特集・進化するトライセラトップスという恐竜  vol. 2

Interview

【インタビュー】和田唱というミラクルな音楽家が生まれた背景(前編)

【インタビュー】和田唱というミラクルな音楽家が生まれた背景(前編)

トライセラトップスを率いる和田唱。着実に成長を続けてきたバンドは2017年にデビュー20周年を迎えるが、小田和正、桜井和寿はじめ、今もアーティストから和田への信頼は絶大である。ギター演奏、楽曲制作、歌唱…… すべての能力を持ち合わせる和田への音楽への想いをストレートに訊いた。

僕が自主的に夢中になったのは、やっぱりマイケル・ジャクソン

和田さんの最初の音楽の記憶は?

僕がまだ3歳ぐらいのときに、母方のおばあちゃんが僕をおんぶしてどこかに買い物に行ったら、そこで流れてた音楽を僕が「ピンクレディー!」って言ったらしいんですよ。それでおばあちゃんは「こんな小っちゃい子にわかるわけないから」って思わずお店の人に「これ、何ですか?」って聞いたら、「これ、ピンクレディーです」って言われて。おばあちゃんは「この子、すごいわ! こんな小っちゃいのになんでわかるのかしら!」と思ったらしいんですね。僕はピンクレディーをテレビで見て、あのビジュアルと曲が気になってたんじゃないですかね。よく憶えてはいないですけど、ああいうポップスターに小っちゃなときから魅かれてた。もしかしたら“性の目覚め”とも言えますけど・・・ちょっと早すぎるかな?

ピンクレディーだったらあり得ますね。

あり得ますよね!(笑) その後はもっぱら戦隊ヒーローものの歌が好きだったですね。実写のヒーローもののオープニングの曲とか。あの頃は下北沢にあったレコード屋さんに、よく親父に連れて行ってもらってました。戦隊ものはだいたい1年周期で新しい番組に変わるじゃないですか。だから次のヒーローものが始まると「下北沢に行きたい、行きたい」ってせがんで、ドーナツ盤を買ってもらってました。A面にオープニングの歌が入ってて、B面にエンディングの歌が入ってる。それをいっつも聴いてました。でもそれは、曲が好きというよりも、あくまでそのヒーローが好きだったからなので。

小学校の後半は?

たのきんやシブがき隊や聖子ちゃんがいたんですけど、それにハマるってことはなかったですね。僕が自主的に夢中になったのは、やっぱりマイケル・ジャクソン。それが小学校の4、5年生ぐらいのときです。

和田唱

「マイケルですらカバーしちゃうビートルズっていうのは、半端ないんじゃないかな」って

マイケルは、テレビで観た『スリラー』ですか?

そうです、まさに! 『スリラー』のミュージック・ビデオです。あれ? っていうことは、やっぱりビジュアルが伴ってたのかな。ピンクレディーもそうだし、戦隊ものも、マイケルも。僕って、けっこうビジュアルありきだったのかもしれないですね。

そういう世代ですよ、やっぱり。マイケルが音楽シーンを変えたのは、ビジュアル付きの音楽でヒットしたことですからね。カッコ良くないとヒーローになれない。音楽の中でもヒーローになれない。

確かに確かに。だから僕にとってマイケルは、どっちかと言うとヒーローの延長だったかもしれない。

まあ、マイケルは仮面を被ってるようなもんですから(笑)。

ははは! いや、でも確かに、ホントそうですよ!

昔は当然、レコード盤で聴いていたんですか?

そうです。今でも家では、もっぱらレコードですねえ。あの作業が好きなんですよね。僕の世代ってレコードからCDに切り替わるギリギリの世代。だから幼少期から音楽が好きな人は、レコードの記憶があるんです。でも中学に入ってから音楽好きになった連中は、もうCDになってるから、レコードの記憶っていうのがあんまりない。僕はヒーローもののレコードを、子供用のプレイヤーでいつも掛けてたので、あの作業の楽しさを肌で覚えてる。マイケルのアルバム『バッド』は87年に出たんですけど、あの時期はレコードがあってカセットテープがあってCDがあって、3形態で売られてるっていうのをすごく覚えてます。ちなみにマイケルはカセットで持ってましたね。

渋!(笑)

僕がねだって買ってもらったのがたまたまカセットテープだった。ジャケットが小っちゃくてちょっとつまんないなって思いました。でも特に文句も言わずに、いっつもいっつも聴いてました。

和田唱

どんな風に聴いていたんですか?

