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国内最大級のボードゲームイベント「ゲームマーケット」から業界が見えた!

国内最大級のボードゲームイベント「ゲームマーケット」から業界が見えた!

エンタメステーションでは数度にわたってボードゲーム関連の記事をお届けしてきた。いま、ボードゲームはじりじりとブームの兆しを見せ始めており、エンターテイメントのひとつとして注目されている。とはいえ、どんなふうにブームになっているのか、やはりピンときていない読者も多いことだろう。そこで今回は、去る12月11日に東京ビッグサイトで開催されたボードゲームイベント「ゲームマーケット2016秋」のレポートをお届けしつつ、その参加者と主催者それぞれにインタビューし、ボードゲームに懸ける思いを聞いてみた。この熱を理解してもらえば、ボードゲームの盛り上がりを実感してもらえると思う。

取材・文 / 松井ムネタツ


 ゲームマーケットとは、日本最大級のボードゲームイベントだ。わかりやすく言うとコミックマーケット(通称コミケ)のボードゲーム版。企業ブースも一部あるが、ほとんどが同人サークルとして出展し、自作ボードゲームを頒布している。今回のゲームマーケット2016秋では参加サークル数が530ブースになり、回を追うごとに増えている。

▲開場前の行列。これはそのごく一部で、この後ろにはまだまだ長い列が続いていた

▲開場前の行列。これはそのごく一部で、この後ろにはまだまだ長い列が続いていた

▲開場時間は午前10時から午後5時まで。試遊卓で遊べるゲームは10分程度の短時間なものが多い

▲開場時間は午前10時から午後5時まで。試遊卓で遊べるゲームは10分程度の短時間なものが多い

 第1回は2000年に開催。最初はゲーム研究家の草場純氏が声をかけ、各自で持っているボードゲームを交換・売買する場として始まった。第1回は出展サークル32ブース、来場者は400名だった。

 これが少しずつ増えていき、来場者が1000人を超えるようになった段階で、ボランティアスタッフで運営する規模ではなくなったため、2010年より草場氏から株式会社アークライトが引き継ぐ形となった。また、2005年ごろからフリーマーケット的な出展と自作ゲーム販売の出展が逆転し始めたが、運営の引継ぎが行われるころには完全に自作ゲームの販売が中心のイベントとなっていた。

 2011年からは春と秋の年2回開催になり、2012年から関西でも年1回で開催、2013年には会場をそれまでの産業貿易センター台東館から東京ビッグサイトへ変更した。来場者数は今回のゲームマーケット2016秋では12000人となり、その規模は一度も縮小することなく成長している。

▲株式会社オインクゲームズは広めのスペースを確保して、試遊スペースも5卓ほど用意。終日賑わいを見せていた

▲株式会社オインクゲームズは広めのスペースを確保して、試遊スペースも5卓ほど用意。終日賑わいを見せていた

 ゲームマーケットの特徴として、試遊卓と物販の両立が挙げられる。すべてのブースが用意しているわけではないが、ブースの前に広めのテーブルが用意されており、そこで実際にプレイしてから買うことができる。面白いかどうか、自分が楽しめるかどうかわからないゲームだったら、まずはここで遊んでみるのがいいだろう。

 逆に言うと、こうした試遊時間があるおかげで来場者の滞留時間が長いのも本イベントの特徴だ。同人誌イベントであれば、買うものを買ったらすぐ帰ってしまう人が多いが、試遊卓のおかげで閉場時間ぎりぎりまで人で賑わっている。ただその混雑具合も東京ゲームショウのようなギュウギュウ状態ではなく、通路を広くとっていることもあって、人はたくさんいるけどスイスイ歩ける「適度な混雑具合」なおかげで、賑わいつつも過ごしやすい空間となっているのだ。

