年末特別企画・es執筆陣が選ぶ2016年エンタメベストコンテンツ  vol. 2

Column

【音楽評論家が選ぶベスト3】魅力的な音楽ドキュメンタリーを楽しむことができた

【音楽評論家が選ぶベスト3】魅力的な音楽ドキュメンタリーを楽しむことができた

2016年、今年も様々な音楽、映画や舞台、アニメ、ゲームなどの様々なコンテンツがこの世に送り出され、僕たちを大いに楽しませてくれました。師走を迎えて、TVや雑誌、WEB等の各メディアが、盛んに2016年のエンターテインメントを総括する企画をオンエア・掲載していますが、「エンタメステーション」も、【es執筆陣が選ぶ2016年エンタメBEST 3】と題したスペシャル特集を実施致します。より自由で独自な見解をベースに、日頃からesサイトで活躍する気鋭の執筆陣に、それぞれのBEST 3を選出してもらいました。第2回の今回は、音楽評論家・森朋之さんの寄稿。ぜひ読者の方々もご一緒に、今年の素晴らしい作品、印象的なコンテンツを振り返ってみるのはいかがでしょうか?

文 / 森朋之


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レディオヘッド
〈SUMMER SONIC 2016〉の「クリープ」

「クリープ」は1stアルバム『Pablo Honey』から1992年にシングルカットされた。今年8月に行われた〈SUMMER SONIC 2016〉のステージにて約7年ぶりにパフォーマンスされる。彼らの最新アルバムは『A Moon Shaped Pool』。
XL Recordings / Beggars / Hostess

『Pablo Honey』

『A Moon Shaped Pool』


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映画『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK』

1963年~1966年のツアー時期をベースに、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターがどのように集まり“ザ・ビートルズ”になっていったのかを、ロン・ハワードが描くドキュメンタリー映画。9月6日に全世界同時公開された。
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舞台 大パルコ人③ステキロックオペラ「サンバイザー兄弟」

宮藤官九郎作・演出、怒髪天のギタリスト・上原子友康が音楽を手がけた舞台。2033年の池袋を舞台に瑛太と増子直純(怒髪天)演じるヤクザの“サンバイザー兄弟”がワケあってバンドを組むことに奔走する話。11月13日より上演された。


「スマホを捨てよ、音楽を感じよう」

〈2016年のベスト・アイテム〉というお題ですが、アイテムというよりも“ベスト体験”をセレクトしてみました。ライブ会場、映画館、劇場などに足を運んで、そこで作品を鑑賞し、「あそこでこれを観たんだけど、いやそれがさー」と人に話したくなる。その一連の行動も込み込みでエンターテインメントだな、と実感できる機会が多い1年だったので。

「今年は何を観に行ったかなー?」と手帳(筆者のスケジュール管理はいまだに手帳。『日経WOMAN』という女性誌が制作している手帳がとても便利です)を見たところ、ひときわ目立つ線でマーカーが引いてあったのが〈FUJI ROCK FESTIVAL〉と〈SUMMER SONIC〉。フジロックのジェイムス・ブレイクとかベックとか、いろいろと素晴らしいアクトを観たのですが、最もインパクトがあったのは、やはりサマソニのレディオヘッドでした。サマソニもワールド・ツアーのひとつであり、今回のツアーは冒頭に最新アルバム『ア・ムーン・シェイプト・プール』の楽曲を何曲か演奏し、その後は公演によって変化させるというスタイル。ご存知のように、東京会場ではアンコールで名曲「クリープ」が披露され、ライブ直後はさすがに「うおー! 『クリープ』聴けた!」という雰囲気でいっぱいだったが(イントロが始まった瞬間のマリンスタジアムの盛り上がりは本当にすごかった)、時間が経つにつれて、演奏自体の素晴らしさ、音質の良さがジワジワと脳内で再生され始めたのは本当に興味深い経験でした。その後も大阪と東京のセットリストの違いだったり、「クリープ」という楽曲に対する思いをいろいろな人が語っていたのも、気のきいたデザートみたいで楽しかったです。

