小島監督と3万字対談  vol. 1

Interview

ゲーム・クリエイター小島秀夫監督と3万字対談~今だから語り尽くす、ボクと本(1)

ゲーム・クリエイター小島秀夫監督と3万字対談~今だから語り尽くす、ボクと本(1)

世界を股にかけて活躍するクリエイター小島秀夫監督。その物語創りの原点を徹底追及し、全4回でお届けする。

小島秀夫

1963年生。ゲーム・クリエイター。コジマプロダクション代表。
1986年よりコナミでゲーム・クリエイターとして活動。昨年末コナミを退社、その後新たに独立スタジオとして「コジマプロダクション」を立ち上げた。現在、ノーマン・リーダス主演の『Death Stranding』を製作中。これまでの代表作は『メタルギア』シリーズ『スナッチャー』『ポリスノーツ』『ボクらの太陽』『ZONE OF THE ENDERS』シリーズなど。

★本記事の「通」な愉しみ方
小島監督の膨大な読書量と知識量を、読者のみなさまもフォローできるように、本編で言及された作品や作家などの注釈まとめを、別記事で用意いたしました。
小島監督のインタビューをよりよく理解するための注釈集
こちらを別タブや別ページで開き、参照しながら、本編を読み進めることをおススメします。

インタビュアー&文責&注釈 :尾之上浩司


本屋に通い始めた少年

ハンドメイドの時代

小島秀夫(以下、小島) このインタビューを読むのって、まず本好きの人って考えていいんでしょうかね。珍しいパターンなんですが(笑)。

はい、シミルボンは、本好きの人が読むサイトなんですよ。小島監督が少年期からどのようなものを吸収してこられて、それがどのようなかたちでクリエイターになってからの活躍に影響を与えているのかについて興味があるファンが多いので、それをうかがいたいのです。

小島 みなさんによく訊かれるんですが、そんなに憶えてなくて。消化して出てくるので、自分にもわからないです。海外でも尋ねられるんだけれど、わからない。毎日、見たり聞いたりしてますから、これはというのはなかなかないですよね。ただ、十代の時はピュアだったから、その時期に衝撃を受けたものの影響が、僕の根底にあるんではないでしょうか。

いままで書かれた本(『僕が愛したMEMEたち』、『僕の体の70パーセントは映画でできている』など)のなかに出てくる本や映画も、その時代のものが主体ですよね。


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僕の体の70%は映画でできている 小島秀夫を創った映画群

小島秀夫 (著)
エムオン・エンタテインメント


小島 映画のベスト10とか訊かれると、選びたくないですね。どうしても、十代の頃の映画になるじゃないですか。最近、良いのを観ていても、そんなに心がピュアじゃないから(笑)、面白かったと言いながら、人生のなかでの順位はだいぶ後ろにまわしてしまう。

昔の作品のほうが、いまのような千人単位のスタッフを使っていなかっただけに、ハンドメイドの味は色濃かったですよね。かつては、スタッフとキャストのクレジットは、本編の最初に出るだけですんでいたのに、いまは作品が終わってから五、六分流れるほど増えています。

小島 少人数のほうが、作家性は強いですよね。いまみたいに、方程式で撮られてなかったから。エンドクレジットは、つけなければならない契約になっていますから、あれを入れるために本編を削っているような事情でね。ゲームも同じです。それで、システムができてしまっている。

小島監督がゲーム制作に関わるようになった1980年代は、まだ自由度が高かったのでしょうか?

 

小島 僕は、主流(メインストリーム)じゃなかったんですよ。あの頃は、ファミコン(1)やスーパーファミコン(2)だった。でも、ぼくはPCゲーム(3)だったんです。MSX(4)とか。だから、自由にできたんですよ。ただ、描画能力が他のプラットフォームと比べるとぜんぜんなかったので、どこで凝ることができるかというと、ストーリーや世界観なんですね。文章(テキスト)での世界観。そういう環境にいたからこそ、許されたというかね。ファミコンの部署にまわっていたら、違うものを作れと言われていたでしょう。

そうなっていたのでしょうね。

小島 もともとは小説を書こうとしていましたし、本当は映画が作りたかったんだけれど、当時は映画なんて作れないし。いまの日本もそうじゃないですか。若者はなかなか映画を撮れない。なので、夢破れて、ゲーム業界なんですよ。違うメディアだけれど、物語を紡ぐことができる。当時は、パソコンだけれど自由にやれたので、好きなように取り説も書けたし、それがいまの自分の元になっています。
最近の人はかわいそうで、いきなりラインに入れられてハリウッドのレベルの大作を作れと言われているようなものですよ。

与えられた状況で、どうにかするしかないのですね。

小島 前にいた会社はアーケード・ゲーム発祥のところでしたが、自分はちょっと違う部署に入って、自分自身、違うことをやっていました。いずれはゲームも物語を語れるようになって、ドラマチックなことができる、と信じてやってきたんですよ。でも、こんなに早くゲームが変わっていくとは思っていなかったです。物語を創(つく)って、演出ができて、サービスをして楽しませられるという、自分に合う仕事だと思いました。映像と音と……プログラムだけは僕の専門じゃないんですが、非常にラッキーでした。

運も実力のうちです。

小島 ただ、いまの自分があるのは、読んできた本のおかげです。

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毎日、本屋に行かないと死んでしまう

小島 じつは僕、毎日、本屋に行かないと死んでしまうのに、この界隈(注・収録は都内のコジマプロダクション本社)、本屋がないんですよ。でかいのが一軒、潰れてしまったもので。

この近辺、ここ数年で様変わりしてしまいましたからね。現在、ひと月に何冊ぐらい本を買われるのですか?

