LIVE SHUTTLE  vol. 91

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Salyuと小林武史が創り上げた唯一無二の宇宙感

Salyuと小林武史が創り上げた唯一無二の宇宙感

暮れも押し詰まった12月28日。代官山のライブハウス「晴れたら空に豆まいて」へSalyuを聴きに行った。この日のライブは「a brand new concert issue “m i n i m a ” – ミニマ -Salyu ×小林武史 vol.3 add. 」と題されたもので、“ミニマ”とは、これまで二人が続けてきたコンサート・シリーズだ。ゲストが加わることもあるが、今回は二人だけのステージ。なお、語尾に“add.”とあるのは、12月20日に「めぐろパーシモンホール」で行われた“- holy night -”の続編という位置づけだからだろう。

Salyu  

今回の会場「晴れたら空に豆まいて」のフロアは畳敷きであり、靴を脱いでの入場となる。最初ちょっと面倒くさいなぁと思ったけど(スミマセン)、入ってみれば、やたら落ち着く。満員のお客さん達と、ひざをつき合わせて、この日の主役を待つ感じ。やがて開演。近い。すぐ目の前だ。手が届きそうなとこにマイクスタンドがあるのは入場時に分かっていたが、主役達の登場で、ひときわそれを実感する。
 1曲めはジョニ・ミッチェルの名曲「River」のカバーだった。カリフォルニアに住んでいたジョニが、故郷・カナダのクリスマスを想い、作った歌だ。Salyuは歌詞の一字一句も疎かにせず歌う。原曲への敬意からだろうし、この日、たくさん歌われた洋楽のカバ−すべてに共通することでもあった。

 

Salyuの歌声。広いところ狭いところ、中ぐらいのところ、屋内屋外、何度も聴いたことあるが、かつて小林が評したとされる彼女の特質である“天に向かい地に響く”ということの意味を、改めて噛みしめる夜でもあった。デュアル、つまり相対するふたつのものが、ひとつの場所から発せられることから生まれる宇宙観…。突き抜けつつ包み込む、そんな歌声は唯一無二。彼女だけのものだ。

Salyu  

一方、すぐ横でグランド・ピアノを弾く小林武史だが、カバーゆえ、音楽センスの見せ所でもある。もはや巨匠の彼に対して“見せ所”だなんて失礼な言い方かもしれないが、例えばこの「River」の原曲アレンジは「ジングル・ベル」の旋律がさり気なく織り込まれている。小林の解釈は、それをあからさまになぞるのではなく、彼ならではの背景の膨らませ方であった。この日演奏された別のカバー曲、カーペンターズでお馴染みの「Colse To You」だったら、リチャード・カーペンターのピアノの♪ティロリン…ティロルン♪のキメ・フレーズの呪縛から、事に解き放たれた、新たな“この曲らしさを響かせていた。

 

ひとしきり歌ったあとのSalyuのMCは、実に寛いだものであり、此処で以前も歌ったこと、今回、こういう形で呼んで貰えて再び歌える喜びなどを語っていた。さらに小林とのやりとりが、もちろん長い師弟関係というか共演関係というか、それが成せることだろうけど、いい感じに肩の力が抜けたものであり、時に場内の笑いも誘ったのだった。

ピアノと歌だけというと、物音たてることも憚れる、緊張感溢れるものを想像したが、SalyuはMCで、空気が乾燥している季節だし、もしお客さんの中に咳払いしたくなったヒトがいたならどうぞ遠慮無く、といった配慮もしてくれたのだった。

Salyu どうやらこの日のライブ、ガチガチにセットリストを決め込んだものじゃないことも、二人のやりとりから分かってきた。もちろん予定曲というのはあって、譜面も用意され、それなりの準備はあっただろう。でもそれよりも、“さて…、次、なにやりますかね”的な、良い意味の“その場感覚”が勝った雰囲気だ。

洋楽のカバーの時は、横に置いた譜面台の歌詞をみて歌っていたSalyuだが、後半はオリジナル主体となり、観客と正対しての歌唱となる。「悲しみを越えていく色」を聴いていると、誰もが心の底では大切に思っている名も無い感情に、初めて言葉があてがわれたかのような深い感動を覚える。

 

