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世界に認められたボードゲーム『街コロ』、その軌跡を辿る

世界に認められたボードゲーム『街コロ』、その軌跡を辿る

プレイヤーを増やし、コミュニティが多く生まれ活性化していたボードゲーム市場で、2015年はエポックとなった。世界の注目を集める日本産ボードゲームが登場したからだ。その作者は現役のテレビゲームクリエイターでもある。彼への取材を通して、ボードゲームの現況を検証した。

取材 / 文 松井ムネタツ


▲『街コロ』を開発した菅沼正夫さん。今回、長時間にわたり、話を伺わせていただいた

▲『街コロ』を開発した菅沼正夫さん。今回、長時間にわたり、話を伺わせていただいた

 今、じりじりとブームの兆しが見えてきているボードゲーム。『UNO』や『人生ゲーム』だけではなく、日本では毎年数百もの新作が流通しており、少しずつ愛好家を増やしている。

 それだけたくさんのボードゲームがあるなら、どうやって面白いゲームを見つけたらいいの? と疑問に持つ人もいるだろう。テレビゲームなら実際に遊んでいる映像を見るだけで、どんなゲームか想像できる。だがボードゲームの場合、実際に遊んでみないと自分に合ったゲームかどうかわからない。

 面白そうなボードゲームを遊んでみたい! 買いたい! なんて思った場合、目安となる方法がひとつある。それは、ボードゲーム業界のアワードを受賞したゲームを手にしてみることだ。

 世界各国にボードゲームに関する賞があるのだが、いちばん権威があるといわれているのはドイツ年間ゲーム大賞だ。毎年5月にノミネート作が発表、7月に大賞作が決定する。ノミネートも含めて選ばれたゲームは、パッケージに協会のポーン(コマ)マークを印刷できるようになり、「このゲームはドイツ年間ゲーム大賞関連作品ですよ」とひと目でわかるのだ。

▲これがドイツ年間ゲーム大賞関連作品のパッケージに付けられるマーク。総合の大賞以外に上級ゲーマー向けのエキスパート大賞とファミリー向けゲームのキッズゲーム大賞があり、カテゴリーによって色が変わる

▲これがドイツ年間ゲーム大賞関連作品のパッケージに付けられるマーク。総合の大賞以外に上級ゲーマー向けのエキスパート大賞とファミリー向けゲームのキッズゲーム大賞があり、カテゴリーによって色が変わる

 つまり、このマークが入ったゲームなら一定の評価を得ているので、まず間違いなく高水準で面白い。面白さが保証されているので、売上も大幅に上がる。これらをいくつか遊んでみることで、自分の好みのボードゲームがわかり、その魅力を深く感じとることができるはずだ。

 そんなドイツ年間ゲーム大賞関連作品のひとつに、日本発のボードゲーム『街コロ』がある。2015年ドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされたこのゲームは、日本産ボードゲームとしては初の最終ノミネートであり、まさに快挙と言えよう。惜しくも大賞は逃したが、『街コロ』は一気にメジャーゲームとなった。

 このゲームを作ったのは、グランディングというデジタルゲームの開発会社だ。任天堂やマイクロソフトのタイトルを開発したり、スマートフォーンゲームもリリースしている。バリバリのテレビゲーム開発会社が、なぜボードゲームを制作・発売しているのだろうか。『街コロ』を生み出した同社のチーフゲームデザイナー菅沼正夫さんに話を伺った。

▲菅沼さんは、グランディング株式会社でチーフゲームデザイナーを務める。テレビゲームとボードゲーム、両方を作り上げるクリエイターだ

▲菅沼さんは、グランディング株式会社でチーフゲームデザイナーを務める。テレビゲームとボードゲーム、両方を作り上げるクリエイターだ

 菅沼さんは、子どものころからボードゲームが好きで、とにかく遊び倒した。『人生ゲーム』を持っている友人宅で遊び、家ではオリジナルのボードゲームを作ってこれも遊ぶ毎日だった。

