女だらけの新生ロマンポルノ  vol. 1

Interview

井端珠里が対峙したセックスの嘘と本気の臨界点。ロマンポルノ『牝猫たち』

井端珠里が対峙したセックスの嘘と本気の臨界点。ロマンポルノ『牝猫たち』

日活株式会社が1971年に製作を開始し、昨年、生誕45周年を迎えた「日活ロマンポルノ」。それを記念して、クラシック作品の活性化と新作の製作上映を連動した「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」がスタートされた。
その新作第三弾として上映されるのが、『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』といった作品で大きな評価を集めた白石和彌監督による『牝猫たち』だ。
池袋のデリヘルを舞台に、現代社会で生きる三人の女たちの切なくも滑稽な日常を切り取った群像劇で、ヒロインの雅子を演じているのが、井端珠里さん。
幼少期から子役として地道にキャリアを重ね、本作でついに映画初主演作を果たした彼女の作品に賭ける思いとは? 女優として女性の目から見た、ロマンポルノの魅力とは?撮影現場でのエピソードと共に話を聞いた。


取材・文 / 井口啓子 撮影 / 森崎純子


真実が欲しくて、愛が欲しくて、求められたくて…… という誰しもある感覚

井端さんは本作で映画初主演を果たされたわけですが、それがロマンポルノだということに関しては、抵抗はありませんでしたか?

子役から女優をやっているので、私自身はヌードも濡れ場もまったく抵抗はなかったんですが、母親がすごく抵抗を示して。小さい頃から兼マネージャーで私にベッタリだったので、娘が自分の一部であるように思ってくれていたことも大きいと思うんですけど、母親に嫌だと言われてしまうと、女優じゃない素の井端珠里としては、引っ掛からないこともなかったです。
ただ、白石監督の兼ねてから大ファンでしたし、私が若松孝二監督の『17歳の風景~少年は何を見たのか』に出たとき、助監督をされていた白石監督が若松さんに私を推薦して下さったということをオーディションの時に聞き、運命を感じたこともあって…… この映画で主演を飾り、女優として一歩前進したい!という覚悟で挑みました。それだけに完成した作品を観たときには、母親に胸を張って見せられる作品になったと思い、涙が止まりませんでした。

それはグッとくる話ですね。今回演じられた雅子という女性についてはどう思われましたか? 風俗嬢という特殊な役ではありますが、ある意味では普遍的な現代女性の生きづらさやたくましさを体現する役でもあるなと感じたのですが。

雅子という女性は孤独で、常にさみしさや居場所のなさを抱えて生きてるんだけど、それを別に嫌とも思ってないような感じもあって、誰かに甘えたり、弱音を吐いたりすることができない人なんだけど、最後にすべてを曝け出して、高田と対峙しようとする。そういう彼女の彷徨ってる感じみたいなものは、私も女優業をやっていて、子供の頃から、どこか、ずっとひとりで闘っているような気持ちがあったので通じるものもあって。虚無感を抱えながらも、なにかを掴もうとする姿にシンパシーを感じて、台本を読みながら泣いてしまいました。
実際の私は、雅子ほどクールではなく茶化してしまうタイプなんですけど、自分を違う角度から突きつけられたような気がして、鑑を見るような気持ちで演じました。

雅子の風俗嬢仲間の二人も、キャラクターや置かれた状況は違うんだけど、どこか共通した孤独を抱えていますよね。そういう意味では、現代社会を照出したドキュメンタリー的な側面もある作品で、見ていて身につまされずにいられません。

私たち女優は噓を真実にするのが仕事なんですけど、風俗の仕事も重なる部分はあると思うし、さらに言えば、人間って誰でもどこかで自分を演じちゃう部分があると思うんです。
なにか真実が欲しくて、愛が欲しくて、求められたくて…… というのは誰しもある感覚だと思うし、一生懸命に生きてきた女性はこの作品を観たら、たぶんグッとくるものがあるんじゃないかなって。
女性って本当は弱くて、だからこそ強くなろうとがんばっちゃうので、この作品を観たら、自分を抱きしめてあげて欲しい。男の人には近くにいる女性に真っ向からぶつかって、「抱きしめてあげて!」と思わずにいられませんね。

