Report

草彅 剛がセクシーに暴き出す“健全”ではない世界。ファンキーな歌とダンス、シャウトで魅せる舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』絶賛上演中!

草彅 剛がセクシーに暴き出す“健全”ではない世界。ファンキーな歌とダンス、シャウトで魅せる舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』絶賛上演中!

草彅 剛が“絶対悪”を演じる舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』が、1月11日(土)よりKAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉にて上演中だ。
本作はヒトラーが独裁者としてのぼり詰めていく過程をシカゴのギャングの世界に置き換え、ファンク・ミュージックを散りばめた音楽劇。原作はドイツ演劇の巨匠であるベルトルト・ブレヒト、演出はKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・白井 晃が手がける。劇中の音楽は、“キング・オブ・ソウル”と呼ばれるジェームス・ブラウン(JB)の楽曲を中心に構成され、オーサカ=モノレールによる生演奏が彩りを添える。
そのゲネプロと囲み取材が初日前日に行われたのでレポートしよう。

取材・文・撮影 / 竹下力


余計なことを考えるな! つべこべ言わずに俺についてこい!

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

この世界には、“健全”な政治、“健全”な社会、“健全”な経済、“健全”な生活、“健全”な地球環境を求めて、日々戦っている勇敢な人たちがいる。役者たちの芝居を観ながらそう感じ始めた矢先に、人類が誕生して以降、一度として“健全”であったことがあったのだろうか、とふと立ち止まる。いつだって戦火は消えないし、汚職があり、不正な取引もなくならないし、一部の人のために環境が汚されている。どこからどの時代を眺めたら“健全”な世界が存在していたと言えるのだろう? どうしようもなく歪んでいるかもしれないこの世界で、果たして“健全”な状態になどできるだろうか? そんな疑問符が頭に散らつき始めるが、アルトゥロ・ウイを演じる草彅 剛がしなやかな身体にすっきりと収まるアイビー風の真っ赤なスーツのジャケットを振り乱しながら、グルーヴ感満載のファンキー・チューンで「ゲット・アップ!(ジェームス・ブラウン的発音はゲロッパ)」と叫びながら、それらを蹴り飛ばしてくれた。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

本編で繰り返されるナンバーの「ゲット・アップ」という歌詞は、直訳すれば“奮い立て”という意味になるだろうか。ファンクなナンバーには欠かせないセクシャルな意味も多分にあると思う。でも、今作ではそうではない気がする。草彅 剛はとことん冷徹な役なのに、ほとばしる感情で官能的に腰をゆらせながらシャウトする。“余計なことを考えるな! つべこべ言わずに俺についてこい!”と。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

彼のおかげで易々と成功を手にすることができるのなら、我々は何も考える必要はない。思考を停止して彼を拝むだけで、景気は好転し、金持ちになれるし、遊び放題。そして世界は安定する。しかし、彼に従わなければ、あの世行き。アルトゥロ・ウイは我々の想いを汲み取って“神”に近づこうとしたのかもしれない。なんてヒロイックな姿だろうと感心してますます彼の虜になる。たとえ彼がどうしようもない悪人で、どんなに悲惨な結末がもたらされるとしても。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

舞台は中央にあるバンドセットにいるファンクバンドのオーサカ=モノレールのボーカルの中田 亮がMCになって、客席にアルトゥロ・ウイの登場を促すシーンから始まる。バンドがいっせいに音を出し、“ファンクの帝王”と呼ばれるジェームス・ブラウン(JB)の「セックス・マシーン(Get Up I Feel Like Being Like a Sex Machine)」が流れ出す。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

ドラムの16ビート、ギターの粘っこいリフ、シンコペーションするベース、分厚いホーンセクションらをバックに、アルトゥロ・ウイ演じる草彅 剛がギラギラのマントを纏って登場。マイクスタンドをつかんで甲高い声でシャウトし、しなやかにダンスして、軽やかにステップを踏めば、それだけで心を奪われて、腰砕け間違いなし。この舞台はファンク・ナンバーが目白押しの最高にカッコいい一夜限りの奇跡のレビューでもある。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

草彅 剛はインタビューで、今作は「テレビショーを眺めているような劇中劇的な要素を持つ舞台だ」と答えていた。それはおそらく、原作のブレヒトの提唱する“叙事的演劇”を意味しているのだろう。簡単に言えば、観客がキャラクターにできるだけ感情移入しないように、舞台を客観的・批評的に見せようとする演劇手法のことだ。たとえば、やたらに台詞を大袈裟に発声させたり、暗転せずに役者やスタッフがセットを動かして場面転換を見せたり、ストーリーから逸脱した人物が登場して場をかき乱すような、本来の演劇では“あり得ない手法=異化効果”をあえて使う。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

