女だらけの新生ロマンポルノ  vol. 2

Interview

日活ロマンポルノが熱狂的ファンを生み出した理由【ロマンポルノ再起動ストーリー・前編】

日活ロマンポルノが熱狂的ファンを生み出した理由【ロマンポルノ再起動ストーリー・前編】

日活株式会社が1971年に製作を開始し、昨年、生誕45周年を迎えた「日活ロマンポルノ」。それを記念して、クラシック作品の活性化と連動する形で、塩田明彦、白石和彌、園子温、中田秀夫、行定勲という、日本映画界を牽引する5人の監督による完全オリジナル新作の製作をする「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」がスタートした。

昭和の男性達をめくるめくエロスとロマンで魅了する一方で、映画としての完成度の高さと革新性が高く評価され、現在も熱狂的ファンを生み出している映画界でも唯一無比のレーベル「日活ロマンポルノ」とは、実際にどのようなものだったのか? 現代にそれを蘇らせる意味とは?
本プロジェクトの仕掛人である、日活株式会社の高木希世江氏に話を聞いた。


(前後編でお届けします。本編は前編)

取材・文 / 井口啓子


日活ロマンポルノが当時の若者たちに熱狂的支持されたのは、既成のものに反発する時代の空気があったから

まず、日活ロマンポルノって何? という人も多いかと思うので、ロマンポルノが誕生した当時のことから話を伺えればと思います。背景としては1960年代から経営難に陥った日活が、低予算で利益があがる成人映画の製作に乗り出した。それが日活ロマンポルノで、1971年に公開された『団地妻 昼下りの情事』を皮切りに、製作終了が発表される1988年までの16年間、約1100本作もの作品が製作されたと。
いわゆる成人映画でありながら、ロマンポルノは映画としての芸術性や革新性が高く評価され、名画座で繰り返し特集上映が組まれたり、研究本が出版されるなど、現在も多くのファンを生み続けています。
映画的にも、社会現象としても、このような影響力をもつレーベルは現在まで唯一無比だと思うのですが…? 

 

団地妻 昼下りの情事

団地妻 昼下りの情事

そうですね。まず、ロマンポルノが誕生した時代背景から言いますと、60年代後半からカラーテレビの普及によって、映画館に行く人が減ってきました。日活の場合は放漫な経営が重なって、映画製作をいったん止めようという状況にまで会社が傾いてしまった。そんな中で生き残りを賭けた選択が、ポルノ路線でした。

当時男性がエロティックなものを見たいとなったときにビデオもネットもない時代ですが、日活ロマンポルノ以前にも、ピンク映画などの成人映画を鑑賞できる映画館はすでにあり、観客がはいっていました。低予算で成人映画を作れば、ビジネスになるんじゃないかとそこに参入していったわけです。ですので、成り立ち自体は映画の価値や新しい表現を追求しようといった高尚なものではなく、あくまで映画会社として生き残るための苦渋の選択だったんです。

あくまで経営のための方向転換だったと。それにしても、それまではスター映画で数々のヒットを飛ばし、日本映画の黄金時代を支えていた日活がいきなりポルノをやるというのは、当時としてはかなり衝撃的だったのでは。

そうですね。それまでスター映画を作ってきた方たちは、役者が裸になる映画など作りたくないと、どんどん会社を辞めていかれたそうです。そこで、その一流監督の元で10数年助監督をつとめてきた方々が監督になったり、スタッフや役者さんも繰り上がってチャンスを手にできました。そういった中で、自分たちが培ってきたものを一気に爆発させた。それが結果として映画としてのおもしろさに繋がったのかなと思います

「濡れ場が入ってれば後は何をやってもよかった」といった証言も耳にするように、ポルノという縛りがあったからこそ、逆に自由な表現が生まれたり、反体制の象徴として若者たちにもてはやされたような側面もあったのでしょうか?

日活株式会社 高木希世江さん

日活株式会社 高木希世江さん

70年代初頭は、学生運動が終わって社会全体に既成の概念へのアンチが出てきた時代。その中で、ロマンポルノが当時の若者たちに熱狂的に支持されたというのは、作品の中に既成のものに反発するような時代の空気があったんだと思います。

ただ、ロマンポルノは、プログラムピクチャーという側面もあって、絶対量の中から生まれたものだからということも大きな要因だと思うんです。量産して利益を生まなければ、経営が成り立たないという状況で。当時の監督の話では、どんどん脚本が廻ってきて、自分では作品を選べないから、回ってきた脚本の中で一箇所だけでも自分が好きに作れるシーンを入れようという感じで、制限のある中で次々に量産したからこそ鍛えられて生まれた表現や作品もあったと思います。

日活撮影所の出身でもある中田監督は、当時の日活は、監督もスタッフも基本全てが社員だったから人件費が掛からなかったとおしゃっていました。セットや美術も基本的に撮影所にあるものを使い回せるので費用がかからない。そのため、独立系映画会社が作るピンク映画と、比べ物にならないようなクオリティの高い作品が作れたんだそうです。そういう意味では、今回のリブート企画の新作ほうが制作条件的には厳しいとおっしゃっていました。

(秘)色情めす市場

(秘)色情めす市場

なるほど。若手に冒険のチャンスが与えられたとはいっても、そこには日活が長年の歴史で培ってきた豊かな財産なり土壌があったからこそ、ちゃんと開花することができたわけですね。

