985年生まれの同じ歳の3人が揃った撮影はいかがでした? 撮影から1年経った今でも定期的に飲みに行くくらい仲がいいですよね。それは、かなり珍しいことだと思うんですが。

枝見 松居さんがひとりひとりを仲間として引っ張るというか、頼るからかな。

松居 だって不安だから(笑)。

枝見 だから、蒼井さんも「どうにかしなきゃ。私がまとめないとな」って思ってくれたんじゃないかな(笑)。

松居 脚本制作から編集、仕上げといろんな女性に頼り、現場では同世代の仲間たちに頼り……あれ? 俺、何してたんだろう?(笑)

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あはは。プロデューサーからは松居さんは監督としてどう見えてました?

枝見 撮影に入る前にスタッフで集まって。いざ、具体的な準備を始めたときに、松居さんがあんまり指示をしなくて。

松居 あっ!! 一回、ケンカしたとき? 今、思い出した。きつかったな、あれ(苦笑)。

枝見 そうそう。衣装の打ち合わせのときに、私としてはこの仕事に責任も感じていたし、こっち側の思いはなるべく監督の口から伝えて欲しいって思っていたんです。でも、とにかくあんまり何も言わずに。

松居 「どういうのがいいですか?」って聞くだけでね。

枝見 みんなも気を遣って何も言わないし。そこで「なんだこれは?」と思ってしまって。私はちょっとキレ気味に言っちゃったんです、「ここはこういうイメージでずっと話してきたよね?」って。でも、松居さんは「そうだっけ?」みたいな感じで、「なにぃ! ええー!」と思って(笑)。

松居 あはは。その数日後に話したんだよね。「ああいうふうにイメージを押しつけるのはやめてくれ」って。プロデューサーが発言してしまったら、それがみんなの正解になっちゃうからって。

枝見 はい。冷静になってみれば、そういう考え方もわかるんです。でも、そのときは「何言ってるの? あなたが監督でしょ!」って(笑)。

松居 最初の打ち合わせで僕が言い出すと、そういうムードに自ずとなっていくじゃないですか。だけどまず、「こいつ(松居)何も出てこないな? じゃあ、自分がなんか出さないと」っていうスイッチにしないと、みんなが動き出さないなって思うんですよね。

枝見 そのスイッチを私が一番に押されちゃったってことだよね(笑)。そのときに「今回はとにかくみんなで作りたいと思っているから、頼むから黙ってて」って言われて「よくわかんないけど、わかったよ!」って逆ギレみたいな感じで見ていたら、そういう松居さんの振る舞いがひとりひとりのモチベーションを上げるし、みんなが楽しそうに作品に関わっていて。スタッフもアイデアを出すし、意見交換もたくさんあって。最終的に「参りました!」みたいな感じではあります。だから、ほかではあまり見たことのないような現場でした。

松居 スタッフも役者も心の底から信用しているから言わないっていうことなんですけどね。

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2人で擦り合わせてきたイメージとまったく逆の意見が出ても?

松居 とにかく聞く。聞いて聞いて、最終的な取捨選択は……。

枝見 松居さんがズルいのは、現場でも最終的に監督がどうしたいのかをみんなが気にするっていう状況になるんです(笑)。みんな言いたいことは言ったけど「本当にこれでいいんですか?」って確認する、みたいな。そこで、最後の最後で「俺はこうしたい」ではなく、最後まで「う〜ん……」って言ってるから、みんなが監督の本当の気持ちを引っ張りだすっていうやり方だったかな。

それは、スタッフやキャスト、全員で同じ方向を向くように仕向けているということですか?

松居 そうですね……う、う〜ん……。

違うときは違うっておっしゃってくださいね(笑)。

枝見 まさに、今みたいな感じです(笑)。「本当は違うんじゃないですか?」っていうのを人に言わせるっていう。

松居 あはは!

枝見 松居さんに対しては、蒼井さんはじめ全員が、この人が本当は何をやりたいのかを気にして、それをやりたいっていう気持ちでいてくれたと思うんです。みんなの気持ちの持って行き方がうまくハマった気はしますね。

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完成した作品を観て、枝見さんはどう感じました?

枝見 作ってる過程で、自分も歳を重ねて30歳になって、作り始めたときとは自分の気持ちがすごく変わりました。最終的にパワフルで元気になれる映画になって、自分でもびっくりしました。

その心境の変化というのは?

枝見 最初は共感だったんですけど、30歳を迎えるまでの期間って、一年一年で周りの状況も自分自身もすごく変化していくから、最終的には、春子のことも愛菜のことも応援したくなったんです。本当に、ちょっとだけ見方を変えたら、世界は広いし、もっと無敵な気持ちでいても全然大丈夫だよって思えた。でも、それはこの映画を作れたから思えたことかもしれなくて。

松居 本当にやばかったもんね。クランクインの1ヵ月前くらいにお金が集まらなかったりとかでやばいなっていう状況になって、あきらめる理由のほうが多くなったときがあったんですけど、こんなに熱い気持ちでやってきたのに、大人の事情でグッと押さえ込まれたことであきらめてしまったら、一生、悔いが残る気がしたんですよね。そこでマンパワーでなんとか乗り切ろうって言って。だから、信じた気持ちって絶対に間違いじゃないって、今回は思います。

枝見 たしかに、そのときに松居さんのすごさを感じました。私が半分、あきらめそうになっていたときに、松居さんは絶対に一度もあきらめなかったし、弱くならなかったというか、強かったですね。

