Interview

デジタルゲームの開発者がアナログゲームを作る理由

デジタルゲームの開発者がアナログゲームを作る理由

年々、規模を拡大しながらの盛り上がりを見せている国内最大級のアナログゲームイベント、ゲームマーケット。その詳細についてはこちらの記事などをご覧いただくとして、現在、国内だけで1,000人とも言われるアナログゲーム制作者の中には、もともとデジタルゲームの開発に関わっていた方や、今もそちらを本業としている方も珍しくない。先ごろ開催された「ゲームマーケット2016秋」に、初めて出展者として参加した(株)DokyoGamesの清竜也(せい・たつや)さんもそのひとりである。今回、カードゲームの『にんにん★にんじゃ』を初プロデュースし、2018年までに3~4作のアナログゲームの制作販売を予定しているという。なぜ今、デジタルゲームの開発者はアナログゲームを作るのか?

取材・文 / 遠藤栄慧


▲先のゲームマーケットで出展デビューを果たした清さん。その経緯や思いを伺った

▲先のゲームマーケットで出展デビューを果たした清さん。その経緯や思いを伺った

 今回お話を伺った清さんは2000年代初頭にエニックス(現スクウェア・エニックス)のモバイル事業部でゲーム開発のキャリアをスタート。小さいころから人と遊ぶのが好きで、人と人との関わりから生まれるエンタメ体験、それを補助するようなゲームやサービスを自分でも作ってみたいという気持ちからモバイル事業部を志望したという。同社で”堀井雄二ミステリー三部作(『ポートピア連続殺人事件』:2001年、『北海道連鎖殺人オホーツクに消ゆ』:2001年、『軽井沢誘拐案内』:2002年)”のiモード移植などを担当した清さんは、その後キューエンターテインメントで『ガーディアンハーツオンライン』(2009年)、ジンガで『モントピア』(2012年)といったオンラインゲームやソーシャルゲームをプロデュース。2013年に(株)DokyoGamesを設立し、現在はスマートフォン用ソーシャルゲームの開発やコンサルタントを主業としている。この経歴だけを伺う限り、まだアナログゲーム……ボードゲームやカードゲームとの接点は見えてこないが、そもそも会社の立ち上げからしてアナログゲームと完全に無関係ではなかったようだ。

 「じつは、独立したときにスマートフォン用のTCG(トレーディング・カード・ゲーム)アプリを2年ほど開発していたんですが配信できず……(苦笑)。そちらもいつか発表したいと思っているのですが、今は人数を絞ってコンサルタント中心の事業をしています。テレビゲーム同様、もともとアナログゲームも好きで、小・中学生のときから『おばけ屋敷ゲーム』や『スコットランドヤード』で遊んでいました。自分でコレクションしたり、本格的に遊ぶようになったのは’90年代後半、大学生になってからです。『ミシシッピークイーン』とか『ピクショナリー』とかを友人たちに紹介して遊んでいました」

▲清さんのアナログゲーム棚の一部。テレビゲームのほうも、昔から多人数で遊べるようなパーティーゲーム系を好んでプレイしていたという

▲清さんのアナログゲーム棚の一部。テレビゲームのほうも、昔から多人数で遊べるようなパーティーゲーム系を好んでプレイしていたという

 ’90年代後半というと、近代ボードゲーム界に革命をもたらしたとも言われる『カタンの開拓者たち』を筆頭に、ドイツ生まれのアナログゲームがそれまでにない活気を見せていたころである。現在、アナログゲームを趣味としているファンの中には、この時期にアナログゲームの虜になった方も多いのではと想像するが、まだまだ同好の士を見つけるのが難しかった当時、清さんは比較的プレイ環境にも恵まれていた。清さんが在籍していたころのエニックスはボードゲームも作っていたため、清さんは社内でも遊び仲間を見つけ、より深くアナログゲームに接するようになっていったという。

 「その頃から、いつかアナログでもゲームも作りたいという思いはずっと持っていました。今回『にんにん★にんじゃ』を作ったメンバーも、この十数年ずっといっしょに遊んできたボードゲーム仲間なんです」

