Interview

冨田ラボが新作『SUPERFINE』で 次世代アーティストと目指すものは?

冨田ラボが新作『SUPERFINE』で 次世代アーティストと目指すものは?

プロデューサー冨田恵一のソロ・プロジェクト、冨田ラボが3年ぶり5作目となる新作『SUPERFINE』をリリースした。自身が作曲、演奏、制作を行い、楽曲に合うヴォーカリストをフィーチャリングしていくスタイルで貫かれたこのラボ=研究所に今回招かれたのは、YONCE(Suchmos)、安部勇磨(never young beach)、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、城戸あき子(CICADA)、高城晶平(cero)、坂本真綾、AKIO、藤原さくらなど次世代を担う若きアーティストたち。これまでの冨田ラボは、松任谷由実、大貫妙子といったベテランやキリンジ、ハナレグミ、椎名林檎ら多彩なゲストと、きめ細やかで洗練された音楽性で話題を集めてきたが、本作では最新のジャズ・ムーブメントに連なる斬新なサウンドを聴かせてくれる。ニューチャプターに突入した冨田ラボに新境地を聞く。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 板橋淳一


僕のシグネチャー・サウンドとは違うタイプの音楽を提示したかった

2003年に冨田ラボとしてアルバムをリリースしてから、『SUPERFINE』で5作目。プロデュース/アレンジャーとしての活動を続けながら、冨田ラボの制作に入る時のモチベーションは?

毎回アルバムのレコーディングが終わって1年くらい経つと、そろそろ次を出したいとは思うんですが、他の仕事との兼ね合いもあり今回は3年ぶり。冨田ラボで「新しい曲を作りたい」という意欲が湧いてきた時にプロデュース仕事をしていると、その作品に自分の興味のあることを突っ込んでしまうところがあって、自分の創作意欲が少し治まる傾向があるんですよ。ただ、一瞬は治まるんだけど、最近は興味の対象が変わってきたこともあり、それを冨田ラボで出したいという気持ちが強くなったのが今度のアルバムなんですね。

冨田ラボは、“楽曲ありき”でその曲のイメージに合うヴォーカリストをフィーチャリングしていくことが前提ですが、今回は参加アーティストも音楽的にも今のジャズや新しいポップの息吹を感じさせる内容になりましたね。

そうですね。自分でも「新しい冨田ラボ」という自覚はあって、今までの流れとは違う僕自身がフレッシュに感じている音をこのアルバムでは強調したいという思いはありました。そこからヴォーカリストを考えていく時に、今まで僕と仕事の接点がなかった若くて新しい才能を持ったアーティストがいいんじゃないかという案が出た。僕もそれは無条件に賛成だったんです。でも、制作当初はここまで若手中心ではなく、ベテランのヴォーカリストも入れるようなバランスを思い描いてはいたんですが、最初に5曲録った時点で、これは若い人たちだけでアルバムをまとめた方がいいなと感じたんです。

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今までのアルバムでは、ベテランや個性の確立した人たちをフィーチャーされてきたので、まだ色があまりついていない次世代のヴォーカルは新鮮に聞こえました。

これまでは、キャリアのある人が冨田ラボでどうなるのかという面白さがあったと思うんです。特に前作の『Joyous』は、原由子さん、横山剣さん、椎名林檎さん、さかいゆうさんと、極めて色の濃いヴォーカリストにお願いしたので、もしかしてその反動もあったのかもしれない(笑)。それに2014年に『ナイトフライ ―録音芸術の作法と鑑賞法―』という本で70~80年代の音楽の作り方をテキストにまとめたことで、自分の中で一段落ついたところはあったんでしょうね。執筆した時はそれほど思わなかったんだけど、その後はドナルド・フェイゲンについてはもうあまり話たくなくなっていて(笑)、それくらい新しい音楽の方に興味が移っていたんです。僕のシグネチャー・サウンド的なものは前作まででほぼ形作られたかなと思うので、それとは違うタイプの音楽を今回は提示したかったというのが大きいですね

冨田さんが最近、興味がある方向の音楽というと、R&Bやヒップホップの要素を含んだ現行のジャズなどになるんでしょうか?