今作では“異化効果”の役割を中田 亮が担う。ストーリーとほぼ関係のないバンドとして登場し、関西弁を使って狂言回しのような役割を果たし、草彅と一緒に歌ったり、いきなりグリーンウールなる役を演じて舞台に強烈なねじれを起こす。すると、どこか遠い国の遠い出来事を眺めているように感じてしまうのだが、演出の白井 晃の手腕はここで発揮される。ファンク・ミュージックというグルーヴ感溢れる音楽を使って、主人公・アルトゥロ・ウイに強引に感情移入をさせてしまうのだ。ウイは無敵の“悪の権化”に変貌していくが、草彅のノリノリのダンスや歌に骨抜きにされ、観客は熱狂的に彼に共感してしまう。それを為政者だけの間違いとみなすわけにはいかないというメッセージと捉えることもできるだろう。ひとつ間違えれば、いつだって誰でも悪になり、悪事に加担することもできるのだ、と。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

ストーリーは、本作のモチーフとなったヒトラーの成り上がり物語を丁寧になぞっている。さえないギャング団のボス、アルトゥロ・ウイは、政治家のドッグズバロー(古谷一行)と八百屋業界のリーダーたちの癒着の実態をつかみ、それにつけこんで揺すりをかける。ドッグズバローはやむを得ずウイと手を組むが、その結果、次第にウイの権力は強くなり、あらゆる悪事に手を染め、誰も手がつけられなくなっていく……。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

シーンの合間にスクリーンが降りてきて、世界恐慌からナチスが台頭していくドイツの歴史が文字で映し出されていることからも、今作はナチス、それ以上にヒトラーの強烈なカリカチュアであり、登場人物も誰をモチーフにしているか理解できると思う。ヒトラーはウイだし、彼に付き従う狂気を纏った花屋・ジヴォラ(渡部豪太)はヨーゼフ・ゲッペルス、ウイの盟友で熱い友情を感じさせたローマ(松尾 諭)はエルンスト・レーム、好戦的な芝居が似合う粟野史浩が演じたギャングあがりの口汚いジーリはヘルマン・ゲーリングといったように、当時のナチスドイツを牛耳る人々がなんとなく思い浮かぶはず。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

無法者のギャングに、シェイクスピアが使うような特殊な韻律の台詞(ブランクヴァース)を喋らせて、観客に強烈な違和感を覚えさせる方法もブレヒトの“脚本=思想”を活かしている。本作ではその手法をより洗練させ、どちらかといえばアップテンポでリズミカルな言葉のやりとりの翻訳で現代風にアレンジされていてわかりやすい。いずれにせよ、ドイツの歴史や“異化効果”といったことを知らなくても問題なく物語についていける仕掛けとなっている。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

強烈なライトを使い、モダニズムの影響を感じさせるインパクトのあるセット、クローズアップを多用した写真パネルといった見事な舞台美術を眺めてファンキーな音楽に身を任せ、身体を揺らしているだけで、劇場は人いきれに満ちた享楽的なダンスホールに変わる。音楽劇と銘打っているように、白井 晃は本来ストレートプレイの作品を過激にアナーキーな作品にして、これまでに観たことのない、彼にしか生み出せない2020年の“ブレヒト劇”として我々に提示している。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

俳優は誰を観ても損はなし、と断言できるだろう。これだけ豪華な役者が揃ったカンパニーは今年最大の贅沢になるかもしれない。松尾 諭、渡部豪太、中山祐一朗、粟野史浩、細見大輔ら実力派に、凄腕の那須佐代子が加わり、さらにベテランの小林勝也や古谷一行まで揃っているのだからたまらない。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

それでも、草彅 剛に“魂”を強く揺さぶられる。囲み取材では「台詞を覚えているか不安」と言っていたのはどこ吹く風と、膨大な台詞を淀みなくこなし、劇場の隅まで届く声の張り、クールな所作、セクシーなダンス、ノリのいいステップ、伸びやかな歌、張り裂けんばかりのシャウト、残酷で時にはコミカル、さらには恍惚としたカラフルな表情の変化、胸が焼きつく感情の爆発……誰も敵わない圧倒的な芝居力に観客の心は鷲掴みにされるはず。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

個人的には彼が髪をかき上げる仕草がセクシーでハマってしまった。JBの音楽のようにセクシャルでファンキーに“世界を牛耳ってやろう”と燃えさかるウイの情熱がささいな動きからも感じられた。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

“健全”な世界なんてあり得ないかもしれない。だからこそ、いつの時代にもすがりつく存在をファナティックに求めてしまう“我々=大衆”がいる。たとえそれが悪だろうと、正義だとしても、我々の利益のためにどんなやり方でも“健全”にしようとしている誰かがいるのなら、信じたくなるし、ぬかずくことしかできないかもしれない。それこそが“健全”な世界の有り様かもしれない。けれど、果たしてそれでいいのだろうか? にっちもさっちもいかない泥沼の世界にはまり込んで抜け出せなくなったとき、我々はどうすればいいのか、その答えを我々自身が見つけなければいけないと突きつけてくる。我々の目指す理想の世界とは? 我々の下す正しい決断とは? そう考えながら劇場を後にする耳には草彅 剛の「ゲロッパ!」というシャウトがいつまでもこだましていた。

