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ロマンポルノ「牝猫たち」と「逃げ恥」の共通点は?セックスに渦巻くイベントの中身

ロマンポルノ「牝猫たち」と「逃げ恥」の共通点は?セックスに渦巻くイベントの中身

日活株式会社が1971年に製作を開始した「日活ロマンポルノ」が、生誕45周年を迎え、これを記念して新作製作とクラシック作品の活性化をあわせた横断的なロマンポルノ・リブート・プロジェクトがスタートしている。 塩田明彦、白石和彌、園子温、中田秀夫、行定勲という日本の映画界を牽引している個性的な5人の監督による完全オリジナル新作が2016年11月より順次公開。第1弾となる行定勲監督、板尾創路主演『ジムノペディに乱れる』に続き、現在第2弾として塩田明彦監督、間宮夕貴、永岡佑の主演で『風に濡れた女』が現在公開されている。
新年を迎えた1月14日に公開される第3弾は、「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督がメガホンを取った作品『牝猫たち』。人間の持つ闇の部分をえぐる独特の演出に定評がある白石監督がオリジナル脚本で描いた作品で期待も高い。

その公開目前1月9日(月・祝)に、【女性限定】トークイベントが行われた。イベントは“ロマンポルノ・リブート・プロジェクト”のキャッチコピーに問われている「ワイセツって何ですか?」にリンクするかのように、「性を教養として嗜む」をテーマに開催されてきた女性限定イベント「iroha夜の女学院」と日活ロマンポルノとのコラボレーションが実現した。
登壇したのは、「日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない」の著者(二村ヒトシと共著)であり、朝の情報番組「スッキリ!!」のコメンテーターなど、様々なメディアで活躍中の湯山玲子氏と朝日新聞社で元AERA編集中の浜田敬子氏。
女性限定ということもあり、かなり突っ込んだトークが展開された。

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『牝猫たち』の映画の感想を湯山氏は「当時の日活ロマンポルノは“男にとって都合のいい女とそのセックス”をロマンというものだった。それを今回は踏襲されていて、歴史的に正しい」と、時を経てもDNAは受け継いでいるとコメントした。一方、今回がロマンポルノを初めて観た浜田氏は「あまりポルノっぽくないと思ったんですよ。現代の問題も詰め込まれていて、ニュースっぽい」と今の世情が反映されていることを指摘。 そこから現代社会における時事問題にトークは発展。 映画『牝猫たち』にはワーキングプア、シングルマザー、不妊症の3人が風俗嬢が登場する。そのシングルマザーの現状を取材したことのある浜田氏は、シングルマザーは何が困るかを語る。「シングルマザーは離婚すると、住む場所がなくなり、職業もないと、保証人が立てられず、この職業に付くのが多いと聞いてます」と現在のシングルマザーを巡る厳しい状況もあることを話していた。

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湯山氏は『牝猫たち』と大ヒットドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)の共通点を指摘。「契約結婚という外的なかたちから関係を結ぶ「逃げ恥」に対して、『牝猫たち』は引きこもりの高田(郭智博)と主人公の風俗嬢・雅子(井端珠里)は金銭を介在させることで関係を始めることが共通していると思いました。これは昨今の人間関係の構築像を反映させているのではないかと思います。また、気持ちが通ってきたときに拒否反応を示すのは圧倒的に男性の方。70、80年代の“ロマン”のあり方は、心が動いてSEXしていた。今は心がどこにあるのかわからない。」と鋭い指摘をしていた。金銭が介在する契約に心は必要とはしていないが、人と人の関わりから動く心の置き場を定めようとしないのが現代社会に生きる人の中に多いのではないかと改めて“ロマン”について考えさせられた。

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更に踏み込み、シングルマザーの風俗嬢・結依(真上さつき)の役に対して、湯山氏は「母親と女が両立できてない訳じゃないですか。これは大きな問題で、セックスレスもそう。お母ちゃんになったら、性の主人公になれない、この国は。」と少子化という日本の深刻な問題も含有する映画の内容であることを指摘していた。