 続いては映画『ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK』。映画は「DVDとかでも観れるだろ!」と思われるかもしれないが、実は本編のあとに映画館でしか観られない映像が用意されていました。1965年8月15日のニューヨーク“シェイ・スタジアム”の約31分のライブ映像が、それ。4Kリマスターで編集され、全世界の映画館で本編のあとに(まるでアンコールのように)上映されたのだが、これが本気で素晴らしかった。シェイ・スタジアムで行われたコンサートは56,000人以上の観衆を前に行われた世界初のスタジアム・コンサート。14台の35mmカメラを使い、60年代の音楽映像の中でも最高峰とされる映像は、今、観ても迫力満点で、当時の4人の演奏をダイレクトに体験することができました。PAシステムもモニターもない状態で(つまりメンバーはほとんど音が聴こえない)、シャープなアンサンブルと卓越したコーラスワークを聴かせるシーンを観た筆者は、「ザ・ビートルズは最高のライブ・バンドだったんだな」ということを改めて思い知らされたのでした。(こんな経験をしているわけだから、ポール・マッカートニーが東京ドームでイヤモニを付けてなかったのもうなずけます)。

これ以外にも『ブラー:ニュー・ワールド・タワーズ』(ブラー)、『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』(ジャニス・ジョプリン)、『地獄に堕ちた野郎ども』(ザ・ダムド)、『スーパーメンチ -時代をプロデュースした男!-』(アリス・クーパーなどを手がけたプロデューサー、シェップ・ゴードン)など、今年は魅力的な音楽ドキュメンタリーを楽しむことができました。そして、12月24日からはオアシスのドキュメント映画『オアシス:スーパーソニック』が公開されます!

3つ目は舞台。大人計画とパルコのコラボレーションによる“大パルコ人”の第3弾、『ステキロックオペラ「サンバイザー兄弟」』です。作・演出は宮藤官九郎、出演は瑛太、増子直純(怒髪天)、三宅弘城、皆川猿時、清野菜名、りょうなど。瑛太と増子がヤクザの兄弟分で、いろいろあってバンドを目指すことになる……と、これだけの説明ではなんのこっちゃわからないと思いますが、『ブルース・ブラザース』と『トラック野郎』を合わせたような破天荒すぎるストーリー、そして、上原子友康(怒髪天)が手がけた楽曲がとにかく最高。瑛太のソウルフルなボーカル(歌うまい!)、清野の振り切れた芝居とアクション、りょうの瀬戸内寂聴ぶりなど見どころはテンコ盛りなのですが、一番グッときたのはやはり増子の男気溢れる歌。特にラスト・シーンの歌唱は本気で感動しました……(まだ公演中なのでネタバレ厳禁ということで)。宮藤官九郎といえば、今年は映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』も話題を集めました。地獄に堕ちてしまった高校生(神木隆之介)が赤鬼(長瀬智也)とバンドを組むという物語のロック・ミュージカルですが、“泣かせる”とか“メッセージ性”に逃げず、ひたすら面白さだけを追い求める宮藤監督に最大限のリスペクトを贈りたいです。

最後にもうひとつ。2016年4月に刊行された平野敬一郎の『マチネの終わりに』は、生々しいまでに音楽を感じられる小説でした。クラシック・ギタリストの男性と通信社記者の女性を主人公にした恋愛小説なのですが、特筆すべきはコンサートの場面描写。まるで目の前で演奏を聴いているかのような筆致には本気で心を揺さぶられました。

というわけで、2017年もいろいろな場所、いろいろなメディアを通して音楽を体感したいと切に思います。『書を捨てよ、町へ出よう』は寺山修司の名著ですが、不遜ながら「スマホを捨てよ、音楽を感じよう」とみなさんに言いたいです!

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vol.3

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