年末特別企画・es執筆陣が選ぶ2016年エンタメベストコンテンツ  vol. 3

Column

【音楽評論家が選ぶベスト3】今だからこそ見出すべき音楽の価値

【音楽評論家が選ぶベスト3】今だからこそ見出すべき音楽の価値

 2016年、今年も様々な音楽、映画や舞台、アニメ、ゲームなどの様々なコンテンツがこの世に送り出され、僕たちを大いに楽しませてくれました。師走を迎えて、TVや雑誌、WEB等の各メディアが、盛んに2016年のエンターテインメントを総括する企画をオンエア・掲載していますが、「エンタメステーション」も、【es執筆陣が選ぶ2016年エンタメBEST 3】と題したスペシャル特集を実施致します。より自由で独自な見解をベースに、日頃からesサイトで活躍する気鋭の執筆陣に、それぞれのBEST 3を選出してもらいました。第3回の今回は、音楽評論家・藤井美保さんの寄稿。ぜひ読者の方々もご一緒に、今年の素晴らしい作品、印象的なコンテンツを振り返ってみるのはいかがでしょうか?

文 / 藤井美保


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松任谷由実

「宇宙図書館」

ユーミンの永遠のテーマである”時間””普遍性””ポップ”を更に追求した、新しさと懐かしさを同居させた全く新しいスタンダートアルバム。
Universal Music LLC


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Perfume

「COSMIC EXPLORER」

今作が通算6枚目となる、NEW ALBUM。映画「ちはやふる」主題歌『FLASH』収録。
Universal Music LLC


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羽根田征子

「SORA +4」

羽根田征子の“麗しのヴォーカル”と佐藤博の“爽やかなシティ・サウンド”が織り成すジャパニーズ・ポップスの傑作が、27年の時を経て蘇る。
Sony Music Direct

 実家のある小さな町に、資生堂を扱う唯一の店があって、少女時代、学校帰りによく寄り道をした。めあては資生堂が月一で出していた無料の企業文化誌「花椿」。スタイリッシュなその誌面は都会派女性の象徴に見え、憧れた。ユーミンとの出会いもその「花椿」。旬な音楽として「ルージュの伝言」の歌詞が紹介されていた。曲を知らずとも鮮やかに浮かぶちょっとファニーでオシャレな物語に、私のなかの音楽の宇宙がビッグバン(笑)。『ひこうき雲』から『昨晩お会いしましょう』まで、青春のシーンをどれだけユーミンが彩ってくれたことか。
 偉大さを再確認したのは、仕事として音楽に触れるようになってからだ。特に『REINCARNATION』、『VOYAGER』、『NO SIDE』を通じては、無常、諦念、だからこその今といった哲学と、内なるもの外なるものを含めた宇宙観を育ててもらった。私にとって「宇宙」といえばユーミン、年末といえばその新譜。『宇宙図書館』では久しぶりにダブルのワクワクを味わった。

 やっぱり好き、なのだ。魔力を持つソングライターが考え抜いた、ありきたりじゃないが奇をてらってもいない美しいメロディが。そして、その滑らかさのなかで、ときに陽気に、ときにせつなく踊り出す心象風景が。特に心がシンクロしたのは、「あなたに会う旅」、「私の心の中の地図」、’87年に小林麻美に提供された「GREY」。未熟な愚かさゆえの葛藤や絶望、その果ての喪失。そんな精一杯の過去たちへのレクイエムとして、どうしようもなく胸に響いた。  人生の半ばを過ぎた大人が『宇宙図書館』の書物をめくれば、消し去った記憶をひととき愛する時間となり、若者は、その書物に未知のロマンを見て、胸を高鳴らせるにちがいない。長いキャリアをもってしての心境を、深い洞察力と強い意思と磨き上げたノウハウとで、人懐こいポップスにしてくれるユーミン。今だからこそ見出すべき音楽の価値が、このアルバムには詰まっている。

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 偶然宇宙つながりだが、Perfume『COSMIC EXPLORER』も、今年忘れられない1枚だ。2015年に結成15周年、メジャー・デビュー10周年を迎えたPerfume。メジャーにおける全作品をプロデュースしてきた中田ヤスタカ(CAPSULE)は、Perfumeの亀戸や秋葉原での路上時代の奮闘や、トップ・アーティストとなって以降も、海外ツアー成功に向けてひたむきに歩み続けている姿を知っている。夢のまたその先を究めるのに伴う迷いさえも。
 だから彼は、今こそ自信と誇りを持ってパイオニアたれ、と、3人をけしかける壮大なタイトルをつけた気がするのだ。宇宙探査への覚悟の鼓動を思わせる重いビートのタイトル曲は、新作を率いてのツアーでも重要なシーンを担った。深層に眠る生命力が沸き立つようなその曲を聴くと、今でも、凛と立って前に進むツアーでのあの3人の姿が浮かぶ。
 歌声の魅力にあらためて気づく1枚でもあった。実はPerfumeの曲は、常に3人が同時発声して成り立っているわけではなく、誰か一人がメロディを担う箇所もあれば、ダブルやトリプルで声が混ざっている箇所もある。その絶妙なチョイスやミックスを決めるのも、3人の声質や歌いぐせを知り尽くした中田だ。今作の特徴は、一人ずつの声がフィーチャーされる箇所が多いこと。声質が歌詞の世界と密接に結びついている。
 さらに今作では、メイン・ボーカル以外にもたくさんの歌声がレイアウトされている。つまり、アンドロイド的なイメージとは真逆の、生身で奏でる歌声が、Perfumeサウンドの欠かせない「楽器」になってるわけだ。繊細な手法で構築されたキュートなポップ・ソング。その素晴らしさを、曲調の深化に終始驚きつつ味わった。壮大なタイトルで3人をけしかけた中田自身も、メロディメイカーとしてパイオニアたらんと挑んだ1枚だったのかも。

 個人的に非常にうれしかったのは、羽根田征子(現在の表記は羽根田ユキコ)の’89年のアルバム『SORA』 が再発されたこと。プロデュースは2012年に急逝した佐藤博だ。今年、’82年の名盤『awakening』がアナログで再発されるなど、その存在が再び注目されている。で、私自身、氏とは縁が深い。実はライターとしてのキャリア以前、長年共に音楽制作に携わっていた。この『SORA』でも真沙木唯として作詞を7曲。よって1/3は手前味噌になるし、違った視点にもなるので迷ったが、当時を知る者として再発の制作にも力を注いだので、伝え人としてもやはり紹介させていただきたいと思う。
 担当したライナーの引用で恐縮だが、この作品の魅力は、「流行り廃り云々といった価値観をはるかに超越したサウンド、そして歌。非常にユニバーサルな意味でのポップスの魅力がそこにはある」ということに尽きる。今の耳で聴いても本当にカッコいし、何度聴いても飽きない音だ。伊東ゆかりや竹内まりやに通ずるトーンを持つ羽根田の、20代前半とは思えない声の艶めきも素敵。今回の再発盤には、佐藤と羽根田が2000年代に制作していた幻のデモ・トラック4曲も収録された。音楽という宇宙は、肉体が消滅してもなお、時空を超えてどこまでも広がるということを実感した1枚。

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