 多様なゲームを体験してきたフリークたちが、戦略あり、リソース管理あり、コミュニケーションその他ありのリアル・ワーカープレイスメントであるアナログゲーム制作に行き着くのは、ごく自然な流れなのかもしれない。アナログゲーム制作の魅力として、清さんは「チャレンジのしやすさ」を第一に挙げる。

 「デジタルのゲームだと最短でも半年、長いと2年くらいかかってしまうので作るのも出すのも大変です。一方、ボードゲームやカードゲームの場合、システムを作ってしまえば半年に1作とか、やろうと思えば1ヵ月に1作とか作っていけるので、チャレンジがどんどんできます。テストプレイもすぐにできるし、どんどん調整しながら作っていける。成功と失敗のタームを早くできるので、自分の”作りたい欲”が非常に満たされるんです。少人数の力で1個のゲームを作り上げられるので、達成感も高いですよね。デジタルでちゃんとしたものを作ろうとするといろいろ重厚にしがちですが、アナログゲームの場合は足し算よりも引き算が合っているというか、ルールやデザインなどの大事な部分にだけ絞って作り込んでいく点も新鮮でした」

 デジタルゲームに比べて予算、時間、人数など低コストで完成まで持っていける点は、多くの制作者が挙げるアナログゲームならではのメリットである。ただ清さんの場合は、それ以上にアナログゲームのファンであるという理由が大きかったという。

 「デジタルゲームを作っている人って皆ゲームを作りたくて業界に入ってきているので、『もっと作りたい』、『もっとチャレンジ』したいと思っている人は多いと思います。僕の周りだと、インディーズでデジタルゲームを作っている人もすごく増えていますし。僕らの場合はちょうど好きだったアナログゲームだったのかなと」

 以前、とあるソーシャルゲームの開発者に話を伺った際、「自分たちが気持ちを込めて作ったゲームが、サービス終了とともにパっと消えてしまうのが何とも切ない」と嘆いていたのが印象に残っている。近年、ソーシャルゲームのコンサルタントを本業としている清さんにも、そのようなフラストレーションがあったのでは……と穿った質問を投げてみた。

 「切ないですよね(苦笑)。今回、スタッフ皆が言っていて、僕もいちばん感じたのは、実際に目の前で売ることができること、それがかなり嬉しいということでした。自分が関わっているデジタルゲーム、それこそフリーミアムのゲームだと何百万人に遊んでもらえたりもするわけですが、そのフィードバックって、そんなに顔が見えたりするものでもないので……。ボードゲームマーケットでも、試遊していただいた方の感想を間近で受け取れましたし、直接お客さんの顔を見られるのはかなり新鮮でした。アナログゲームはそれ単体でどこでも、電気がなくても遊べるというのも嬉しいですよね。友人や親戚にポンとあげて「家族で遊んでください」とか言えますし。逆にデメリットは、当たり前ですが、原価と在庫がある点でしょうか。『にんにん★にんじゃ』はまだほとんどプロモーションなどをしていないので、これから売りかたも考えていかなければと思っています」

▲先日のゲームマーケットでは、ある程度納得できる結果を出せたと語る清さん。自身の強みとして、本業で培ってきたプロデュース力を挙げる

▲先日のゲームマーケットでは、ある程度納得できる結果を出せたと語る清さん。自身の強みとして、本業で培ってきたプロデュース力を挙げる

 「今回、最初はまず敷居の低い作品を出したいと思い、ライトユーザーに向けて『にんにん★にんじゃ』を作りました。ゲームマーケットでは、まったく内容を確認せずにジャケ買いしていく方が多かったのにもびっくりしましたが、試遊された方の7、8割に買っていただけたので、1作目にしては狙ったところに行けたかなと思っています。ただ一方で、ゲームマーケットで売るにはライトに寄せすぎちゃったかも、とも感じました。アクを抜き過ぎたというか、『これだ!』という個性が足りなかったのも事実だと思いますので、そこを今後どうしていくか、今すごく考えています。あと、携帯性にこだわったあまり、少しパッケージを小さくし過ぎてしまったのも反省点かもしれません(苦笑)」

