女だらけの新生ロマンポルノ  vol. 3

Interview

今の「エロス」って何? から始まったリブート・プロジェクト【ロマンポルノ再起動ストーリー・後編】

今の「エロス」って何? から始まったリブート・プロジェクト【ロマンポルノ再起動ストーリー・後編】

日活株式会社が1971年に製作を開始し、昨年、生誕45周年を迎えた「日活ロマンポルノ」。それを記念して、クラシック作品の活性化と連動する形で、塩田明彦、白石和彌、園子温、中田秀夫、行定勲という、日本映画界を牽引する5人の監督による完全オリジナル新作の製作をする「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」がスタート。
本プロジェクトの仕掛人である、日活株式会社の高木希世江氏のインタビュー後編をお届けする。

(本編は後編です。前編「日活ロマンポルノが熱狂的ファンを生み出した理由」はこちら

取材・文 / 井口啓子


ロマンポルノ・リブート・プロジェクトの始まり
今の「エロス」って何?

今回のリブート・プロジェクトは、ロマンポルノ生誕45周年という以外に、なにかきっかけとなるものはあったのでしょうか?

日活の創立100年(2012年)を迎える前年ぐらいから、100周年事業に取り組もうという動きが社内であり、私も2011年の川島雄三監督の『幕末太陽傳』デジタル修復版の劇場公開に関わる中で、ロマンポルノでなにかできればなと思っていたんです。そんな時、ちょうど渋谷ユーロスペースの支配人の北條誠人さんから、曽根中生監督の劇場未公開作品(’84年『白昼の女狩り』)を公開できないかと相談を受けて、それならうちも来年100周年なのでロマンポルノの特集上映をできないかという話になり、2012年にユーロスペースで『生きつづけるロマンポルノ』という特集上映をやりました。それが予想した以上にたくさんのお客さんに来ていただいて、若い女性もすごく多かったんです。

それまで社内でロマンポルノに対する注目度は決して高くはなかったんですが、この上映を機に社内の空気がちょっと変わって。さらにロマンポルノを好きだと公言してくださる監督や役者さんや文化人の方々が多くなってきて。ロマンポルノは、会社の強みじゃないかと。ロマンポルノを肯定する空気が社内で高まってきたんです。

まさに高木さんを始め、ロマンポルノに魅せられた人々が巻いた土壌が、今まさに成熟してきたタイミングがあったんですね。

それとは別に、ロマンポルノをテレビで放映しようとすると、どうしてもR18+で引っ掛かっちゃうので、R15+にできないかという営業部の動きがあり映倫さんにもういちど審査をしてもらったら、当時と今とでは映倫区分も変わっていて一部の作品が、今の区分だとR15+と判断されました。

(※映倫区分は時代によって変遷しており、70年代初頭は、一般映画か成人映画の区分のみで、現在のよう  にG、PG、R15+、R18+と細かく区分されていなかった)

R15+になれば、もっとたくさんの人に見ていただけるますから、新たなビジネスチャンスを作れます。そこで、ロマンポルノというレーベルをもっと活性化したい、そのためには新作を製作しようということで、2014年の年末に新作製作を含めたプロジェクトが動き出したんです。

takagip_DSC00555

日活株式会社 高木希世江さん

今回、新たにロマンポルノの新作を作ろう!となったとき、まずスタッフも監督も、今の時代のロマンポルノって何だろう?ということを考えられたと思うんです。昔と今とでは性的なものの在り方も変わってきてて、ポルノという意味ではネットでいくらでも過激な動画が見れるし、男と女の在り方や、愛や幸福といった価値観も変わってきてますが…。

そこは難しいなって話はけっこうしましたね。今のエロスって何なの?って。インターネットの世界には  「エロ」はいっぱいあるけど、逆に、映画の中で「エロス」を感じられる作品ってなかなかないねという話になり。劇場で上映されている映画は、少女漫画やファンタジーの原作ものが主流で、大人が観ることができるラブシーンのある映画は減っているんじゃないかと思うんです。いわゆる絡みのシーンもあるけれど、こだわらず脱げばいいのになって思える映画がけっこうあって。不要に隠すことで、見ている方もしらけてしまうし、役者さんもやり切れないストレスがあるんじゃないかと感じていました。自主規制してしまう社会の風潮もあるし、そもそも今の若者はリアルなものを求めていないのかもしれないけれど、どっちもあっていいじゃんって、いち鑑賞者として常々思っていました。そこで、なにがエロスで、なにがロマンポルノか?ということも含めて、各監督の解釈に任せて、突き進んでもらえればと。

