LIVE SHUTTLE  vol. 88

Report

佐野元春が演出した、パーティのようなクリスマス・ライブ

佐野元春が演出した、パーティのようなクリスマス・ライブ

佐野元春 & THE COYOTE BAND
L’ULTIMO BACIO Anno 16 Rockin’ Christmas 2016
2016.12.20 恵比寿ガーデンホール

 このところ、佐野元春はクリスマスにスペシャル・ライブを行なっている。椅子席の会場で、ロビーにはフードやドリンクが用意され、開演前にゆっくりくつろぐことができ、ライブも2部制で途中にあるインターミッションでもおしゃべりや飲み物を楽しむことができる。オールスタンディングの熱気あふれるライブもいいが、クリスマスの友達同士のパーティのようなライブもまた楽しい。そんなイメージが定着して、今年の“佐野元春&THE COYOTE BAND L’ULTIMO BACIO Anno 16 Rockin’ Christmas 2016”の会場はリラックスした雰囲気が漂っている。
 やがて4ビートのリズムのクリスマス・ソング「ウィンター・ワンダー・ランド」が流れる中、THE COYOTE BANDのメンバーがステージに入ってきた。演奏が始まって、すぐに佐野が姿を現わす。短くカットしたシルバーグレーの髪が精悍さを感じさせ、会場から歓声が上がる。佐野はうなずきながら胸の前でハンドクラップして、それに応える。「2,3,4」と佐野がカウントして「境界線」が始まった。
 2015年のアルバム『Blood Moon』からのナンバーだ。穏やかで熱いうねりが、徐々に広がっていく。♪生まれた意味を探るたびに 何か 少しずつ失くしていく♪というリリックからは、悲壮感よりも前進する気力が伝わってくる。続いて2013年のアルバム『ZOOEY』から「La Vita e Bella」。ギター・ソロで深沼元昭(Mellowhead)と藤田顕(PLECTRUM)の2人がステージ前に出てきて、オーディエンスとの距離を縮める。佐野もバンドメンバーも会場を見渡しながら演奏していて、ゆったりとした心地よいオープニングだ。
 「ありがとう」と佐野はひと言挨拶して、アコースティック・ギターを抱えて「夜空の果てまで」を歌う。サビではベースの高桑圭(Curly Giraffe)とキーボードの渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)がハーモニー・ボーカルを付けて、バンド・サウンドの温かみが感じられる。

「今年も集まってくれて、ありがとう。今、THE COYOTE BANDと新しいアルバムの制作をしています。来年の春くらいにはみんなの元に届けられるんじゃないかな。待ちきれずに出した新しいシングルの曲をやります」と「新しい雨」を歌う。
「ありがとう。新しい曲、気に入ってくれたかな。新しいシングルからもう1曲やります。熟年の愛についての歌です」。
 小松シゲル(NONA REEVES)の繰り出すゆったりとした8ビートに乗って沁み込んでくる「或る秋の日」のロマンティックな歌詞が、プライベート・パーティのような今夜のライブによく似合っている。佐野元春の歌と共に人生を過ごしてきた仲間に向かって放たれた歌のひとつだ。終わって、「THE COYOTE BAND!」と叫ぶ佐野に応えて、オーディエンスが拍手を贈る。

「去年出した大事なアルバム『Blood Moon』から聴いてもらいます」。
 ギロが刻むリズムに乗って、渡辺がラテン・テイストのピアノ・リフを弾き始めると拍手が起こる。「バイ・ザ・シー」だ。ライブの前半は2010年以降の曲で構成されている。
「僕のレパートリーには2曲、クリスマスソングがあります。1曲は『クリスマス・タイム・イン・ブルー』で、もうひとつの曲をやろうと思うんだけど、前にみんなに歌ってもらったら、あまりうまくいかなかった。でも歌いたくなったら、どうぞ」とユーモラスに佐野は言って、2013年に発表した「みんなの願いかなう日まで」を歌う。リフレインを会場中が歌うと、とても嬉しそうな顔をしたのだった。本当に親しい仲間のパーティのようだ。よく笑い、よく話す佐野元春。オフビートなジョークも楽しく、前半はスムーズに終わった。

