vol.7 映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』特集

Interview

『TYTD!』の破天荒な制作過程を担当プロデューサーが明かす

『TYTD!』の破天荒な制作過程を担当プロデューサーが明かす

『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』ブルーレイ&DVD発売記念スタッフインタビュー

いまの日本映画界で「オリジナルで地獄が舞台の映画を作ります」と言って、 それを本当に実現できる監督って、限られていると思いますね。

アシスタントプロデューサーとして、映画の制作過程を見てきた山野プロデューサー。制作現場や舞台裏についてお伺いすることで、さらに映画『Too Young Too Die! 若くして死ぬ』の魅力に迫っていきます。


「長瀬君が人間じゃないものになったら おもしろいんじゃないか?」から始まった企画

最初に、山野さんがこの企画に参加したのは、いつ頃だったのでしょうか?

山野 僕が参加したのは、クランクインの約半年前で、その時には宮藤監督の書かれた脚本があって、すでに三稿目ぐらいの段階でした。

まず、この映画の成り立ちからお聞きしてもいいですか?

山野 宮藤監督が仰っていたのは、「長瀬(智也)さんとまた映画が撮りたい」と。長瀬さんについては「演技のスケールが大きくお芝居が豪快で、日本人にはあまりいないタイプの役者さん」ということでした。そのお芝居の豪快さから、「長瀬さんが人間じゃないものになったら面白いんじゃないか?」と考えたそうです。長瀬さんがそれぐらいのスケールの大きさを持った方だということですよね。そして、「地獄にいる鬼になった長瀬智也」というイメージが浮かんで、そこから「地獄」という舞台設定が生まれたみたいですね。

脚本を最初に読まれたときはどう感じましたか? 舞台が地獄で、鬼が出てきたりする映画となると、文字情報だけではどんな映画になるかわかりづらいかと思いますが……。

山野 まさしく、そこがこの企画のポイントですよね。舞台が「地獄」と言われても、スタッフは誰も本物の地獄を見たことがないですから(笑)。なので、「地獄がどんな世界観で作られるか」ということはスタッフ全員が意識していたと思いますし、おそらく、監督も地獄をどう描くかということに頭を悩ませていたと思うんです。そんなときに、監督がたまたま入った居酒屋のテレビで木下恵介監督の『楢山節考』(58年)が流れていたそうです。『楢山節考』は姥捨て山に年老いた母親を捨てにいく物語なんですけど、姥捨て山はセットを組んで撮影しているんですよね。そのときに「これだ!」と感じられたそうで、美術打ち合わせのときに、宮藤監督がその『楢山節考』の映像を地獄の美術を担当した桑島(十和子)さんに見せながら「こんな風に地獄は全部セットでいきたいんです」とイメージを伝えていましたね。

『楢山節考』がヒントだったんですか! 地獄を描いた映画は中川信夫監督の『地獄』などありますが、地獄セットのギラギラした見世物小屋っぽさという点において、石井輝男監督の『地獄』(99年)を意識されてるのかな、と思いました。

山野 もちろん、中川監督、石井監督の作品も含めて、監督は地獄を描いた映画は一通りご覧になっていて、その上で「宮藤官九郎版地獄」を作っていったんだと思います。

この映画って、仏教の六道(天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道)とか、地獄と現世では時間の流れ方が違うだとか、見てる最中は気にならないけど、実は複雑なルールが多いですよね。

山野 たしかにそうですね。でも、よくよく考えると、例えば劇中では、転生は1週間×7回。四十九日なんですよね。で、四十九日を迎えると鬼になっちゃって転生はできない。宮藤さんのオリジナリティーと、世の中の通説とがうまく混ざり合ってて、さすがとしか言えないですよね。頭の中どうなっていらっしゃるんだろう……。

ある意味狂ってますよね(笑)。それと素人考えなのですが、CG全盛のいまの時代に全部セットで撮影するというのは、逆に時間、手間、予算がかかるんじゃないですか?