小島 すごい量は買います。買っても、なかなか読めないですけれど。週に二冊読めればいいかな、というところかな。じつは、最近、通勤時間が短くなったもので。

お仕事の環境が変わりましたものね。

小島 とにかく、目にとまったら買います。なくなると困るので、とにかく気になったものは買います。

積ん読は、月に何冊ぐらいになりますか?

小島 測ってないですけれど。

冊数ではなくて、積んだ高さですか?! 

小島 それはもう、ブルーレイもCDもみんな同じです。

子供時代に読んだ本の、もっとも古い記憶というと、どのあたりになりますか? 絵本だったりしますか?

小島 そこはですね、みなさん安心していただきたいんですが、僕は子供の頃、まったく本を読まない子供だったんですよ。うちは両親と、お兄ちゃんの四人家族だったんですが、ほかの三人はものすごい本好きでね、文学全集とかそろってたんですよ。ノンフィクション全集とか。

おお!

小島 プロレタリアート(5)でも、本はあるっていう家でした。うちのおかんも、おとんも、兄貴も、本が大好きでねえ。当時は“本を読まなきゃいけない”って教育の時代じゃないですか。

はい。

小島 僕だけ読んでなかったんですよ。TVばっかり見て。

えっ! 

すべては映画なんです

小島 それで、親が心配して、本を買ってくるわけです。『三銃士』 (6)とか。図書室では、星新一さん(7)の短編集とか、あと『海底二万里(マイル)』 (8)とか読んでましたけど、子供用にアレンジしたのを。でも、“好き”ではなかったです。その時期はずーっと。読書感想文を書くためとかで、その時だけ読んでただけなんです。それで、映画ばっかり観てました。僕、すべては映画なんです。

わかります。

小島 小学校の五年生のとき、電車に乗って隣町のとある塾に通ってました。で、勉強するために行ってたんじゃなくて、帰りの途中にでかい本屋があるんです。週に二回ぐらい塾に通ってまして、その本屋に寄って帰ってくるのが楽しみだったんですよ。本は好きじゃなくても、本屋は好きだったんです。それで、本屋のなかをぐるっとまわっていたら、二見書房の『刑事コロンボ』シリーズ(9)があったんです。シーズン2か3の『第三の終章]』 (10)だったかな。

当時、ベストセラーでしたね。

小島 あの頃、僕は本を読まなかったんですが、ふらっと手に取って、パラパラってめくると、二十ページに一枚ぐらいドラマの写真が入っているんです。白黒の粗い写真で、よくわからないから、文章を読むしかない。本も読んでいないだけでなく、『刑事コロンボ』も観てなかったんですよ。

本が先なのですか?

小島 本が先です。それで読みはじめて、写真のページが二十ページごとの息継ぎみたいな感じで、そこまで行ったら、ターンですよ(笑)。

戻るんですか?(笑)

小島 いえ、水泳で言うといままで二十五メートルを泳ぎ切れなかったのが、そこまでたどり着くと写真があるんで、そこまで進むんです。それで、最後までつるっと読めたんです。そして『刑事コロンボ』にはまりまして、バックナンバーを揃えました。全部買って、全部読むと、もうなくなってしまうんですよ。でもまだ、月に一冊、新刊が出ていたんです。それを待ちながら本屋をぐるぐるまわっていて、やがてアガサ・クリスティ(11)なんかを見つけたんです。エラリイ・クイーン(12)とか。あのへんにはまって、だから、最初に好きになったのはミステリーですね。ミステリーといっても社会派的なものじゃなくて、本格推理系。トリックがあって、子供でも楽しめる。死体とか出てきても、ぜんぜん怖くない。「死体があった」って書いてあるだけだから。あの時代のものは、内臓の描写とかないんで(笑)。最近の小説とはぜんぜん違いますよね。『ボーン・コレクター』 (13)とかとは。

ミステリーの狙っているポイントが、この半世紀で変わりましたね。

探偵ものにはまる

小島 当然、明智小五郎とかは、子供の頃に読んでましたけど、最初に意識したのはクリスティなんです。上流社会が出てきて、登場人物が紅茶飲んで、聞いたことのないもん食べて、犯人がけっこうすごい。『オリエント急行の殺人』 (14)も、『そして誰もいなくなった』 (15)も。それも読んでしまって、エラリイ・クイーンに行くわけです。さらに、エド・マクベイン(16)とか、有名なやつをばーっと。そして、小学校の五年生の時に、短篇を書きはじめるんです。探偵小説を。


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オリエント急行の殺人

アガサ・クリスティ (著)
山本やよい (訳)
早川書房
クリスティー文庫


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そして誰もいなくなった

アガサ・クリスティ (著)
青木久惠 (訳)
早川書房
クリスティー文庫


早いですね!

