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細野晴臣・忌野清志郎・坂本冬美による演歌とロックの融合トリオ「HIS」に再注目!

細野晴臣・忌野清志郎・坂本冬美による演歌とロックの融合トリオ「HIS」に再注目!

 『あばれ太鼓』でのデビューから30周年といメモリアルな年を迎え、大晦日は『紅白歌合戦』への出場も決定している坂本冬美。10月には、これまで影響を受けた演歌の名曲をカバーした『ENKA~情歌~』がリリースされたが、さらにもうひとつ、彼女のキャリアのなかでもジャンルを越えた成果といえる、あの名作が再注目されている。12月14日にCDとアナログでリイシューされた、HISの『日本の人』である(いまからちょうど25年前の1991年にリリースされた)。

 HIS? それは何? そんな方々に説明しよう。これは細野晴臣(H)、忌野清志郎(I)、坂本冬美(S)という、実に豪華な三人からなるユニットで、『日本の人』は、彼らの唯一の作品集にして今も魅力が衰えない、傑作なのである。でも、この三人はどのように出会ったのだろうか。ことの始まりは、忌野清志郎が坂本冬美の歌声に惚れ込み、オファーしたのがキッカケだった。両者は面識があったわけではないが、レコード会社が同じというご縁もあり、イベント・ライブでの共演が実現する。さらにレコーディングへと話が進み、プロデュースをしたのが細野晴臣だが、実は彼も、過去に忌野や坂本と共演経験があったわけじゃなかった。でも、勝手知ったる相手ではなく、ほぼ初対面同士ゆえに化学反応が起こり、新鮮な作品となったと言えるのだ。

 ジャンル的には忌野がロックで、坂本は演歌ということになるが、この二人、ふだんの自分のスタイルを変えることなく個性を同居させて、見事な共演を果たしている(デュオ曲もあるのだが、それを聴くとよくわかる)。さらに細野は、世界の音楽に精通する懐の深さでレコーディングに臨み、基本はアコースティックだがハートは熱い、ここにしかない“HISサウンド”を生み出した。

 結果ここに聴かれるのは、一枚のアルバムからはハミ出すくらい、バラエティ豊かな作品たちだ。ジミヘンやビートルズといったロックの有名曲をカバーしたものがあれば、モダン・フォークやラテン、さらに日本のムード歌謡まで、守備範囲は実に広い。さらに、主に忌野清志郎が書いたオリジナル作品も満載で、彼のソングライターとしての非凡さがひしひしと伝わる。

 そんな忌野作品のなかで、シックスティーズ的な雰囲気のある「恋人はいない」は、リード・ボーカルを坂本冬美が担当し、ポップ・シンガーとしての可能性を示した重要作品だ。その後の彼女の演歌の枠を越えた活躍のキッカケは、この時、芽を出し始めたという見方もできるだろう。でも逆に、「パープル・ヘイズ音頭」では、演歌の魂であるコブシを存分に炸裂させているのだ。しかし彼女のそれは、実に爽快で抜けが良く、胃にもたれないのである。

 忌野清志郎がリード・ボーカルを担当する作品では、「セラピー」が傑作だ。“セラピー”についての歌ではなく、この歌を聴くこと自体がセラピーとなり得るような、そんな造りになっている。そもそも彼の歌声には、心の奥まで訪ねてきてくれるような優しさも含まれていて、このようなタイプの作品では、その資質が存分に発揮される。一方、ユーモア・センスが光っているのが「渡り鳥」で、こちらは言葉遊びの楽しさに満ちている。この曲を聴いた後は、つい“?渡りぃ~鳥ぃ~ カモカモォ~?”と口ずさみたくなる(カモ以外にもカリ、キジなども登場する)。

 なお、CDやアナログを手にされた方は、ぜひミュージシャン・クレジットのところで、どんな楽器が使われているかにも注目して欲しい。南米のフォルクローレでお馴染みのチャランゴや、モロッコの打楽器のベンディール、さらに足踏みオルガンなど、このあたりも実に興味深いはずである。そして今回のリイシューにあたって、CDにはボーナス・トラックとして、「Oh,My Love ?ラジオから愛のうた?」と「 幸せハッピー」が加えられている。『日本の人』のジャケットには水引も結ばれているし、年末年始に如何だろうか?

文 / 小貫信昭

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