アルトゥロ・ウイの興隆 ゲネプロ エンタメステーションレポート

これまでにない“草彅 剛”が見せられたら

この舞台のゲネプロの前に囲み取材が行われ、草彅 剛と演出の白井 晃が登壇した。

まず今回の見どころを尋ねられた草彅 剛は「先ほど、すべてのシーンがつながったばかりなので、最後までたどり着けるかどうか……しっかりできたら褒めてください(笑)。信頼している白井さんが演出してくださったので、見どころはすべてだと思います」と笑いを交えて語る。

アルトゥロ・ウイの興隆 囲み取材 エンタメステーションレポート

そんな草彅の発言に笑いながらも、演出の白井 晃は「本作はブレヒトがナチスのヒトラーを描いたわけですが、草彅さんがヒトラーを模したギャング団のボス、ウイという役を演じていただくことが大きな見どころだと思います。稽古では、私がお願いしていることに対しても正面からぶつかって、ギャング団のボスになりきっていただきました。初日をまもなく迎えますが、ますます盛り上がっていくと思います。ヒトラーがワーグナーの曲を使って人々の気持ちを高揚させたように、今回はジェームス・ブラウンの楽曲を盛り込んでいますので、その曲に合わせて草彅さんが歌い、踊る姿も見どころです」とコメント。

アルトゥロ・ウイの興隆 囲み取材 エンタメステーションレポート

舞台『バリーターク』(2018)以来、再び白井とタッグを組むことについて草彅は「実際の舞台上ですべてのシーンを通してみると、とてもエンターテインメント性の高い、素晴らしい作品になると感じました。白井さんは舞台や演じることに対して、新しい可能性の扉に気づかせてくれます」と白井との再会を喜んでいる様子。

アルトゥロ・ウイの興隆 囲み取材 エンタメステーションレポート

役者・草彅 剛の印象について聞かれた白井は「昨年ご一緒して、すぐにもう一度演じて欲しいと思いました。人を惹きつける力が必要な独裁者に見合ったチャーミングな面をお持ちです。そんな草彅さんが、怖いギャング団のボスになるのを見たかったので、体現してくれて嬉しいです。チャーミングなところから怖く変貌する草彅さんをご覧ください」と語った。

またこの舞台の稽古を振り返って草彅は「僕以外のスタッフもキャストも、今日のため、明日のために、稽古場で途方にくれながら頑張ってきたので、僕らにしかつくることができない『アルトゥロ・ウイの興隆』が届けられると思います。稽古は学生の部活のように和気藹々としていましたが、人間のリアリティを白井さんが炙り出してくれる真摯な舞台です。これは僕や共演者にしかできない作品になったと思います」と自信をのぞかせた。

アルトゥロ・ウイの興隆 囲み取材 エンタメステーションレポート

最後に草彅から「明日から初日の幕が開きます。白井さんと僕がまた一緒になって、これまでにない“草彅 剛”が見せられたら嬉しいです。白井さんの演出も新しくて斬新なので、皆さん、劇場に来てご覧になってください」と抱負が述べられ、白井が「今の世界に蔓延(はびこ)る危ない空気のなかで本作を上演することは、時代を写す鏡として意味のあることだと思いますし、草彅さんという稀有の才能を持った役者に演じていただけるので、ぜひご覧になってください」と意気込み、囲み会見を締め括った。

公演は、2月2日(日)までKAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉にて上演される。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『アルトゥロ・ウイの興隆』

2020年1月11日(土)~2月2日(日)KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉

【STORY】
シカゴギャング団のボス、アルトゥロ・ウイは、政治家・ドッグズバローと野菜トラストとの不正取引に関する情報を掴んだ。それにつけこみ強請るウイ。それをきっかけに勢力を拡大し、次第に人々が恐れる存在へとのし上がります。見る見るうちに勢いを増していくウイを、果たして抑えることができるのだろうか……。

作:ベルトルト・ブレヒト
翻訳:酒寄進一
演出:白井 晃
音楽・演奏:オーサカ=モノレール
振付:Ruu

出演:
草彅 剛
松尾 諭 渡部豪太 中山祐一朗 細見大輔 粟野史浩
関 秀人 有川マコト/深沢 敦 那須佐代子 春海四方
小川ゲン 古木将也 小椋 毅 チョウヨンホ 林浩太郎
Ruu Nami Monroe FUMI
神保悟志 小林勝也/古谷一行

企画製作・主催:KAAT神奈川芸術劇場

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@kaatjp)