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そうだ、映画を観に行こう!『見逃した映画特集2016』開催中

そうだ、映画を観に行こう!『見逃した映画特集2016』開催中

年末年始は見逃していた映画をゆっくりと楽しみたい。そう考えている人も多いはず。だが最新作が揃うシネコンへと出かけると、公開初日の観客動員数が思わしくない作品は2~3週間で打ち切られるという厳しい現実を見せられてしまう。かつては二番館、三番館と呼ばれる街の映画館や名画座でロングラン上映やリバイバル上映が行なわれていたが、そういった支配人のこだわりを感じさせる映画館はすっかり消えてしまった。本当に観たい映画はスクリーンで、映画好きな人たちと一緒に笑ったり泣いたりして味わいたいもの。そんな映画マニアの願望を叶えてくれるのが渋谷アップリンクで開催中の“見逃した映画特集2016”だ。2016年の映画界を賑わした名作&話題作40本が2月3日(金)まで連日上映されており、マニア心をしっとりと落ち着かせてくれる。

文 / 長野辰次


“見逃した映画”で振り返る2016年の映画シーン
メジャー進出した新鋭監督たちの異色作に刮目!

コミック原作の実写化『アイアムアヒーロー』『ヒメアノ〜ル』『ミュージアム』に加え、実在の連続無差別殺人事件を題材にした『葛城事件』など過激なバイオレンス作品が話題となった2016年の邦画界。ハードな暴力描写を盛り込んだ一連の作品の中でもひときわ異彩を放ったのが、真利子哲也監督の商業デビュー作『ディストラクション・ベイビーズ』だ。圧倒的な暴力にどう対処するかを描くことが多かった従来のバイオレンス映画とは異なり、『ディストラクション・ベイビーズ』の柳楽優弥演じる主人公は、自分の内側から湧いてくる暴力衝動に正直に生きようとする。自分より強そうな相手を見つけては無謀にもケンカを挑み、何度殴り倒されてもそのたびに起き上がり、打たれ強さを増していく。世間の常識に縛られることのない若者の暴走を描いた異色青春映画となっている。興収80億円を超えた大ヒット作『シン・ゴジラ』に引けを取らない、柳楽の怪物級の暴れっぷりが見もの。システマチックな現代社会に息苦しさを感じている人ほど、共感を覚える作品だろう。また、主人公のアウトローぶりに次第に感化されていくチャラい高校生役に菅田将暉、刺激のない田舎暮らしに辟易しているキャバ嬢役に小松菜奈と大ブレイク中の若手キャストが配されているのも注目ポイント。『溺れるナイフ』で再共演することになる菅田と小松が共演したクレイジーな青春ものとしても記憶したい。

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©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

真利子監督と共に、これからの邦画界で注目のクリエイターとなりそうなのが『貞子vs伽椰子』でメジャー進出を果たした白石晃士監督。すでに白石監督はフェイクドキュメンタリーの第一人者として業界では名前を知られており、オリジナルDVD『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズは低予算ながらエンターテインメント性の高い作品として、ホラーファンから熱い支持を得ていた。『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最怖の劇場版』(14年)は渋谷アップリンクで公開され、また同時にニコニコ生動画で『コワすぎ!』シリーズの一挙上映が組まれたことから大きな反響を呼び、角川映画『貞子vs伽椰子』の監督に抜擢されたという経緯がある。手垢がついた状態だったJホラー界の二大アイコンである『リング』シリーズの貞子と『呪怨』シリーズの伽椰子を巧みにリブートさせた小気味よい演出手腕は、ホラーファンならずとも魅了されるに違いない。『貞子vs伽椰子』をスマッシュヒットさせた白石監督にとって、今回のアップリンクでの上映はいわば凱旋興行となる。『貞子vs伽倻子』にハマった人は、白石監督がカメラマン役で出演も兼ねている『ある優しき殺人者の記録』(14年)や『コワすぎ!』シリーズにも手を伸ばしてみてほしい。今までの劇映画にはない、新しい面白さを発見できるはずだ。

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©2016「貞子vs伽倻子」製作委員会

邦画の話題に隠れがちだったが、洋画も見逃せない秀作が多かった。大混戦だった2016年のアカデミー賞で作品賞&脚本賞に選ばれたのは『スポットライト 世紀のスクープ』。カトリック教会が児童への性的虐待の温床となっており、長年にわたって教会はその事実を隠滅してきたことを暴いた実録社会派サスペンスだ。ボストンのローカル新聞社に勤める記者たちが主人公だが、バチカンぐるみの組織的な犯罪に挑んだ正義のヒーローに美化して描くことなく、数十年前から被害者が訴え続けてきた問題を無視してきた罪の意識についても言及している。

また、『レヴェナント:蘇えりし者』もアカデミー賞主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ)、監督賞(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)、撮影賞(エマニュエル・ルベツキ)の3冠に輝いた力作。撮影監督のルベツキは『ゼロ・グラビティ』(13年)、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14年)に続く3年連続のオスカー受賞となった。生命の尊厳を問う荒涼とした大自然の景観は、ぜひともスクリーンで堪能したい。

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Photo by Kerry Hayes©2015 SPOTLIGHT FILM,LLC

劇場アニメ『君の名は。』『この世界の片隅に』は現在もロングラン上映中だが、そんな日本発のアニメーション文化が世界各国に浸透しつつあることを感じさせるのがスペイン映画『マジカル・ガール』。日本では子供の頃から親しまれてきた“魔法少女”をモチーフにした実写ドラマであり、主人公になりきって作品世界を享受するコスプレ文化をシニカルな視点から描いたものとなっている。難病を患っている娘アリシアを喜ばせようと、失業中の父親ルイスが人気アニメ『魔法少女ユキコ』の特注衣装をネットで購入しようと犯罪に手を染めるというストーリー。アニメの世界に憧れる無垢な少女の祈りが、現実世界で呪いに変わってしまうという超ブラックな風刺ドラマとなっている。本作でデビューを果たしたカルロス・ベルムト監督は、劇中アニメの参考にした『美少女戦士セーラームーン』のみならず、『魔法少女まどかマギカ』のダークな世界観にも影響を受けたと語っている。日本では決して生まれることのない、キリスト教文化圏ならではの異色作だろう。すでにDVD化されてはいるものの、この独特な世界観には映画館の暗闇でじっくりと向き合いたい。

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Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

邦画洋画を合わせると年間1,000本以上の作品が劇場公開され、映画マニアや映画評論家でもチェックしきれない状況にある日本の映画界。奥渋谷の隠れ家的存在となっているアップリンクが選んだ“見逃した映画”を参考に、2016年の映画シーンを振り返るのもこの年末年始の楽しみではないだろうか。

『見逃した映画特集2016』

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【日程】2016年12月24日~2017年2月3日(金)
※12月31日(土)と1月1日(日)は休館
【会場】アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル)

上映スケジュールはオフィシャルサイトをご参照ください。
オフィシャルサイト http://www.uplink.co.jp 

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