小島監督と3万字対談  vol. 2

Interview

ゲーム・クリエイター小島秀夫監督と3万字対談~今だから語り尽くす、ボクと本(2)

ゲーム・クリエイター小島秀夫監督と3万字対談~今だから語り尽くす、ボクと本(2)

世界を股にかけて活躍するクリエイター小島秀夫監督。その物語創りの原点を徹底追及し、全4回でお届けする第2回目。

小島秀夫

1963年生。ゲーム・クリエイター。コジマプロダクション代表。
1986年よりコナミでゲーム・クリエイターとして活動。昨年末コナミを退社、その後新たに独立スタジオとして「コジマプロダクション」を立ち上げた。現在、ノーマン・リーダス主演の『Death Stranding』を製作中。これまでの代表作は『メタルギア』シリーズ『スナッチャー』『ポリスノーツ』『ボクらの太陽』『ZONE OF THE ENDERS』シリーズなど。

★本記事の「通」な愉しみ方
小島監督の膨大な読書量と知識量を、読者のみなさまもフォローできるように、本編で言及された作品や作家などの注釈まとめを、別記事で用意いたしました。
小島監督のインタビューをよりよく理解するための注釈集
こちらを別タブや別ページで開き、参照しながら、本編を読み進めることをおススメします。

インタビュアー&文責&注釈 :尾之上浩司 協力:シミルボン(https://shimirubon.jp)


【憑かれたように読み始めた少年】

ハヤカワSFとの遭遇

小島監督(以下、小島) で、本屋の親父が「こいつ、なに買うつもりや」ってこっちを見るんで、何か買おうと思って棚を見たら、ハヤカワ文庫のSFがあった。

なんと運命的な。何歳の時ですか?

小島 中一。それまでに、ある程度ミステリーは読んでしまって、本格はまだ続いて読んでましたけど。『人間の証明』 (27)とかは、もうちょっと後かな。それで、ハヤカワSFでまず手に取ったのが『ミクロの決死圏』 (28)。アシモフ(29)が書いていたけれど、映画を観てたんでね。ぜんぶ、きっかけは“映画”なんですよ。タンジェリン・ドリーム (30)などの音楽を聴きだしたのも、映画がきっかけです。それで『ミクロの決死圏』が面白かったんです。『エイリアン』 (31)のノベライズも読むような人間なんで……『アビス』 (32)は買ってません(笑)。

『アビス』のノベライズ、出来が良いのに(涙)

小島 そこから「おおSFや!」って思って。その本屋は、もう早川書房の“銀背” (33)はなくて、文庫になってました。あれを順番に買っていった。やがて棚がずいぶん減っているなって思ったら、ぜんぶ自分が買っていた(笑)。そこで、アンドレ・ノートン (34)の『大宇宙の墓場』(35)に出会ったんです! 松本零士さん (36)の絵が好きで、松本さんがアンドレ・ノートンの表紙を描いてたんです。あと、C・L・ムーア (37) 。『デューン砂の惑星』 (38)は石ノ森章太郎さん (39)が描いていて。モンキー・パンチさんも『テクニカラー・タイムマシン』 (40)の表紙を描いていて、あれハーラン・エリスン (41)だったか、いや……ハリイ・ハリスン (42)

ハヤカワ文庫SFの“白背” (43)ですね。

小島 はいはい、“白”です。それで、ノートンを買ったら、これがまたおもろい。そして、なかに挿絵が入っている。これで、すごくはまりました。ただ、ノートンは四部作 (44)なのに、二冊しか訳してくれなかった。二冊目は、恐怖の宇宙なんたらっていう……

『恐怖の疫病宇宙船』 (45)

出版社にアプローチ

小島 そう、それ。それから、早川書房に手紙を書きました。「三巻目を出せ!」と。おまけに、当時 (46)の文庫、誤字・脱字がむちゃ多いんです。一冊に十ヶ所ぐらいあるんです。活字を拾って組んでた時代ですから、字が横に寝てたりもする。それで、手紙で文句をつけながらも、最後に「○○○○を出してください」って書いておくんです。すると、ちゃんと返事が帰ってくるんです。編集部から「ありがとうございます」って。それが嬉しくて、返事をずっと宝箱に入れてましたよ。それで味をしめて、次に東京創元社に手紙を出したんです。

