vol.6 映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』特集

Interview

『TYTD!』地獄のセット、宮藤官九郎からのヒントは『楢山節考』だった

『TYTD!』地獄のセット、宮藤官九郎からのヒントは『楢山節考』だった

『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』ブルーレイ&DVD発売 スタッフインタビュー

地獄のセットを見た宮藤さんは「これで何でもできるじゃん!」と満面の笑顔で子どもみたいにはしゃいで喜んでくれました。

誰も観たことがない宮藤監督の独創的かつ唯一無二の「地獄絵図」を形にしたのが、美術監督の桑島十和子だ。映画『嫌われ松子の一生』、『パコと魔法の絵本』、『告白』などで活躍、美術監督として注目を集める桑島が宮藤監督と一緒に二人三脚で創り上げた地獄のセットへの想い、そして制作秘話について話を聞いた。


宮藤監督はいつも遠目から 「面白い人だなあ」と眺めてました。

地獄のセット、素晴らしかったです! 「CGを極力使わずに、あえてワンシチュエーションで演劇的世界観を創る」という監督のコンセプトをしっかり支えていて。美術もまた、この作品のメインキャストの1人だと思いました。

桑島 ありがとうございますー。

宮藤組への参加は今回が初ですね。

桑島 はい。ただ現場では、それまでもわりとお目にかかってたんです。私が美術を担当した『嫌われ松子の一生』(2006)にも、宮藤さんは俳優としてお出になってたし。テレビの『世にも奇妙な物語』シリーズで「ママ新発売!」(2001)というエピソードをやらせてもらった際も、ご一緒したんじゃないかな。もちろん美術スタッフと演者さんですから、特別会話とかはしてなくて。いつも遠目から、「面白い人だなあ」と思いつつ眺めてました。

桑島さん、2006年9月に多摩市の廃校で開催された「大人計画フェスティバル」も手伝われているでしょう。

桑島 あ、そうそう。フェスもありましたね。

監督的には『嫌われ松子の一生』に加えて、そのときの印象も大きかったみたいですよ。桑島さんが教室の片隅で、細かい作業を黙々とやられているのを覚えていて。「偉ぶっていなくていいなあ、この人なら地獄のダイナミックな部分とチマチマした部分を、両方お願いできるんじゃないかな」と思ったんだと。

桑島 ははは、そうなんだ。あのときは時間がほとんどないなか、校舎全体を文化祭っぽく飾り付けなきゃいけなくて。ボランティアの人をたくさん呼んで、突貫作業したんですよ。私も刷毛持って、学校じゅう走り回っていました。たしか宮藤さんは、お化け屋敷がやりたいって仰って……。だんだん思い出してきた(笑)。そのとき初めて、直接お話ししたんです。

お化け屋敷って、今回の映画ともちょっと繋がりますね。

桑島 たしかに。考えてみればそうですね。

そのとき、宮藤さんからはどのような注文が?

桑島 すみません。ぜんっぜん覚えてない(笑)。シャイな方だなと思ったことくらいですかね。ただ、こういうものが作りたいというイメージは明確だった気がします。なので作業していて迷うことはなかったし。むしろ楽しかった記憶があります。今にして思えば、当時から「この人とはいつか一緒に仕事をするんじゃないかな」という予感は、私のなかにあったんでしょうね。

なるほど。

桑島 特に根拠はない、単なる勘ですけれど。今回『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』のお話をいただいた際には、「あ、やっときたんだ」的な納得感はありました(笑)。

地獄パートの美術監督をオファーされて、どこから作業に手を着けられました?

桑島 まずはオーソドックスに、いただいた脚本を読むところからです。まだ準備稿段階でしたが、ストーリーはほぼ固まっていて。「へええ、地獄を映画にしちゃうんだ! しかもロックなんだ!」なんて面白がりつつ。「なるほど、こういう展開だったら美術的にはこうかな」と映像をイメージしながらページを繰って。

いつもそうやって、最初からセットのことを考えながら脚本を読まれるんですか?

桑島 私は大体そうですね。まず先入観なしで読んでみて、観客として頭に浮かんだ情景を、具体的な美術に落とし込んでいく。そうやって断片的なイメージがだんだん1つに繋がっていって世界観ができていく過程が、この仕事をやっていて一番楽しいかな。それをもとにイメージボードを描いて図面を仕上げてしまったら、あとはひたすら作業あるのみ、ですから(笑)。

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地獄っていう設定を逆手に取って、 いいように転がした感じですかね。

じゃあ、地獄のシチュエーションごとに複数のセットを組むのではなく、大きなワンセットで全てのシーンを撮ってしまうというアイデアも、最初の段階からあった?