 初めて来る人はその賑やかさに少し驚くかもしれないが、何度か参加すれば自分なりの参加方法が見えてくるはずだ。本稿を書いているボードゲーム好きライターの場合を紹介しておこう。まずはゲームマーケットの公式サイトとカタログで新作情報をチェックする。気になるサークルがあれば公式サイトを見て、製品情報が事前にアップされていればマニュアルを読んでみる。タイミングが合えば事前の試遊会に参加し(ゲームマーケット前日などに行われる場合がある)、さらにはTwitterでボードゲームファンらはどんなゲームを買おうとしているのかを確認し、最終的に自分なりの購入リストを作成する。ゲームマーケット当日は午前中で欲しいものを買って回り、午後はゆっくりと試遊しながら掘り出し物がないか改めてチェックする。……とまあ、だいたいこんな感じであろうか。サークルによっては事前予約を受け付けているところもあるので、どうしても欲しいゲームや、人気サークルの新作などはこれを利用している。

▲一般サークルは長机の半分程度のスペースと、希望すれば正面に試遊卓が用意される。写真は新ボードゲーム党のブース

▲一般サークルは長机の半分程度のスペースと、希望すれば正面に試遊卓が用意される。写真は新ボードゲーム党のブース

 今回のゲームマーケットでは、「ゲームマーケット大賞2016」が発表された。去年から制定されたアワードで、今回の場合だと昨年の2015秋、今年の2016神戸と2016春のゲームマーケットで発表された新作ゲームを対象に、優秀なゲームを表彰しようというものだ。優秀作に「たのめナイン」(するめデイズ)、「ちんあなごっこ」(高天原)、「幽霊島の殺人」(楽々亭)、「横濱紳商伝」(OKAZU brand)が、大賞に「ビンジョー×コウジョー」(すまいる120円工房)が選定された。

 「ビンジョー×コウジョー」はゲームマーケット2016神戸(3月開催)でリリースされたゲームで、現在は品切れ状態。増産するために11月からクラウドファンディングを始めて、ゲームマーケット大賞発表の2日後に締め切りを設定したところ、大賞受賞の発表を受けて支援者が続出。当初は15万円集められれば増産することになっていたが、最終的に313人の支援者から121万8800円の資金調達に成功し、コンポーネントが豪華仕様に変更されることになった。初版は決して多くない生産数だったと思われるが、支援者の数から計算すると300個以上は生産することになり、制作した22歳の大学生は、一躍ボードゲーム界で「時の人」となった。2作目のゲームがいきなり大賞を受賞、というのは非常に夢がある話だ。

▲ゲームマーケット大賞2016の受賞者の皆さん。左から「ビンジョー×コウジョー」のすまいる120円さん、「幽霊島の殺人」の楽々さん、「横濱紳商伝」の林尚志さん、「たのめナイン」のチカールさん、「ちんあなごっこ」のぺけさん

▲ゲームマーケット大賞2016の受賞者の皆さん。左から「ビンジョー×コウジョー」のすまいる120円さん、「幽霊島の殺人」の楽々さん、「横濱紳商伝」の林尚志さん、「たのめナイン」のチカールさん、「ちんあなごっこ」のぺけさん

 同人サークルの方々は、どんな思いで参加しているのだろうか。全体の1割にも及ばないが、編集部では40以上のサークルに取材し、ゲームマーケット参加の動機など、そのサークル活動についてあれこれ聞いてみた。ボードゲームを作るサークル活動を始めてどのくらい経ったのかを聞いてみたところ、以下のような分布だった。

1年未満:22.5%
1年以上:13.6%
2年以上:20.5%
3年以上:11.4%
4年以上:9%
5年以上:23%

  こうして見ると、1年程度から1年未満の新しいサークルが3分の1を占めている。遊ぶだけでは飽き足らず、表現したい側になる人はつねに増えているということなのだろう。逆に5年以上(中には10年というサークルも!)も4分の1近くいるので、ずっと続けられるところとそうでないところがハッキリしているようだ。

 彼らがボードゲームを作り始めたきっかけは、大きく分けて2つある。

「知り合いがボードゲームを遊ぶ会を開いていて、それに参加しているうちに遊ぶだけではなくて自分でゲームを作りたくなった」(マン・ホール)