そのあと、彼女は会場にリクエストを募った。いろんなとこからいろんなリクエストが挙がる。自分の歌を求めてくれる人達に、時に曲名を復唱しつつ笑顔の彼女。しかし決めかねる。「ここはプロデューサーの小林さんに…」と振れば、「まずこの曲をやってから…」と彼の発案で「HALFWAY」を。その後、リクエストに応える形で「光りの束」と「体温」をやったのだが、おそらく「HALFWAY」を歌っている間にスタッフがリクエスト該当曲の譜面を探していた様子だったし、まさにその場でのリクエストに応えられる限り応える、という姿勢だったのだろう。

Salyu 確かこの曲の間奏の時だったと記憶するが、Salyuの譜面台にスタッフから伝言が届く。それは、ステージの持ち時間は「あと15分」という知らせだったようで、そのことを彼女は、歌い終わったあと、客席に告げる。これ、例えばどうかと思うけど、カラオケ・ボックス的な決断の迫られ方というか、客席にいて、“お喋りも含めるとあと3曲かなぁ…”などと想像するのだった。

 

実際、この日、歌われたのはあと3曲だったが、「VALON-1」に続き、有名なクリスマス・キャロル「O Holy Night」も聴けて、このライブが“- holy night -”の続編であることも伝わった。でも28日にしてクリスマスが戻ってきたようで、楽しかった。「Lighthouse」で終演。

Salyu

楽屋を訪ねると、ライヴを終えた達成感とは、またちょっと違う表情の二人がいた。というのも、この日は2ステ−ジの予定。このあと21時半から、再び演奏が始まるのだ。僕が観たのは19時からの回だったが、あとからセットリストを教えてもらったら、セカンド・ステ−ジは「ひこうき雲」や「Something」、「Imagine」など、演奏された曲が一部違っていたようだ。

文 / 小貫信昭 撮影 / Taku Fujii

セットリスト

a brand new concert issue ” m i n i m a ” – ミニマ –
Salyu × 小林武史 vol.3 add
2016.12.28 代官山 晴れたら空に豆まいて

ファースト・ステージ セットリスト
01. River
02. messenger
03. Colse To You
04. Rainy Days And Mondays
05. So Far Away
06. No Surprises
07. What A Wonderful World
08. 悲しみを越えていく色
09. HALFWAY
10. 光りの束
11. 体温
12. Love
13. VALON-1
14. O Holy Night
15. Lighthouse

Salyu

2000年、Lily Chou-Chouとして2枚のシングルと1枚のアルバムをリリースする。2004年、小林武史プロデュースのもとSalyuとしてデビュー。以降17枚のシングル、5枚のアルバム、1枚のベストアルバムをリリース。2011年には、「salyu × salyu」として小山田圭吾との共同プロデュース作品「s(o)un(d)beams」を発表し、数多くの海外フェス出演により国外でも注目される。2016年8月には東阪にて対バンライブ「Salyu Live 2016 Sonorous Waves」の開催し、大きな話題となった。9月には「OKAZAKI LOOPS」への出演を果たす。10月には瀬戸内国際芸術祭にて開催される「円都空間 in 犬島 produced by Takeshi Kobayashi」に出演。12月には待望となるSalyu × 小林武史によるライブシリーズ“minima“と“minima add“を開催し、大盛況のうちに幕を閉じた。

オフィシャルサイトhttp://www.salyu.jp

小林武史

音楽プロデューサー、キーボーディスト。80年代からサザンオールスターズやMr.Children、My Little Lover、レミオロメンなど、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手掛ける。映画音楽においても、その突出した世界観によって、数々の作品を生み出す。岩井俊二監督と映画と音楽の独創的コラボレーションで知られる「スワロウテイル」(96)「リリイ・シュシュのすべて」(01)を手掛け、ジャンルを越えた活動を展開。
 2003年にMr.Childrenの櫻井和寿氏、音楽家・坂本龍一氏と非営利組織「ap bank」を設立。環境プロジェクトに対する融資から始まり、野外音楽イベント「ap bank fes」の開催、東日本大震災以降は「Fund for Japan」を立ち上げ、被災地支援を続けている。2017年夏に新たな芸術祭の取り組みとして、宮城県石巻・牡鹿半島を中心とした「Reborn-Art Festival」を開催する。それに先駆け、今年7月にプレ・イベント「Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016」を行い、大盛況のうちに終了する。10月には「瀬戸内国際芸術祭2016」の演目として、犬島精錬所美術館発電所跡にて「円都空間 in 犬島 produced by Takeshi Kobayashi」と題したライブを行う。

Reborn-Art Festival http://www.reborn-art-fes.jp
ap bank http://www.apbank.jp

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