 大学卒業後にテクモ(現コーエーテクモゲームズ)に入社、スーパーファミコン版『キャプテン翼IV プロのライバルたち』(1993年)やプレイステーション版『モンスターファーム』(1997年)などに関わる。本当はボードゲームを作る会社に入りたかったそうだが、テレビゲーム全盛時にそういう会社を見つけることができず、同じように好きだったテレビゲームの会社を選んだ。

 そんなテクモ時代に、いきなりアナログのゲームを作る機会がやってきた。1999年に発売された『モンスターファーム バトルカード』だ。これは当時流行っていた『遊戯王』などを代表とするトレーディングカードゲーム(以下、TCGと略)で、このジャンルにテクモも参入することになったのである。菅沼さん自身は、大人向けのTCG『マジック:ザ・ギャザリング』にハマりまくっていた時期だったので(世界大会に出場するほど!)、まさにうってつけだった。この作品が、デジタルではないアナログなゲームの商業作品1作目となる。

 2002年、Xbox事業が日本でスタートしたタイミングでマイクロソフトに入社し、『ファントムダスト』(2004年)、『ブルードラゴン』(2006年)、『ロストオデッセイ』(2007年)などに関わることになるのだが、この時代に現在所属するグランディングにつながる大きなキッカケがあった。

 「弊社取締役の二木幸生とはマイクロソフトで出会いました。二木がディレクターをしていた『ファントムダスト』はTCGのような要素があり、私がプレイヤーとしてもゲームデザイナーとしてもTCG経験があるので、採用になったんです」

 この『ファントムダスト』は初代Xboxでカルト的な人気作となり、Xbox Oneでリメイクされることが決まっている。

 そして2007年、二木氏ら役員メンバーがグランディング株式会社を設立。菅沼さんは『ファントムダスト』でともに仕事した縁もあり、「うちでやらないか?」と誘われ、合流することになる。

 グランディング入社後は、任天堂より発売されたWii版『あそべる絵本 とびだスゴロク!』(2009年)、ニンテンドーDS版『あそべる絵本 マインド テン』 (2009年)と、予定通りにボードゲームに近い雰囲気のテレビゲームシリーズを手がけた。 

 「それらの開発の際にいろいろな試作をしたのですが、そのうちのひとつが『街コロ』の原型とも呼べるものでした」

 ここでようやく『街コロ』の名前が出てきた。そう、『街コロ』は最初、テレビゲーム用の企画だったのである。

 「せっかく考えたので、何らかの形で発表したかったんです。そこで、実際にボードゲームとして販売することにしました。日本でいちばん売れているボードゲームが年間数十万単位で売れているというデータがあったので、その10分の1程度の売れ行きでもちゃんと事業になるんじゃないか、と思ったんですが……甘かったですね」

 その数十万セットも売れるのは特例中の特例。実際に販売してもらうべく、『街コロ』の企画を持っておもちゃメーカーを回ったが反応はイマイチ。一般販路では、思っていた以上にボードゲーム市場は厳しかった。挫折しかけたところで、ゲームマーケットの存在を知る。

 ゲームマーケットとは、アマチュアたちが自作ボードゲームを作っている即売会で、毎年5月と11月(2016年は12月)に東京で、3月に関西(神戸)で開催している。少ロットで製造してくれる印刷会社の存在も知り、まずはこのゲームマーケットで小規模に売っていくことにした。

▲ゲームマーケットは、さまざまなジャンルのボードゲーム、カードゲームなどが販売されているイベント。プロアマ問わず、たくさんのブースが所狭しと並んでいる(写真はゲームマーケット2016春)

▲ゲームマーケットは、さまざまなジャンルのボードゲーム、カードゲームなどが販売されているイベント。プロアマ問わず、たくさんのブースが所狭しと並んでいる(写真はゲームマーケット2016春)

 「このボードゲーム事業を始めるにあたって社長から言われたのは、赤字にしなければ続けていい、ということでした。テレビゲームのチーフゲームデザイナーとしての仕事をこなしつつ、空き時間を利用してボードゲームを作ってくことにしたんです」

