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村上虹郎との共演を小泉今日子が奇跡と語る。12年ぶり上演『シブヤから遠く離れて』

村上虹郎との共演を小泉今日子が奇跡と語る。12年ぶり上演『シブヤから遠く離れて』

2004年に蜷川幸雄に書き下ろした戯曲を岩松了自身の演出で12年ぶりに再演される舞台『シブヤから遠く離れて』のプレスコールが12月8日に渋谷・シアターコクーンで行われ、事前のフォトセッションと質疑応答には作・演出の岩松了、主演の村上虹郎、初演と同じくマリー役を演じる小泉今日子が登壇した。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 冨田望


ご本人は小さすぎて覚えてないと思うんですけど、駆け回っている虹郎くんを見ていた

初日を翌日に控え、これまでの稽古での感触を聞かれた岩松は「初演のときにはいち観客として観てたんですけど、本を改めて読み直して、非常に難しい戯曲だな、と思いました(笑)。でも稽古を始めて、役者さんたちが動き出すと、自分でもこういうことなんだってわかることがあって、非常に楽しんで稽古をしましたね」とコメント。また、12年前に蜷川幸雄に戯曲を書き下ろした際の思い出として、「何度目かの打ち合わせのときにラウンジに差し向かいで座って、蜷川さんがカバンから、チェルノブイリの写真集を出してくれて。『こういう感じで考えてみます』と言ったのが、今回のシチュエーションになってるんです」と、廃墟を舞台にしたエピソードを明かした。

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前作では嵐の二宮和也(当時19歳)が演じた主人公の〈ナオヤ〉に関しては、「広い範囲で求められる役ではないので、誰かいないかなって、ずいぶん悩み続けてたんですけれども、最後の最後に、村上虹郎がいるということに気づいて。それですぐに会って、ぴったりじゃないかと思って、即決しましたね。キョンキョンにも『どうですか? 村上虹郎は?』って相談したんですけど、満場一致でした」とキャスティングの理由を語った。

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満場一致でナオヤ役に決定したという村上虹郎は、2015年に上演された初舞台『書を捨てよ町へ出よう』に続き、2度目の舞台。約1ヵ月に及んだ稽古を振り返り、「本当にじっくりじっくり、何度もやらせてもらったはずなんですけど。早かったですね。意外とあっという間でした。ただ、当たり前のことだと思うんですけど、何回も何回も繰り返すことで、自分の中で溜まってくるんですね。それがどういう方向に放出されればいいのか、フラストレーションとして溜まったままのほうが、セリフが生きるのか。どれくらい意図して演出されていたかはわからないですけど、そんなことを考えながら稽古してました」と感想を述べた。

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岩松が「初演のときから僕の中では〈マリー〉は小泉今日子ということで書いたし、今でもキョンキョンの役だと思ってる」と出演を熱望された小泉は「12年前と現在で何が変わったか?」という質問に対し、「物理的に12年前なので、そのぶん、歳をとっていて。あの頃よりは、どこかは深くなってるかもしれないですけど、それは自分ではあんまり自覚できません。12年前と一番変わったのは渋谷の町かなと思っていて。12年前はセンター街にギャルがいたり、元気な若者がいて。今も若者はいるんでしょうけど、渋谷を歩いていると外国人の方がすごく多かったりしますよね。このお芝居をやっていると、不思議と家の外に渋谷を感じるんですけど、ちゃんとそういう変化を経た今の渋谷を感じるところが稽古をやっていて面白いところでしたね」と答えた。

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さらに、蜷川と岩松の演出の違いについては、まず、舞台上で風に揺れる枯れた植物について「ト書きには最初からススキと書いてありましたが、蜷川さんは枯れた黒いひまわりにしていて、岩松さんはススキなんですね」と言及。続けて、「蜷川さんの舞台は、渋谷の街を歩いていて、ふっと異次元に入って来たような印象があったんですけど、今回は街とちゃんと繋がってるリアルな世界があるような気がします。あと、やっぱり、岩松さんがこの本に12年経って向き合ったときに、細かく、深くっていう演出をなさってくれてるような気がするんですね。だから、同じ役をやっているというより、新しい役に挑戦してるっていう感覚のほうが強いですね」と、より現実味の増した世界観になっていることを示唆した。

