LIVE SHUTTLE  vol. 93

Report

HEATWAVEの奏でるR&Rの魔法と今を生きる力を体感した夜

HEATWAVEの奏でるR&Rの魔法と今を生きる力を体感した夜

2016年12月26日、ボーカル&ギターの山口洋の誕生日でもあったこの日、HEATWAVEのツアーを締め括るライブが、shibuya duo MUSIC EXCHANGEで行われた。繊細で自由で奔放な4人の演奏は、しなやかなグルーヴとなって、オーディエンスを遥かなる宇宙へと誘い、山口のボーカルは、オーディエンスの2016年に寄り添い励まし、2017年を生き抜くためのエールのように、力強く温かく響き渡った。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / 佐藤早苗(ライトサム)


さんざん悪態ついて生きてきたけれど、50過ぎてこれからは、『No!』と言うより『Yes!』って言いたいんだ

なぜ、山に登るのか。「登らなければ見えない風景がそこにあるから」と山好きな友人は言う。HEATWAVEというバンドは、長い一本道を登り続けているようだ。旅の途中で何があろうと、無駄になるものはいっさいなく、切り立った崖も楽しみつつ、ひたすら自分の力で登っていく。時折り、山小屋ミーティングを許される私たちは、緊密な空気の中、登る者にしか見えない風景を垣間見る。スピリットだけでも、肉体だけでも太刀打ちできない険しい山。その頂を目指す彼らの音は、澄み切った山の空気のように私たちを捉えて離さない。

12月26日。山口洋の誕生日でもあるこの日、開演を待つオーディエンスには共通の匂いがあった。真面目に働いている人の匂い。喧騒よりも静寂を好む匂い。群れない匂い。

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客電が落ち、アイリッシュフィドルの軽快な音が響き渡ると“個”のスペースが一気に解ける。沸き起こったハンドクラップに合わせるようにメンバーが登場、パーティーの開幕だ。

1曲目は「歌を紡ぐとき」。渡辺圭一のベースがフィジカルにしなり、池畑潤二が研ぎ澄ましたナイフのようなビートを刻み、細海魚のキーボードが宙に舞い上がる。

傷は癒すためにあるものじゃない
大事なのは答えではなく 問いかけそのものさ

山口洋のギターは、一人ひとりの傷口を癒すようにやわらかく温かい。バンドでステージに立つときの彼は、少年のようにリラックスして嬉しそうだ。

「一年間お疲れ様。いろいろあったけど、よく頑張ったね。自分を褒めてやってくれ。俺も頑張った(笑)。中空にいろんな風景を描くから、持って帰ってくれ」

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2曲目は「STILL BURNING」。ひとつの生き物の手足のように巧みなアンサンブルを奏でる4つの音は、時の贈り物だ。一朝一夕では出せないクールなリズムとしなやかなグルーヴが会場を心地よく満たしていく。

ギターをチェンジして「灯り」。初期の名曲がいまなおヒリヒリするようなメッセージを放つのもHEATWAVEならでは。ギターのボディを這う山口の両手も、鍵盤を跳びはねる細海の指先も、繊細で自由で奔放そのものだ。

いったい幾つの憎しみを乗り越えたら 僕と君はわかり合えるのだろう

ギター一本で世界に問いかけた若き日のボブ・ディラン、キース・リチャーズ、ジョー・ストラマーを夢見て毎日ギターを抱いていた10代の山口が、30年以上の時を経てそこに立つ。

「HEATWAVEがジミ・ヘンドリクスに勝てることが一個だけある。それは……この混迷の時代にみんなと一緒に生きて、新しいものを生み出すことができるってこと」

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人生は不思議だ。27歳で死ぬと本気で思っていたのに、この日53歳になった山口は、ロックの神様に祝福されて、今、一番いい音を奏でている。標高3000mの雪山で盲目のスキーヤーにインスピレーションを受けて書いた新曲「BLIND PILOT」では、ドライブ感溢れる演奏が一年の澱を洗い流し、オーディエンスの表情にも解放感が浮かぶ。

続く「ジギーと星屑」は、タイトルどおり、デヴィッド・ボウイへのオマージュだ。ロックンロールの魔法。それは、目に見えない、一瞬で消えゆく音の粒が、時空を越えて誰かを励まし、その人生にたしかな変化をもたらすということ。夢を見せ、夢を生き、文字どおり星になった不世出のミュージシャンへの感謝とリスペクトが、ステージから溢れ出す。

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「俺がみんなに言えること。それは、いろんなものを失くしてきたけど、心の中にあるものは、何もなくなってないっていうこと」

ミラーボールがまわり、ブルーの照明がフロアを覆って「STARLIGHT」。ロマンチックなディレイは煌めく星空。弾いているというよりは、共に歌っているようなスライドギターが、様々な感情を揺さぶる。人生の最後にこの曲を聴くことができたなら、すべてが赦される気さえしてくる。

「俺のグレッチが火を噴く時間がやってきたぜ!」と「MR.SONGWRITER/DO THE BOOGIE」。深みと艶のあるグレッチの音色、シャープなスネア、ためのあるベース、サイケなキーボードが、大人のブギーでオーディエンスを踊らせる。フロアの熱は上昇し、バンドの一体感も増していく。