 そして2012年春のゲームマーケットでグランディングとして出展し、『街コロ』が販売開始となった。最初は数百個の製造からスタート、事前に個人のボードゲームレビューサイトに送って記事にしてもらっていたこともあって、まずまずの反響だった。ボードゲーム初心者には絶妙なバランスで作られており、戦略と運のバランスが絶妙で初プレイでも十分勝てる要素が受けた。

 口コミで愛好家の間に少しずつ評判が広まっていく中、日本のボードゲームを世界に広める組織ヤポンブランドと出会う。本場ドイツで開催されるエッセンシュピールに出展することになったのだ。世界最大規模のボードゲーム見本市で、各国からボードゲームのパブリッシャーが集まっている。ここで『街コロ』が注目され、アメリカ、ドイツ、スペイン、オランダ、韓国、イギリス、ロシア、フランスと一気に世界中での発売が決まった。それだけの魅力が『街コロ』に詰まっていた。

 こうして世界中で遊ばれ、2015年にはドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされる。これにより、販売数が増加し、菅沼さんは一気にスタークリエイターの仲間入りを果たしたのである。

▲ドイツ年間ゲーム大賞ノミネートの証書

▲ドイツ年間ゲーム大賞ノミネートの証書

▲世界各国で発売された『街コロ』のパッケージ

▲世界各国で発売された『街コロ』のパッケージ

 こうして『街コロ』はグランディングを代表するIPとなり、2014年春にはスマートフォーン向けゲームとしてアプリ展開が行われた。このとき、菅沼さんはWii/ニンテンドー3DS向けゲーム『ご当地鉄道 ~ご当地キャラと日本全国の旅~』(発売元:バンダイナムコエンターテインメント)の開発が忙しい時期だったので、アプリ版『街コロ』はグランディング福岡スタジオにすべて任せた。

 「アプリ版『街コロ』も面白かったんですけど、半年程度でサービスは終了してしまいました。終わってから「自分だったらこうしたのに」という気持ちがどんどん強くなりまして、次は自分で作りたいと申し出たんです」

 アプリゲーム運営に強いエイミングと手を組み、装いも新たに名称を『街コロマッチ!』と変更して2016年8月からサービスを開始した。前作アプリ版からもボードゲーム版からも大幅な改良を行い、今風なゲームアプリの要素をたくさん入れながらも、そのテイストは間違いなく『街コロ』を遊んでいる感覚の内容になっている。

 アプリの製作委員会も発足し、インターネット漫画雑誌『少年ジャンプ+』誌上にて『街コロマッチ!』のコミック連載も始まった。

▲2人対戦、4人対戦はもちろん、2vs2のペアマッチも可能。ガチャなどでカードを集め、自身のデッキを強くしていくシステムは、オリジナルのボードゲーム版にはない要素だ

▲2人対戦、4人対戦はもちろん、2vs2のペアマッチも可能。ガチャなどでカードを集め、自身のデッキを強くしていくシステムは、オリジナルのボードゲーム版にはない要素だ

 このように『街コロ』はどんどん拡大しているが、これ以外のボードゲームタイトルはやはり厳しい。『街コロ』以降、5つのボードゲームを発表しているが、初回生産分だけで増産されていないゲームもある。ボードゲームのブームになりそうな兆しがあるとはいえ、日本ではボードゲームデザイナーという仕事だけで生活していくのは難しい。菅沼さん自身も会社でデジタルゲームのチーフゲームデザイナーとして働きながら、ボードゲームの制作をしている。将来はボードゲームデザイナー一本で生活できるようになりたいと夢を語る菅沼さんだが、どうすればそうなるのだろうか。

 「まずは『街コロ』以上に世界中で売れるゲームを作る必要がありますね。そのために、ドイツ年間ゲーム大賞を受賞できるゲームを作りたいです。2015年は『街コロ』でノミネートまでいきましたが、これから作るゲームで狙っていきたいですね。あとは日本のボードゲーム市場がさらに大きくなれば状況も変わると思います。誰もが楽しめるブレイクスルーとなるゲームが日本市場に現れれば、あっという間に広まると思います。ドイツでは『カタン』、フランスでは『ドブル』というゲームをキッカケにして、一気にボードゲーム人口が増えたんです。ブレイクスルーとなるようなゲームは、クリエイターがものすごく考え抜いて産まれるのではなく、突然降って湧いてくるアイディアがじつはよかった、なんていうことが多そうですね。私のゲームでも突然思いついたアイディアのほうが高評価をいただくケースが多いですし」 となると、菅沼さんの次なる新作はどうなっているのだろうか。ここ1年半ほど新作の発表がない。

