映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』特集  vol. 5

Interview

宮藤官九郎と共に見出した映画音楽担当・向井秀徳の新たな引き出し

宮藤官九郎と共に見出した映画音楽担当・向井秀徳の新たな引き出し

『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』ブルーレイ&DVD発売 スタッフインタビュー

宮藤さんの場合、くだらなさの中に独特のカッコよさが匂うから。 それをどう捕まえて音楽に置き換えるかを意識してますね。

オルタナティヴロックバンド「NUMBER GIRL」のフロントマンとして活躍した後、ロックバンド「ZAZEN BOYS」で多大な影響をもらたしている向井秀徳。宮藤官九郎監督作品の映画音楽の多くを務め、本作でもほとんどの劇中音楽を担当した。その宮藤監督作品の中でも、高校生が地獄でバンドを組むという設定でさまざまなジャンルの音楽を聴くことができる映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』は新しい形式の音楽映画と言える。 多彩なサウンドを生み出し、本作で大きな役割を果たした向井に、その制作の裏話を聞いた。


宮藤さんの作品に参加すると 自分にはなかった引き出しが開く

向井さんは2009年の映画『少年メリケンサック』以降、『シネマ歌舞伎 大江戸りびんぐでっど』(2010年)、『中学生円山』(2013年)と立て続けに宮藤官九郎作品の音楽を手がけてこられました。

向井 はい。やらせてもらってますね。

音楽が重要な役割をはたす宮藤作品にとって、もはやなくてはならない存在だと思うのですが、向井さんご自身はどのように感じられていますか。

向井 宮藤さんの作品に参加させてもらうと、自分では「ない」と思っていた引き出しが開いていく感覚があるんですよ。むしろ、強引に開けられると言いますかね。そこに必ず、発見があってね。これが楽しいんだな。

2人の個性が混ざり合って、向井さんがZAZEN BOYSで作る楽曲とはまったく違う音楽が生まれてくると。

向井 それは毎回、思いますよ。とんでもない発注、来ますからね。『中学生円山』のときは(主人公の母親がはまっている)韓流ドラマのテーマソングを書いてくださいとか。こっちは韓国作品と言えばキム・ギドクのハードな映画くらいしか観たことないし(笑)。どうすりゃいいんだよ、と。

けっこうな無理難題、ですね(笑)。

向井 結局は自分の勝手なイメージで、非常に粘着質な、人の感情に絡みつくようなメロディーを書いたんですけどね。

そうやって向井秀徳というフィルターを通して出てくる独自の何かを、きっと宮藤さんは求めてるんでしょうね。

向井 かもしれませんね。でも同時に、お互い軸の部分は共有できているとも思うんですよ。2人とも趣味が偏ってて、音楽にしても映画にしても基本はアウトサイドのものが好きだったりする。でも一方で、いわゆる「王道」と呼ばれるような、シンプルで真っ当なものも実は大事にしている。その共通認識があるからこそ、最終的には噛み合うというか……。未知の分野でも、宮藤さんとなら自由にやれてしまうのかなと。そんなふうに思いますね。

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今回は特にやりたいことを 詰め込んでるなと思いました

実際の作業は、脚本を読むところから始めるんですか?

向井 大体そうですね。今回の『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』だと、この部分に地獄農業高校の校歌が入るとか、ここで地獄図(ヘルズ)の演奏が入るとか、シナリオで決まっていて。ものによっては歌詞も書き込まれていました。ただ、それをどんな劇中歌に仕上げるかは、基本お任せです。

こんな感じの曲調がほしい、みたいな監督のオーダーは?

向井 なかったです。むしろ話の流れと歌詞を手がかりに、まずはこっちで作ってみるという感じでしたね。ただ歌詞の文字面だけ見ると、宮藤さんらしいというか、いい意味で、実にくだらないことしか書いてない(笑)そのくだらない詞をそのままくだらない曲にしても、全然くだらないだけという(笑)。宮藤さんの場合、くだらなさの中に独特のカッコよさが匂うから。それをどう捕まえて音楽に置き換えるかを、毎回一番意識してますね。

それは初めて脚本を読む段階から、ある程度考えていくんですか?

向井 いや、最初はやっぱり、この話がどんなストーリーでどういう世界が描かれてるのか、自分なりに探ろうとします。そこで受けた印象から楽曲を作ってみて、とりあえず宮藤さんにぶつけてみる。当然、2人のイメージがまったくかけ離れてることも多々あるんですけど。「思ってたのとは違うけど、これはこれで面白いっす」みたいに言ってもらえることも多いので。

自分の作風にはない直球のバラード 『天国』は最大の挑戦でした。

ちなみに脚本を読んで、向井さんの第一印象はいかがでした?