山野 そういう部分もあるんですが、CGだと後で合成をするのに1カット1カット計算して画作りをしていかないといけないんです。だから役者やカメラマンが縦横無尽に動けないんですよね。今回、監督は「ライブ感」「生っぽさ」にこだわっていたように、撮影現場でも感じていました。そういう点では、セットのほうが逆にやりやすいですし、お芝居を大事にしたいという思いも強かったんだと思います。映画の中で、大助(神木隆之介)が何度も現世に転生するんですが、そのたびに動物になりますよね。その動物のシーンでも、本物の動物を使って撮影しています。

神木さんが声を当てていますが、インコ、犬、アシカと何度も別の動物に転生しますよね。そこは、「こんな面倒なことをわざわざやるなんて!」と驚きました。

山野 本当に大変でしたね。たぶん、現世の撮影で監督がいちばん苦労されていたのは動物のパートだったと思います。インコが左から右へトコトコトコっと歩くシーンだけでも、テイクを何回も重ねていましたから(笑)。

それって劇中、3秒ぐらいのカットですよね(笑)。

山野 当たり前ですけど、動物なので思うように動いてくれないですからね。監督もそこに関しては「なんでCGを使わなかったんだろう……」って、撮影中後悔されていたかもしれません(笑)。

でも、そこで意地になってでもわざわざ生身の動物を使ってる感じが熱量として観客に伝わると思います。

山野 そうですね。生身の動物だからこそ、大助が本当に輪廻転生して現世に生まれ変わったかのように感じる部分もあると思うんですよね。本当に動物たちも頑張ってくれました(笑)。ちなみに大助が動物に転送するシーンは、『マッキー』という監督の好きな映画も参考にされているようでした。

ハエが主人公のインド映画ですよね! たしかに動物のシーンでは連想しました。でも、『マッキー』はCGでしたけど、今作では生身の動物ですからね(笑)。そんな動物シーンも含め、かなり撮影に時間がかかったんじゃないでしょうか?

山野 天国と現世という二つの舞台を行き来するストーリーなので、スタッフは2本の映画を作ったような感覚もあったと思います。

驚いたのが、本作は現世と地獄で、それぞれ別の美術スタッフを起用されていますよね。

山野 他の映画ではなかなか聞かない話ですよね。これは監督からの提案です。「地獄と現世をまったく別の世界観にしたい」という意図です。でも……その分ギャラも予算もかかるんですよ(笑)。とはいえ、結果的にはそれがすごく効いていたと思います。現世のほうは小泉博康さんという『少年メリケンサック』、『中学生円山』でこれまでの宮藤監督の映画でもお仕事をされている方で、大人計画さんの舞台美術も手がけていらっしゃいます。なので、監督としてもすごく信頼を寄せている方なんです。一方、地獄の美術は桑島十和子さん。『下妻物語』や『パコと魔法の絵本』など、中島哲也監督とのお仕事で知られる方です。桑島さんは宮藤監督とは映画では初めてご一緒されているんですが、地獄の世界観は桑島さんのアイデアによるものが大きいですね。

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さらに面白くなる方向へと 役者をノせながら変えていく

宮藤監督はスタッフさんに託すタイプの監督なんですか?

山野 もちろん自分のやりたいイメージが頭の中にある上で、それでいてスタッフのアイデアをどんどん取り入れるフレキシブルな方です。宮藤監督って、「いや、そうじゃないよ!」とか全然言わないんです。スタッフの意見を面白がっていくタイプですよね。ある日、ヘアメイクディレクションの山崎(聡)さんからキラーKをはじめとして、鬼たちのメイクのデザイン画があがってきた時も、こちらとしては一瞬躊躇しちゃうようなものだったんです(笑)。「これ大丈夫?やりすぎじゃない?俳優の顔、わからないんじゃない?」って。でも、デザイン画を見た監督は爆笑して「いいっすね~!」と。面白いと感じることを純粋に追及する方なんです。だから、スタッフも皆、監督に「面白い」と言わせたくて、頑張ってしまうんです。

役者との関係性もそんな感じなんですか?

山野 そうですね。長瀬さんも桐谷(健太)さんも、今回の撮影ではアドリブを入れることが多かったんですけど、それに対して「それはやらないで」とかは基本的になかったですね。それよりも「それなら、もっとこういう風にやってみたらどう?」っていう風に、役者さんをノせながら、それでいてさらに面白くなる方に角度を変えていらっしゃいましたね。そうすると、さらに面白いシーンになっていくんですよ。そうやってアイデアを出し合いながらリハを重ねていく中でお芝居も変化していくので、やはり「ライブ感」がすごくて、撮影を見ていて「こんなクリエイティブで刺激のある空間はなかなかないな」と感じていました。セットで撮影しているので、もう舞台演劇さながらというか、まさしく監督が大事にした「ライブ感」がそこにあったんです。撮影中の現場は、それこそ各スタッフ皆、その気持ちは共有していたと思いますね。