僕のマイケル時代は小学校の終わりから中学のはじめで、小っちゃいときの戦隊ごっこがそのままマイケルのダンスになったようなものだったんです。「どうすればあのステップに近付くんだろう」と思って、鏡の前でいっつも踊ってました。マイケルのステップはホントに神懸かり的だったので、すっごく研究してました。マイケルの87年の日本公演の横浜スタジアムをテレビでやってたのでビデオに録りまして、よくも飽きずに毎日観てましたね。観ては「かっこいいなあーっ!」と思って、ステップを真似してました。僕、それでムーンウォークを習得したんですよ! 最初は何かのトリックにしか見えなかったんですけど、よぉーく見てると「あ、なるほど!」ってわかったときがあって。それを学校の廊下でやったら、クラスの女子たちは僕のことをバカにするわけですよ。

えっ、バカにされたんですか。人気者になったんじゃなくて?

そう。なぜなら、当時、マイケル・ジャクソンって、世界的な人気者ではありましたけども、小学生の間ではどっちかというと渋い。っていうか、奇人変人のレッテルを貼られてた。やっぱり女の子たちはみんな光GENJIですよ。ちょっとませてる子で、チェッカーズ。僕がマイケルマイケルって言うと「和田、気持ち悪い」って言われてましたからね。ホント失礼な話ですよね(笑)。

傷つきました?

傷つきましたよ、腹も立つし。「お前ら、何にもわかってないな」って思ってました。『バッド』のツアーが終わったあと、マイケルはすっかり世間から姿を消してしまった。その時期に僕はビートルズにものすごく夢中になったんです。きっかけは、よくよく考えてみるとマイケルが『ムーンウォーカー』っていう主演映画で「カム・トゥゲザー」をカバーしてたんですよ。僕はビートルズを知らなかったので「これはマイケルの新曲かな?」と思った。うちの親父と一緒に『ムーンウォーカー』を観に行って、「お父さん、最後の曲だけ知らなかったよ」って言ったら、「あれはビートルズの曲だよ」って教えてくれたんです。「なんでお父さんはそんなことを知ってるの?」、「あれはビートルズの有名な曲だから」って。それで僕は、「マイケルですらカバーしちゃうビートルズっていうのは、半端ないんじゃないかな」っていうところからビートルズを聴き始めた。思い起こせば『スリラー』の「ザ・ガール・イズ・マイン」っていう曲はポール・マッカートニーとマイケルのデュエットだったんだけど、僕はポールがビートルズのメンバーだったって知らなかったから、「僕はマイケルの歌を聴きたくて『スリラー』を聴いてるのに、なんでこんな知らないおじさんとデュエットしてるんだろう」と思って、「ザ・ガール・イズ・マイン」を僕はキュルキュルキュルキュルって早送りして聴かなかった。

ああ、カセットテープの早送りですね(笑)。

もうほんとに失礼な話ですよね。あとからすべて結びついて、「ポールさんごめんなさい」っていう(笑)。

和田唱

モテる連中が手にし始めたギターっていうものを、僕も手にしたら強くなれるような気がして

ギターを始めたのは?