 インターバルの後、何やら紙切れを片手にステージに戻ってきた佐野が、話し出す。
「みなさん、フードを食べた? メニューを読もう。“マッシュルームと生ハムのピザ”、ふむふむ、“紅茶豚”って何? 紅茶を食べて育った豚? いなり寿司? 出汁巻タマゴ? 和風だなあ」。前半と同じく、フレンドリーなMCに会場が沸く。だが、後半のサウンドはパワフルなロックのニュアンスを強めていく。「ポーラスタア」や「私の太陽」は、ロックのインテリジェンスにあふれている。佐野は1曲終わるごとに「みんな、いい感じ?」と楽しそうに問いかける。「座りたい? 大丈夫? じゃ、続けるよ」。
「空港待合室」の後、「みんな、いい感じ? 来てよかったと思ってる? じゃ、ダンスを続けよう。80年代の曲をやります」と「カム・シャイニング」。コンピュータを使わないダンス・ミュージックの力強いグルーヴが、オーディエンスの身体と心を揺さぶる。いよいよライブはピークに向かって登り始めた。
「みんな、いい感じ! 僕らは楽屋で少しワインを飲んでた。クリスマスだからね。クリスマスと言えば、この曲。ラジオから流れてくることがあると、ちょっと気恥ずかしい。でも、誇りに思う」。
 高桑がベースで「クリスマス・タイム・イン・ブルー」のフレーズを弾き始めた。オリジナルとフレーズは同じなのに、ニュアンスはすっかりTHE COYOTE BANDのものになっている。
 オーディエンスのほとんどが佐野と一緒に歌っている。♪泣いてる人も 笑っている君も 平和な街も 闘ってる街も♪というフレーズが、例年以上に心に刺さる。それでも今夜はクリスマスを祝おうというメッセージの永遠なことを、オーディエンスもミュージシャンも佐野自身も噛みしめている。エンディングで佐野はにっこり笑ってマイクをスタンドに戻し、右手の拳で左の胸を叩いた。
「ほーんとに嬉しい」と佐野。オーディエンスも開演前よりずっと幸せな表情をしている。本編最後の曲は「約束の橋」だった。

 アンコールで佐野は、真っ赤なプルオーバーを来て現われた。拍手と歓声が起こる。「なんか文句ある?(笑)。クリスマスの時間をここで過ごせるのが嬉しいです。このライブは東京だけなので、来られない人にも届くように歌いたい」と「ソー・ヤング」。続いて「誰かが君のドアを叩いている」を歌った後、サプライズが待っていた。
「素敵な瞬間を氷漬けにしたいと思ったこと、ある? ちょうど今のように、この瞬間を真空パックしたい・・・・何、あいつはバカなこと言ってんだよって思ってだろ(笑)。マネキン・チャレンジって知ってる?」と佐野。マネキン・チャレンジは、そこにいる全員がストップモーションをして、ビデオカメラがその模様を撮るという遊びだ。
「これから僕らは楽しい曲を演奏する。その曲のエンディングで僕がカウントするから、そうしたらみんな止まって欲しい。動いちゃダメだよ。パックするんだから、我慢するんだ。そうすれば大きな喜びがやってくる」。
「ナイトライフ」をみんなで楽しんだ後、その瞬間がやってきた。佐野もメンバーもオーディエンスも、ピタッとストップしている様子を、カメラマンがじっくり撮影する。ストップが解けたとき、会場は大笑い&大喜びだった(注:この動画は公開されているので、興味のある人はチェック!)。
 みんなでバカ騒ぎした後、もう1曲オマケに「アンジェリーナ」を演奏する。ニューアルバムをレコーディングしている充実感が佐野とバンドに満ち溢れ、エネルギーが思い切り解き放たれたクリスマス・ライブは大成功のうちに幕を閉じたのだった。

文 / 平山雄一 写真提供 / © DaisyMusic

 

佐野元春

東京生まれ。1980年、レコーディング・アーティストとして始動。83~84年のニューヨーク生活を経た後、DJ、雑誌編集など多岐にわたる表現活動を展開、1992年、アルバム『スイート16』で日本レコード大賞アルバム部門を受賞。2004年に独立レーベル「DaisyMusic」を始動し現在に至る。代表作品に『サムデイ』(1982)、『ビジターズ』(1984)、『スウィート16』(1992)、『フルーツ』(1996)、『ザ・サン』(2004)、『コヨーテ』(2007)、『ZOOEY』(2013)、『BLOOD MOON』(2015) がある。

オフィシャルウェブサイト「MWS」
http://www.moto.co.jp/

オフィシャルYouTubeチャンネル
http://jp.youtube.com/DaisyMusic

オフィシャルFacebookページ
https://www.facebook.com/motoharusano

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