「ボードゲーム会に参加したらゲームをたくさん買うようになり、その次の段階としてゲームを作りたくなった」(達磨ゲームズ)

 まずはゲームを遊んでいるうちに自分も作りたくなってくるパターンだ。このケースはとても多い印象だった。

「こうしたら楽しいのでは? と追加ルールを考えるようになり、そこから自分で独自にゲームを作るようになった」(呂布愛好会)

「ルールを改変するのが好きで、それが転じてオリジナルゲームを作るようになった」(MRエンターテイメント)

 既存のゲームルールを少し変更し、独自の遊び方を考えているうちにオリジナルゲームを作り始めた……というケースのサークルも目立った。ルールを変更して遊んでみるのは、ボードゲーム制作の第一歩なのかもしれない。また、テレビゲーム開発出身の方はこんなことを言っていた。

「テレビゲームの場合、大規模のものだと100人単位のチームで開発します。それだけの人数がかかわっていると、”自分が作った”とは言えないんじゃないか、と。ボードゲームなら、何から何まで自分で作ることができる。すべてを自分で作ったゲームを世に出したかったんです」(アトボー)

 これまでもテレビゲーム出身のボードゲームデザイナーに話を聞いたことがあるが、やはり同じことを言っていた。「これが自分の作品だ」と言えるものを生み出したい気持ちが強いのだろう。

 サークルとしての将来的な目標は、同人らしくさまざまだ。

「趣味の範疇で続けたい」(グラットンさん)

「趣味として楽しく続けたい。このままずっと楽しめればいい」(Open Circle)

 こう考えるサークルが実際はほとんどだろう。あくまで趣味の範囲で楽しめればいい、大きな赤字にならなければいい、という形での参加だ。

「起業するつもりです」(TUC GAME)

「ボードゲーム制作だけで生活できるようになれれば……」(トイドロップ)

 明確にプロを目指しているサークルももちろんある。海外のボードゲームパブリッシャーが青田買いをしに来ているので、彼らの目に止まればいきなり世界デビューもありうる。ではこの先、日本のボードゲーム業界はどのような展開を見せるのか、同人サークルがどのように見ているのか聞いてみた。

「一度ボードゲームをやると楽しさを知ってファンになる。増えるばかりだと思う」(WANIPA!)

「ファンがどんどん増えている印象があります」(pyx.is)

「即売会自体が拡大していくと思う」(おいしいたにし)

 ほとんどのサークルは「まだまだ拡大していく」ことを感じていた。今回の会場は東京ビッグサイトの東7・8ホールだったが、次回都内で開催されるゲームマーケット2017春は、東1・2ホールで開催となり、さらにスペースが広くなる。現状は広がっていく一方だ。ただ、この広がりに少し不安を感じているサークルもあった。ややネガティブな内容なので、サークル名は伏せておく。

 「ライトゲーマーとヘビーゲーマーの間が開く一方な気がしている。この間をうまく橋渡しすべきだと思う」

「もうすぐバブルがはじける気がします。売り手側が多すぎないですかね?」

 いずれも急速に成長しているボードゲーム界に対して、不安に感じている部分が意見として出てきた。これらの意見を総合すると、ボードゲーム好きが転じて作り手になり、そんな新しいサークルがどんどん増えている、といった状況なのだろう。ただ、急速な成長ゆえに、もしかしたらそれについていけてない部分があるのかもしれない。

 ゲームマーケットを運営する株式会社アークライト側は、現状の盛り上がりをどう感じているのだろうか。また、今後はどのような展開を考えているか。同社のゲームマーケット責任者、刈谷圭司さんに話を聞いた。

▲株式会社アークライト 新規事業部の刈谷圭司さん

▲株式会社アークライト 新規事業部の刈谷圭司さん

 まずは、このグラフを見ていただきたい。これは、来場者数とサークル数の増減をグラフにしたものなのだが、基本的に減ることはなく増える一方である。現状、来場者数は10000人規模だが、刈谷さんは「私は2013年秋から責任者になったのですが、このときから来場者を20000人にしようと言っているんです。それも見えてきたので、いまは50000人を目標にしています」と語るとおり、まだまだ大きくしていくとのことだ。