桑島 ありました。リアル志向というよりは演劇のステージに近い大きなセットを1つだけ作って。それでいろんな見せ方ができれば、いい感じでファンタジー的な雰囲気が出せるかなと。で、その後、初めて宮藤さんと打ち合わせをした際、監督も大筋で同じイメージをお持ちだったので。「あ、よかった。じゃあもう、それで行っちゃいましょう」と。

打ち合わせ前からイメージが一緒だったというのは凄いですね。たしかにワンセットで撮影したことで、かえって地獄っぽい閉塞感が出たというか……。本来は舞台演出家である宮藤さんの持ち味を、うまく引き出していると感じました。

桑島 だとしたら嬉しいです。ただ、私はどこまで行っても美術のスタッフなので。映画全体の世界観や演出的なことも大切だけど、やっぱり与えられた予算とスケジュールでどう豊かな画を作るかをまず考えちゃうんです。もちろんワンセットで撮ると、画変わりがしなくて単調になるリスクもある。でも宮藤さんの脚本はキャラが魅力的ですし、会話のやりとり自体も魅力的だったので。だったらわざわざ予算を分けて小さなセットを複数作るより、大きな地獄をドーンと組んじゃった方がいいかなと。そうすると例えば血の池の向こうに閻魔様の山が見えたり、ヌケが生かせるじゃないですか。

別のシチュエーションが映り込んでもかまわないと。

桑島 うん。もともと現実とは別次元のお話なわけですし。そっちの方がお買い得でしょ、みたいな(笑)。地獄っていう設定を逆手に取って、いいように転がした感じですかね。ただ監督には「途中で必ず飽きますよ!」とは、最初に念押ししました。中島(哲也)監督の『パコと魔法の絵本』(2008)をやらせていただいたときもそうだったんですが、1つのセットに1か月以上、100人近いスタッフが缶詰になるのって、大変なことなんですよ。私はその辛さもよく知っているので(笑)。だから「覚悟してくださいね!」と言いながら、こっそり変な小道具を置いてみたり……。スタッフが飽きない遊びをなるべく入れることは意識しました。

ワンセットだとカメラのポジションが限られるとか、そういう制約はありませんでした?

桑島 あります。実際、今回は撮影もライティングも大変だったと思います。でもそれは、事前に相談をすればいい話なので。例えば「このアングルでこっちのヌケを生かすには、どうしてもこの岩が邪魔になるよね」みたいな話は、カメラマンの相馬(大輔)さんと一緒にいろいろ考えました。セットを組んで撮影が始まった後も、各部署の人がそれぞれの立場で、ワンセットという条件を生かしてくれたと思う。映画はやっぱり共同作業ですからね。ちなみに宮藤さんも、クランクイン前にすごい素敵な絵コンテを描いてくれたんですよ! それ見るとシーンのカット割りだけじゃなく、各カットでヌケをどう生かすかが一目でわかるの。

へええ、そうなんだ。

桑島 それがまた可愛いんです。絵心あるんですよ、宮藤監督。

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今回の地獄セットは、1つの平面をほぼ均等に4分割した構成になっていますね。これはどこから思いついたんですか?

桑島 脚本を読んでいると、やたらと「クロスロード」って言葉が出てきてたんです。事故で命を落とした大介が、クロスロードの真ん中に墜ちてくるって書いてあった。それが印象に残っていて。最初にイメージボードを描く際、じゃあまず全体を十文字に切ってしまおうと考えました。そのど真ん中に神木(隆之介)君が落ちてきて、長瀬(智也)さん演じるキラーKと出会うイメージですね。そうやって生まれた4つの区域を、それぞれを「閻魔の王宮ゾーン」、バンドが演奏する「ステージゾーン」、地獄農業高の教室など「室内ゾーン」、釜茹で地獄や血の池などがある「水物ゾーン」に割り当てていった感じです。

クロスロードって音楽の世界ではブルースマンが悪魔と出会う場所なんですよね。魂を売るかわりに、ギターがうまくなる契約を交わすという伝説があって……。

桑島 監督のなかでは、そのイメージがあったみたいですね。私は全然知らなかったけど(笑)。ただ十字路は、脚本を読んだ時点から絶対作ろうと思ってました。その上で4か所それぞれ違う雰囲気を持たせつつ、全体をうまくまとめられればいいなと。

具体的にはどういう工夫を?