グレッチからテレキャスに持ち替えて「エピタフ」。そして「明日のために靴を磨こう」。サビではフロアからクールな拳が上がり、会場は大合唱に包まれる。

「今年のストレス全部発散して歌ってね。悪い気は魚に送って帰ろう。やつはクリオネだからなんでも吸い取ってくれるよ」と「荒野の風」。細海のアコーディオンが跳ねる、揺れる。

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ベースを持ち替えた渡辺が小気味よいビートを刻んで「ボヘミアン・ブルー」。ハンドクラップのパーカッション。自然体の笑顔があちこちからこぼれ、フロアとステージの境が溶ける。

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赤いバックライトが差し込んで、11曲目は「NO FEAR」。決して甘い方向へは流れない、重心の低いロック・サウンドはHEATWAVEの真骨頂。鮮烈なディストーション、エッジの切り立ったドラムとベースが、リリースから20年以上の時を経た反骨のナンバーを瑞々しく響かせる。

「さんざん悪態ついて生きてきたけれど、50過ぎてこれからは、『No!』と言うより『Yes!』って言いたいんだ」と、本編最後はアコギに持ち替えて「それでも世界は美しい」。清らかな音粒が浄化の雨のようにフロアに降り注いだ。

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アンコールでは、「お誕生日おめでとう!」の声が飛び、苦笑いした山口が訥々と話し始める。
「昔の仲間が苦境に立たされていて、俺に何ができるかってずっと考えてた。昨日ずっと詩を書いてたんだ。そいつのために、今年どうしても曲を書きたくて」

何を見ているのか
片方だけ開いた瞳で
もう意味なんか探さないさ
おまえがここにいるだけでいい

インタビューで「やろうかどうしようか、今も迷ってる」と言っていた出来たての新曲「瞳の中の少年」。ギター一本で世界と対峙すると決めた少年は、今、たったひとりの友人のために音楽を奏でている。具体的なひとりを励ますために体験の積み重ねはあったのだと、そのギターが教えてくれる。

「俺のグレッチがGのうなりをあげるけど、いいかな?」と新曲「STREET WISE」。そして最後は「満月の夕」。22年の時を経て成長を続けるこの曲は、もはや山口の曲ではなく、傷ついた魂に寄り添う再生の歌だ。

その余韻は客電が点いてもSEが流れ始めても収まることがない。再び山口が登場し、「まったく想定外の行動です」とグレッチを肩に掛け、よじれたシールドを直して叫ぶ。「細海、俺にGをくれ!」

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永遠に続くような「BRAND NEW DAY/WAY」の4人のセッションはこの日の白眉だった。緩やかに加速するバンドの上昇曲線は急カーブを描いて100パーセントを超えていく。山口が「レジェンド」と呼ぶ池畑のドラムが爆走して険しい山を登り切る。その先に見えるのは、今、この4人でしか出せない音の渦だ。
それぞれが旅の途中。人生は思うより短い。だからHEATWAVEを聴く。
3時間に及ぶパーティーが終わり、それぞれが観た風景を胸に収めて、帰路に着く。その背中は、重い荷物をおろした旅人のように軽やかで、表情には、磨き上げた靴のような輝きが宿っていた。


LONG LONG WAY -1990-2001-
ヒートウェイヴ

HEATWAVE tour 2016~2017 2016.12.26 shibuya duo MUSIC EXCHANGE セットリスト

1.歌を紡ぐとき
2.STILL BURNING
3.灯り
4.BLIND PILOT (新曲)
5.ジギーと星屑 (新曲)
6.STARLIGHT
7.MR.SONGWRITER / DO THE BOOGIE
8.エピタフ
9.明日のために靴を磨こう
10.荒野の風
11.ボヘミアン・ブルー
12.NO FEAR
13.それでも世界は美しい
EN1.瞳の中の少年 (新曲)
EN2.STREET WISE (新曲)
EN3.満月の夕
EN4.BRAND NEW DAY /WAY


ライブ情報

MY LIFE IS MY MESSAGE Radio LIVE Smile

2017年1月17日(火) 熊本・ ぺいあの PLUS
出演 : 山口洋×矢井田瞳×東田トモヒロ
予約・問合せ: TSUKUSU(つくす)

山口洋 2017 SPECIAL! 聞きたい歌と、今歌いたい歌

2017年1月20日(金) 横浜・THUMBS UP
予約・問合せ: THUMBS UP
2017年2月10日(金) 千葉・ANGA
予約・問合せ:ANGA (TEL 043-224-7769)

HEATWAVE

山口洋 (vocal、guitar)、渡辺圭一 (bass)、細海魚 (keyboard)、池畑潤二 (drums)。1979年、福岡にて山口洋を中心に結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表の『1995』には、阪神・淡路大震災後に書かれた「満月の夕」(中川敬/ソウル・フラワー・ユニオンとの共作)を収録。2003年より、現在のメンバーで新生HEATWAVEの活動を開始。
山口は、東日本大震災後、福島県相馬市の仲間と共に現地を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”を立ち上げ、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと活動している。2016年4月に発生した熊本地震を受け、9月からFMK エフエム熊本で「MY LIFE IS MY MESSAGE RADIO」をオンエア開始。毎月第4日曜日20時〜、DJを務める。

オフィシャルサイト


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