 「2016年12月11日開催のゲームマーケット2016秋で、久しぶりに新作を発表します。旧作だけで出展するのはちょっとどうかなと思ったので、急遽新作を作ることにしたんです。とはいえ、絵素材を新規で準備する時間があまりなかったので、過去に作った『ダイヤモンスターズ』を改良して、新作の『ルビーモンスターズ』としてリリースすることにしました。」

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ルビーモンスターズ
発売元:グランディング株式会社
価格:2100円(税込)
プレイ人数:2~6人
プレイ時間:5分

 この他にも制作準備に入った本命の新作がある。「最近プレイしたとあるゲームがすごく面白くて……。これに負けないものを目指して準備しています」 

 最後に、ボードゲームとテレビゲームの制作上の違いを聞いてみた。

 「私がゲームを企画するときは、最初は必ずボードゲームベースで考えているんです。その後、テレビゲームならそれに向けて落とし込みますし、ボードゲームならそれをブラッシュアップしていく感じです。

 テレビゲームの企画だと、そこからさらにひねる必要がありますね。いろいろな人の意見が入ってきますし、共同作業になります。デジタルでしかできないこともたくさんありますし、開発には年単位で時間がかかります。ボードゲームなら、元のアイディアが固まってしまえばあとは作り込みだけですね。自分ひとりでほぼ全部制作することが可能です。アイディアから試作まで1週間程度で作り、1ヶ月ほどかけてテストプレイするイメージでしょうか。

 私にはこの作り方しかできないです。とにかくボードゲームを作るのが好きなんですよ。正確に言うと、自分が作ったゲームをみんなが楽しんでくれるのが嬉しくて。だからこれからもボードゲームを作り続けていきたいと思います。ボードゲームデザイナーの仕事だけで生活できるようになるのが夢ですね」

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▲菅沼さんが作ったボードゲームの試作版。カードスリーブを作って、そこにプリントアウトした紙を入れてカードにしている

▲菅沼さんが作ったボードゲームの試作版。カードスリーブを作って、そこにプリントアウトした紙を入れてカードにしている


いまこそ遊ぼう! オススメボードゲーム②

街コロ

 ゲームの目標は、駅、ショッピングモール、遊園地、電波塔の4つの大型施設を建設すること。これを最初に達成したプレイヤーが勝利となる。手番でできることは、サイコロを振って施設を買うこと。サイの目と同じ数字が書かれた施設を建設していれば、お金を得ることができる。そのお金でさらに新しい施設を買って……と進めていき、どんどん自分の街を発展させていく。大型施設を建設するにはそこそこお金が必要なので、まずは通常の施設を建てていきお金を貯める必要がある。特定の施設を複数建設すればサイの目しだいでガバっと稼げるし、万遍なく建てていればどの目が出てもお金を得られるが収入は少ない……など、自分なりの戦略を立てられるのがポイント。大型も含めて施設にはいろいろな効果があるので、どのタイミングでどの施設を建てていくのかが考えどころだ。さらにカードのバリエーションが増えた拡張セット『街コロプラス』、『街コロシャープ』も発売中。

▲サイコロを振って施設を建てていく。サイの目は運だが、どの施設を建設するかは自分が考えなければならず、そこが悩みどころであり楽しい部分だ。なお、写真は拡張版をすべて加え、拡張ルールでプレイしている

▲サイコロを振って施設を建てていく。サイの目は運だが、どの施設を建設するかは自分が考えなければならず、そこが悩みどころであり楽しい部分だ。なお、写真は拡張版をすべて加え、拡張ルールでプレイしている

発売元:グランディング株式会社
価格:3600円(税込)
プレイ人数:2~4人
プレイ時間:30分

© Grounding Inc. © 街コロマッチ!製作委員会

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