小島監督と3万字対談  vol. 3

Interview

ゲーム・クリエイター小島秀夫監督と3万字対談~今だから語り尽くす、ボクと本(3)

ゲーム・クリエイター小島秀夫監督と3万字対談~今だから語り尽くす、ボクと本(3)

世界を股にかけて活躍するクリエイター小島秀夫監督。その物語創りの原点を徹底追及し、全4回でお届けする第3回目。

小島秀夫

1963年生。ゲーム・クリエイター。コジマプロダクション代表。
1986年よりコナミでゲーム・クリエイターとして活動。昨年末コナミを退社、その後新たに独立スタジオとして「コジマプロダクション」を立ち上げた。現在、ノーマン・リーダス主演の『Death Stranding』を製作中。これまでの代表作は『メタルギア』シリーズ『スナッチャー』『ポリスノーツ』『ボクらの太陽』『ZONE OF THE ENDERS』シリーズなど。

★本記事の「通」な愉しみ方
小島監督の膨大な読書量と知識量を、読者のみなさまもフォローできるように、本編で言及された作品や作家などの注釈まとめを、別記事で用意いたしました。
小島監督のインタビューをよりよく理解するための注釈集
こちらを別タブや別ページで開き、参照しながら、本編を読み進めることをおススメします。

インタビュアー&文責&注釈 :尾之上浩司 協力:シミルボン(https://shimirubon.jp)


【貪欲に読んで、書き始めた少年】

作家への第一歩――帯や原稿用紙に凝ってみる

ご自分で物語を考えるようになったのは?

小島監督(以下、小島) 小学校からですね。イメージから入って、まずトリックが重要で、でもトリックを思いついてもパソコンがない。挿絵も自分で手描きで描く。帯も自分で作る。

帯、つけていたんですね。

小島 もちろん、『刑事コロンボ』のサラブックス風のやつを(86) 。「○○○絶賛!」みたいな。
中学に行くようになるとですね、ようやく中篇小説が書けるようになってくる。SFで。これ、一応、お話は自信作なんです。文章が下手なだけで。友達とおかんにしか見せられない。それで、友達にあとがきを書いてもらったら、友達のあとがきのほうが文章が上手だった。

その方、作家になったりとかは?

小島 なってないです。中学に入ってから、パソコンはまだまだないので、手描きですよ。原稿用紙に。原稿用紙を自分で買いに行くんですよ。緑の縦書きの原稿用紙。これじゃないと、俺は書かないって、作家気分で。
家の近所の店で、わざわざ、その原稿用紙を注文するんです。中学なのに、作家気分なんです。原稿用紙っていっても、普通のやつあるじゃないですか。両開きの茶色のやつね。それではダメなんです。ダメ! これこれ、こんなんでって。すると、文具屋が「注文になります」って。
そして「さあ、書くぞ!」って。それで書き出すんです。最初から長篇は無理なんで、ショートショートに毛の生えたような短篇を書きはじめる感じで、それをずっと書いていった。
最初はノートで、その後で原稿用紙に写して。それが長篇になって、大学ぐらいまで書いていましたね。それはただ書きたいんじゃなくて、映画を撮りたかったんです。中学の時、友達のカメラで仲間うちで8ミリ映画を撮ったんですが、友達がやっているのは遊びなんで、ちゃんと撮ってくれない。これはあかんな、と。USC(87)とか学校があればよかったんだけど、ないんです。誰も命かけて撮る奴おらんですよ。みんな、進学校に行きたいだけなんで。なんで、一人でするしかないって。ちゃんと学校通って、体操部で体操して、手が血まみれになって、炭酸マグネシウムで手が粉だらけになって家に帰って、原稿用紙に小説を書くわけです。一日二十枚とか。
誰にも見せられない。つらかったですね。