今回、監督に関してはどのように決められたのでしょう? いずれも日本映画界を背負ってたつ名監督ばかりで、映画ファンとしては純粋にこの人がどんなロマンポルノを撮るのか見たい!と思わされる人選です。

各作品のプロデューサーが仕事したことのある監督や、一緒にやってみたい監督の案を出して、その中でスケジュールなど、いろいろな兼ね合いがあって、最終的にこの5人にお願いしました。当時のロマンポルノに関わりのある方たちを含めると、収集がつかなくなるので、これまでロマンポルノを撮ったことがない監督というルールにしました。


ロマンポルノ・リブート・プロジェクトの製作条件

一、総尺80分前後 
一、10分に1回の濡れ場 
一、製作費は、全作品一律
一、撮影期間は、1週間
一、完全オリジナル作品(脚本)
一、ロマンポルノ初監督


「10分に一回の濡れ場」というルールは、現在でもかなり過激に思えますが、一方で今回は作品の内容も、ポスターやチラシなどのビジュアルデザインにしても、男性だけでなく女性の感性を刺激するセンスを感じます。

今は、女の子が映画館に来てくれないと映画もなかなか当たらないというビジネス的な理由もあるんですけど、私自身、ロマンポルノに魅了された人間なので、映画として普通に女の子に作品を見て欲しいという思いがあります。ロマンポルノという言葉が強いだけで、R18+ってエロスとしては園子温監督の『冷たい熱帯魚』と同じぐらいの、要は一般映画ですし、昔と違って、今はきれいな映画館で女性が普通に見られる状況に変わったので、ビジュアルも女の子が見たいと思えるデザインにしようと意識はしました。

romanporno_poster_tate

私自身、学生時代にロマンポルノに目覚めたのですが、当時はまだまだ名画座でも女性が浮いちゃうような雰囲気はあったので、今回のように女性ウェルカムな雰囲気があるのは嬉しいですね。今回のプロジェクトのスタッフも、高木さんをはじめ女性が多いですが、それは何故なんでしょう?

どうなんでしょうね。社内でロマンポルノやりたい人ー!って募ると、女性の方が手を挙げやすかったのかもしれない。社内で話もあけすけにするので、男性はやりにくかったのかなと。いずれにしても、今フレッシュな気持ちでロマンポルノをどうにかしてやろうっていう人が女性たちだったということは確かです。宣伝担当は生きつづけるロマンポルノ特集上映の時からのスタッフだし、生きつづけるロマンポルノのポスターが欲しくて、劇場に通ったほどロマンポルノにハマって日活に入社した若手女性社員も一緒に宣伝しています。そういうきっかけを作れたということは、現在もロマンポルノに映画としての求心力があるということの証明ですよね。

5人の監督たちが、完全オリジナル脚本でロマンポルノに挑む

今回の5作品は作風もロマンポルノの解釈もバラエティに富んでいて、企画モノではあるけど、結果として監督の個性が際立った、今の日本の一般映画では撮れない独創性あふれる作品になっていると思います。それぞれ高木さんから感想をいただけますか?

romanporuno_itao

行定勲監督『ジムノペディに乱れる』

行定監督の『ジムノペディに乱れる』は、いろいろな見方があって、ラブストーリーと見る方もいれば、こんなに男に都合がいいことってあるかしらという女性もいます。最初に女性が、胸をポロッと出した時点で、これはファンタジーだっていう方もいます。私は、人生やセックスの滑稽さがうまく抽出されていて、すごくロマンポルノ的な作品だなと感じましたね。ある意味でロマンポルノ全体へのオマージュともいえる、リブートだからこそできた作品だなって。