桑島 全体が平板に見えてしまうと映像的に面白くないので、まず高低差を付けようと思いました。スタジオの手前は、動きやすさも考えて「水物ゾーン」「室内ゾーン」に割り当てる。で、奥には土を運び入れて高さを出し、「王宮ゾーン」「ステージゾーン」を作っています。あと限られた広さでより奥行き感を出すため、相当きついパースを付けました。例えば十字路の道幅にしても、奥側に行くとありえないほど細くなっています。

たしかに。広さはどのくらいあったんですか?

桑島 たしかフロア全体で260坪くらい。実際セットに使えたのは200坪前後だったかな……。スタジオ自体はそれほど広いわけではなかったです。ただ、高さが5間ほどあったのはありがたかった。そうするとカメラをけっこう上方向に振っても、天井が写らないでしょう。横方向の動きに限りがある分、なるべく上下で画に変化が付けられればいいなとは思ってましたね。

4つのエリアで特に大変だったのはどこでしょう?

桑島 うーん……全部です(笑)。

ですよね(笑)。

桑島 経験のないことが多かったので。でも、そのぶん楽しかったですよ。個人的には「ステージゾーン」の舞台が演奏中にガーッとせり上がるようにできたのは、嬉しかったです。やはり予算面を考えると、あの装置を1か月以上スタジオに設置しておくのはリース代がかかってしまうんですよ。ライブシーンだけだと数日間で返却できるからいいんですけど、一度セットを組んでしまうとクランクアップまで外せないから。

ああ、なるほど。見えない維持費がかかる。

桑島 そう。見かけ以上にコストがかさむんです。なので、使うか使わないかでは、制作部さんとけっこう議論しました。でも、あのリフトアップ装置がないと単に砂利が敷かれた駐車場みたいに見えちゃうんですよね(笑)。監督と私は最初から絶対あった方がいいと話していて。そこを理解してもらえたのはよかったなと。

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この映画に一番合った美術を考えたら たまたま昔の手法に出会ったというか。

ほかに初チャレンジのことというと?

桑島 背景の炎もそうですね。あれはものすごく大きな幕に手描きしたものを、上から吊っています。スタジオの半分を覆うくらいのサイズがあって。それをカメラ向きに合わせて、カーテンレールの要領で移動できるようになってるんですね。仏教の地獄絵図っぽい感じを出したかったので、わざわざ京都の撮影所で、襖とか屏風の絵を描いてる方に来てもらって……。

時代劇もできる職人さんに来てもらったわけですね。

桑島 まだ若い子でしたけど、上手なうえにすごく作業が速いのね。さすがだと思いました。今回、基本はロックだけど、そういう和の要素も強く打ち出したかったので。撮影所で培われてきた昔ながらの技法もけっこう採り入れてるんです。例えば岩1つとっても通常のスチロールじゃなく、あえて板トタンを使っていたり……。

へええ、トタンで岩を作るんですか?

桑島 ええ。スチロールだと人間が削るので、どうしても角が甘くなっちゃうんですよ。今回はもっと無機質でゴツゴツした……それこそ地獄っぽい怖さが出したかったので。これもまた京都の撮影所から大量に板トタンを運び込んで、美術部のスタッフ総出で叩いて叩いて叩きまくって(笑)。そうやって変形させたものを大量に貼り合わせて巨大な岩山とか作ってます。実はこれも昔からの手法で、知識としては私も知っていました。ただ、実際に試したのは今回が初めて。地獄を造るお話をいただいたとき、最初にやってみようと思ったんですよ。で、それをまた別の塗装職人さんにお願いして、おどろおどろしい色に仕上げてもらっています。

新旧いろんな職人さんの技がミックスされているんだ。

桑島 一口に塗りといっても、やっぱり職人さんごとに得手不得手ありますからね。特に今回は古い材料や手法も取り入れているので、得意な人にやってもらった方が、絶対にうまくいく。なので今回は私の判断で。いかにも地獄に向いてそうな面々に集まってもらっています(笑)。そうやって適材適所の人材をしっかり配置するのも、美術監督的には大きなポイントでした。

枯れ木の形もすごく地獄っぽかったですね。

桑島 あれはね、森に行って本物の木を伐らせてもらって。それをチェーンソーで削って組み合わせているんです。ステージの両脇に生えている2本は人の手をイメージしました。ちなみに指の形は、劇中に出てくるコード「H」を押さえてます(笑)。

セットを見た監督の反応はいかがでした?