確かに、そうでしょうね。

小島 いまなんか、むちゃ楽ですね。ゲームを作ったら、みんな遊んでくれるんで。こんな贅沢はないです。あの頃は「こんなん誰が読むねん」って思いながら書いてて、読むのはおかんでしたからね。でも、おかんはまったく理解してくれなかった。「あんた、“コックピット”ってなに?」とか。だから「もうええから、読むな」って。僕、字がうまくなくて、おかんは字がめっちゃうまいんで、小説を清書してもらったことがあるんです。でも、おかんは途中で変えよるんで、「変えるなよ! アホかっ!」「でも、この文章ヘン」って。そんなこともありました。

お話からすると、お母さまも小説を読み込んでいる方のようですものね。

小島 ものすごく読んでいるんですよ。あの世代って。かっぱ横丁(88)に古本屋があったんですが、そこ行って五冊ぐらい買ってきて読み終わると、駅のゴミ箱に捨ててくる人なんです。家には本だけはありましたね。お金ないのに。

安部公房、マシスン、宮本輝

それで、ご一家のなかで一番最後に読むようになったのが、監督だった。

小島 ええ。僕の部屋は文学作品ではなくハヤカワSFとか、他人には誇れないようなエンターテイメント本が並んでいました。兄の部屋に行くと、『青春の門』 (89)とかエッチな本が並んでいて、たまに兄がいない時に「あ、マスターベーションしてる!」「これいいの? これ文学って言われてるのに」って具合で。夏休みとか読書感想文を書かなきゃいけないでしょ。そういう時は、谷崎潤一郎(90)とか読んで。有名な作家は、ほとんど読んでるんですよ。山本周五郎(91)もふくめて。
『世界の文学全集』なんかもあった。そこで出会うのが、安部公房なんです! 松本清張の次に人生を変えたのが、中学の時に読んだ安部公房です。たまたま『他人の顔』 (92)を読んだんです。
兄貴も読んでて、偉そうなこと言ってた。勅使河原(93)さんの映画も見て。
それで、「なんや、こいつ?」って。それで感想文を書いたら、褒められたんです。文章で褒められたことがあまりなくて……絵や彫刻ではあったんですけどね。自分的には文章はうまくないし、嫌だったけど、書いたらみんなの前で褒められて「安部公房を書いたら、褒められんのや! コンクールに入賞するんや」って。そこから、安部公房が好きになったんです。
安部公房とリチャード・マシスン(94)に、もっとも影響を受けた。日常のなかでの孤独感ってあるじゃないですか。SFじゃなくて、普通に現代の話なんだけど、主人公は孤立していてって。
リチャード・マシスンや、“ボディ・スナッチャー” (95)のジャック・フィニイ(96)にもはまりました。僕が書いていたのも、そういうこだわっているテーマがあって、それを伝えるためのSFだった。メタ(97)としてのSF。
『1984』 (98)とかもそう。もっと後になるけど、ポール・オースター(99)とかも。僕の二大作家は、安部公房とリチャード・マシスンでした。マシスン、日本じゃあまり知られてなくて残念ですけど。
それから大学生ぐらいになってから……宮本輝さん(100) 。けっこう衝撃を受けました。


青春の門

青春の門【五木寛之ノベリスク】

五木 寛之(著)
講談社
講談社文庫


どの作品がきっかけだったのですか?

小島 これも、テレビですね。『青が散る』 (101) 。二谷さんの娘さん(102)が出ていて、原作本を読んだら、めっちゃ面白かった。そこから『春の夢』 (103)とか『泥の河』 (104)まで遡って、全部読みましたね。『優駿』 (105)も。そんなに複雑な文章じゃないし、関西の人やのに、これはすごいって。その時期、もう映画は諦めていたかもしれません。ゲーム業界に入ってからも宮本さんの作品を読んでいました。
自分で日記をつけていたんですが、宮本輝さんの日記を読んだらあまりにもうまいので、「この人は、日記だけでもこんなにすごいんか!」って落ち込んで、もうやめておこうと。さらに宮本さんは男前でね。筒井先生も男前やったし。


青が散る

青が散る(下)

宮本 輝(著)
文藝春秋


基本は翻訳もの

小島 大学時代は宮本輝でしたけど、基本は翻訳ものなんです。翻訳ものが九割ぐらいです。だから影響を受けて、「それは」を強調するために傍点を打ったりしてました。英語の関係代名詞を直訳風にしたり、例えば、「その男――彼の目的はわからないが――が到着したのは真夜中だった」みたいに「――(ダーシ)」を使うとキュンとするんです。サイコーって(笑)。

文章フェチだったのですか!

