Interview

HEATWAVEの音が描く風景。山口洋から同じ時代を生きている人たちへ

HEATWAVEの音が描く風景。山口洋から同じ時代を生きている人たちへ

HEATWAVEのライブ・アルバム『OFFICIAL BOOTLEG SERIES #004』が届いた。2015年12月26日に行われた〈2016年へのファンファーレ〉公演を、標高3000メートルの雪山でミックスしたという今作は、ライブの熱気と澄み切った透明な空気がそのままリアルに響いてくる。1年後の2016年12月26日、HEATWAVEのツアーを締め括る、渋谷duo MUSIC EXCHANGEでの公演を前にしたボーカル&ギターの山口洋に話を聞くことができた。制作時のエピソードやそれぞれの曲に込められた思いと共に、HEATWAVEの音楽同様、私たちを力強く励ましてくれる“今を生きる”ための至言に溢れたメッセージを2017年の年頭にお贈りしたい。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / 平間至


一回しかない人生をどれだけクリエイティブに生きて、みんなに元気を与えられるか

音源は2015年12月26日、渋谷duoでのライブですが、ライブの熱気とスタジオ録音のような微細でクリアなサウンドが同時にパッケージされていて驚きます。重低音から高音域までのサウンドの広がり、深み、音の粒立ち。どんなふうに録音、ミキシング、マスタリングを?

自分たちが長年かかって創り上げたシステムというのがあって。僕たちのライブを一番いい音で録ってくれるエンジニア、森岡徹也さんが録ってくれた音源を僕が標高3000mの雪山に持って行く。そこで雪景色を見ながらひと月かけてミキシング。それを東京で細海魚さんがマスタリング。3人の集中力と東京と雪山がブレンドされた作品になっています。ライブをパッケージするなら映像作品にするのが普通かもしれないけれど、僕は興味がないんです。それより、音で映像を見せたい。聴いてくれた人が「音、いいですね!」って言ってくれたら、それだけで一日メシが食える(笑)。

標高3000mというと、スノーボードのために訪れているコロラドの山ですか?

そうです。スノボやって、飯作って、曲作って、ミックスして。1ヵ月、無茶苦茶、忙しい(笑)。でも、日常から切り離されたクリエイティブな時間。何より電話がかかってこないし、メールも届かない。山の神様に鍛えられます。

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1曲目は「フリージア」。渡辺圭一さんのベース、池畑潤二さんのドラム、細海魚さんのキーボード、そして山口さんのギター、ボーカル。4つの楽器と声が立ちのぼらせるダイナミックな音像、うねりがすさまじい。「性懲りもなくまた頂を目指すだろう」というフレーズも印象的です。

バンドが成熟してきたから、4つの音のかたまりが蠢いている様をスピーカーで再現したかった。僕はまだ“頂”には近づいてもいないけど、仲井戸“CHABO”麗市さんみたいな先輩の後ろ姿を見ていると、一本一本のライブにかけている情熱のすさまじさに圧倒される。人生って正直。誠実に生きた人には誠実に生きた人生がある。一回しかない人生をどれだけクリエイティブに生きて、その姿を見てくれたみんなに元気を与えられるか。生きるって大変だけど、そう悪くもないよ、って伝えられるか。それは、自分より先に“誰か”のことを思いやれるか、ってことでもあるんです。

「Don’t Look Back」は東日本大震災のあとに作られた曲。宇宙の果てに届くような細海さんのサイケデリックな鍵盤に、肉体をこの地上にとめおくような圭一さんのフィジカルなベース、池畑さんの“個”を貫くドラムが絡んで……。歌詞と相まって、強い祈りの歌に聴こえました。

2011年、標高4000mでひらめいた曲なんです。この曲を書いて、日本にいるマネージャーにすぐに連絡した。「バンドを招集してくれ! 曲が出来たんだ!!」って。5年半前、あの地震、津波、原発事故で誰もが考えた。言葉に、音楽に、どんな意味がある? 考えて、考えて、俺は、音楽にはまだ可能性があるって気づいた。意味のない経験なんて何ひとつない。それがこの曲のテーマです。

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3曲目「世界がミューズである限り」はイントロから持っていかれます。真っ暗でときおり光が流れる宇宙空間にたったひとりでいるような浮遊感。深いリバーブ、不安定なディレイ、闇を裂くディストーション……。意識が飛んで虚空をたゆたうようです。