そうですね。僕は昔からリアルタイムでその時いちばん面白いドラマーを追い続けてきたんですが、ここ数年はクリス・デイヴやマーク・ジュリアナのようなヒップホップ、テクノ、エレクトロニック・ミュージックなどに影響を受けた最新のドラミングに強烈に惹かれて、今までにない興奮を覚えていたんです。ご存じのように僕はずっと1970~80年代のシュミレーショナリズムのサウンドを追求してきたので、打ち込みの音楽をほとんど聴いてこなかった。なので、ゼロ年代になってからプログラミングされた音楽を掘り始めて、あらためてその面白さを発見していったんです。僕自身もこの歳になって、興奮できる刺激的な音楽に出会えたことは嬉しかったし、その良い状態で新作に入れたんですよ。

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冨田ラボでは彼らがいつもやっている音楽との差異も楽しんでもらいたい

注目の若手アーティストの参加は、今回の冨田サウンドの新しい方向性ともリンクした感がありますね。

彼らの音源を色々聴いてみて、僕なりに創造性を巡らせることができたし、彼らが自分が今、興味のある対象の音楽に合う予感はありました。今回のアルバムに参加してくれた彼らは確かに若手ではあるけれど、年齢的いえばもっと若い人とも仕事はしているわけですし、それがプロデューサー気質というものなのかもしれませんが、僕はヴォーカリストは誰が来ても大丈夫なんですよ。今回に限らずバンドのヴォーカリストを呼ぶときは、ヴォーカルだけ抽出して考えるようにしているんですが、冨田ラボでは彼らがいつもやっている音楽との差異も楽しんでもらいたい。まず自分が目指す音楽が何タイプかあって、YONCEさんならこんな曲が面白いんじゃないかとか、藤原さくらさんの声ならこんなメロディーを想起させるなとか、彼らの声や資質に合う曲を当てはめていくんです。

中でも「Radio体操ガール feat.YONCE」や、「冨田魚店 feat.コムアイ」などリズムの面白さを活かした曲はチャレンジングだったのでは。

ヴォーカルでいえば、従来のR&B的な価値観ではあまりジャストだと色気がないといわれてきましたけど、現代ジャズなんかはジャストでパキパキいく気持ちよさみたいなのがあって、それはループされた音楽を普通に聴いて育った若い世代の歌い手のリズム感やグルーヴとも関係しているんじゃないかと思うんです。思えば、今までの冨田ラボは20代のヴォーカリストはほとんどいませんでしたからね。ceroの髙城晶平さんは同じ感覚で音楽を共有できるシンパシーを感じたし、世代の違いによる差は感じなかったですけど、今回参加してくれた彼らはなんていうか気負いがないんですよね。自分のコミュニティの価値観に縛られない自由さがあって、そこは頼もしいと思いました。

その一方で「Bite My Nails feat.藤原さくら」や、「荒川小景 feat.坂本真綾」は、今までの流れを汲むテイストも引き継がれていますね。

新しい冨田ラボを提示しつつ、やはりスタンダードな曲もないと自分では納得できないところがあってね。そこは自分の原点でもあり、譲れない部分でもあり、僕らしいバランスなんだと思います。

冨田ラボは自ら作詞をするヴォーカリストにも、あえて他の人の書いた歌詞を歌ってもらうことも特徴ですね。

僕は歌詞を書かないので、誰にお願いするかを選ぶだけですが、その組み合わせの妙を楽しんでもらえるのも冨田ラボなんです。今回でいえば、コムアイさん曲は水曜日のカンパネラの言葉の斬新さを活かした歌詞がいいと思ったし、YONCEさんの曲は言葉数が多いので、ラッパーのかせきさいだぁが巧いんじゃないかとか。イルリメさんの歌詞を藤原さくらさんが歌ったり、KIRINJIの堀込髙樹さんが書いた切ない情景は坂本真綾さんにぴったりだったり、それぞれのヴォーカリストが曲のテイストに合う歌詞の世界を表現してくれたと思います。特に新しいタイプの曲は僕自身、どんな歌詞が来るのか見当がつかなかったし、想像を超える歌詞が上がってきたので嬉しい驚きがありました。新しい音には、やはり新しい感覚の言葉が必要なんだと思いましたね。