小島 喋られへんのに、英文のルビふったりして。向こうの小説って、ディテールがすごく凝っているじゃないですか。坂道の表現でも、石畳で石がどうなってるかとか。あと、食卓に載っているアンチョビが、とか。
日本の作家は、連載ものが主体だったからでしょうか、そこまで細かく書いているものがない。向こうの作家は、一年ぐらいかけてリサーチして書いててディテールがすごいんで、そちらの影響が大きかったです。あと、一人称、三人称の使いかたも特殊でしょ。日本の小説は、自分(の周囲)に見えるものを描けばいいんで、楽ですよね。極論すれば「俺はトイレに行った」って書くのが日本で、トイレの描写でそれをわからせるのが洋書なんです。そこは全然アプローチが違うじゃないですか。僕は洋書側です。

世界を描写して、組み立てて、と。

小島 それがないと、嫌ですね。文学もいいんですけど、日常を淡々と描いて、終わったりするじゃないですか。いまも読むのは、ストーリー――プロットが面白そうなやつ。さらにディテールがあるやつ。ルメートル(106)もそうですけれど。ああいうものに惹かれますね。この十年ぐらいは北欧ミステリーを読んでます。逆に無駄がまったくなくて、それこそ描写がないんですけど、すごいですよ。あれには、僕もびっくりしました。

アジアの作品はあまり読んでいないんで、そこが弱点かなと思ってます。映画はたまに見ますけど。いまは、あまりミステリーを読まないですね。一時期は、真保裕一さん(107)を読んでましたけど。ネルソン・デミル(108)とかも。気に入ったら、一気に読んでしまいます。僕は昔の人なんで、注文して全部遡って読まないといられないんです。
冒険小説、ハードボイルドと読んだ後で、会社員になってからモダンホラーにもはまりましてね。クーンツ(109)とかキング(110)が流行っていて――キングはあまり読んでないんですが――クーンツ、マキャモン(111) 、そしてF・ポール・ウィルスン先生(ドクター) (112) 。ウィルスンはメル友ですが、あのへんの作家にはまりました。

キングやクーンツよりも……

マキャモンが良くてスティーヴン・キングにあまりはまらなかったのは?

小島 マキャモンって、キングをパクったような話を書いてるじゃないですか(笑)。『奴らは渇いている』 (113)とか。でも、キングよりもマキャモンのほうがおもろいんですよ。クーンツはけっこう読んでから飽きてしまったんです。キングは『ダーク・ハーフ』 (114)を読んだのかな。『ザ・スタンド』 (115)の最後十ページか二十ページのところでやめました。最後の最後にゴミ箱の話が出てきて……ぜったいマキャモンの『スワン・ソング』 (116)のほうがおもろいです。


ザ・スタンド

ザ・スタンド(1)

深町 真理子(訳)
スティーヴン・キング(著)
文藝春秋


『ザ・スタンド』のラストは、大筋と関係ない話が出てくるんですよね。

小島 マキャモンには、もうちょっと頑張ってほしいですね。ナチスの幽霊船が出てくる『ナイト・ボート』 (117)とか復刊してほしいです。狼男が出てくる『狼の時』 (118)とか。あれを映画化したいんです。

あれは、書かれた時にはシリーズ化する予定だったんですよ。

小島 “ウルフガイ” (119)みたいに?

