映画『アズミ・ハルコは行方不明』  vol. 5

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栗原類が『アズミ・ハルコは行方不明』を熱弁。松居大悟と3年ぶりに対面

栗原類が『アズミ・ハルコは行方不明』を熱弁。松居大悟と3年ぶりに対面

30歳を目前に控えた主人公〈安曇春子〉をはじめ様々な世代の女性が直面する心の揺れ動きを描いた山内マリコの『アズミ・ハルコは行方不明』を松居大悟監督が、登場する女性だけでなく男性たちの心情をも繊細に捉え、小気味のよさと爽快さを残す映画へと仕上げている。 12月11日の本作上映後の東京・新宿武蔵野館にて、松居大悟監督と彼が以前監督した映画『男子高校生の日常』に出演していた栗原類とのトークイベントが行われた。2人は約3年ぶりの対面という。栗原の熱い映画評から引き出されたのは、松居も忘れていた裏話だった……。

取材・文 / 西村由美 撮影 / 関信行


がむしゃらに生きるということが、松居さんの作品すべてに共通するような気がしています

まず「『男子高校生の日常』も10代の男の子たちの思春期の心をうまく表現されていたんですけど、松居さんは映像監督の中では若い方だからこそ、20代の心境をよく表せていると思いました」と23歳の栗原が20代目線で本作を語り始める。

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そして自身が『週刊文春エンタ!』の「ガチンコ シネマチャート」でも評した印象について「照明の暗さが印象に残りました。僕にとっては照明というのが映画での玄関と言いますか、明かりによってこの映画が何を表そうとしているのかを感じたりするので。この闇のような暗い照明は『アズミ・ハルコ〜』の登場人物たちの心を表しているんじゃないかと思いました。彼らから見たらこの世界には希望がないというか。そこがすごくこの映画に合っていたと思っています。どちらかというと、この映画は難しいものではあると思うんですけど、芯はハッキリしていて、若者たちは闇しか感じていないけれど、ただがむしゃらに生きているっていうふうに感じたんです。落書きしたり、人をボコったりはしてるけど、悪いことをしたいわけでなく、ただ生きてる実感を得ることができないからもがいているのではないか」と、独特の切り口で感想を続けた。

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次に「好きなシーンは?」との問いから栗原は「ひとつひとつのシーンが好きなんですけど、ドキュメンタリーを観ていた感じで。その中でも好きだったのが〈キルロイ〉の落書きのシーン。落書きをすることで解放される、自分の殻を破った瞬間を観た感じがあって。それが、松居さんが若い人たちに向けたメッセージなのかなって感じました。がむしゃらに生きるということが、松居さんの作品すべてに共通するような気がしています」と言及。すると松居が「僕も福岡で育って。田舎のほうにいると、何者でもないことを自覚しすぎて押しつぶされそうになることに逆らいたいという思いがある。自分は何もできなかったけれど、そんななかで刺激的な音楽だったり何かに触れて、俺にもできるんじゃないかという全能感のもとに何かをやるということに共感していた」と、〈キルロイ〉の20代3人が抱える心情に投影した思いに触れた。

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また本作に対しての賛否両論を “エゴサーチ”していると苦笑いで告白した松居。あえて時系列をバラバラに交錯させた手法に「わかりにくい」との意見があることに対して「難しくさせようとしたつもりはなくて。戸惑ってる人がいることは困ったなぁとは思いつつ、良かったという人もわからなかったという人もいていろいろ言ってくれることは、そうやって人を動かすエネルギーのある映画なんだなとは思っていて」「今、ふと思い出したんですけど……春子の車のシーンがいくつか出てくるんですが、車内にサイコロが置いてあって、その目が時系列順になっているんですよ」と明かすと、「まったく気づかなかったです。もう一回観ないと。それを意識するとまた見方も変わりますよね」と栗原が作品を深堀りすることで気づく面白味や「パンフレットに詳細な時系列が載っていて驚いた」とコメントを挟んだ。

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さらに栗原がクライマックスのアニメーションの真意を松居に質問する場面もあり、「あれは、春子と愛菜、2人の生き様というか、こういうふうに生きたらいいんだよという生き方の象徴」という回答の中には、ほかにも“もう一回観たい”と思わせる、さりげに込められた松居のメッセージ的な映像があることについても呈された。

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最後に松居が「僕は、映画は映画館で観るのが素晴らしいと思っていて。映画館を出たら終わってしまうものではなく、こうやってモヤモヤはするけど、爽快なものにしたいと思ってこの映画を作りました。友達に観たよって話したり、友達を誘ってもう一回観たり、この映画をそうやってみなさんで育てていっていただけたら嬉しいです」と観客に向けアピールし、イベントは終了した。