松居 あのときはね、絶対にあきらめないと思ってた。

枝見 この人、ちゃんと自信があるんだなって思いました。そのときの私は完全に松居さんに頼っていたし、松居さんじゃなかったら、時期を変えるとか考えてたかもしれない。

松居 僕はこれを止めることは、原作者や脚本家や現場スタッフと準備してきた、いろんな思いを否定することになる気がして。そうなったら、きっと、もう何も作れなくなるだろうなって思ってたんです。でも、完成して本当に良かったです。

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ケンカや困難も乗り越えて、ついに上映日を迎えました。

枝見 あのときのことを思い出すと、本当に公開できることが信じられないっていうか。

松居 泣きそうになるよね。

枝見 (しみじみと)良かったなって思います。でも、本当はここからがスタートなんですよね。どれだけのお客さんに観ていただけるかっていう。ただ、本当に20代だったからできたことだなって思いますね。それに、松居さんとは、遊びでもなく、友達とも違って、一緒に仕事をしたからこその関係になれた。今、振り返って想像しただけで疲れちゃいますけど(笑)、このくらい疲れないと、こういうふうな関係にはなれないんだなって思いました。

松居 なんか、最初に「行きたい」って言ってたところに行けてない? 「東京国際映画祭にコンペで行きたいよね」って言ってたこととか。

枝見 松居さんが以前、東京国際のスプラッシュに出品(『自分の事ばかり〜』)してることは知ってたので、今回は絶対コンペに行きたかったんです。私の中で自主映画コンプレックスがあって、映画を作るならちゃんと市場に出ないとダメだと思っているところがあって。今となってはおこがましいですけど、松居監督は自主映画に行っちゃイヤだと思ってたんですよね。メジャーで戦おう、そっちのほうがかっこいいって。だから、東京国際映画祭のコンペティション部門で日本映画2作品のうちのひとつに選んでいただいたことは本当に嬉しかったです。


After Talk vol.4 枝見洋子編

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Q. 枝見さんだけが知っている松居監督の秘密を教えてください。

枝見 出会って間もない頃に、LINEをマメにしてることがすごく印象に残ってます。そのときに「改行してると、既読になる」って言ってて(苦笑)。

松居 ポップアップ表示すると、例えば「わかった。どうする?」の一行だと、既読をつけないでも読めちゃうじゃないですか? でも、改行すると文章が続いてるという表示になるから、アプリ自体を開かないと読めないわけで。

枝見 そうそう。「開かせたら、返事もらえるし」って言ってて。「なんだ、このちっちゃい男は!」って思ったんです(笑)。しかも、それをすごい真面目な顔で自慢気にテクニックのように語ってたから、「なんか面白いな、この人」って思いました(笑)。


映画『アズミ・ハルコは行方不明』

2016年12月3日公開

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とある地方都市に住む27歳の〈安曇春子〉は独身で恋人もなく、実家で両親と祖母と暮らしている。会社では社長と専務に「女性は若いうちに結婚するべきだ」とセクハラ三昧の言葉を37歳の先輩〈吉澤ひろ子〉と共に浴びせられ続けていた。ある日の仕事帰り、春子の目の前を女子高校生たちが軽やかに走り抜けていく。それを追って公園へ向い、暴行され倒れている同級生の〈曽我雄二〉の姿を見つける。そこから春子と曽我はお互いのむなしさを埋め合うように関係を重ねていくのだが……。
とある地方都市に住む20歳の〈木南愛菜〉は成人式の会場で同級生の〈富樫ユキオ〉と再会、付き合い始める。ある日、2人はレンタルビデオ店でバイトをしていた同級生の〈三橋学〉と出会う。ユキオと学はグラフィティアーティストのドキュメンタリー映画に共感し、〈キルロイ〉と名乗り、グラフィティアートを始め、28歳で行方不明の安曇春子を探す張り紙をモチーフに街中に春子の顔とMISSINGという文字を拡散していくのだが……。
異なる時間軸が交錯。2つのストーリーの意外な結末とは?

【監督】松居大悟
【原作】山内マリコ(幻冬舎文庫刊)
【キャスト】
蒼井優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい
菊池亜希子 山田真歩 落合モトキ 芹那 花影香音
/柳憂怜・国広富之/加瀬亮
【劇中アニメーション】ひらのりょう
【音楽】環ROY
【主題歌】「消えない星」チャットモンチー
【配給】ファントム・フィルム

オフィシャルサイトhttp://azumiharuko.com/

©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会


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アズミ・ハルコは行方不明

山内マリコ (著)
幻冬舎

地方のキャバクラで働く愛菜は、同級生のユキオと再会。ユキオは意気投合した学と共にストリートアートに夢中だ。三人は、一ヶ月前から行方不明になっている安曇春子を、グラフィティを使って遊び半分で捜し始める。男性を襲う謎のグループ、通称“少女ギャング団”も横行する街で、彼女はどこに消えたのか? 現代女性の心を勇気づける快作。


枝見洋子

1986年生まれ、東京都出身。
2008年にAXONに入社。2012年に日本アカデミー賞最優秀作品賞ほか多くの映画賞を受賞した映画『桐島、部活やめるってよ』でプロデューサー・デビュー。近年のプロデュース作品にテレビドラマ『永遠のぼくら sea side blue』(15/NTV)、『ゆとりですがなにか』(16/NTV)などがある。

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