【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 3

Column

中森明菜にとって最初のヒット曲となった「少女A」。画期的なタイトルの意味を推理・考察する(後編)

中森明菜にとって最初のヒット曲となった「少女A」。画期的なタイトルの意味を推理・考察する(後編)

82年から83年にかけての彼女のシングル・リリースは、とても興味深く、ハード路線とソフト路線がジグザグに並んでいく。「少女A」でブレイク後、さらに過激に行くかと思いきや、次はデビュー曲と同じ来生姉弟作のバラード、「セカンド・ラブ」であり、抑制の効いた情感溢れる歌唱を披露する。しかしその後、再びロック調の「1/2の神話」となって、作詞は売野、作曲は当時新進気鋭の大沢誉志幸。ちなみにこの曲、「少女A」の主人公の内面を、遠心分離機にかけたかのような歌詞の世界観が秀逸だ。ところが次の「トワイライト -夕暮れ便り-」は、再再度、来生姉弟作品である。 

これらのシングルを振り返ると、ロック調も自分のものにしつつ、バラード歌手としても成長を遂げていったことがわかる。ただ、伝わりやすいのは強い印象のものであり、結果、前回書いたような、ツッパリのイメージというのが定着したのかもしれない。特に「1/2の神話」の神話のサビの、指さしポ−ズでの“♪いいかげんにしてぇ~~”は、とても評判になった。この曲、YouTubeで当時のパフォーマンスを見ることが出来るので、改めて観て欲しい。素晴らしいのは、勢いに任せて若さで歌っている、というのではない、実に卓越した表現を、すでに身につけている点だ。先ほどの♪いいかげんにしてぇ~~”も、余計なビブラートは皆無ゆえストレートにこちらに言葉がビュンと飛んでくるし、なにより全体のリズム感がいいし、囁くように歌う出だしのところも、歌詞がちゃんと聞えてくるあたりも含め、見事な抑揚でもって表現しているのだ。

 

ちなみに、女性アイドルがロック調の作品を歯切れ良く歌いきる、ということでは、先輩の山口百恵がすでに1978年に「プレイバックPart2」により実践していた。でも百恵は百恵自身が「ツッパリ」と言われたわけではない。その差はどこにあるのだろう。おそらく本人と作品との“距離”だ。百恵はあの歌をヒットさせる以前に、様々な作風のもので成功し、実績があった。なので我々は「プレイバックPart2」の主人公=百恵本人、とは受取らなかった。あくまで“今度の楽曲における百恵ちゃん”だった。しかしデビューして間もない明菜の場合は、まだ彼女に歌手としての看板はなかったから、「少女A」=明菜本人と、そう受け取ったひとが多かったのだ。

ロラン・バルトは有名な「作家の死」という文章のなかで、(非常に噛み砕いて解釈すれば)作家=作品を一緒くたにし過ぎるよりも、作品は作品として受取るべきだといったことを論じていたが、百恵ならそれは可能で、あの当時の明菜にはそれが不可能だった、ということでもある。
僕個人は彼女がツッパってると感じたことは一度もなかった。その記憶を確かめるべく、“夜ヒット”初出場で「少女A」を歌った際のDVDを観てみることにした。まず、登場からしてニコニコしてるし、司会の井上順さんのキツいツッコミにも、朗らかに対応している。そんな時は芳村真理さん、女性の立場からナイス・フォローも。さらに井上順さん、追い打ちで芳村さんのことを「老婆A」などと呼ぶ始末。当時の芸能界のざっくばらんでエネルギッシュなやりとりが、歌の前に続く。そして彼女の歌唱が始まる。

カメラを「少女A」のシングル・ジャケットのポートレイトのように睨み続けているわけでもない。そして振り付けにも注目したが、特にそれらしい仕草は皆無だ。ただ、既に彼女ならではのパフォーマンスの独自性は感じた。80年代のアイドルといえば、手の仕草などにも歌とは別の(またはそれに付随した)“物語性”を携えるのが通例だったけれど、彼女の場合は手や足の動きがより歌唱と密に連動している印象だ。そもぞせ足は単純に曲のテンポを刻んでいたし、有名な“じれったい じれったい”も声に躍動を与える手の振り方。歌詞の表記上は“ワ・タ・シ”というところを“わぁ~ぁたぁ~ぁし~”と歌う場面など、声をシンコペートさせやすい体の動きとなっていた。

「ブリッ子」と「ツッパリ」と、イメージが真逆とも思われていた松田聖子とも、歌の世界観ということでは共通点がないわけじゃない。「少女A」の半年前に出てヒットしたのが「赤いスイートピー」だったが、この2曲には共通点もある。聖子のこの歌に登場するのは“半年過ぎても”“手も握らない”彼氏である。曲調も穏やかで、まさに眼前に開く前のスイートピーの“蕾”が浮かぶ。この曲と較べて「少女A」は、曲調も歌詞も過激と言っていいが、でも女性の側が「じれったい」のは、どちらも同じなのだ。歌の登場人物のキャラは違うけど、恋愛における最終的なイニシアチブを握っているのがどうやら女の子であるらしいのは、共通するのである。

文 / 小貫信昭

参考資料 
『中森明菜 in 夜のヒットスタジオ [DVD]』UNIVERSALSIGMA)
『砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々』(売野雅勇著 朝日新聞出版)


中森明菜の楽曲はこちら

著者紹介:小貫信昭

80年代より、雑誌『ミュージック・マガジン』を皮切りに音楽評論を開始。
以後、主に日本のポップス系アーティストのインタビュー、各媒体への執筆などに携わりつつ今日に至る。主な著書には日本の名ソング・ライター達の創作の秘密に迫る『うたう槇原敬之』(本人との共著)、小田和正『たしかなこと』『小田和正ドキュメント 1998-2011』(本人との共著)、人気バンドの凝縮された1年間を繙いたMr.Children『es』(本人達との共著)、また評論集としては、ロック・レジェンド達への入門書『6X9の扉』、J-POPの歌詞の世界観を解き明かした『歌のなかの言葉の魔法』、また、ゼロからピアノ習得を目指した『45歳・ピアノ・レッスン!』などなどがある。現在、歌詞のなかの“言葉の魔法”を探るコラムを「歌ネット」にて好評連載中。

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