はい。でも、マキャモンが作家仕事に行き詰ってしまいまして。エンターテイメントよりも、もっと文学的なものを書きたいと思っていたそうですよ、『風と共に去りぬ』 (120)のような歴史大河小説を。ところが、エンターテナーと文学のはざまで身動きが取れなくなったらしく、それで、十年あまり筆を折っていたようです。

小島 そういう時は、僕に相談してくれれば良かったんですよ(笑)。

確かに(笑)。

小島 マキャモン、おまえはゾンビやろ!(笑) Uボートでゾンビが上がってくるんやろって。そんなもん、考えついても普通は書けへんぞ、と。

人間ドラマに力を入れた『マイン』 (121) 、『少年時代』 (122) 、『遥か南へ』 (123)は、小説としてもエンターテインメントとしても良かったですよね。

小島 ただ、モダンホラーってブームが去ると日本では売れなくなりましたね。マキャモンも『魔女は夜ささやく』 (124)みたいなものを書くようになったし。

文学でやろうとしたことを、ひとまずあれで実現してふっきれたようです。あれは大部なシリーズの一冊目ですよ。

小島 あれ、そうなんですか!? 二冊目以降も読みたい。出してください。

それは版元に(汗)。

小島 帯書きますから(笑)。「『君の名は。』 (125)を超える!」とか。表に「その男は!」って書いて、裏に「その魔女は!」って書いとけば、売れます。

(周囲、大爆笑)


小説 君の名は。

小説 君の名は。

新海 誠(著者)
KADOKAWA/メディアファクトリー


それは、間違いなく大当たりですね(笑)。結局、キングが日本で残っているのは、エンターテインメントだけでなく文学性があって、映画化・テレビ化される作品がいまでも定期的にあるからです。

マイクル・クライトンへの憧れ

小島 マイクル・クライトンも亡くなってしまったしなあ。クライトンのことをみんな誤解しているんです。テクノロジーの人と思われてますけど、毎回、その作品のテーマがすごかったんですよ。時代を先取りしてたんです。セクハラの話(126)も、日本のバブル期の話も。ショーン・コネリーで映画化された話(127) 。最後のほうは、いまさらナノマシンはないだろって、いうとこもありましたけど。
ただ、クライトンの小説の登場人物ってキャラクター立ってなくて、どれも同じで。僕らからしたら、そのほうが良いというか、クライトンらしいんで。このあいだ『ウエストワールド』 (128)を見直しまして。今度のテレビ版は、どうなんでしょう?

第一話が放映されましたね。映画はいかにもマシンというアンドロイドが怖かったですが、今回のテレビでは、アンドロイドに自意識があって、自分を人間と思っているところに新味があります。気になるのが、映画版って西部劇(ウエスト)世界(ワールド)だけではありませんでしたよね。

小島 ええ、三つありましたよね。お金がないから、ほかの二つの世界はちらっとだけで。

今回のテレビシリーズで、西部劇世界以外のアトラクションが出てくるのかどうかが、アメリカ本国の視聴者のあいだでは話題になっているようです。

小島 西部だけでは、もたないですよね。
プロデューサーさんのインタビューを聞いたかぎりは、『GTAオンライン』 (129)や『レッド・デッド・リデンプション』 (130)をイメージしたんだそうです。オープンワールドの。だから、ひょっとするとゲームっぽいかもしれない。もともとのクライトンの映画って、アトラクションじゃないですか。ゲームのオープンワールドから見た、ウエストワールドやないかと思うんです。それで、映画っぽくないから、テレビでやるんじゃないですかね。

なるほど。クライトンを継ごうと狙っている作家は世界中にそれなりにいるんですけれど、本業が学者の作家だと専門の話ばかりになってエンターテインメントがおろそかになるし、難しいものですよね。

ついに読み込んできた本が、みずからの作品を生み出す礎(いしずえ)になる。そして、怒涛のように語られる、小島監督のオススメ本の数々! 新作のヒントもまじえた最終回を括目して待て!

→次回更新は12/11(日)予定!

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