にんにん★にんじゃ

『にんにん★にんじゃ』は、修行中の忍者見習いたちが一人前の証である「秘伝の書」をめぐって忍術合戦を繰り広げるゲーム。他の人の手札を覗き見る「抜き足 差し足 忍び足」や全員が手札を交換する「煙玉」など、さまざまな効果を持つカードを使って全員の手札の中に1枚しかない「秘伝の書」カードを手に入れ、最後の手札として場に出した人が勝利となる。

発売元:株式会社DokyoGames
予価:2,160円(税込)
プレイ人数:3~6人
プレイ時間:30分


『にんにん★にんじゃ』では海外展開も視野に入れ、イラストの線を太めにしたり、カードのUIを工夫したりしたという。先日のゲームマーケットでは韓国や台湾のバイヤーにも興味を持ってもらえたとのことで、夢は広がる。

「今、来年(2017年)の春に出すものを作っていますが、年に2作は出すようにしていきたいですね。まずは続けていくことが大事だと思っています。ただ、趣味と言ってしまうと語弊があるのですが、事業スキームとは別のところで、自分がやりたいからやっているところも大きいです。チャレンジしやすいとはいえ、やはり手間はかかりますし、それほど大きなリターンを見込めない現実もあるので、好きじゃないと続けられないと感じる部分はあります」

市場規模はまだデジタルゲームに遠く及ばないものの、近年の作品数の増加、ことに国内における自主制作者の増加率には目を見張るものがあるアナログゲーム市場。今回、自身も今後に向けた支援を募った(*1)清さんは、「個人の方は初期の制作資金の問題が大きいと聞きますが、クラウドファンディングを有効活用することで制作費のリスクを減らすことができます。多くのアナログゲームデザイナーが生まれ、それに投資するユーザーが増えることで、よりアナログゲーム業界が活性するとよいと思います」と語る。


*1 にんにん★にんじゃ応援プロジェクト(2016年12月30日終了)
https://camp-fire.jp/projects/view/15848?token=2hoqaq16#main


この状況の中、デジタルゲームの開発経験者がアナログゲームを作るうえでの強みなどはあるのだろうか?

「今これだけ作り手がいて、これだけ触って、一気にここまで規模が大きくなっている状況って、たぶん世界的にも珍しいですよね。10年くらい前の韓国が似た感じだったのかもしれないですけど、ここまで作り手は増えていないと思います。実際、2011~12年ごろからの日本のカードゲームなどにはすごくよくできているものが多いと思いますし、国内のアナログゲーム開発力の成長も感じます。僕自身はプロデューサーとして、作品ごとにベストなデザインやアートワ-クを選んでいきたいと思っています。オインクゲームズ(*2)さんなどはすごくデザインにも凝っていますが、とくにインディーズでは、海外に比べてまだアートに凝った作品がそれほど多くないように思います。日本的な絵柄のもの、アニメ調のものなど、キャラクターも含めて作品に合ったものをプロデュースしていきたいですね。また、今いっしょにゲームデザインをしているオグランド(*3)さんを軸に、他の方とのコラボも計画しています。特定の専門分野に詳しかったり、アイデアはあるんだけど形にするのが難しいという人もいるので、それをどうやって売るのかまで含めてサポートしていきたいと思っています」


*2 スタイリッシュなデザインのアナログゲームを多数制作。2015年、『海底探険』で第1回ゲームマーケット大賞を受賞。

*3  『にんにん★にんじゃ』のゲームデザイナー。アナログゲームの普及活動も長年行っている。
あそびつながるLabo.(http://blog.livedoor.jp/ogu_resort/)


日本の『街コロ』がドイツ年間ゲーム大賞2015にノミネートされたときは本当に嬉しかった、と清さんは目を細める。世界のアナログゲーム賞の中でもっとも歴史と権威があるとされる賞の選考に日本の作品が最後まで残ったことは、アナログ/デジタルの垣根を越えて、多くの日本のゲーム開発者に勇気を与えた。

「僕らも含めて、いつか日本から大賞を取れるゲームを出したいですよね。今後もアナログゲームを出し続けていくので、作りたい人がいたらぜひ声をかけてほしいし、やりたいと思っている人がいたらどんどんやってみてほしいです。思っている以上に楽しいです(笑)」

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