年末特別企画・es執筆陣が選ぶ2016年エンタメベストコンテンツ  vol. 4

Column

【音楽評論家が選ぶベスト3】もはやブームではなく、一個のジャンルと言ってもいいカバー作品たち

【音楽評論家が選ぶベスト3】もはやブームではなく、一個のジャンルと言ってもいいカバー作品たち

2016年、今年も様々な音楽、映画や舞台、アニメ、ゲームなどの様々なコンテンツがこの世に送り出され、僕たちを大いに楽しませてくれました。師走を迎えて、TVや雑誌、WEB等の各メディアが、盛んに2016年のエンターテインメントを総括する企画をオンエア・掲載していますが、「エンタメステーション」も、【es執筆陣が選ぶ2016年エンタメBEST 3】と題したスペシャル特集を実施致します。より自由で独自な見解をベースに、日頃からesサイトで活躍する気鋭の執筆陣に、それぞれのBEST 3を選出してもらいました。第4回の今回は、音楽評論家・平山雄一さんの寄稿。ぜひ読者の方々もご一緒に、今年の素晴らしい作品、印象的なコンテンツを振り返ってみるのはいかがでしょうか?


平山雄一が選ぶベスト3
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南佳孝
『ラジオな曲たち~NIGHT AND DAY~』

CAPITALVILLAGE


PUSHIM
PUSHIM
『THEノスタルジックス』

徳間ジャパンコミュニケーションズ


佐藤竹善
佐藤竹善
『My Symphonic Visions~CORNERSTONES 6~
feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団』

ユニバーサルミュージック合同会社


鋭い企画や高いエンターテイメント性、いよいよ成熟期へ

文 / 平山雄一

 今年もたくさんの名アルバムが発表された。へヴィーなところではamazarashiの『虚無病』、ライトなところでは清竜人25の『My Girls♡』、ロックアルバムならクリープハイプの『世界観』、EPではぼくのりりっくのぼうよみの「ディストピア」、ラブソングならindigo la ENDの『藍色ミュージック』、バンドならユニコーンの『ゅ13-14』やALの『心の中の色紙』、NICO Touches the Wallsの『勇気も愛もないなんて』、ファンクなら岡村靖幸の『幸福』とスガシカオの『THE LAST』など、枚挙にいとまがない。
 そして僕がここで挙げるのは、今年の“カバーアルバム・べスト3”だ。2016年も楽しませてくれるカバーアルバムが多くあった。カバーブームはかれこれ10年以上続いているが、鋭い企画やエンターテイメント性が高くなってきていて、いよいよ成熟してきたように思う。もはやブームではなく、一個のジャンルと言ってもいい様相を呈してきている。

 まずベスト3の1枚目は、南佳孝の『ラジオな曲たち~NIGHT AND DAY~』だ。音楽好きで知られるベテラン南佳孝が、パーソナリティを務めるFM COCOROの番組「NIGHT AND DAY」で弾き語りで披露してきたカバーナンバーを基にレコーディングされていて、選曲がシブい。
 ザ・ピーナッツの「ウナ・セラ・ディ東京」は、ラテンが得意な南にどハマりの一曲。女性デュオの先駈けとなったザ・ピーナッツは、洋楽テイストの歌謡曲を得意としていた。作曲・宮川泰、作詞・岩谷時子コンビのベスト・オブ・ベストと言える楽曲が、南の“男声”で歌われると、余計に切なく感じられる。
 一方で、グループサウンズから南が選んだのは、オックスの「スワンの涙」だ。オルガン奏者の赤松愛の“失神パフォーマンス”で一躍有名になったオックスの最大のヒット曲。南は「作詞・橋本淳、作曲・筒美京平という最高のコンビの作品を歌いたかった」と語っているが、まさか「スワンの涙」を選ぶとは! しかも、これが似合っているのだ。オックスとはまったく別の曲の魅力を発掘していて、聴きごたえ充分。
 ロックバンドの曲からは、くるりの「ばらの花」を歌っている。この名曲は矢野顕子や奥田民生、小田和正などそうそうたるシンガーがカバーしているが、南バージョンも非常に味わい深い。
 洋楽からはウィリー・ネルソンの「BLUE SKIES」やフランキー・ヴァリの「君の瞳に恋してる」を歌っている。
マニアックなのはステファン・ビショップの「ON AND ON」と浅川マキの「赤い橋」で、特にどっぷり暗い「赤い橋」に真っ向から挑む南の歌は凄みがある。

 次に選んだのは、レゲエシンガーPUSHIMの『THEノスタルジックス』だ。PUSHIMとコンビを組むバンド“ホーム・グロウン”などがアレンジに参加して、本格派レゲエ・カバーアルバムになっている。
 たとえば山口百恵の「プレイバック part 2」にレゲエがこんなに似合うとは! ダンスホール風のイントロから、アップテンポのレゲエに切り替わると、もうそこは“山口PUSHIM”の世界。歌のスリルとリズムがうまくマッチして、引き込まれていく。
先の南佳孝のオリジナル「モンロー・ウォーク」も取り上げている。もともとラテン風味のこの曲を、スティールドラムをフィーチャーしたカラフルなアレンジで聴かせてくれる。南のねちっこい歌い方に呼応して、PUSHIMもじわじわメロディを追い詰めていく。ブラスセクションの選択もオシャレだ。
 低音の声が魅力の昭和の歌謡曲歌手、水原弘の「黄昏のビギン」もエレガントでいい。こちらはビブラフォンをフィーチャーしてムードを出し、レゲエのリズムが無国籍感を演出する。日本語の響きを強く感じさせるPUSHIMの歌がいい。
 アルバムの白眉は、1950年代にハリー・ベラフォンテが歌ってアメリカで大ヒットした「バナナ・ボート(DAY-O)」が圧巻だ。もともとジャマイカの労働歌だったこの曲は、太陽の強い光を感じさせる名曲で、日本でも浜村美智子がカバーしてヒットした。その頃、幼稚園に通っていた僕も、よく憶えている。行ったこともない南の島を連想したものだ。
 PUSHIMはこの「バナナ・ボート(DAY-O)」を、浜村バージョンの日本語詞で歌っている。ジャマイカでこの歌の遥か後に発明されたレゲエのリズムでカバーするという音楽的な遊び心が大成功して、屈指の出来になった。最初に書いた“成熟したカバー”とは、このようなテイクのことを指す。批評精神に富んだ素晴らしいアルバムだ。

 最後に挙げるのは、SING LIKE TALKINGのボーカル佐藤竹善が新日本フィルと共演した『My Symphonic Visions~CORNERSTONES 6~』だ。竹善はシリーズ第6弾にして、初めてオーケストラをフィーチャーして、独自のカバーワールドを展開している。One Directionの「Story Of My Life」から始まって、洋楽カバーが8曲収められている。
 僕のおススメは、Totoの「Africa」だ。オーケストラならではの倍音の豊かなパーカッションを大胆に取り入れて、エキゾティックなアレンジでに仕上げている。もともとプログレッシヴ・ロックの要素の強いTotoとオーケストラの相性がいいのは、当然と言えば当然なのだが、そのに着目するあたりが竹善のセンスの良さだ。丁寧に歌う竹善は、初期のSING LIKE TALKINGの特長に通じていて、新鮮な魅力を感じる。
 その他、Maroon 5の「This Love」など、非常に心地よい1枚になっている。

 というところで、来年もいいカバーアルバムに出会えますように!

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