Interview

「お正月は『変態だ』を観よう!」前野健太×安齋肇×みうらじゅんが語る青春ロックポルノ映画

「お正月は『変態だ』を観よう!」前野健太×安齋肇×みうらじゅんが語る青春ロックポルノ映画

みうらじゅんが原作・脚本を務め、盟友である安齋肇が初メガホンを取った、青春ロックポルノムービー『変態だ』。シンガー・ソングライターの前野健太が、主人公の〈その男〉に抜擢されて劇映画初主演を果たし、その他スタッフ、キャストも各ジャンルで異能を発揮する精鋭が勢揃い。かつての日本映画にあったようなムードを醸し出しつつ、いままでの映画になかった展開や独自の世界観を確立させるという離れ業をやってのけた主犯格の3人、みうらじゅん、安齋肇、そして前野健太に『変態だ』をじっくりと語っていただいた。

取材・文 / 大谷弦 撮影 / 吉井明


難しいというより、恥ずかしい。撮ってる側としても

みうらさんが企画・原作・脚本を担当されて、安齋監督を抜擢されたということですが、完成した作品はいかがでしたか?

みうら 最高でしたよ。原作と映画とは違うものなので、原作者としてはどんな作品になるのか想像ができないところが一番の楽しみなんですけど、安齋さんが撮れば面白くなるのはわかっていたんで。やっぱり画の力がスゴいなと思いましたね。

安齋 スゴい画を撮ったのはカメラマンさんですけどね(笑)。僕の仕事としては、みうらさんが原作・脚本ときたからには、これは面白くなるってニオイが最初からプンプンしてるわけですから、それをどうやって説得力を持たせた画にするかを考えることと、あとは前野くんに役者として表現してもらえるよう動線を作っていくということ。すごく気はラクだったし、本当にツラいこともなく撮れました。

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みうら 安西さんは根底にロックが流れている人なので、はずれてることはしないっていう安心感もありました。

安齋 あえて“みうらじゅん作品だから”っていう意識はなかったですけど、結果的にみうらじゅんの世界になったかもしれないですね。でも、映画自体はやっぱり“前野健太”のモノになっていると思います。

前野 僕自身は別として、この映画の主人公の〈その男〉は、いろいろと言えない人ですからね。言えないから溜め込んで、どんどん大変なことになっていく。どこかに優しさを持っているんだと思います。それはいい優しさではないかもしれないですけど。

安齋 誰も傷つけないようにしてるはずなのに、最終的にめちゃめちゃ傷つけてますからね(笑)。自分自身も傷を負うし。

みうら それは優しいってことだよね。自分が傷つくってことは。

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安齋監督は「ツラいこともない現場だった」とおっしゃいましたが、前野さんはいかがでしたか?

前野 いやぁ、ツラかったですよ。「この現場は若松孝二組か?」と思うぐらいのキツさというか……。追い込みを感じてましたから(笑)。もちろん役を引き出すという意味でも監督もすごく思い入れを持ってくださっていたし、共演した(愛人〈薫子〉役の)月船さららさんも〈その男〉というキャラクターに対してすごく感情移入してくださっていて。僕だけでなく、周りの方々のおかげで〈その男〉が浮き彫りになっていくような感覚だったので、すごくいいチームでやらせていただいたなって思いますね。劇映画には出るつもりはなかったんですけど、俳優としての最初の現場がこの方々で、温かくてすごくいい雰囲気の現場で、本当に良かったと思っています。

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このスタッフ、この企画じゃなかったら、役者として映画に出ることはなかった、と。

前野 う~ん……。それはそのときじゃないと、わからないことですよね……。

安齋 そこは言っとけよ! 「この作品だからやりました」って!(笑)

前野 (笑)。ぶっちゃけますと、同時期に映画主演のオファーがあったんですよ。だけど、結果的に僕はこっちを選んだ、というのはあります。

安齋 そうなんですよ! すごいでしょう(笑)。

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ロック研究会の描写とか、プロになってからの地方営業とか、SMプレイとか、絶妙にリアルというか、実際はこういう感じなんだろうなっていうのがひしひしと伝わってきました。そのあたりの描写はみなさんの経験などから出てきたものなんでしょうか?