%e7%89%9d%e7%8c%ab%e3%81%9f%e3%81%a1s29-034_s

仕事としてのセックスだけど、どこまでが噓でどこまで本気かは曖昧

『牝猫たち』はロマンポルノで、かつ風俗嬢の話ということもあって、濡れ場もごく日常的な風景としてたくさん出てきますよね。一般映画のラブシーンとは異なる、ロマンポルノの濡れ場をやってみることで、ご自分の中で気付いたことや変わったことはありました?

正直、女優としては脱ぐことに抵抗がなかったので、前張りも戦闘服みたいな感じで。私たちは自分のすべてが商品なので、服を着ていても裸で闘ってる感じが子役の頃から常にあったし、むしろ前張りをする方が恥ずかしいぐらい曝け出していたので、脱ぐ前と後で変わったということは特になかったです。

井端さんが今回絡みをされた相手の中では、高田は顧客だけど実は好きな人で、店長は仲間っぽいノリで、雅子の挑み方がまったく違うのがおもしろいですよね。どっちもお金が介在しているので、建前としては同じ仕事としてのセックスなわけですが、どこまでが噓でどこまで本気かは曖昧なところで。それも現実も同じだなって。

確かに、セックスとひとくちに言っても深いですよね。今回、男性陣も本当にみなさん素晴らしくて、すごく助けられたんです。高田を演じた郭さんは現場にも雰囲気を作ってきてくださって、カメラが廻ってないときもほとんどお話をすることはなく、雅子と高田の微妙な関係性を保ってました。逆に、店長を演じた音尾さんは、すごく気さくに話しかけて下さって現場がパッと明るくなります。今作はオールアフレコなので、本番中は監督が「その右乳揉んで、そこから下に下がってー!」って叫んでるような現場だったんですけど、そこでも音尾さんはアドリブが多かったので、後で声をつける時は、大変そうでした(笑)。

音尾さんの「ガッツリコースで」ってセリフ、最高ですよね。ラーメンじゃないんだからって(笑)。エロいシーンに決まって人間の物悲しさなようなものが漂い、それでいて、あっけらかんとしたユーモアもある。これぞロマンポルノ!と唸らされた、大好きなシーンです。

あれも現場で生まれたアドリブです(笑)。

白川和子さんが「これからはあなたたちの時代なのよ」と、抱きしめてくださって

高田との屋上での絡みのシーンも印象的でした。互いに求めあってるのにすれ違ってしまう、セックスしてるのに真には交われない、あの感じは一般映画のラブシーンでは描けない、ロマンポルノの濡れ場だからこそ描けた男と女の、ある種の臨界点ではないかと。

うん、私もそう思いますね。あの屋上のシーンは風が強すぎて、郭さんの声も聴こえない状態で寒くて凍えながら、パンツも飛んじゃうんじゃないかってヒヤヒヤしながらお芝居したんですけど、大変な思いをした甲斐がある、素晴らしいシーンになりました。
それと、肉体的・精神的に辛かったのがSMクラブでの緊縛シーン。縛られて吊るされるなんて、一生に一度しかないかもって、ワクワクしながらのぞんだんですけど、実際やってみたら、体に負荷のかかる縛り方で時間も長かったので、すごく痛くて。監督からは痛かったら痛がってくれていいし、気持ちよかったらよがってくれていいって指導で、最初は半分笑いながら、恍惚とする瞬間もあったんですが、途中からは痛くて痛くて、吊るされてからはギャン泣きでした(笑)。
でも、あそこで号泣したことで、主演を張らせてもらうとか、子役の自分と決別したいとか、女優として一歩先へ行きたいとか、いろんな覚悟で張り詰めてた糸がプツンと切れて。涙が止まらなくてずっと泣いてたら、SMクラブのマダム役で出演してらした白川和子さんが「これからはあなたたちの時代なのよ」って、抱きしめて下さって……。先輩女優の血を引き継ぎたいって思いを新たに気を引き締められた、すごく大切なシーンになりました。