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冨田ラボの進化の延長にこのアルバムがあるのは確かですね

冨田さんが90年代後半にプロデュースを手がけたキリンジなどがスティーリー・ダンに代表される精緻なサウンドを再認識させ、近年のシティポップの呼び水にもなったと思うのですが、『SUPERFINE』はその進化形とも言えるのでは?

僕自身はシティポップっていうジャンルはいまひとつ掴みきれないんだけど、昔の音楽も新しい世代が今の感覚で発見して面白いと思えば、そこから発展、波及していくんですよね。僕がキリンジを手がけた90年代はサンプリングのネタとしては60~70年代の音源が使われていましたが、その質感を演奏と録音で活かそうとした人は当時ほとんどいなかった。それを冨田ラボでさらに進化させようとしてきた延長にこのアルバムがあるのは確かですね。

そこには日本のポップミュージックをつねに更新していこうとする強い意志があるように思えます。

音楽が好きなら、その時自分が好きな音楽の要素を何とか滑り込ませたいと思うじゃないですか。僕はミュージシャンはみんなそうだと思っていたんだけど、どうやらそうでもないらしいと、遅まきながら気がついたんです。いわゆるメインストリームのJ-POPには今、僕が面白いと感じている音楽のニュアンスが入っているものがほとんど聞こえてこない。ならば、自分がそれを昇華してつくり続けるしかないんですよね。僕も自分のシグネチャー・サウンドというものが出来ると、もうそれほど変化はないんだろうと思っていたんですが、それが見事に更新されたのが自分でも新鮮でね。だから音楽の新しい動きに意識的で、それを何とか自分たちのものにしようとしている今回のアルバムに参加してくれた20~30代のミュージシャンには期待しているし、楽しみですよ。もしかしたら今までの冨田ラボを聴いてきた人の中には、「どうしちゃったんだ?」と思う人もいるかもしれないけど、AORとかシティポップの好きな人にも今度の面白さは分かってもらえるんじゃないかと思うんです。

5thアルバム『SUPERFINE』全曲トレーラー

ライブ情報

isai Beat presents ” 冨田ラボ LIVE 2017 “
2017年2月21日(火) 恵比寿LIQUIDROOM
開場 18:00 / 開演 19:00
冨田ラボ史上4回⽬ワンマン! 3年ぶりとなる一夜限りのLIVE決定!
※12月10日(土)チケット発売、ゲストシンガー等詳細はWEBサイトにて。

冨田ラボ(冨田恵一)

音楽家/プロデューサー/作曲家/編曲家/Mixエンジニア/マルチプレイヤー。
1962年生まれ、北海道旭川市出身。
2000年前後にキリンジや、MISIA 「Everything」をプロデュースし、不動の地位を確立。以降、平井堅、中島美嘉、ももいろクローバーZ、矢野顕子、RIP SLYME、木村カエラ、bird、AI、JUJUなど数多くのアーティストにそれぞれの新境地となるような楽曲を提供するプロデューサーとして活躍。
2003年からは、セルフ・プロジェクト“冨田ラボ”として『Shipbuilding』『Shiplaunching』『Shipahead』の“Shipシリーズ3部作”、 『Joyous』をリリース。
2011年にはプロデューサーとしてのキャリアをまとめた初のワークスベストアルバム『冨田恵一 WORKS BEST 〜beautiful songs to remember〜』を発表。
著書に『ナイトフライ -録音芸術の作法と鑑賞法-』があり、耳の肥えた音楽ファンの圧倒的な支持を獲得している。

オフィシャルサイトhttp://www.tomitalab.com/