みうら 営業に行くバスの中のくだりとかは、ウクレレえいじさんから本当に寒い営業の話をずいぶんと聞き出して織り込んだりしましたね。

安齋 知り合いのミュージシャンの人がSM経験も愛人でゴタゴタした経験もある人で、この映画を観たあとに落ち込んだって言ってました。すっごく疲れたって(笑)。雪山の営業に行って寒い思いをしたこともあるみたいで、最後まで観て「これは俺の映画なんじゃないか!?」って思ったって言ってましたね。そういう意味では、いろんな“あるある”が入っているのかもしれないですね。

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雪山でSMをやるとなったら、寒くてもちゃんと着替えたりするものなんだなって勉強になりました。

みうら ごめんなさい、この映画は作り話ですから(笑)。でも、するかもしれないし、しないかもしれない、みたいな部分は面白いところですよね。そこは自分から縛るんだ、とか。あれは名シーンだと思いますね。

安齋 でもああいう状況になっても、せっかくだからここでSMしとこうかな、という感じはあるかもしれないよね。

みうら どうするかね? そこはちょっと問われるところだよね。

安齋 あそこでする、しないっていうので、ずいぶん違ってくるからね。

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SMが手段なのか、目的なのか、わからなくなってくると言いますか。

みうら 奥さんに浮気がバレないように逃げてるうちに、こんがらがっていくんだよね。

安齋 あの掛け違った感じがいいんですよね。まったく噛み合ってないところが。その脚本の面白さをできるだけ壊さないように画作りをしたつもりなんですけど、よく考えたらたらおかしいですよね。

みうら 70年代のパニック映画って、基本的にそれがテーマだから。追い詰められた人間は何をするかわからないということを描くわけですよね。人間って、土壇場に追い込まれると、何をするか想像がつかない。

安齋 なるほど。って、撮り終わった映画のディスカッションをしてもしょうがないんだけどさ(笑)。

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前野さんの大胆な濡れ場が生々しかったですが、撮影のときはいかがでしたか?

安齋 難しいというより、恥ずかしいですよね。撮ってる側としても。

みうら そうだね。やってる側よりも恥ずかしいかもしれないですね。観てるほうがね。

安齋 どこかのスポーツ新聞で、みうらさんが撮影で3Pしたという疑惑も報道されましたから。

みうら 東スポさんですけどね(笑)。撮影中に俺が乱入して「スワ3P!」って書いてましたけど、あるわけないじゃないですか(笑)。そうやってあおるんだということはわかりますけど、親がもう定年してて良かったなって。まだ会社勤めしてたら問題になりますよ。

安齋 「ゲス3P事件」とか書かれてましたから(笑)。

みうら 母親からは「さすがやな」って言われるかもしれないですけどね。父親には会社の得意先とかあるわけですから。

安齋 僕の親には、今回の映画はまだ観せてないですね。絶対褒めてくれるとは思うんですけど、それが逆に恥ずかしいので観せない。

前野 僕は、言ってなかったですけど、母親がどこかでチェックして見つけちゃったみたいで「何やってんの?」っていうのはありましたね。

みうら それはたぶん「なに・やっ・てん・のっ!」っていうトーンだよね。

前野 まぁでもたぶん、ライブの告知か何かと勘違いしてるんじゃないですかね。こういう衣装で歌うんだって(笑)。ただ、ここまでくると、もうやりきったぞっていう気持ちはあるので、映画には自信を持っています。素晴らしい先輩方と一緒に貴重な経験をさせてもらったので、早くみなさんに観てもらいたいです。すごく大事な経験をさせてもらえたと強く思ってますね。本当になかなかこんな体験はできないことなので。しようとしなかっただけかもしれないけど(笑)。

みうら おい!(笑)

前野 いやいやいや(笑)。

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そういう意味でも、このチームでもう一度、映画を撮ってみたいですか?

前野 僕はやりたいです。すぐにでも撮りたいですね。誘っていただけるなら、パート2も3も、“~編”とかでもやりたいです。僕の中では『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』に続く、松竹の看板シリーズになると認識していますから。

みうら いいね。「お正月は『変態だ』を観よう!」みたいな。

安齋 僕は今回こうやって監督を務めることができたのはラッキーでしたからね。そういう意味では、すぐ次っていうのはあんまり考えてないんですけど、ただ映画監督というのは非常に面白いということはわかりましたし、なんらかの形でまたやりたいなっていうのはありますね。

前野 今回、安齋監督は現場に遅刻しなかったですからね。「スゴい」ってみんな言ってましたから。

みうら 「できんじゃん!」ってみんな思ってましたからね。「できてもいいんじゃん」という空気になったというか。

安齋 毎日迎えに来てもらってましたけどね(笑)。

みうら まぁでも、鉄は熱いうちに打っておいたほうが、日本映画界も活気が出るんじゃないですかね。俺たちには日本映画界って意識がないですけどね。これは洋画だから(笑)。

安齋 洋ピンね(笑)。でも、まずはこの『変態だ』を多くのみなさんに観ていただきたいですね。そのためにみんなで頑張ったわけですから。

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前野さんは公開にあたっていかがですか?

前野 僕の中の60兆の細胞がピチピチに喜んでますよ!