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また、相手役の村上とは幼少時に会っているそうで、「ご本人は小さすぎてほとんど覚えてないと思うんですけど、お友達との集まりのときに、駆け回っている虹郎くんを見ていた時期がありました」と振り返り、「成長の過程は全然会っていなかったので、本当に突然、青年になった虹郎くんが目の前に現れて、私と一緒にお芝居をやってるということは、ちょっとした奇跡のような気がして、ワクワクしましたね。本当に今回、このお芝居の中で真ん中に立って、岩松さんの厳しい稽古も耐え抜いて。主役として、男気というか、男らしさみたいなものをすごく感じましたし、お芝居に対して真摯に向かい合う真面目さも感じました。おばさんとしては(笑)、これからもすごく楽しみです。頑張って欲しいです」と激励すると、村上は嬉しそうに深く頷いてみせた。

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最後に初日を迎える意気込みを聞かれた3人は、まず、村上が「僕は12年前の渋谷を知らないんですけど、やっぱり、今、この渋谷で渋谷の話をやるっていうことがすごく意義のあることなんじゃないかなと思うし、観てくださる方もきっとそう感じていただけるんじゃないかなと思っています。きっと地方ではできない作品だし、みなさんに渋谷に集まってもらって、この瞬間を共有できたら面白いなと思います」と挨拶。

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続いて小泉は「私は12年前に初演をやったときに、相手役の二宮さんと同じ歳くらいの10代の女の子がたくさん客席にいらしてて。きっとそこから、何人も演劇好きが生まれたかもしれないと思っていて。12年経って、大人の女性になったその子たちが、ここに帰って来てくれていたらすごく嬉しいし、今回、村上さんを好きな女の子たちが来て、またそういう子たちが生まれるんだと思うと、いや〜、もうちょっと長く生きていろんなものを見ていきたい気がします」と笑顔で語った。

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岩松は「僕は、歳と共に1本の芝居を作るっていうことが、いろんな人が力を出し合う……いわゆる共同作業なんだなっていうことを実感するにいたってます。この作品も、初演のときに集まった人たちと、今回集まってる人たちによって、12年前とはまた別の命を持って生まれ変わるっていうことが、自分がやってる職業なんだなっていうことを実感する今日この頃です。そんなことで醸し出された今回の空気をみなさんに感じていただけたら嬉しいなと思います」と締めると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。

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会見後のプレスコールは、客席の通路からナオヤが荒れすぎて廃墟のようになってしまった邸宅を眺めるシーンからスタート。「黙ってここから“遠く”へ引っ越してしまったのを気にして待っていた」という〈ケンイチ〉と〈ナオヤ〉、この屋敷に隠れているという妖艶な女〈マリー〉と、彼女を愛し、「2人でどこか“遠くへ”引っ越そう」と誘う〈アオヤギ〉との心の距離感を図るような感情的な会話が繰り広げられたあと、マリーがこの屋敷に来る前に住んでいたマンションの雇われ管理人〈フクダ〉が鳥かごを持って登場。やがて、彼らが去った屋敷でナオヤとマリーが出会い、危険を察知したマリーから彼女が飼っている〈ウェルテル〉と名付けられたばかりの小鳥を預かったところまでの約30分間を公開して終了した。

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かつてこの屋敷で遊び回った過去を懐かしむナオヤと、朽ち果ててしまった屋敷に自身を重ね、ただ静かにひっそりと過ごせる場所を求めるマリーのもとを、さらにアオヤギの会社の同僚や、彼を心配して上京してきた父と妹、さらに正体不明の黒い服の男たちが次々と現れるのだが。遠く離れてしまったのは、場所なのか、人と人の心の距離なのか、それとも時間なのか、本来の自分なのか、つらく苦い現実からなのか……。本公演は、2月9日〜25日までBumkamuraシアターコクーンにて上演される。

シアターコクーン・オンレパートリー2016
『シブヤから遠く離れて』

2016年12月9日(金)~25日(日) Bunkamuraシアターコクーン

【作・演出】岩松了
【出演】
村上虹郎 小泉今日子
鈴木勝大 南乃彩希 駒木根隆介 小林竜樹 高橋映美子
たかお鷹 岩松了 豊原功補 橋本じゅん
【企画・製作】Bunkamura

オフィシャルサイトhttp://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_shibuya/


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シブヤから遠く離れて

岩松了 (著)
ポット出版 

廃墟になった家に思いを残す青年と、蝕まれはじめたわが身をもてあます女の、現前化しない「愛」の物語。作・岩松了×演出・蜷川幸雄の異色タッグによる話題の舞台の脚本。

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