向井 宮藤さん、ノッてるな! と。

ははは(笑)

向井 どの作品でも毎回そうなんですけどね。今回は特にやりたいこと全部詰め込んでるなと感じました。ただ、話自体は現世と地獄を行ったり来たりして。しかも主人公の大助がいろんな動物に転生するでしょう。脚本を読んでても頭の中がこんがらがって、最初は正直、何のこっちゃわからなかった(笑)。だけど、そのスピード感が宮藤さんらしいし。これが映像になったらどうなるんだろうと楽しみでした。だからこそ、劇中で鬼のキラーKが歌う『天国』、この曲が肝になるんだろうとも思った。

なるほど。物語のなかで現世と地獄と天国をつなぐ、言ってみれば鍵となる曲ですもんね。

向井 そう。中心をズーンと貫く背骨みたいな存在。宮藤さんが書いた歌詞も非常にシンプル、かつストレートでね。この曲があるから、どんなに話がハチャメチャな方向に逸れても、観客が最終的には安心できると思うんです。しかもラブソングなので、1回聴いただけでも耳に残るキャッチーさが求められる。ところがワタシ、今までそういう直球のバラードなんて作ったことほとんどないわけですよ(笑)。

またしても宮藤さんが、新しい引き出しをこじ開けにきたと(笑)。

向井 これは挑戦でしたねえ。最大の挑戦だったと思います。自分の作風にない要素なので、ちょっとした照れも感じつつ……でも、キラーKの心情をいかにわかりやすく伝えるかって課題にトライしました。最終的にはそんな気恥ずかしさもどこかに霧消してしまって。我ながら、なかなか良いものができたんじゃないかと。

切なくて、心に響く曲ですね。ご自分でも達成感があったのでは?

向井 ええ。純粋に「いい曲書けたなあ、俺」というね(笑)。コード的には「♪ジャラーン、C・F・Fマイナー」という、わりとオーソドックスな進行の繰り返しなんですけど。この曲って物語の中では、キラーKになっちゃう前の近藤さんが、現世で好きな人のために一念発起して書いた曲でしょう。しかも、その努力が報われないって切なさがある。その気持ちにはやっぱり、こういうベタなコード進行がしっくりくるのかなと。

職業・ソングライターとして、照れは封印したわけですね。

向井 まあ、他にもいっぱい恥はさらしてますから。よくよく考えてみれば、ここでそんなに照れる必要もないのかなと(笑)。

例えばキーを設定する際などは、近藤=キラーK役を演じる長瀬さんのヴォーカルが前提になるわけですよね。

向井 長瀬さんの音域と声質で歌った際に一番映えるメロディーというのは、もちろん考えました。あと劇中では、神木隆之介さんが演じる大助も一緒に歌うことになりますから。2人が気持ちを乗せられる歌じゃないと嘘くさくなる。そういう意味では、当たり前ですけど本当に真剣に作りましたね。

今回もまた、新しい扉が開いた感覚はあった?

向井 ありました。宮藤さんとの共同作業では毎回、何か新しいものを吸収させてもらっている気がするんです。今回もその実感はたしかにあった。

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他にもたくさん、オリジナル挿入歌を手がけていますね。『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』という作品自体は、“地獄を舞台にした和製ロックオペラ”の色彩が濃厚だと思うんですが、そういうトーンもけっこう意識されました?

向井 それはあまり考えなかったかな。KYONOさん(元THE MAD CAPSULE MARKETS、現在ソロプロジェクトのWAGDUG FUTURISTIC UNITYとして活動中)が作られた地獄図の「TOO YOUNG TO DIE!」が思い切りヘヴィーロック調だったので、むしろ少しずらした線を狙ったと言うか……。例えば、地獄に堕ちた大助の罪を数えあげる『天誅』という曲は、あえてソリッドなファンク調のアレンジにしています。えっぐいコスチュームに身を固めた、“どメタル”な連中が、いきなりキレキレのリズムを叩き出したら逆に面白いかなと(笑)。そういう発想の転換はわりとやったかもしれないですね。

牛頭先生が歌う「五戒の唄」もそうですね。殺生・偸盗・邪婬・妄語・飲酒という、仏道における5つの戒(いまし)めを説く唄なのに……。

向井 なぜかボサノヴァになっている(笑)。これ、地獄農業高校の授業中に出てくる唄なんですけど、おどろおどろしいロックよりソフィスティケートされたボサノヴァの方がより“戒まる”気がしたんですよ。ハードな演奏で「破ったら大変なことになるぞ!」とガンガン脅すよりも、(牛頭先生役の)烏丸せつこさんに耳元で囁かれた方が、もっと怖いんじゃないかなと。