みうら でも本当にこの作品は、海外でも絶対ウケると思うんですよね。「ヘンタイダ!」っていうのが世界語になりますよ。前野さんも世界に羽ばたく役者だと思いますので、業界関係者の方はぜひオファーをかけてあげてください。

映画『変態だ』

2016年12月10日公開

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一浪の末、都内の二流大学に進学した〈その男〉。特別な才能があるわけでもない普通の男は、偶然入ることになった大学のロック研究会でのバンド活動を契機に、ミュージシャンとしての道を歩みだす。やがて結婚し、妻と生まれたばかりの息子との、ごく普通の家庭生活を送っているが、実は学生時代から続く妻以外の女性〈薫子〉との愛人関係を断てずにいた。
そんなある日、地方の雪山でのライブ公演の仕事が入り、愛人を連れて会場へ向かうことになる。ステージに立ったそのとき、彼の目に飛び込んできたのは、なんと妻の姿だった──。極寒の雪山を舞台に物語は衝撃のラストに向けて走り出す!

【監督】安齋肇
【企画・原作】みうらじゅん(新潮社)
【脚本】みうらじゅん 松久淳
【出演】
前野健太 月船さらら 白石茉莉奈 奥野瑛太 信江勇 ほか
【エンディングテーマ】
「Kill Bear」
歌:みうらじゅん 前野健太
作詞:みうらじゅん 作曲:亀本寛貴(GLIM SPANKY)
【配給】松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ
※R-18指定

オフィシャルサイトhttp://hentaida.jp/index.html

©松竹ブロードキャスティング

みうらじゅん&前野健太「映画『変態だ』音楽全集」
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2016年11月23日発売

PECF-1143 ¥2,400+税
SPACE SHOWER MUSIC


原作本 『変態だ』
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著者:みうらじゅん
出版社:新潮社

安齋肇

1953年生まれ、東京都出身。
TV、CM、雑誌、LINEスタンプなどで数多くのキャラクターデザインを手がけるほか、ユニコーンや奥田民生のツアーパンフレットのアートディレクション、宮藤官九郎による絵本『WASIMO』のイラストなどを担当。2013年には作品集『work anzai』『draw anzai』を出版。ソラミミストとしてレギュラー出演する『タモリ倶楽部』(92~/EX)や、『みうらじゅん&安斎肇のゆるキャラに負けない!』(13~/MXTV)、『笑う洋楽展』(14~/NHKBS)などに出演中。1997年には、日本各地を盛り上げるべく運動する〈勝手に観光協会〉をみうらじゅんと結成した。数々のバンドに所属し、音楽活動も積極的に行っている。本作で映画監督デビューを果たす。
現在、ディレクターとの座談会などオリジナルコンテンツも収める書籍『笑う洋楽展』が発売中。

オフィシャルサイトhttp://www.office-123.com/harold/

みうらじゅん

1958年生まれ、京都府出身。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。イラストレーター、作家、ミュージシャンなど、幅広い分野で活動している。1997年に“マイブーム”で新語・流行語大賞を受賞。“ゆるキャラ”の名付け親でもある。著書に『見仏記』(93/いとうせいこう共著)、『アイデン&ティティ』(92)、『色即ぜねれいしょん』(04)、『マイ仏教』(11)、『人生エロエロ』(14)、『ない仕事の作り方』(15)などがある。企画・監督を務めた映画『お笑い虎の穴』(95)はゆうばり国際ファンタスティック映画祭に出品された。年に一度、独断で賞を贈呈する“みうらじゅん賞”を主催している。現在、『みうらじゅん&安斎肇のゆるキャラに負けない!』(13~/MXTV)、『笑う洋楽展』(14~/NHKBS)にも出演中。
様々な音楽ユニットを結成しており、現在、みうらじゅん&SHINCOのシングル「君のSince」が配信中。

オフィシャルサイトhttp://miurajun.net/

前野健太

1979年生まれ、埼玉県出身。
シンガー・ソングライター。2007年に自主レーベルよりアルバム『ロマンスカー』をリリースしてデビュー。第22回東京国際映画祭の「ある視点部門」でグランプリを受賞したライブドキュメンタリー映画『ライブテープ』(09/松江哲明 監督)で主演を務め、2011年にも映画『トーキョードリフター』(松江哲明 監督)で主演。同年、第14回“みうらじゅん賞”を受賞。近年は“FUJI ROCK FESTIVAL”など大型フェスへの出演や、演劇作品への楽曲提供、文芸誌でのエッセイ連載、小説執筆など、活動の幅をさらに広げている。本作では劇伴の演奏やイメージソング「変態か」の書き下ろしなども行う。
2017年2月より上映される『なむはむだはむ』で舞台デビューを果たす。

オフィシャルサイトhttp://maenokenta.com/