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順当ですね。

小島 創元は、どっちかというと誤字・脱字が少ない(笑)。ただ、「パジャマ」が「ピジャマ」って書いてあったところがあったんで指摘したら、「小島さん、これはフランス語表記でしてね……」って丁寧な返事があって。それで、よっしゃ! 繋がりができたから、これで僕の本を出してもらえるんとちゃうか、と考えた。まあ、そういうヘンな奴でした。

それは、中学生の時期ですよね(笑)。

小島 はい。当時、SFは毎日2冊、読んでました。クラーク (47) 、アシモフ、ハインライン (48) 。それからニューウェイヴが出てきて、ロジャー・ゼラズニイ (49)とか。最近のイーガン (50)とかは、ほとんど読んでないんです。社会人になってからは。じつはサイバーパンク (51)も読んでないです。出始めの頃は読んでいたんですが、ようわからんものもあって。

ゼラズニイとイーガンのあいだには、かなりの時間の隔たりがありますね。

ジャケ買い

小島 高校あたりは、サンリオSF文庫 (52)もあって、狂ったようにSFを読んでましたよ(笑)。SFって表紙がアートでしょ。ジャケ買いでした。『火星のタイム・スリップ』 (53)なんかも、表紙のイラストだけで買ってました。すごかったですよ、あの時期。読み終わったら、学校から帰って、また本屋に行くんです。紀伊国屋書店のような大きな本屋は梅田のほうに出ないとないんで、近場の二軒の書店で買ってたんですけど、どんどん残りが減っていって、入荷されない(笑)。この時期に、SFを書きだすんです。
で、同時期に、映画の影響もあって『ナヴァロンの要塞』(54)を読んだ。冒険小説が、あまりにおもろいんで、そこから冒険小説にはまったんです。それで、途中で、SFが消えてしまいました。高校の途中で、あまり読まなくなったんです。立ち向かわないといけない現実問題――冷戦とかの問題が心に響くようになったもんで、どっかの惑星に行くなんて、どうでもええってなってきて(笑)。ファンタジーはあんまり読んでなくて。グイン・サーガ (55)のようなのとか、フラゼッタ (56)が表紙を描くような……

マッチョなヒロイック&ヒロイニックものですね。

小島 ああいうのしか、まだなかったんです。いまのハリポタ (57)のようなのはなかった。あっても『わが名はコンラッド』 (58)とか。この時期、安部公房の『人間そっくり』 (59)も読んだ。日本のSF作家については不遇でしてね。小松左京先生 (60)の作品で初めて読んだのが、ゴエモンの『明日泥棒』 (61) 。こんなんあるのか、読んどられんわって(笑)。

なぜ、あれを選んだのですか? やっぱり表紙ですか?

小島 たまたまです。それで、やめとこうと思って。ほんまに不遇でした。いままで読んできたSFと、あまりにも違い過ぎるんで、「なんじゃ、これ」って(笑)。翻訳モノで『闇の左手』 (62)なんか読んでるのに、こんなの読めないじゃないですか。ただ、小松先生原作の『日本沈没』(63)とかの映画は見てました。小松先生の『復活の日』『果しなき流れの果に』などの作品にハマったのは、かなり後になってからです。


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明日泥棒

小松 左京 (著)
角川書店
角川文庫


その時期だと、映画化された『日本沈没』や『エスパイ』 (64)から入ってくるものと思っていました。

小島 おお、『エスパイ』、DVD持ってますよ。由美かおるのおっぱいとクスリで、主人公がやられそうになるところ、最高ですね(笑)。筒井康隆 (65)は、うちのお兄ちゃんが大ファンで、ほとんど読んでいて、うるさいくらいに「読め!」って言われてたもんで、じゃあしゃあない、読もうかって、これまた間違ったものを――『霊長類 南へ』 (66)を選んだ。そしたら「なんや、これ! 『渚にて』 (67)のパクリやん! あっちは、ネヴィル・シュート (68)の最高傑作やで!」って。そういう少年だったんですよ、僕は。だから「なんじゃ、こりゃ!」って。


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渚にて 人類最後の日

ネヴィル・シュート (著)
佐藤龍雄 (訳)
東京創元社
創元SF文庫


『渚にて』のような設定だから、読んでみようと思われたのですか?