それはセット撮影ならではのライブ感ですよね。

山野 そうなんですよね。CGでカット割りが決まっていると、監督と役者のやりとりの中でも、どうしても制約が出る部分があります。セットでの撮影ならではの自由さがアドリブを生んで、それがまた作品全体の勢いに繋がっていたと思います。撮影監督の相馬大輔さんは、カメラを動かして躍動感のあるダイナミックな映像を撮られる方です。だからCGに頼っちゃうと、場合によっては映っちゃいけないところが映っちゃう。それを気にせずにカメラを動かしながらライブシーンなど勢いのある映像を撮ってほしい・・・それも理由のひとつとしてありましたね。

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「みなさんコンテ見て凍り付いてますが(笑) これどうやったら実現できますかね?」

先ほど出た宮藤監督の「スタッフや役者をノせていく」というところで、具体的にうまくハマったシーンなどはありますか?

山野 すぐに思い浮かぶのは、今回、撮影前に劇中で使う主な楽曲のレコーディングをしたんです。KYONOさんが作曲した主題歌の「TOO YOUNG TO DIE!」のレコーディングをしたときに、そこに長瀬さんがコーラスやセリフを重ねて自分でアレンジした音源を持って来られたんですよ。

長瀬さんが独自でアレンジしたんですか!?

山野 そうです。長瀬さんはレコーディング中も、自らどんどんアイデアを出されるんです。それに対しても監督は「イイね!」という反応でしたね。で、そうしたやり取りに触発されたのが長瀬さんと同じタイミングでレコーディングに来られていた桐谷さん。「俺、今思いついたことがあるんですけど、やってみていいですか?」と、その場で考えたラップ調のセリフを間奏の間に入れて、監督も爆笑で即採用! ってことがありました(笑)。

それって、まだクランクイン前なんですよね。皆さん、本当に尋常ではないテンションで挑んでたんですね!

山野 そうでしたね。そのレコーディングのときも監督もキャストも本当に楽しそうで。それを見ていて感じたのが、監督は心底モノ作りがお好きなんだなぁ、と。先日、あるインタビューで「映画監督として一番やりがいを感じるのはどんな時ですか?」という質問を監督が受けられていた時に、「いちばん面白いのは、地獄など頭の中で自分が考えていたイメージが、皆の手によってどんどん具現化されて目の前に出来上がっていくときですね」と仰っていて、宮藤監督の頭の中にあった世界がスタッフやキャストによって、どんどん形になっていく・・・そんな、皆が同じ方向に向かって一つになっていた刺激的な映画作りでした。

現場ではどのように撮影していたんでしょうか?

山野 今回、監督は初めて、ほぼ全シーンの絵コンテを描いてるんです。それは現場に入って画作りで迷わずに、芝居の演出に集中したい、という意図だったそうですね。だからスタッフも、脚本ともう一つ、監督が描いたコンテ集を手元に持って撮影していました。脚本だけではどうしてもイメージがわからない部分も、コンテと照らし合わせれば監督のやりたいことがより具体的にわかるんです。とはいっても、逆に大変な部分もスタッフとしてはあって、実は最初からすべてのコンテがあったわけではなかったんです。日に日にコンテが追加されていくんですよ(笑)。ちょうど監督は『結びの庭』という舞台に出演していて、その公演中にホテルからFAXでコンテが送られてくるときもあって。で、それを見たスタッフが「え? このシーンって、ここまで描くつもりだったんだ……」って焦ったりもして(笑)。

予想を超えるものが突然届くんですね!

山野 「あれ? こんなイメージまで脚本には書いてなかったぞ……ヤベェぞ_……」っていう。なので、助監督の皆さんは大変そうでした。例えば劇中でドラマーが向き合って、ドラム対決をするんですけど、「ドラム台ごと突進」と書いてあるんですが、それだけだとどんな状態かがわからないわけです(笑)それがコンテでは、ドラムセットが大きな荷台みたいなものに乗っかっていてぶつかり合っているんですよ。「え、この装置何だろう?? 地獄にこんなのあるのか!?」みたいな。

そうなると「この荷台のような装置を作らないといけないの?」って話になりますよね。

山野 そうなんですよ(笑)。スタッフ打ち合わせで監督が終盤の一連の地獄ロックバトルロイヤルシーンのコンテを配ったときも、みんな黙って「ヤバ……」っていう空気に(笑)。それで監督が「えーっと、みなさんコンテ見て凍りついてますけど、これどうやったら実現できますかね?」って。

監督は、スタッフがどう反応するのか、どういうものが出来あがってくるのか、そのやり取りを楽しんでいる感じなんですか?

