LIVE SHUTTLE  vol. 90

Report

福来たる!還暦・桑田佳祐が体現した聴衆との逢瀬。圧巻の年越しライブの模様を

福来たる!還暦・桑田佳祐が体現した聴衆との逢瀬。圧巻の年越しライブの模様を

桑田佳祐の年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙〜悪戯な年の瀬〜」が12月27・28・30・31日の4夜にわたり横浜アリーナで開催された。年越しライブとしては4年ぶり、桑田が出演するライブとしては2015年夏に行われたサザンオールスターズのツアー以来。本公演では、新旧様々な楽曲を2時間半におよび精力的に披露。60歳を迎えてもいまだ衰えず、さらにパワー漲る演奏と歌唱を見せつけた。その30日公演の模様をお届けする。

取材・文 / 小貫信昭 撮影 / 岸田哲平


セット・リストの入口と出口は、桑田佳祐の人生60年の軌跡と見事に呼応

オープニングは桑田が幼少期より親しんだジャパニーズ・ポップ=歌謡曲の中でもムードコーラスのスタイルに寄せてオマージュした「悪戯されて」。歌詞の一部を変え「来年も幸せがくるだろう」と年末の挨拶をさり気なく込める。そして最初に書いてしまえば、本編ラストは「ヨシ子さん」だった。

このセット・リストの入口と出口は、桑田佳祐の人生60年の軌跡と見事に呼応する。日本人として生まれた彼が無意識下で親しみ、やがて糧となったものでライブを幕開けし、そして今年、暦が還る齢にて、再び無意識の海へ自らを誘うかのような「ヨシ子さん」を作り発表したことを示し、ライブをいったん終えたのだから。

もちろん、カオスな妙味の「ヨシ子さん」は、自分をリセットする意味合い(=暦が還る齢)もあり、でもすでに、この日、ライブの19曲目に演奏した「君への手紙」のような、“意識的”な名曲作りへと彼はたくましく歩み出しているのだが……。

kuwata_live_01

ところで横浜アリーナ。桑田にとって庭のような会場だろう。でも今回の“年越し”は、バックステージも開放され360度にお客さん。ステージにいる人間たちにとって、逃げも隠れもできない状況である。でも名手揃いの桑田のバンドゆえ、そもそもタネも仕掛けもないのだから大丈夫だ。

2曲目は「ダーリン」。横浜情緒が香る。「本当は怖い愛とロマンス」が始まると、今宵のショーも幕開けじゃぁ〜という気分に。そして、桑田ソロ・ライブを桶の中の寿司に例えるなら、ウニやイクラのクラスである「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」が早くも登場。続き、主観・客観がテーマとおぼしき哲学的な詞の「鏡」、「飛べないモスキート(MOSQUITO)」というタイトルからして深いメタファーを含むあの名曲から、バンドが大きな熱量でロックオンしてみせた「エロスで殺して(ROCK ON)」。さらにロックの範疇をハミだして音の空間デザインを果たす「東京ジプシー・ローズ」、僕の耳にはフランク・ザッパ的にも聴こえる「SO WHAT?」。

でも次に、こうした巨大な感動をシュッと引き締めるかのように「それ行けベイビー!!」のイントロが鳴り、桑田が「ファイト!」と拳を突き上げ終わると、今宵の気分を鞣(なめ)していくようなイントロから、首都高を低速で走る車のライトが浮かぶ「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」が演奏される。ところが次は“月光”ではなく“陽光”が降りそそぎ、ダンサーさんたちもハワイアンな「愛のプレリュード」だ。桑田の歌声も旅先っぽい軽(かろ)みを帯びる。

kuwata_live_02

気づけば、『孤独の太陽』『MUSICMAN』と、アルバム単位で曲をまとめてる傾向も伺えるが、このあたりまできたら、すでに「ヨシ子さん」のシングル曲である。今回のライブ・タイトルは「ヨシ子さんへの手紙〜悪戯な年の瀬〜」であり、もちろん大きな柱となったのは、2016年にリリースした2作の新曲シングル(カップリング合わせて合計8曲)なのだ(ただ、この日、そのすべてを演奏したわけではないが……)。

スポットライトの演出で、客席にいて集中力を改めた途端、聴こえてきたのはラテンでデカダンな「大河の一滴」のイントロ。渋谷という街の谷底・すり鉢な風情を、見事に描いた作品である。セリフ部分はコーラスの2人がラジオ・ドラマのように演じた。さらに、“トゥアララ、ライラライ”と快活に響く声ゆえ、余計に切なさが染みる「あなたの夢を見ています」。「傷だらけの天使」のような曲調を、繋がりよく歌唱してみせるのが真の歌唱力だろう。