たしか宮藤監督は、この曲が一番びっくりしたと仰ってました。「まさかボサノヴァでくるとは思わなかった」と。

向井 あ、そうですか(笑)。

やったことのないタイプの曲調ということでいうと、ゴスペルナンバーもあります。日本が誇るブルースバンド、憂歌団の木村充揮さんが熱唱する「えんまをたたえる唄」。これもまた、向井さんの芸風とはかなりかけ離れている気がしたんですけれど……。

向井 やっぱり地獄における閻魔大王様(古田新太)というのは、圧倒的な存在ですから。それが最初に登場するシーンなので、ゴージャスで宗教的な雰囲気の曲がいいなと。まあゴスペル音楽は本来、キリスト教の黒人霊歌で。ブディズム(仏教)の地獄とは何の関係もないんですけど(笑)。どこか荘厳なムードを出したかったんですね。

これもまた、木村さんのソウルフルなヴォーカルを想定して?

向井 ですね。まだ出演は本決まりじゃなかったと思いますが、木村さんに歌ってもらいたいというアイデアは、宮藤さんから聞かされてました。

もう1つ、現世で大助のバンドが演奏する「スーサイド」。女の子にモテたい一心で、高校生が作った作ったナンバーですね。これ以上はないくらい薄っぺらい感じが、よく出ていました(笑)。

向井 あれは難しかったです。宮藤さんの映画って、よくそういうペラペラな音楽も出てくるんですよ。いわば“叱られ役”の楽曲なんですけど、あのチャラい感じを出すのが実は大変で。例えば『少年メリケンサック』だと、主人公のかんな(宮崎あおい)と同棲しているシンガーソングライター(勝地涼)の曲なんかもまさにそうでした。

ああ、たしかに。何か歌ってそうで、何も歌っていない。

向井 この『スーサード』もまず詞の内容が軽率でしょう。人の生き死にを軽はずみに考えてて、それをパンクな態度と勘違いしてる高校生の曲。そもそも演奏すらできてない設定なので、最初はめちゃくちゃ下手に演奏してみたんです。ところが私が演るとちょっとカッコよくなっちゃう。ギクシャクしたビートが、ちょっとアヴァンギャルドな感じに聞こえちゃって。ペラペラな感じを出すのにけっこう苦心しました。

実は匠の技が秘められてるんですね。あれは3コード?

向井 いや、2コードの繰り返し。楽器弾けない高校生のバンドですから。

こうやって伺うと、1本の映画の中に本当に多彩な楽曲が詰め込まれているんですね。ちょっと根源的な質問かもしれませんが……そういった無茶ブリも含め、そもそも宮藤監督はどうして向井さんに自作の音楽をまるごと託すんだと思います?

向井 うーん、なんででしょうねえ。あくまで私の想像ですけれど、やっぱりお手軽なんじゃないですかね。面倒くさくない、というか。

と言いますと?

向井 例えば劇中に「70年代に活躍した架空の男性アイドルグループ」が出てくるとしますよね。そのヒット曲を作ってくださいという発注があったとする。そういう場合、たぶん通常は作曲家の方といろんなやりとりが必要になると思うんです。そのグループはジャニーズ的な雰囲気なのか、それともまったく違う、例えば野口五郎っぽいムードなのか、とか。

なるほど。

向井 でも、その段階で具体的に説明すればするほど、何かが狭まっていくと彼は考えてるんじゃないかな。もしかしたら、説明すること自体面倒なのかもしれないけれど。その点、私は「その説明じゃちょっとわかりません」とはまず言いません(笑)。「わからないならわからないなりに、こっちでやらせてもらいますわ」というスタンスだし、宮藤さんもその余白を認めてくれる。そういう意味でお互いに、やりやすいんじゃないかなと。

結果的に監督から見れば、「ええ、ボサノヴァかよ!」みたいな面白さが生まれるし。向井さん側でも、新たな引き出しが開く新鮮さがある。そしてそのベースには、強い信頼があるように思えます。

向井 だとすれば嬉しいんですけどね。ただ、1つ大事なのは、監督を驚かすことが目的ではないんです。もちろん面白がってはいるけれど、ビックリしてくれるのはあくまで結果であって。1つひとつの楽曲は真面目に書いている。そこもまた、重要なところだと思います。

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劇伴については 監督のセンスが大きいと思いますね

ちなみに本作では挿入歌だけでなく、いわゆる劇伴(劇中で流れる伴奏の音楽)も作曲されてますね。これについては何を意識されました?