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「それこそみんなに観て欲しい、20代にかぎらず」と栗原も絶賛する『アズミ・ハルコは行方不明』は全国で公開中。松居が「自分の中では “アズミ・ハルコ”がこういうことがあって行方不明になったんだということではなく、それぞれが“行方不明”を通してどう生きるんだろうというのがテーマだった」と話していたように、この物語に登場するすべての人物が性別や年齢に関係なくそれぞれに得体の知れない感情を抱えながらも“生きている”。その生きているというリアルをぜひスクリーンで体感し欲しい。きっと、自らの生に直結する何かしらのパワーが感じられるはずだから。

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同会場では引き続き、松居監督と、12月13日にはクリープハイプの尾崎世界観、14日には行定勲 監督、15日には池松壮亮とのトークイベントも企画されており、『アズミ・ハルコ〜』熱はまだまだ高まるばかり。


映画『アズミ・ハルコは行方不明』

2016年12月3日公開

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とある地方都市に住む27歳の〈安曇春子〉は独身で恋人もなく、実家で両親と祖母と暮らしている。会社では社長と専務に「女性は若いうちに結婚するべきだ」とセクハラ三昧の言葉を37歳の先輩〈吉澤ひろ子〉と共に浴びせられ続けていた。ある日の仕事帰り、春子の目の前を女子高校生たちが軽やかに走り抜けていく。それを追って公園へ向い、暴行され倒れている同級生の〈曽我雄二〉の姿を見つける。そこから春子と曽我はお互いのむなしさを埋め合うように関係を重ねていくのだが……。
とある地方都市に住む20歳の〈木南愛菜〉は成人式の会場で同級生の〈富樫ユキオ〉と再会、付き合い始める。ある日、2人はレンタルビデオ店でバイトをしていた同級生の〈三橋学〉と出会う。ユキオと学はグラフィティアーティストのドキュメンタリー映画に共感し、〈キルロイ〉と名乗り、グラフィティアートを始め、28歳で行方不明の安曇春子を探す張り紙をモチーフに街中に春子の顔とMISSINGという文字を拡散していくのだが……。
異なる時間軸が交錯。2つのストーリーの意外な結末とは?

【監督】松居大悟
【原作】山内マリコ(幻冬舎文庫刊)
【キャスト】
蒼井優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい
菊池亜希子 山田真歩 落合モトキ 芹那 花影香音
/柳憂怜・国広富之/加瀬亮
【劇中アニメーション】ひらのりょう
【音楽】環ROY
【主題歌】「消えない星」チャットモンチー
【配給】ファントム・フィルム

オフィシャルサイトhttp://azumiharuko.com/

©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会


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アズミ・ハルコは行方不明

山内マリコ (著)
幻冬舎

地方のキャバクラで働く愛菜は、同級生のユキオと再会。ユキオは意気投合した学と共にストリートアートに夢中だ。三人は、一ヶ月前から行方不明になっている安曇春子を、グラフィティを使って遊び半分で捜し始める。男性を襲う謎のグループ、通称“少女ギャング団”も横行する街で、彼女はどこに消えたのか? 現代女性の心を勇気づける快作。


栗原類

1994年生まれ、東京都出身。モデル、俳優。雑誌『MEN’S NON-NO』や『ポパイ』などでのモデル活動を経て、『笑っていいとも!』(CX)などのバラエティ番組で活躍。2014年にはパリコレのランウェイ・デビューを果たす。俳優としての近年の出演作に【映画】『男子高校生の日常』(13/松居大悟 監督)、『黒執事』(14/大谷健太郎、さとうけんいち 監督)、『僕は友達が少ない』(14/及川拓郎 監督)、『彼岸島 デラックス』(16/渡辺武 監督)『インターン!』(16/吉田秋生 監督)【テレビドラマ】『みんな!エスパーだよ!』(13/TX)、『彼岸島』(13/MBS)、『恋するイヴ』(13/NTV)、『恋は、アナタのおそば』(NHK/16)、『彼岸島 Love is over』(16/MBS)【舞台】『春のめざめ』(16/白井晃 構成・演出)『気づかいルーシー』(15/松尾スズキ 原作・ノゾエ征爾 脚本・演出)などがあるほか、公開待機作には映画『ロワーゾ・ドゥ・パラディ』(17年公開/広田レオナ 監督)。10月に著書『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』(KADOKAWA刊)を発売。

オフィシャルサイトhttp://www.evergreen-e.com/profile/?pid=kurihara_louis

松居大悟

1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。2009年にNHK『ふたつのスピカ』で同局最年少の脚本家デビュー。2012年に『アフロ田中』で長編映画初監督。その後、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『スイートプールサイド』などを発表。『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『私たちのハァハァ』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて2冠、両作でTAMA映画賞最優秀新進監督賞受賞。MOROHA、クリープハイプなどのミュージック・ビデオ制作など活動は多岐にわたる。原作を手がけた漫画『恋と罰』を10月末より連載しているほか、監督・脚本を務める、東京ドラマ24『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』が2017年1月13日よりオンエアされる。

ウェブコミック連載『恋と罰』
オフィシャルサイトhttp://www.gorch-brothers.jp

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