小島 壮回丈夫(そうかいたけお)っていう、「俺は丈夫だ、俺は丈夫だっ!」って叫ぶ探偵が出てきて、事務所が舞台で、いろいろと設定があって。それを、ノートに書いてました。挿絵も表紙も。最後まで行ったこと、なかったんですが(笑)。

作家になられる方は、小学校の高学年に書き始めたという話、多いですね。

小島 漫画は、その前に描いていたんですけどね。小説は、この時からです。それで最後まで書けないんで、どうしたかというと、星新一さんに習ってショートショートに乗り換えたんです。SFみたいな内容の。それで、原稿用紙20枚分ぐらいの話が書けると、自信がつくんです。そして、もっと長い中篇に進んだと。

あとは、お決まりのコースと。

小島 読むほうの話に戻しますと、クリスティを読んでいると、やがて“なんとなくわかってしまう”ようになるんです。犯人が。構造が一緒じゃないですか。さらにミステリーのガイド本(17)を読みだしたんです。

ネタバレが書いてあるタイプですね。

小島 それで、クロフツ(18)のミステリーとか、読んでない分も、話を知ってしまうんですね 『隅の老人』 (19)とかも。そのうち、推理小説ってわかってくるじゃないですか。だいたい、犯人がいて、事件が起きて、密室になっていって。日本でいうと、誰だったかな。そう、横溝さん(20)
うちの親父が買って「読め」言うんです。親父も、本屋に入ったら出られない人なんですよ、僕と同じで。礼儀として、一冊買わないと、本屋を出るわけにはいかないっていうのが親からの教訓なんで。家と駅を行き来する坂の途中に本屋があって、坂を上がるのがしんどいので、本屋で休憩するんです。それで、入ったら何か買わないと出られないんです。本屋の主人がハタキを振って見ているし。ただ、親父は文学の人なんで、僕が横溝を買って店を出るんです。そうやって横溝も読んでいると、犯人がわかってくるんですよ。それで、面白くなくなる。ところが、うちのおかんは松本清張(21)や高木彬光(22)の大ファンで、コアな読者だったんです。そして調べたら、作品がたくさんあって、文学全集にも『点と線』 (23)が入ってた。読んでみたら、これがびっくりでしてね。『点と線』読んで。『ゼロの焦点』 (24)読んで。それから『砂の器』 (25) 。『点と線』は短かったけれど、『ゼロの焦点』や『砂の器』は長いんで、読めるかなって思ったんだけど、これが読めた。エッチなシーンもあって(笑)、中絶の場面とかも。


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点と線

松本清張 (著)
新潮社
新潮文庫


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砂の器(上)

松本清張 (著)
新潮社
新潮文庫


日本の本格作品は生々しいですからね。

社会派への傾倒

小島 あれで“社会派” (26)ってものを知るんです。当然、トリックがあるじゃないですか。でも、それだけじゃないんですよ。その向こう側に色々なものがあるんですよ。戦時中のこととか、人種問題とか。そういう社会問題をエンターテインメントに取り入れていた。そこが、最初の衝撃でした。それまでは、どちらかというと、まず死体があって、密室があって、誰が殺したんでしょう、と。そういう勝負だった。ところが、松本清張とかは違うんで、そちらにバッと移りました。

探偵小説をまず追いはじめて、その先にある――

小島 人間ドラマを追うようになった。でも、それもまた、飽きてくるんです(笑)。

やっぱり(笑)。

小島 やがて、親に塾を変えられて、通う経路が変わるんです。「小島君が勉強せえへんから、塾を変えたほうがええ」って、誰かがチクったんです(笑)。僕は電車に乗って通えるのがよくて、そこに通ってたんです。勉強なんか、ぜんぜんしてない。後ろの席で、ゴムで何か飛ばしてただけでね。僕と一緒にその塾に通っていた奴で、進学校を狙っていたのがいるんですけれど、そいつがチクったんですよ。「秀ちゃんは、塾に遊びに行ってる」って。それで、ばれて、駅前の塾に行きなさいって替えられた。
そこは電車じゃなくて、自転車通学なんです。うちは山を切り開いたニュータウンに住んでたんで、帰りは自転車を押して帰らないといかんのですよ。ところが、途中のしんどいところに、ちょうど本屋があった。で、本屋の親父が「こいつ、なに買うつもりや」ってこっちを見るんで、何か買おうと思って棚を見たら、ハヤカワ文庫のSFがあった。

真の狙いを親に気づかれ、慣れ親しんだ電車通学の楽しみを奪われた、小島少年。しかし、傾斜道で自転車を押す彼を待っていたのは、ハヤカワ文庫SFをそろえた新たな書店であった!

→次回更新は12/7(水)予定!

 

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