年末特別企画・es執筆陣が選ぶ2016年エンタメベストコンテンツ  vol. 5

Column

【音楽評論家が選ぶベスト3】ロックを聴き始めて以来、遠くにやってきたんだなあと実感

【音楽評論家が選ぶベスト3】ロックを聴き始めて以来、遠くにやってきたんだなあと実感

2016年、今年も様々な音楽、映画や舞台、アニメ、ゲームなどの様々なコンテンツがこの世に送り出され、僕たちを大いに楽しませてくれました。師走を迎えて、TVや雑誌、WEB等の各メディアが、盛んに2016年のエンターテインメントを総括する企画をオンエア・掲載していますが、「エンタメステーション」も、【es執筆陣が選ぶ2016年エンタメBEST 3】と題したスペシャル特集を実施致します。より自由で独自な見解をベースに、日頃からesサイトで活躍する気鋭の執筆陣に、それぞれのBEST 3を選出してもらいました。第5回の今回は、音楽評論家・天辰保文さんの寄稿。ぜひ読者の方々もご一緒に、今年の素晴らしい作品、印象的なコンテンツを振り返ってみるのはいかがでしょうか?


天辰保文が選ぶベスト3
デビッド・ボウイ
デビッド・ボウイ
『★』

ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル


ヴァン・モリソン
ヴァン・モリソン
キープ・ミー・シンギング

Exile / Caroline / Hostess


DAY OF THE DEAD
The National 他
DAY OF THE DEAD

Hostess Entertainment


こういう音楽を聴いていると、つくづく思う。過去がなければ、現在も、ましてや未来もないのだと

文 / 天辰保文

ミュージシャンたちが相次いで旅立った一年だ。今年に限ったことではないが、それに、漠然とした思いにすぎないが、ロックを聴き始めて以来、遠くにやってきたんだなあと、ここまでしみじみと実感させられたのは初めてだった。デヴィッド・ボウイ、グレン・フライ、ポール・カントナー、ダン・ヒックス、スティーヴ・ヤング、マール・ハガード、プリンス、ガイ・クラーク、レナード・コーエン、レオン・ラッセル等々、有名無名を問わず、本当に多くの人が彼岸に渡った。

それも、ほとんどが60代、70代の人たちで、若い頃、むさぼるように聴いた人たちだ。確たる理由などなく、ただ、ロックが聴きたかった。誰よりも、たくさん聴きたかった。そして、日々、新しい驚きと喜びをもたらすロックとの出会いに興奮しながら、いろんなことをそれらの音楽と、その周辺の情報から学んでいったような気がする。あれから、ぼくらは、少なくともぼくは想像以上に遠くにきたのかもしれないな、と思う。

改めて、デヴィッド・ボウイの『★』を聴いた。もちろん、彼の遺作となったアルバムで、今年最も深い印象を残したアルバムの1枚だ。それを初めて耳にしたときさえもが、随分と前のことのように思えるが、アルバムから溢れ出る凄まじいエネルギーに圧倒され、改めて驚いてしまった。この1年という歳月がなかったかのように、一気に引き戻されてしまった。これはいったいなんなんだろう、と思う。懐かしいとか、そういうのとは明らかに違う、むしろ、初めて耳にするかのような新しい体験なのだ。

『ユー・ウォント・イット・ダーカー』で、「準備はできている」と歌って旅立ったレナード・コーエンにも言えるのだが、死を覚悟した人が、そのときにしか描きえないものに、ぼくは言葉を失い、圧倒されているのかもしれないと思う。死を美化するわけではないが、人間の尊厳や価値というようなものを、音楽を通してずっと問い続けた人たちだからこその、そこには、新しい形としての、死もまた表現の一つなのだと思わせる強い力を見せつけられた気がする。

そうやって、次々と仲間たちが消えていくいっぽうで、歌い続けて半世紀を超える人もいる。71才になったヴァン・モリソンのことだ。前作『デュエッツ: リワーキング・ザ・カタログ』は、いろんな人たちとの共演によるセルフ・カバー集だったので、新作『キープ・ミー・シンギング』は、『ボーン・トゥ・シング : ノー・プラン・B』以来の新曲集になる。つまり、「歌うために生まれた、他にプランはない」に続いて、今回は、「歌いつづけさせてくれ」ということだ。

そして、表題作では、サム・クックの「ザッツ・ホエア・イッツ・アット」と「レット・ザ・グッド・タイムス・ロール」の曲名を持ち出しながら、「人生を価値あるものにしてくれる、それは、些細なこと、ソウル(魂)を持った仲間がいると知ること」だと歌う。

アルバムには、一曲だけ、カヴァーがある。1963年、ボビー・ブルー・ブランドが初録音して以来、アリサ・フランクリンやザ・バンドでもお馴染みの「シェア・ウィズ・ラヴ」だ。ぼくは、これを聴くたびに、リチャード・マニュエルの歌声がヴァンの声に重なってきこえる。二人が、ザ・バンドの「4%パントマイム」で、酔っぱらいを見事に演じながらのデュエットする姿が、さらにそこに加わってくる。「歌いつづけさせてくれ」、このアルバムに、このカヴァー以外には考えられないように、そうやって、良い場所に良い歌たちが並べられ、居心地良く響きあっている。特別変わったことをやっているわけではない。ただ、それだけだ。だから、最高に素敵だと思う。

『DAYS OF THE DEAD』では、グレイトフル・デッドの50周年と、エイズ撲滅を掲げて活動する団体レッド・ホット・オーガニゼーションの25周年とを祝って、若い世代が、デッドの曲をカヴァーしている。ウィルコ、ウォー・オン・ドラッグス、ジム・ジェイムス、マムフォード&サンズ、サム・アミドン、カート・ヴァイル等々、こちらも名前をあげて行ったらきりがないくらいだ。合計59曲、CDで5枚組。これを、中心になって実現させたのが、ザ・ナショナルのアーロンとブライスのデスナー兄弟だった。

こういう音楽を聴いていると、つくづく思う。過去がなければ、現在も、ましてや未来もないのだと。と同時に、未来が想像できなければ、過去も、現在も存在する意味がないのではないか、と。そんなことを考えさせられる1年だった。

ちなみに、つい先日、グラミー賞のノミネートが発表され、坂本龍一とアルヴァ・ノトことカールテン・ニコライが、アレハンドロ・イリャリトゥ監督映画『レヴェナント : 蘇えりし者』でノミネートされた。そこでは、もうひとり音楽に携わった人物がいて、それが、ブライス・デスナーだった。サントラ盤には、3人で共作したものも、複数含まれている。

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