年末特別企画・es執筆陣が選ぶ2016年エンタメベストコンテンツ  vol. 8

Column

【音楽ライターが選ぶベスト3】長いキャリアを誇るアーティストの「今」をじっくり味わいたい

【音楽ライターが選ぶベスト3】長いキャリアを誇るアーティストの「今」をじっくり味わいたい

2016年、今年も様々な音楽、映画や舞台、アニメ、ゲームなどの様々なコンテンツがこの世に送り出され、僕たちを大いに楽しませてくれました。師走を迎えて、TVや雑誌、WEB等の各メディアが、盛んに2016年のエンターテインメントを総括する企画をオンエア・掲載していますが、「エンタメステーション」も、【es執筆陣が選ぶ2016年エンタメBEST 3】と題したスペシャル特集を実施致します。より自由で独自な見解をベースに、日頃からesサイトで活躍する気鋭の執筆陣に、それぞれのBEST 3を選出してもらいました。第8回の今回は、音楽ライター・佐野郷子さんの寄稿。ぜひ読者の方々もご一緒に、今年の素晴らしい作品、印象的なコンテンツを振り返ってみるのはいかがでしょうか?


佐野郷子が選ぶベスト3
鈴木雅之
鈴木雅之
『dolce』

Sony Music Labels Inc.


METAFIVE
METAFIVE(高橋幸宏 × 小山田圭吾 × 砂原良徳 × TOWA TEI × ゴンドウトモヒコ × LEO今井)
『META』

WM JAPAN


いとうせいこう
いとうせいこう & リビルダーズ
『再建設的』

キューブ


20年以上聴き続けてきた方々の最新作が充実しているのは一リスナーとしては嬉しい限り

文 / 佐野郷子

 2016年は私の世代がおおいに影響を受けたロックの偉人たちが次々逝去した年だった。1月のデビッド・ボウイに始まり、イーグルスのグレン・フライ、プリンス、先頃訃報が伝えられたジョージ・マイケルまで、70〜80年代を彩った綺羅星のロックスターが本当に星になってしまい、その度に胸を痛めたが、「かつて愛したもの」との惜別にある種の覚悟のようなものが芽生えてきたのも事実。だからこそ、人生の後半を迎えた長いキャリアを誇るアーティストの「今」をじっくり味わいたいと思うようになったのは、自分の年齢のせいばかりでなく、そこに「何を残すのか」が切実に表れているからだろう。ここで選んだ3作は、ジャンルこそ異なるが、それぞれの立ち位置で2016年に確かな痕跡を残し、私の記憶にしっかり刻まれたものだ。

 今年、還暦を迎えた鈴木雅之は、「ラブソングの帝王」として長年その座に君臨してきたが、ドゥーワップ/ソウル/R&Bへの限りない愛着と造詣に、ヴォーカリストとしての実力が備わった希有な存在でもある。ソロ・デビュー30周年記念アルバム『dolce』には、松任谷由実、玉置浩二、久保田利伸、JUJU、岡村靖幸、横山剣、KREVAなどが楽曲提供などで参加。この豪華な顔ぶれにもまして特筆すべきは、今のマーチンの歌と歌心をきちんと聴き手に届けるようなプロダクトに仕立てられていることだ。そこにはプロフェッショナルの矜持があり、酸いも甘いも経験済みの大人の男の歌がある。豊かな音楽の土壌で花開いた大輪の風格。その華やかな色と香りに今さらながらノックアウトされた。

 2014年に一夜限りのユニットとして結成された高橋幸宏のユニット、METAFIVEが今年リリースしたアルバム『META』は刺激をたっぷりいただいた一枚。小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEI、ゴンドウトモヒコ、LEO今井という才能溢れるミュージシャンと共に、彼らより2世代上の幸宏氏が生き生きと今の音を刻み、ワールドクラスのオリジナリティを獲得。YMOチルドレンと呼ばれた40代との交感で、鮮やかなサウンドスケープを描いてみせたのだから恐るべし。彼らの新しい音楽をクリエイトし続ける音楽家としての飽くなき探究心と攻めの姿勢にこちらも背筋が伸びるようなフレッシュな感覚を味わわせてもらった。

 先に上げた両雄とはフィールドは異なるものの、2016年に仕事でガッツリ関わったいとうせいこうは、日本のヒップホップ黎明期に発表したアルバム『建設的』から30周年を迎えた。30周年祝賀会「いとうせいこうフェス」を東京体育館で2日間開催し、トリビュート・アルバム『再建設的』をリリース。竹中直人、大竹まことからスチャダラパーやレキシまで、小説家・タレント・役者・ラッパーなど多くの顔を持つ彼らしい多彩かつオモシロメの面子がいとうのオリジナルをカヴァー。中でもRHYMESTER の「噂だけの世紀末」と、いとうせいこう&ヤン富田 「スイート・オブ・東京ブロンクス」は出色。2016年は『フリースタイルダンジョン』や『高校生RAP選手権』も話題となり、ヒップホップの新たな動きが活発になったが、30年前に日本語で格闘していたおかっぱ頭の男がいたことを覚えておいてほしい。

 他にも、坂本慎太郎『できれば愛を』、サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』、KIRINJI『ネオ』、冨田ラボ『SUPERFINE』、野宮真貴『男と女 ~野宮真貴、フレンチ渋谷系を歌う。』、クレイジーケンバンド『香港的士』、岡村靖幸『幸福』、レキシ『Vキシ』などをよく聴いた。
 坂本慎太郎は、時代や国境やジャンルなどはとうに飛び越えて、時空さえ曖昧にしてしまう魔界のような磁場から流れてくる音に痺れたが、いわゆる「ロック」の固定概念を解放してくれる快感には抗えない魅力がある。2008年に再結成されたサニーデイ・サービスの通算10枚目のアルバムは、青春の痛々しさや切なさを鋭利にポップに切り取った傑作。曽我部恵一の甘酸っぱいヴォーカルとメロディーと歌詞は20年前の名盤『東京』から変らないが、歳月を重ねてもやむにやまれぬ感情が表現の核にあるのがグッときた。キリンジから堀込高樹を中心としたバンドKIRINJIになり、新しいリズムとサウンドに磨きがかかってきた『ネオ』や、かつてキリンジを手がけた冨田ラボも現行のジャズやリズムに敏感に反応し、注目の若手アーティストをフィーチャーした最新の音を聴かせてくれた。渋谷系のルーツをテーマに、フランシス・レイの「男と女」を小西康陽の日本語詞で横山剣とデュエットした野宮真貴、過去に提供した楽曲や横山剣が在籍していたクールスR.C.やダックテイルズの曲をセルフ・カヴァーしたクレイジーケンバンドは、大人のカッコイイを提示してくれた。
 と、まあ、どれもベテランかキャリア組ばかりになってしまったが、20年以上聴き続けてきた方々の最新作が充実しているのは一リスナーとしては嬉しい限り。彼らの年齢と共にアップデイトされてゆく「今」を存分に楽しんだ1年だった。

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