【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 2

Column

中森明菜にとって最初のヒット曲となった「少女A」。画期的なタイトルの意味を推理・考察する(前編)

中森明菜にとって最初のヒット曲となった「少女A」。画期的なタイトルの意味を推理・考察する(前編)

デビュ−曲「スローモーション」もじわじわ浸透していった作品だったが、中森明菜がいわゆるブレイクを果たすのは、セカンド・シングル「少女A」の時である。リリースされたのは1982年の7月28日。この曲で、当時の人気歌番組『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』への出演も果たす。中森明菜に「ツッパリ」のイメージが定着していくのもこの頃だ。彼女は「笑わないアイドル」という、そんな風評も。よくアイドル史を論じたもので、松田聖子は「ブリっ子」であり、そのあと現われた明菜は「ツッパリ」と、このようなトーンで論じるものを見受けるが、果たしてそう決めつけていいのだろうか、といったあたりも書いていくことにしよう。

この歌はどのように誕生したのだろう。作詞はチェッカ−ズの作品をはじめとして、様々な名作で知られる売野雅勇だ。僕が興味を持ったのは、来生姉弟作の「スローモーション」を歌いデビューした彼女から、どのようにして「少女A」の主人公、“上目使い”で自分を気にしてる“あなた”に対し、“思わせぶり”に“くちびるぬらし”て意思表示するような、そんな積極的な女の子像を創作し得えたのか、ということだった。歌の主人公を入れ換えないと、これは不可能なことだ。手掛かりはなんだったのだろう。

ところで…。作詞作曲者が歌手に作品を提供する場合、相手のことをよく知ってヒントを得て、それから書く場合と、そうじゃない場合とがある。例えば有名な話だったら、尾崎亜美が杏里に「オリビアを聴きながら」を書いた話。杏里自身が当時、オリビア・ニュートン・ジョンを愛聴していたという情報を得た尾崎が、それをヒントに書いたものだった。では売野は、中森明菜に関してどの程度の情報を得ていたのだろうか? 知人の勧めで“とあるアイドル歌手”の楽曲コンペに参加してみた、ということだったらしい。彼女に関する情報は、さほどなかったのだ。その際、結果として決めてとなったのが、彼女のデビュー時のキャッチフレーズだった。

「ちょっとエッチな美新人娘(ミルキーっこ)」

それはこんなコピ−だった。とても凝った言葉遊びであり、“美(=ミ)新人(=ルーキー)娘(っこ)”と解釈するらしい。当時の担当者の方の苦心の跡がみられる。そして売野は“エッチな”という言葉から、中森明菜というアイドルに詞を書くなら「セクシュアルなムードがあってもいいのかもしれない」と思ったそうだ(『砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々』売野雅勇著、より)。さらには自分がミドルティーンの頃に知っていた早熟な女の子のことを思い浮かべ、その子なら世間を騒がすようなこともするのかな…、といった連想の果てに、“少女A”というワードに行き着くのだ。

それまで売野は、詞を書く時、まずタイトルを考えることが出発点になることが多かったらしく、紙に大きく、この文字を書いてみた(最初は「少女A(16)」と年齢入りの表記で…)。もちろんこれ、何かを“しでかす”も少年法に守られ、結果、新聞等では匿名報道された女の子を想起する表現であり、アイドル・ポップスのタイトルとしては実に大胆、いや、大胆どころか異質と言ってもいいくらいのものだった。

ここらで改めて、「少女A」を聴いてみよう。まず、なぜこの曲によって中森明菜に「ツッパリ」というイメージが定着したか、である。その大きな要因としては、少女A=明菜と、そう受取った人が多かったからだろう。この歌には“いわゆる普通の17歳”と、当時の彼女の実年齢も歌い込まれている。話をややこしくすることに、Aは明菜の頭文字でもあるのだ(これは偶然だろうが…)。ちなみに実年齢といえば、その前年81年10月にデビューした松本伊代は、「センチメンタル・ジャーニー」で“伊代はまだ16だから”と歌った。彼女が“まだ”なら、明菜は“もう”の部類と受取られたわけである。そしてそもそも「少女A」だなんてことは、なにかやらかしたんだわ、ということにもなったわけだ。

さらにアレンジがハードでキレのあるロック調だったこと(ロック=不良、という図式がまだ残っていた時代だった)、そしてこの歌で一番印象的なフレーズである“じれったい じれったい”が、豊かな声量の“ツヨい”届き方だったから、その歌唱における印象が転じて“ツヨい”→“ツッパる”にもなっていったのではないかと、そんな想像もしたのだが(これは妄想に近いかもしれないけど…)。

文 / 小貫信昭

参考資料 
『中森明菜 in 夜のヒットスタジオ [DVD]』UNIVERSALSIGMA)
『砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々』(売野雅勇著 朝日新聞出版)


中森明菜の楽曲はこちら

著者紹介:小貫信昭

80年代より、雑誌『ミュージック・マガジン』を皮切りに音楽評論を開始。
以後、主に日本のポップス系アーティストのインタビュー、各媒体への執筆などに携わりつつ今日に至る。主な著書には日本の名ソング・ライター達の創作の秘密に迫る『うたう槇原敬之』(本人との共著)、小田和正『たしかなこと』『小田和正ドキュメント 1998-2011』(本人との共著)、人気バンドの凝縮された1年間を繙いたMr.Children『es』(本人達との共著)、また評論集としては、ロック・レジェンド達への入門書『6X9の扉』、J-POPの歌詞の世界観を解き明かした『歌のなかの言葉の魔法』、また、ゼロからピアノ習得を目指した『45歳・ピアノ・レッスン!』などなどがある。現在、歌詞のなかの“言葉の魔法”を探るコラムを「歌ネット」にて好評連載中。

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