その後、「恋人も濡れる街角」を歌い出し、オヤ、と思ったら、「Yin Yang(イヤン)」の前フリであった。また、R&Bの慣用句を空耳してみせた歌詞が秀逸であり、“ど”がつくブルースの「メンチカツ・ブルース」へと続く。1コーラスごとにオチを配した歌詞。さて今宵は座布団何枚? ギターを弾く桑田の表情、特に眉間のあたりにクラプトン(さらにロバート・ジョンソン)が降臨するかのようだった。

kuwata_live_03

「アコースティック・コーナー!」と宣言して「風の詩を聴かせて」から「JOURNEY」へ。今回のバンド、お馴染みの皆さんに加え、あらたにベースはクライズラー&カンパニーでも活躍した竹下欣伸が参加している。特にこの場面など、アップライトを演奏したときの精緻なプレイが実に心地良かった。なお「JOURNEY」は、今の桑田が歌うからこそ纏(まと)う歌詞の意味合いも伝わった。そして「君への手紙」。配られたリスト・バンドのライトが光る。聴くも良し、一緒に歌ってもカタルシスが沸き立つ歌だと思う。「真夜中のダンディー」は、シャウトして、それを呟きで受ける、曲の中の見事な押しと引きに感情が揺さぶられる。

今日の世相にも通ずる「ROCK AND ROLL HERO」の歌詞。果たして2017年の世の中はどうなっていくのか? サーフボードを実際に抱えて「波乗りジョニー」を歌う桑田は初めて見た。この曲はイントロを聴いたら条件反射だ。僕の脈拍もドキドキじゃなくドッキ〜ンドッキとシンコペートしていくかのよう(医学的には有り得ないことだが、例えとして……)。

kuwata_live_04

「EARLY IN THE MORNING〜旅立ちの朝〜」で、理性の箍(たが)がちょっと緩まっていって、そしてラストは「ヨシ子さん」。PVやテレビ出演時の演出(様々な立場の様々な民族が一堂に会す)の延長として、この夜のステージを多彩なダンサーたちが飾る。そして、さらなるエスカレートというか、白無垢パンダ目のヨシ子さんらしき女性が、最後は神輿に乗せられ人生最大のモテ期突入。いい気になって桑田のお株を奪い、祝詞のような呪文のような、そんなボーカルを……。それを見た桑田が「バカバカしくてやってらんねぇ」と捨て台詞。この言葉で本編終了。桑田のライブ史上、最も後味の悪い終わり方であった!

いやウソウソ。間を開けずにアンコールがスタートする。「幸せのラストダンス」の、曲全体を包む多幸感。ホント、この曲といえば多幸感。もちろん12月に桑田を見るのだから、誰もが期待してしまう「白い恋人達」もやってくれた。この歌の感動は、いつ聴いても、ボタン雪が落下する速度でふわりと降りそそぐ。そして最後の最後に「祭りのあと」を。シメに最適な、鍋でいえば雑炊のような曲。この日の演奏曲目(具材)すべての感動(栄養素)がまろやかに収斂するかのようだ。ていねいに語りかけてくれるようなこの曲を聴くと、最後の最後にホントに近くに桑田さんを感じて帰路に着ける。「ヨシ子さん」のときのダンサーさんたちも再び登場しての大フィナーレ。いやはやみなさま熱演お疲れ様(でもそのとき、ワタシは見てしまった。終末思想的妖気を孕み、ぬーっと不動の佇まいであるはずの、白無垢パンダ目のヨシ子さんらしき女性が、まるでその正体はダンサーさんであるかのように、軽いステップでほかのダンサーさんとハイタッチなんぞをしているではないか。そう。ワタシは見てしまった)。

ちなみに桑田はこの日、MCの中で“逢瀬”という言葉を何度か使っていた。「来年も逢瀬が叶うように……」。それが彼の願いであり、もちろんこの日、会場を埋めた1万5000人の観客たちも、同じことを願っていたことだろう。

桑田佳祐 年越しライブ2016「ヨシ子さんへの手紙〜悪戯な年の瀬〜」@横浜アリーナ 2016.12.30 セットリスト

00.悪戯されて
01.ダーリン
02.本当は怖い愛とロマンス
03.悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)
04.鏡
05.飛べないモスキート(MOSQUITO)
06.エロスで殺して(ROCK ON)
07.東京ジプシー・ローズ
08.SO WHAT?
09.それ行けベイビー!!
10.月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
11.愛のプレリュード
12.大河の一滴
13.あなたの夢を見ています
14.傷だらけの天使
15.Yin Yang(イヤン)
16.メンチカツ・ブルース
17.風の詩を聴かせて
18.JOURNEY
19.君への手紙
20.真夜中のダンディー
21.ROCK AND ROLL HERO
22.波乗りジョニー
23.EARLY IN THE MORNING 〜旅立ちの朝〜
24.ヨシ子さん
EN01.幸せのラストダンス
EN02.白い恋人達
EN03.祭りのあと


【公式サイト・公式アカウント】
vol.89
vol.90
vol.91