 ただ、会場が大きくなるにつれて、ボードゲームは試遊することも多いため、1日では回りきれないという問題が出ている。これを解決する術として、2日間開催案が出ている。たとえば今回の「ゲームマーケット2016秋」は12月11日(日)の1日開催だが、これが12月10日(土)・12月11日(日)の2日間行われるというイメージだ。実際の運営方法などはまだ論議をしている最中だが、「2日間開催を始める時期に関しては論議中ですが、遠くない将来には行う方向で動いています」ということなので、これが実現すればそれまでの2倍とは言わないが、1.5倍程度の規模にはなるだろう。

 それにしてもなぜこんなにボードゲーム愛好家が増え、ゲームマーケットへの来場者が増えているのだろうか。刈谷さんは「ソーシャルメディアの存在が大きいのではないか」と語る。TwitterやFacebookで「今日はこんなボードゲームで遊んだ」という写真をアップすることで、それが拡散されて興味を持つ人が増える。2015年にワイドショーなどで話題になった『枯山水』はまさにこのパターンだった。

 また、ソーシャルメディアによってボードゲーム会を開きやすくなったのも大きい。以前は1人1人の予定を聞いて日程調整して……と、会を開くだけですごく面倒だったのが、ソーシャルメディアを使えば告知から人集めまで簡単にできるようになった。

 ゲームを買って遊ぶ来場者だけでなく、ゲームマーケットにサークル参加するほうも増え続けている。刈谷さん曰く「理由はよくわからなくて謎なのですが……」としながらも、日本人はそもそも物作りが好きなので、ボードゲーム制作との相性がいいのではないかと分析する。ゲームマーケットに来て多くのサークルを目の前にすると、自分も作ってみようという気持ちが膨らんでくるのではないか、と。

 こうして来場者とサークル参加者の両輪がうまく回り、成長し続けているゲームマーケットだが、来場者数20000人や50000人といった具体的な数字を目標にしているのは何か理由があるのだろうか?

 刈谷さんは、趣味の延長でゲームを作り出展してくださっている方も素晴らしいと思うし、応援したいと前置きしたうえで、「それだけの来場者が訪問してくれれば、1回のゲームマーケットで1000個売るサークルがいくつか出てくるのではないかと期待しています。そうすれば、彼らはボードゲームデザイナーの仕事だけで、生活できるようになるのかなと。いま日本人デザイナーでこれができているのは、ごく一部の方たちだけだと思いますが、もっと彼らに続く人が出てきてほしい。ボードゲームで生活できるということになれば、ゲーム作りを目指す方も増え、作品の質はさらに上がるはずです。そのためには市場を大きくしなければなりません」。

 株式会社アークライトが販売しているボードゲームも「ここ数年でものすごく売れ行きが伸びている」と語るように、市場は確実に大きくなっている。

「ボードゲームはコミュニケーションツールとして教育現場でも使えると思うんです。授業で使ってもらってもいいくらいですし。家族でボードゲームを遊ぶ時間が増えれば、家族っていいなという実感が得られて、結果的に出生率も上がって日本のためになると思っているくらいですよ!」と笑いながら話す刈谷さんだが、個人の意見としてはかなり真剣にそう考えているようだ。

 高齢化が進む日本を救うのはボードゲームなのか。そんな未来が本当にやってくるのかもしれない。次回、都内で行われるゲームマーケットは2017年5月14日(日)だ。行ったことがないから行ってみようかな……と悩んでいる方に向けて刈谷さんからメッセージをもらったので、これを本稿の締めくくりにしたいと思う。

「初めて来る人はどこから見たらいいかわからないかもしれませんが、10~20分ほど歩き回れば自分のアンテナにひっかかるゲームに必ず出会えます。老若男女楽しめる空間になってますので、ぜひ一度お越しください。その次に参加するときは、ゲームを作る側になっているかもしれませんよ!?」

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