小島 これもたまたまで、新刊で出てたからじゃなかったかな。それで、筒井康隆さんの作品は封印して、しばらくたってから、やっぱり兄貴が「読め!」ってうるさいので、『おれに関する噂』 (69)を読んだら、「なんや、これ! 天才やないか!」って……いまは大好きですよ。
松本清張って、なんであんなに文章がうまいんだろうと思ってて。(当時の松本清張氏の顔真似を演じながら)あの頃、「邪馬台国は……」 (70)って真似て喋るのが学校で流行ったんですが、(周囲を見渡し)もう誰もわからないという……当時は、梶井基次郎 (71)とどっちがすごいかって……そういう時代でしたね。

なんの話ですか、監督!(笑)

小島 日本の作家の話でしたね……田中光二さん (72) 。猛烈に愛しました! いまだに愛しているんですが。

ご健在ですよ。

小島 あの人の影響で、文章にルビをふるんです(注・田中氏はルビ多用で知られる)。田中さんはNHKのドキュメンタリー出身の方ですよね。そこで、マイクル・クライトン (73)と繋がるんです。手法が同じなんで。
僕もよくやってましたけど、新聞のニュースネタをスクラップしておいて、それをちょっと膨らますとSFになる。隕石や衛星が落ちてきたらどうなるか、とかね。それで調べて書くという手法が同じで、田中さんにもはまりました。


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アンドロメダ病原体〔新装版〕

マイクル・クライトン (著)
浅倉久志 (訳)
早川書房
ハヤカワ文庫NV


あと、日本の作家でもう一人はまったのが、山田正紀先生(74)です。あの二人はすごい読みました。その後で、小松左京先生とかの作品を、遡って読むようになりました。二人とも映画寄りの作風でしょ。読むだけで、なんとなく映画をやりたいってわかるじゃないですか。で、ジャンルがノンジャンルなんですよ。SFっていいながらハードボイルド (75)をやったり、ポリティカル・フィクション (76)が入っていたりとか。SF要素がなくても、ちょっとホラーがかっていたりとか。そこが、ジョン・カーペンター (77)に繋がるんです。

どんどん繋がっていきますね。『ニューヨーク1997』とか (78)

ノンジャンルに魅せられて

小島 だから、僕が作るのも、そこの部分ですね。推理小説というジャンルから入ったんですけど、SFに行って、冒険小説に行って、その先がノンジャンルというか。ジャンルがごった煮の。そういうのが好きになって、意識せずに自分でもやりたいと思うようになったんですよ。
冒険小説はマクリーン (79)から入って、デズモンド・バグリイ (80) 、ジャック・ヒギンズ (81) 、ギャビン・ライアル (82)など、有名なものは一通り。そうそう、そこで、冒険小説とハードボイルドの狭間を行ったり来たりして、探偵もの、刑事ものも、好きなものはいまでも好きで。ハードボイルド寄りのSFとかが出ると、たまに読む。
マイクル・クライトンやロビン・クック (83)も好きで。ああいう作家はリアルで、読むと勉強できるじゃないですか。ノンフィクションだと頭に入らないけれど、フィクションに加工してくれるとわかりやすくていいなって。そこから、ブルーバックス (84)を読むようになったんですよ。内容がわからなくても、わかっているふりして、本棚に並べておく。学生時代、ハヤカワ文庫、創元推理文庫、サンリオSF文庫の隣に、ブルーバックスとかの新書を並べてた時期がありますよ。友達を呼んだ時、違うじゃないですか(笑)。ただ、カッパノベルス(85)とかもあったのに、大雨の日に家の窓が開いてて、ダメになりました。雨でぶよぶよになって。

もったいない。

小島 貴重なコレクションがね。

本との出会いを大切に

いまでも追っているSF作家は、どのあたりですか?

小島 これといった人はいませんね。気になったら買うだけで。本屋をまわって。
そうそう、結婚した時、嫁はんとデートしながら本読んでたんで、えらい怒られました。「そんなにおもろいんか?!」って言われました。「おもろいから、しゃーない。おもろいんや」って答えた。
最近の人は、本、読まないでしょ。読んだほうがいいのに。本も映画も、はずれが9割ですけど。そこを、いかにして当てるかが、人格形成に繋がるんですよ。ものを選ぶ時に慎重になると、あらゆるものを総動員するでしょ。あと、“勘”とか“縁”みたいなものもあるじゃないですか。

“運命”みたいなものも。

小島 ふらっと目にして、気になって、別の店でも見かけて「買ってくれ、買ってくれ」って言ってるように感じて、買うと、良かったりする。その出会いみたいなものが、ネット書店ではないんです。そこは、みんな大切にしてほしいなと。

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大量の本との出会いによって成長する小島少年は、やがて自分でも創作を始めるようになる。彼が求めた本とは? 物語とは? いままで語られたことのないディープな世界が、ついに明かされる!

→次回更新は12/9(金)予定!

 

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