山野 もちろん、そのやり取りは楽しいだけではなくて、真剣そのものです。皆撮影までに準備を間に合わせようと必死ですから。でも、今回のスタッフの皆さんは本当に優れた方ばかりで、どうすれば監督の思い描いたものを実現し、それだけでなくさらに面白い提案ができるか?という発想で返すんですよね。スタッフの皆さんも「監督、それは無理です」とは絶対言わないんです。劇中に出てくる楽曲のほとんどの歌詞は監督が書いてるんですけど、その中に「地獄農業高校校歌」っていう曲があるんですよ。「真っ赤な牛に引きずられ~」っていう歌詞があるんですけど、その歌詞を映像にするときに、スタッフ的には「真っ赤な牛って、これ本当に牛を使うのかな?」って疑問が湧くわけですよね。それでラインプロデューサーが宮藤監督に「牛、本当に要りますか?」と聞いたら、監督は「牛、欲しいです」と(笑)。で、結局牛をセットに連れてきて、実際に引きずられる人も用意して……。

映画の内容だけではなく、何から何まで破天荒だったんですね!

山野 やはり「宮藤監督だから」という、監督のセンスへの信頼感が皆にありましたね。正直申し上げて、「オリジナルで、地獄が舞台の映画を作ります」って言われて、それをある一定以上のスケールで本当に実現できる人って、今の日本映画界で限られていると思いますよね。そして宮藤監督は、多くのスタッフ、役者がそのイメージを実現したいと一丸となって本気で思える構想を提示できる方でした。

たしかに普通なら実現が難しい話ですよね。

山野 キャストはもちろん、本作のスタッフの皆さんは他の作品やジャンルでも引っ張りだこの人たちばかりなんです。でも、みんな「宮藤さんとならやりたい」という思いで参加してくださいました。

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役者さんたちもきっと同じ気持ちなんでしょうね。

山野 桐谷さんは、宮藤さんの脚本作にはこれまで出演されていたんですが、監督作は初めてだったんですよね。でも、最近のインタビューで桐谷さんも「こんなに自分を自由に踊らせてくれる監督がいたなんて!」と仰っていました。

そんな桐谷さんも含めて、鬼役の方たちのメイクが笑っちゃうぐらい過剰ですよね。でも、それって、「宮藤監督作品だから」ということで役者さんたちもOKしているのもあるかもしれないですよね。

山野 鬼ではないですけど、尾野真千子さんなんて役名が死神ですからね。

尾野真千子さんとはわからないぐらい、明らかに「ヤバイ女」でしたよね!

山野 そんな振り切れ方ができるのは宮藤監督作品ならではですよね。宮藤さんの脚本って、「色々カオスなことが渦巻いて描かれているけど、その渦に飛び込んで巻き込まれてみよう」という気持ちにさせてくれるパワーがあるんです。それは僕ら製作陣はもちろん、役者も、スタッフもみんな感じていたと思います。なので、観客の皆さんにも宮藤監督が作り上げた渦の中に飛び込んでみてほしいです。

取材・文 / 市川力夫
撮影 / 冨田望

山野晃

1981年、大阪府生まれ。アスミック・エース株式会社 映画製作部プロデューサー。劇場営業の仕事を経て、『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』(2012年)にアシスタントプロデューサー、『四十九日のレシピ』(2013年)にアソシエイトプロデューサーとして携わり、テレビ東京ほかで放送されたドキュメンタリードラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(2015年)ではプロデューサーを務める。

『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

12月14日(水)Blu-ray&DVD発売

映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』

不慮の事故で17歳にして命を失った高校生の大助(神木隆之介)。目覚めた場所は、まさかの“地獄”だった!! たいして悪いこともしてないのに、大好きなひろ美ちゃん(森川葵)とキスもしてないのに、このまま死ぬなんて若すぎる! 途方に暮れている大助が出会ったのは、地獄でロックバンドを組んでいる赤鬼キラーK(長瀬智也)。大助は、彼から地獄のシステムを学び、現世へのよみがえりを目指した大奮闘を始める。すべては、現世に戻って、ひろ美ちゃんとキスするために――。

オフィシャルサイトhttp://tooyoungtodie.jp/

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Blu-ray 豪華版 \7,800+税
DVD 豪華版 \6,800+税
Blu-ray 通常版 \4,800+税
DVD 通常版 \3,800+税

発売元:アスミック・エース
販売元:東宝
©2016「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」製作委員会

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