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2017年、声優アーティスト早見沙織の“革新性”に期待せよ

2017年、声優アーティスト早見沙織の“革新性”に期待せよ

アニメ音楽界の“特異点”を早見沙織が切り開く

 2016年12月25日のクリスマス。声優アーティスト・早見沙織がミニアルバム『live for LIVE』の発売を記念したアコースティックミニライブを、ゲートシティ大崎B1アトリウムにて開催した。

 12月21日に発売された『live for LIVE』は、タイトルどおり彼女の「1st CONCERT TOUR 2016 “Live Love Laugh”LIVE」(10月14日〜11月3日)のために作られた楽曲たちで構成されている。ライブで新曲を発表し、その手応えをレコーディングに反映させ、そしてCD音源として世に発表したこの作品には、彼女の“アーティスト活動”に対する考え方がよく現れている。

 早見沙織の音楽においては、アレンジがかなりの自由度を持つ。本人も普段から「その一瞬限りの音楽を楽しんでほしい」と話しているとおり、同じ曲でもその日の会場やテンションによって、テンポ感やバンドサウンドの味付け、フェイクなど歌唱のニュアンスを変えていくのが“らしさ”だ。限りなくセッションに近い空気感を持った音楽。この感覚は、近年のアニメ音楽界ではあまり見られなかったもので、2015年8月のデビュー以降、早見沙織は一貫して音楽の“豊かさ”を我々に伝えてくれている。

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 12月25日も、そんな柔らかく上質な空気が昼下がりのゲートシティ大崎を満たしていた。地下一階から地上三階まで続く吹き抜けの空間には約1,000人のギャラリーが集まり、ステージ上の早見沙織とピアニストを見守っていた。

 一曲目の「eve」は、ジャジーなナンバーらしい弾むような歌声。アコースティックライブゆえCD音源と異なるのは当たり前なのだが、CDよりもややアーシーな野性味が、彼女に貫禄ある大人の雰囲気をまとわせる。続く「雨の水平線」では、シンプルなバラードならではの自由度を楽しんでいるようだった。ときおりピアニストと目を合わせながら、阿吽の呼吸でリズムに変化を与えていく。よりしっとりと情感を込めた歌声に、多くのギャラリーがため息を漏らす。

 そして1stアルバムより「あるゆらぐひ」が披露される。このバラードでは伸びやかな歌唱に表現がシフトされ、高い天井ゆえの響きの美しさが活かされた。早見沙織にとって、ここゲートシティ大崎でのアコースティックライブは二度目のことだ。以前のインタビューでは「フリースペースのようなところなので、小さな子どもからお年寄りまで、偶然その場に居合わせたいろいろな方々にも聴いてもらえるのがうれしい」と感想を語っていたが、この日も道行く人の多くが足を止めていた。小さな子どもが「あの人だぁれ?」と指をさす。こうした幸せな光景を生み出せる早見沙織の柔らかさ、温かさは、改めて近年のアニメ音楽業界にはなかったものだと繰り返しておきたい。

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 ミニライブの締めくくりは「Secret」だった。「大人のクリスマスにふさわしい曲かもしれませんね」と自ら紹介したように、色気のある息遣いで「eve」とはまた別のジャジーな空気を作り出す。ビッグバンドではなくシンプルなピアノがバックでも、骨太に歌う彼女の表現力に圧倒される。そしてラスト、このままイベントが終了するかと思われたところで、彼女から粋なプレゼントが贈られる。美しい歌声で奏でられた、「Silent Night Holy Night」。うっとりと聴き入っていたギャラリーは、さぞかし早見沙織が女神に見えたことだろう。アトリウムの天上から降り注ぐ木漏れ日が、神々しく彼女を照らしているのが印象的だった。

 2016年、早見沙織は1stアルバムと1stコンサートツアーを通じ、自身の音楽性をはっきり提示した。彼女は音楽が本来持つ自由な可能性を、様々な形で表現しようとしている。ミニアルバム『live for LIVE』は、そのひとつの大きな実験だ。消費するのではなく、長く愛でられる音楽を。彼女がしようとしていることは、楽曲を大切にすることの楽しさを、我々に再認識させてくれるものなのかもしれない。2017年、彼女がどのような音楽を生み出し、そしてそれを我々にどう届けてくれるのか。早見沙織が起こすイノベーションに一層の期待を持って、その歩みに注視したい。

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文・撮影 / 西原史顕

早見沙織

オフィシャルサイトhttp://whv-amusic.com/hayamisaori/