桑島 いろいろありすぎて、もう記憶がごっちゃになってるんですけど……セットの建て込みが終わって、最終チェックに来られた際、一目見るなり「これで何でもできるじゃん!」と満面の笑顔で喜んでくれたのは印象に残ってますね。岩山によじ登って、子供みたいにはしゃいだり……。後で聞いたら宮藤さん、けっこうな高所恐怖症らしいんですけど。

ははは(笑)。よほど嬉しかったんですね。

桑島 撮影が始まっても、私たちがさりげなく置いといた小道具や仕掛けを見つけて、演出に生かしてくれたり。その場でアイデアを膨らませてくれるので、現場にいて楽しかったです。

こうやってお話を伺ってると、今回の美術には日本映画の伝統みたいなものが、有形無形で受け継がれている感じがしますね。

桑島 どうだろう。伝統を受け継ぐみたいなことは、正直、私はあまり意識してないんですよ。むしろこの映画に一番合った美術を考えていったら、たまたま昔の手法に出会ったという方が、実情に近い気がする。使えるものは何でも使って新しい世界を造りたいと、いつも考えているので。

なるほど。宮藤監督からは一番最初に「参考として見ておいてください」と、木下恵介監督版『楢山節考』(1958)を手渡されたと伺いましたが……。

桑島 はい。あれはすごく面白かった。農家の内部から村の広場、老いたお母さんを息子が背負って歩く山の中まで、ぜんぶセットで再現していて。場面転換とか、スタッフがすべて人力で動かしてるんですよ。それこそ日本映画黄金時代のスタッフの知恵がギュッと凝縮されてる感じがして……。羨ましかったし、刺激を受けました。ただ、それってやり方次第で再現できると思うんです。

と言いますと?

桑島 たしかに、黄金時代みたいなコストや人員は割けないですし。細かいノウハウは失われちゃったかもしれない。でも、そこは今の自分たちが持っているもので工夫すればいい。むしろ昔の人にできたんだから、私たちにできないはずがないと。そう思えたことの方が大きかったと思います。実際、俳優さんの演技以外はすべて美術で世界観を作っているところは同じなわけですし。

単に昔のやり方を真似るんじゃなく、それを取り込みながら、新しい表現を創りたいと。宮藤監督もそういう意味で『楢山節考』を手渡されたのかもしれませんね。

桑島 だと思います。同時に今回の撮影中には、すごく嬉しかったこともあったんですね。スタジオで作業していると、私が存じ上げないような先輩デザイナーさんがたくさん見学にいらっしゃって。お祖父ちゃんくらい年齢の離れた美術監督さんが興味津々にご覧になっていた。きっと皆さん、とんでもなくエライ人たちだと思うんですけど(笑)。そういう人から「桑島君、君はいつもヘンテコなものを作って羨ましいね」と言っていただけた(笑)。それはすごく力になりました。

では最後に、美術監督として『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』という作品に参加してよかったと思うことを1つ、教えていただけますか?

桑島 そうだなあ……やっぱり、地獄をまるごと造れたことかな。デザイナーのなかでも、そんな経験ができる人はそう多くない気がするし。オールセットで世界観を創ったことで、自分としてもずいぶん視野が広げられました。その意味ではとても感謝しています。映画の美術って、本当に多くのスタッフの力が集まってできている。それがスクリーンに現れている作品だと思うので、ぜひディテールまで楽しんでいただけると嬉しいです!

取材・文 / 大谷隆之
写真 / 冨田望

桑島十和子

1971年、秋田県出身。東京育ち。女子美術短期大学在学中より映画に携わり、卒業後、美術寒竹氏の助手として(株)サムシングエルスに所属、のちに(株)サラダルテ所属、現在に至る。CMを中心にPV、CDジャケット、NHKの子ども番組などの美術監督、キャラクターデザインとして幅広く奮闘中。映画『下妻物語』(04)『嫌われ松子の一生』(06)『パコと魔法の絵本』(08)『告白』(10)(いずれも中島哲也監督)などに参加。

『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

12月14日(水)Blu-ray&DVD発売

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

不慮の事故で17歳にして命を失った高校生の大助(神木隆之介)。目覚めた場所は、まさかの“地獄”だった!! たいして悪いこともしてないのに、大好きなひろ美ちゃん(森川葵)とキスもしてないのに、このまま死ぬなんて若すぎる! 途方に暮れている大助が出会ったのは、地獄でロックバンドを組んでいる赤鬼キラーK(長瀬智也)。大助は、彼から地獄のシステムを学び、現世へのよみがえりを目指した大奮闘を始める。すべては、現世に戻って、ひろ美ちゃんとキスするために――。

オフィシャルサイトhttp://tooyoungtodie.jp/

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発売元:アスミック・エース
販売元:東宝
©2016「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」製作委員会

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