トークイベントも後半、芥川賞作家 村田沙耶香の「消滅世界」という作品に触れた。「セックス」も「家族」も、世界から消える…というコピーで強烈な作品。その作品を読んだ湯山氏は「夫婦がSEXするのが気持ちわるいというのが常識的になっている時代背景。子供は人工授精で。でも、親子の情愛とか家族はなくならないの。血が強く、帰巣本能はある世界ってすごいなあって思った。」と話すと、浜田氏はそうなるとある問題が解決するのではと指摘。子供を持つ女性の悩みを「子供を産んだ後に旦那がSEXをしてくれない。そこに凄く自信をなくしてるし、罪悪感を持っている。そうすると、これで夫婦っていいのかなと思っているですよ。その悩みがなくなるってことですね。子供を育てるプロジェクト化していくんですね。」と近未来に起こるかもしれない予想まで飛び出し、大いに盛り上がったイベントだった。

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今回のイベントで印象に残ったことは、「過去のロマンポルノのイメージは湿っぽいものだったが、現在公開されている作品は、当時に比べて乾いている印象」という話だった。それは現代の人間関係を映し出しているのではとも。70年代と現在では、もちろん生活レベルも身の回りを取り巻く環境ももちろん違う。“今”を切り取った作品が多いから、それも納得な部分であるが、そこに描かれている主人公も、ネトネトしているのではなくカラッとしている。それが踏み込まない、関わらないという隣に誰が住んでいるのかもわかならないという社会そのものではないかと。当事者にはなるべくならずに、傍観者でいること-それは、ある種一線を超えない、傷つきたくないという人間関係がより希薄になっていることを考えさせられるトークイベントだった。劇場で『牝猫たち』を観て、何を想うか、是非確かめてほしい。

取材・文 / エンタメステーション編集部

映画『牝猫たち』

1月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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監督・脚本:白石和彌
キャスト:井端珠里 真上さつき 美知枝
音尾琢真 郭智博 村田秀亮(とろサーモン)・吉澤健 白川和子(特別出演)
松永拓野 吉村界人 米村亮太朗 ウダタカキ 野中隆光 山咲美花 天馬ハル 久保田和靖(とろサーモン)
2016/日本/84分/5.1ch/スコープサイズ/カラー/デジタル/R18+

池袋の風俗店「極楽若奥様」で働く3人“牝猫たち”。
呼び出された男たちと体を重ね、そして、また夜が明ける―ワーキングプア、シングルマザー、不妊症…それぞれの悩みを抱えながら、颯爽と現代を生き抜く女たちと、それを取り巻く男たちの物語。『凶悪』(14)、『日本で一番悪い奴ら』(16)に続き、白石和彌監督がオリジナル脚本で挑んだ初ロマンポルノ作品。現代社会を逞しく生きる女性のいまをジャーナリスティックな視点で捉え、名匠・田中登監督のロマンポルノ作品『牝猫たちの夜』(72) にオマージュを捧げている。
オフィシャルサイトhttp://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/


湯山玲子 (ゆやま・れいこ)

著述家、プロデューサー。文化全般を独特の筆致で横断するテキストにファンが多く、日テレ「スッキリ!!」などのレギュラー出演をはじめ、TVのコメンテーターとしても活躍。最近の著作に『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(幻冬舎)など。月1回のペースで、爆音でクラシックを聴く「爆クラ」イベントを開催中。 日本大学藝術学部文芸学科非常勤講師。

浜田敬子(はまだ・けいこ)

1989年朝日新聞社入社。前橋、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。女性の生き方・働き方や雇用問題、国際ニュースなどを担当する。2014年4月に同編集長に就任。 2016年5月から朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーに。朝日新聞社の新たなメディアビジネス構築を担当する。 現在、テレビ朝日「羽鳥慎一のモーニングショー」の水曜レギュラーコメンテーターも務める。


この記事の関連書籍
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消滅世界
村田沙耶香 (著)
河出書房新社
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逃げるは恥だが役に立つ 1巻
海野つなみ (著)
講談社
Kiss / KC KISS

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