僕の中学のクラスに、ちょっと気に食わないタイプの連中が数人いまして。勉強もソコソコできて、ルックスもわりと良くて、女の子にモテるようなタイプ――僕は引っ込み思案で、背も小っちゃかったし、すごく自分に自信のない少年だったんですよ。だから目立ってる人気者の人たちに、すごくジェラシーを感じて「何だ、あいつら、ヤだなあ」って思ってたわけですよ。そんな連中がエレキギターを持ち始めた。彼らはバンドブームに敏感で、『イカ天』を観てたんです。僕はまだ子どもっぽかったし、『イカ天』は知らなかった。ひたすら自分の世界=ビートルズに夢中で、ちょっと勉強してローリング・ストーンズを覚えて、ひたすら過去の音楽を遡ってた。僕にとってはそれがすごくロマンだったんですよ。みんなが知らない世界、みたいな感じで。でも彼らはリアルタイムで、ユニコーンとかジュンスカのバンドブームに敏感に反応していた。モテる連中が手にし始めたギターっていうものを、僕も手にしたら強くなれるような気がして、単純に「羨ましくて真似したくなっちゃったあ~」みたいな、そういうきっかけでギターを手にしたんですよね。

意外ですね。

ギターを始めてみたら、最初は面白くも何ともないわけですよ。だって、ギターの先生がいるわけでもないから、何もわからない。3万円のエレキを買ってもらったはいいけど、数ヶ月は置きっ放しにしてた。本には「ジョンもポールも独学でギターをマスターした」って書いてあるけど、どうすればマスターできるんだろうって不思議でしょうがなかったことを、昨日のことのように覚えてます。

ちなみにピアノは習ったことがなかったんですか?

小学生の頃、習ってたんです。ところが全然ダメな生徒だった。最後まで譜面が読めなかった。僕は学校が大嫌いだったから、譜面ってなんか学校の授業みたいに思えたんです。音楽は好きだったから、ピアノはどっちかというと僕にとっては好きなもののはずなのに、譜面になった瞬間、それが「学校の授業」になっちゃうんです。「勉強」になっちゃう。これが苦痛で苦痛で。

ピアノの経験は、ギターにはまったく役に立たなかったんですね。

まぁ後々いろいろとリンクはするんですが。でもギターは形がカッコイイですよね。

そこですか?(笑) やっぱり戦隊ものにつながりますね。

繋がるかもしれないですね(笑)。なんかエレキギターは、もしかしたら自分もできるようになるかもしれないっていう気配がしたんですよね。

で、何ヶ月かが経った。

そう。高校に入ったら、不思議とちょっとずつわかるようになってくるんですよね。相変わらず譜面はダメでしたけど(笑)。だからホントにもう、感覚でここまで来ちゃいました。ふはは!

和田唱

和田さんのは、感覚でできるレベルのギタープレイじゃないですよ(笑)。ところでご両親はまったく楽器をやらないんですか?

やらない……うちの母親は歌の仕事もちょっとしてたぐらいなんで、音楽好きなんです。ピアノはちょっと弾ける。っていうか、1曲だけ弾ける! ピアノに向かうと必ずそれを弾く。そういう人って、いるじゃないですか。

います、います(笑)。

それですよね、母は。で、親父は初任給でピアノを買っちゃった人なんですよ、弾けないのに。

弾けないのに?

ジャズが大好きで、ジャズをプレイする友だちがいっぱいいた。何のために買ったかっていうと、彼らを部屋に呼んで弾いてもらうためですよ。

ああ、自分が弾くんじゃなくて。

自分が弾くんじゃなくて、うちにピアノが弾ける友だちを呼んで、弾いてもらうために買ったって言ってました。

変わってるなあ(笑)。

だから、二人ともピアノは弾けないですけど、好きなんですよね。

でもギターの匂いは全然していなくて。

ギターの匂いはまるっきりなかったですね。だから僕はビートルズやローリング・ストーンズが好きで、すごく聴いてたくせに、自分でギターを弾きたいとは思わなかったんですよ。単純にアイドルとして彼らに憧れてた。「カッコいいなあー!」、それだけですよね。自分で彼らの真似をしてプレイしたいとは思わなかった。マイケルは自分の体ひとつあればダンスの真似ができるからいいんですけど、ギターっていうと大変そうじゃないですか。そこはピアノのトラウマもあるのか、「ギターを弾こう」って気持ちにはならなかったですね。

vol.1
vol.2
vol.3