細海さんも僕も“ディレイ党”を作りたいほどディレイマニアなんです(笑)。で、僕らのディレイはわざとテンポが合ってない(笑)。ミックスでわざとそうしているところもある。衝撃を受けたのは、僕が世界一だと思っているディレイをダニエル・ラノワが使っていたこと! “MALEKKO(マレッコ)”っていうんですが、いろんな人に勧めていて、今、CHABOさんの足下には組み込まれています(笑)。ディレイをかけると音像がリリカルになる。蜃気楼というか陽炎が立ちのぼる感じ。“ミューズ”って、意外とそんなところへ降りてくる。詩的なものをもたらす人って、結構ひどい人が多い(笑)。「境=ボーダーは越えるんじゃない。ぼかすんだ」って佐野元春さんが言っていたんですが、ディレイのかかった音はモワモワしている。はっきりしないし、答えがない。そんな境目のない場所、モワモワした場所に、人は漂うんだと思います。

時代はクリアなものを求めています。

あえてそれに反抗したい思いもある。だって、きっちりした答えなんてないじゃないですか。人って、その日の気分や体調によって見るものが違う。それがいいんじゃないかって。

ギターを弾いているときって、100パーセント何も考えていない

続くMCが印象的です。「みんなこの中空に何を見たかな。それ、みんな持って帰ってね。俺は、愛と希望と忍耐が見えたよ」。山口さんにとって“忍耐”とは?

すごく忍耐強くなったんです。昔は本当によくキレていた。でも、怒りって、自分に盛る毒。そこからいいものは生まれてこない。

若いときは怒りを衝動にギターをかき鳴らしたこともあるのでは。

今はギター弾いているときも、MAXのパワーで弾いているのは一瞬。アベレージだと32パーセントくらいで弾いています。上がったときで72パーセントくらいかな。スペースを空けることで、みんなのイマジネーションを刺激したいって思う。以前、某有名俳優さんに聞いたことがあるんです。「主観と客観ってなんですか?」って。彼は言った。「主観、すなわち客観なんだよ」。その境地が最近少しわかるようになってきた。ギター弾いてるときって、100パーセント何も考えていない。自分はステージにはいない。客席にいる。それでステージの後ろも見てるし、聴いている。カメラマンのシャッター音も聞こえるし、30人くらいだったら、全員が何しているかはっきり見える(笑)。音楽だけかな、そこまで行けるのは。

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「GIRLFRIEND」で入ってくるギターの音が思春期のように澄み切って繊細。細海さんの幻想的なキーボードはもちろん、寄り添うベースも、ドラムも、たおやかで美しい。永遠に続くような長い演奏です。

無駄にギター・ソロが長いですね(笑)。小さい頃から同じことを延々繰り返しているものが大好きなんです。この曲のときは、すごくギターを弾きたい気分だった。だから延々やってる(笑)。この曲はザ・ルースターズへのオマージュ。もちろん、深層心理で。その曲を今、池畑さんと一緒に演奏している。すごいことだと思います。

自意識がほとばしる演奏とはまるで違います。気負いがまったく感じられず、だからリスナーも音の波に身を任せることができる。

以前は自分が曲を書いてるって思ってたけど、そうじゃない。音の神様っていうのはいつもいて、そこに浮遊しているみんなのスピリットみたいなものを、僕はエディットというかサンプリングしているだけのような気がするんです。それを神聖に響かせるのが俺の役割。そう思うと重圧から解放される(笑)。ニール・ヤングも、モンサント社に文句を言いたい、ただそれだけのためにアルバム『モンサント・イヤーズ』を作った。それでいいじゃないかって。

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5曲目は「オリオンへの道」。1995年にリリースされた、佐野元春さんプロデュースの曲です。

1995年はいろいろなことがあった年。バンドは機能していなくて、それで佐野さんにプロデュースをお願いしたところもある。ベースはザ・ハートランドの小野田清文さんが弾いていて。この曲を20年経ってこのバンドで演奏した。ドキドキしながらの “ファースト・タッチ”。みんなもすごい意識していたと思う。で、実際は、歌のほうが先に生きていた。20年前の歌に、今の自分が励まされてるってことに気づいたんです。

それが、曲終わりのMC「続けてると、いいことあるねー」に繋がっている。

HEATWAVEって、16のときに作ったんです。それを37年もやるとは思わなかった。ホント、しつこい(笑)。でも、続けないと見えない風景がある。情熱っていうのは、継続する志のこと。苦しいときにこそ続ける意味が問われる。逃げなくて良かった、って本当に思う。岡本太郎じゃないけど「曲がり道に来たら、険しいほうへ行け」。多少のことでは揺るがない。続けてきて思うことのひとつは、俺たちが育った高度経済成長の時代はもうとっくに飽和しているってこと。これからは削ぎ落としていくことが大事だって思う。