向井 場面説明の加減というか、バランスですかね。もともと劇伴というのは登場人物の気持ちを代弁するツールというか、そこはかとなく画面に漂わせる効果が期待されてます。でも、それがあまりストレートな説明になると、面白くないと思うんです。観ている人が想像を膨らませる余地がなくなると、映画が窮屈になって楽しくない。そのさじ加減は注意しました。あと劇伴については、監督のセンスが大きいと思いますね。私は現世と地獄のシーンにそれぞれ素材を提供しましたが、それをどのタイミングで何秒鳴らすかというのは、あくまで宮藤さんの演出ですから。

なるほど。あと、これは劇伴と言えるかどうか微妙ですけど、物語の中で重要な意味を持つ「H」というギターコードが出てきますよね。

向井 ええ、はい。地獄のコード「H」だね(笑)。

あのサウンドも向井さんが作られたんですか?

向井 まず宮藤さんと最初に「この世に存在しないコードって、一体どんな音なんでしょうね?」みたいな打ち合わせをしまして。それをもとに、私が考案しました。ただ、一口に「存在しない音」と言っても、実際には難しい。どんなノイズにも原則、音階はありますからね。それが西欧の12音階に当てはまるかどうかは別ですが、ノックの音にも動物の鳴き声にも、音階はある。なので、いかにも「この世のものならぬ」雰囲気をまず重視して……。

そのイメージに向けて、いろんな響きを試されたわけですね。

向井 はい。鳴らした瞬間、でっかい扉がグワッと開いて。そこから巨大な閻魔様が現れるような……そんなサウンドになったと自負してます(笑)。

ちなみに、もし劇中のキラーKと同じようにギターのフレットを押さえたとしたら、どんな音が鳴るんですか?

向井 わりと平凡な不協和音になりますね。昔のサスペンスドラマとかで、事件が起こると、ピアノの効果音がバーン!と鳴ったりするじゃないですか。「課長、殺しです」「♪バーン!」みたいな(笑)。現実の人にはあんな指の置き方はできないわけですが、あえて1音ずつ重ねて鳴らしてみると、ああいうパンチのない音になる。さすがにそれじゃマズイでしょ。

ありきたりな不協和音じゃ、ストーリーが成立しませんもんね。

向井 そうなんですよ。それで、あのタブ譜の音の組み合わせを軸にしつつ、いろんな音を重ねています。ただ絵の具と同じで、あまり足しすぎると音の隙間がなくなって、響きが灰色に塗りつぶされてしまうんですね。その辺のバランスを考えながら、神々しいサウンドをめざしました。

まさに地獄の蓋がパカッと開きそうな、この世ならぬ響きだったと思います(笑)。では最後にもう1つだけ。向井さんにとって結局のところ、宮藤官九郎さんとはどういった存在なのでしょう?

向井 うーん……ウマが合う先輩、ですかねえ。私より少し年上ですけど、兄貴分という感じは全然しないし。もともと宮藤さん自身も、そういう人柄じゃない気がするので。やっぱり一緒にいてすごく楽しい先輩かな。今日はそんな感じにしといてください(笑)。

取材・文 / 大谷隆之
写真 / 冨田望

向井秀徳

1973年、佐賀県出身。2003年ZAZEN BOYSを結成。自身の持つスタジオ「MATSURI STUDIO」を拠点に、国内外で精力的にライブを行い、現在まで5枚のアルバムをリリースしている。向井秀徳アコースティック&エレクトリックとしても活動中。2009年、映画『少年メリケンサック』(宮藤官九郎監督)の音楽制作を手がけ、第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。

『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

12月14日(水)Blu-ray&DVD発売

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

不慮の事故で17歳にして命を失った高校生の大助(神木隆之介)。目覚めた場所は、まさかの“地獄”だった!! たいして悪いこともしてないのに、大好きなひろ美ちゃん(森川葵)とキスもしてないのに、このまま死ぬなんて若すぎる! 途方に暮れている大助が出会ったのは、地獄でロックバンドを組んでいる赤鬼キラーK(長瀬智也)。大助は、彼から地獄のシステムを学び、現世へのよみがえりを目指した大奮闘を始める。すべては、現世に戻って、ひろ美ちゃんとキスするために――。

オフィシャルサイトhttp://tooyoungtodie.jp/

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Blu-ray 豪華版 ¥7,800+税
DVD 豪華版 ¥6,800+税
Blu-ray 通常版 ¥4,800+税
DVD 通常版 ¥3,800+税

発売元:アスミック・エース
販売元:東宝
©2016「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」製作委員会

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