まさに新旧を繋ぐ、ロマンポルノのバトンが渡されたわけですね! SMクラブの帰り道、ガランとした街を雅子と里枝が話しながら歩くシーンもいいですよね。一匹狼ならぬ牝猫たちの束の間の無邪気なじゃれあいという感じで、決してベタベタしない、あたたかな女同士の交流が沁みます。

緊縛シーンを撮り終えた後、里枝を演じた美知枝さんと本当にあのシーンみたいに「なんかすごい仕事してるね、私たち」って話しながらケラケラって笑い、「じゃあまた明日、バイバイー!」って別れた後、なんだかむしょうに泣けてきちゃって。私、いままで仕事の相談とか誰にもしたことがなくて、わりと自分で解決するタイプだったので、なおさら……。あの日は雅子のまま帰りましたね。

都会で体を張ってひとりで生きる女の辛さと強さを体現する、「女はつらいよ」と嘆きながらも笑い飛ばすような名シーンですよね。ロマンポルノで女同士を描くとなると、どうしてもレズビアンか、男を取り合ってキャットファイト的なものになりがちなだけに、白石監督、よくぞそこを描いてくれた!と。
ラストがまたいいですよね。愚かで滑稽な人間賛歌にもなっていて、決してハッピーエンドではないんですが、おもわず空を見上げたくなる。

乗るんだ、マサコ!って応援してもらえたら(笑)。すべてを失って、打ちのめされて、それでも生きていくというのが美しいですし、希望をもらえますよね。どんな仕事でも絶対ラクな仕事なんかないし、生きていくためにはやらなきゃいけないこともある。そうやって傷だらけになりながらも何かを掴もうと立ち上がるあのラストカットを見て、自分は女優だって初めて胸を張って言えると思いました。白石監督には本当に感謝しています。ぜひ男性だけでなく女性に見てもらいたいですね。

_AK35880M_yoko

井端珠里

1987年9月9日生まれ。東京都出身。2歳でキッズモデルとしてデビュー後、98年にCX「眠れる森」で女優デビュー。声優、歌手としても活躍している。近年の主な出演作として『ローリング』(15)、『グッド・ストライプス』(15)『走れ、絶望に追いつかれないはやさで』(16)、舞台「罠」(16)、『断食芸人』(16)、『東京女子図鑑』(16)など。

映画『牝猫たち』

1月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

mesu_05

池袋の風俗店「極楽若奥様」で働く3人“牝猫たち”。呼び出された男たちと体を重ね、そして、また夜が明ける―ワーキングプア、シングルマザー、不妊症…それぞれの悩みを抱えながら、颯爽と現代を生き抜く女たちと、それを取り巻く男たちの物語。『凶悪』(14)、『日本で一番悪い奴ら』(16)に続き、白石和彌監督がオリジナル脚本で挑んだ初ロマンポルノ作品。現代社会を逞しく生きる女性のいまをジャーナリスティックな視点で捉え、名匠・田中登監督のロマンポルノ作品『牝猫たちの夜』(72) にオマージュを捧げている。

監督・脚本:白石和彌
キャスト:井端珠里 真上さつき 美知枝
音尾琢真 郭智博 村田秀亮(とろサーモン)・吉澤健 白川和子(特別出演)
松永拓野 吉村界人 米村亮太朗 ウダタカキ 野中隆光 山咲美花 天馬ハル 久保田和靖(とろサーモン)
2016/日本/84分/5.1ch/スコープサイズ/カラー/デジタル/R18+

オフィシャルサイトhttp://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/

vol.1
vol.2