ロマンポルノとひとくちにいっても、青春もの、メロドラマ、コメディ、時代劇、SM、社会派・・・と様々なジャンルがある。そういう多様性がひとつのレーベルの中にあるというのは珍しいことだと思うし、私自身、そこに大きな魅力を感じるのですが、たとえば、時代劇のポルノが生まれたのも、日活に時代劇のセットがあったからです。日活の、特に撮影所の土壌の豊かさがロマンポルノの豊かさに繋がっていたのは確かだと思います。

映画制作の現場は、縦割り社会なので、例えば、松竹の小津安二郎監督の助監督をしていたのが斎藤武市監督で、彼が日活で渡り鳥シリーズの監督をしたときに助監督をしていたのが、神代辰巳監督だったわけです。その神代監督の元から、また相米監督が出てきたり・・・、決して突然変異的に生まれるものはない、脈々と続いてきた文脈があるということは伝えたいです。

今の日本映画業界に撮影所システムというものがないので、映画の作り方も、これ作るからスタッフを集めて…という形に変わっていて、技術がなかなか継承されない。日活ロマンポルノが、その他のピンク映画と違うのは、圧倒的な技術力の高さで。『幕末太陽傳』のカメラや照明をしていたスタッフも、後にロマンポルノの制作に関わっているんです。画が圧倒的に素晴らしい。

そして、ロマンポルノは基本オールアフレコだったのですが、『(秘)色情めす市場』は飛田や釜ヶ崎でロケしていて、風俗ドキュメンタリーとしてもすごくおもしろい。それもロマンポルノ製作以前に、いろいろな場所にロケハンに行ってて、どこでどういう画が撮れるという知識が継承されていたからで、ロマンポルノの映画としての評価は、それまでの日活が蓄積してきた高度な技術や知識をなくしてはあり得なかったと思います。

日活100周年事業で取り組んだロマンポルノの特集上映を機に社内の空気が変わった

一条さゆり 濡れた欲情

一条さゆり 濡れた欲情

今では映画として高く評価されているロマンポルノですが、当時としての評価はどうだったんでしょう?

神代辰巳監督の『一条さゆり 濡れた欲情』が1972年度のキネマ旬報の年間ベステンに選ばれるなど、いまでも名作と呼ばれる作品は当時から高く評価されてましたし、ロマンポルノが始まってすぐに、警視庁に摘発されて裁判になったこともあって、女優さんが学園祭に呼ばれたり、それこそ反権力の象徴としてもてはやされたり、当時の社会に与えた影響も小さくはなかったと思います。ただ、一方ではポルノとして差別されたり、一般的には映画として見てもらえないまま現在に至っていると思うので、いま一度、改めてロマンポルノの魅力を伝えて、偏見なく多くの方に観て欲しいですね。

→後編に続く(2017年1月15日掲載予定)

ロマンポルノ・リブート・プロジェクト 作品情報

『ジムノペディに乱れる』
11月26日(土)より全国順次公開

ジムノペディに乱れる

監督:行定勲
出演:板尾創路、芦那すみれ、岡村いずみ
1週間―。映画監督の古谷は、肌のぬくもりを求めて女たちの隙間を彷徨っていた。仕事、名声、そして愛…全てを失った男が、辿り着いた先に見つけたものとはー?ラブストーリーの名手・行定勲監督が、切なく不器用な大人の愛を、美しい映像にのせ官能的に描いた入魂の一作。


『風に濡れた女』
12月17日(土)より全国順次公開

風に濡れた女

監督:塩田明彦
出演:間宮夕貴、永岡佑
都会の喧噪を避け山小屋で暮らす男・高介は、野性味溢れる魅力を放つ女・汐里との出会いによって、欲望の渦に巻き込まれていくはめに…。欲を捨ててきたはずの男と、欲に純粋な女。塩田明彦監督が、本能むきだしでヒートアップする男と女の♥バトルを軽妙に描く。


『牝猫たち』
2017年1月14日(土)より全国順次公開

mesuneko_roman

監督:白石和彌
出演:井端珠里、真上さつき、美知枝
音尾琢磨、郭智博、村田秀亮、吉澤健、白川和子(特別出演)
池袋の夜街を漂う3人の女。呼び出された男たちと体を重ね、また夜が明ける。ネットカフェ難民、シングルマザー、不妊症…それぞれの悩みを抱えながら、明日に向かって性活する女たちの群像ドラマ。逞しく生きる女性たちの現在(いま)を白石和彌監督が活写する。


 『アンチポルノ』 
2017年1月28日(土)より全国順次公開

アンチポルノ

監督:園子温
出演:冨手麻妙、筒井真理子
小説家として時代の寵児となった女・京子。極彩色の部屋に籠もり、マネージャー典子が伝えるスケジュールを分刻みでこなす毎日。私は京子なのか?京子を演じているのか?虚構と現実の狭間で、京子の過去の秘密が暴かれていく―。園子温監督が贈るアナーキーな美しき問題作。


『ホワイトリリー』
2017年2月11日(土)より全国順次公開

ホワイトリリー

監督:中田秀夫
出演:飛鳥凛、山口香緖里
傷ついた過去を慰めあうように寄り添い生きてきた二人の女。彼女たちの秘密に踏み込んできた男によって、それぞれの愛が暴走をはじめるー。ホラー映画の名匠・中田秀夫監督が、レズビアンの世界に挑み、歪んだ愛の果てにある女同士の究極の純愛を描く。


©2016日活

ロマンポルノの時代

ロマンポルノの時代

寺脇研 (著)
光文社 / 光文社新書

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