kazeninuretaimage005

塩田明彦監督『風に濡れた女』

『風に濡れた女』は、塩田監督の映画愛に満ちあふれた作品で、欲望に純粋な女と欲望を捨てたはずの男が出会ってヒートアップしていく感じが楽しいですね。年末に香港で公開されて大ヒットしています。塩田監督が、香港のアクション映画を意識して本作を作られたことが、香港の観客に伝わったのかもしれません。海外の映画祭でも大人気の作品です。

mesuneko_roman

白石和彌監督『牝猫たち』

白石監督の『牝猫たち』は風俗嬢が主人公なんですけど、女性がとても共感できる作品です。誰かに求められたいという感情や、セックスしているのに心を開いていない関係性や、働く女性の孤独が描かれていてすごく現代的です。私は、主人公がただ歩いているシーンで泣いてしまいました。白石監督は、田中登監督のことが好きだとおっしゃっているので、社会派ドキュメンタリー的な持ち味もあります。

antiporno_DSC01482re

園子温監督 『アンチポルノ』

園監督の『アンチポルノ』は、冨手さんがすごくよかったですね。最近の女優さんには珍しく肉感的で、筒井真理子さんとの主従関係が豹変するところも素晴らしい。園監督は「売女」という言葉をあえて逆説的に使われているのかと。詩人でもある監督ならではの哲学的な表現もあって、まさに「アンチ」な作品です。それから、下着、洋服もステキです。「色の洪水」のような映像に圧倒されます。

whitelily_image005

中田秀夫監督『ホワイトリリー』

『ホワイトリリー』は、中田監督が日活の助監督時代に小沼勝監督に師事されていて、ロマンポルノを撮りたかったけれど間に合わなかっただけに、ロマンポルノ愛に満ちていますよね。最初にジャンルが被らないようにしたいと話していたので、中田監督はレズビアンものを選ばれたと思うんですけど、情念的な描写が中田監督らしく、愛って怖いなと思いました。

まさに五者五様で。皆さんロマンポルノのルールや足枷を楽しんで撮られた感じが伝わってきます。

撮影期間が7日間と本当に短いので、スタッフ、役者さんは苦労されたと思います。行定組は一週間というのを逆手にとって物語を設定して、ロケ地もすごく良かったですよね。園組は、毎晩徹夜で撮っていたそうですが、出来上がって、すごくいいものができたと、手応えを感じてくださったみたいで。やっぱりオリジナル脚本で作れるということが、最近の映画界ではめずらしいことなので、楽しんで作って下さった様子が画面から伝わってきますね。

今回、主演女優さんにも何人か話を伺ったんですが、皆さんすごくポテンシャルが高くて、女優としての勝負作になったと語られていたのが印象的です。

ロマンポルノということで、キャスティングは苦労しましたが、5人の監督の実績に助けられて、役者さんたちがチャレンジして下さいました。

ロマンポルノは若手発掘の場でもあったから、監督も若手を起用したらいいのにとも言われたんですが、7日間で、しかも濡れ場を撮るということは、経験値がないとできないことだと考えました。今回のプロジェクトが成功したら、50周年に向けて第二弾もやりたいなと考えてますし、そのときは若手監督や、女性監督、海外の監督にもぜひ撮っていただきたいですね。

それは楽しみです。現時点での反響はいかがですか?

おかげさまでいい感じにお客様も入っていて、好評いただいています。男女比などの客層は各作品で特色がありますが、若い方、しかも女性が入っているのが嬉しいですね。新作の公開と連動して、クラシック(旧作)の方も次の企画を考えてますので、これを機会にひとりでも多くの方に作品を見てもらって、ロマンポルノの魅力を発見していただきたいです。

ロマンポルノ・リブート・プロジェクト 作品情報

『ジムノペディに乱れる』
11月26日(土)より全国順次公開

監督:行定勲
出演:板尾創路、芦那すみれ、岡村いずみ
1週間―。映画監督の古谷は、肌のぬくもりを求めて女たちの隙間を彷徨っていた。仕事、名声、そして愛…全てを失った男が、辿り着いた先に見つけたものとはー?ラブストーリーの名手・行定勲監督が、切なく不器用な大人の愛を、美しい映像にのせ官能的に描いた入魂の一作。


『風に濡れた女』
12月17日(土)より全国順次公開

監督:塩田明彦
出演:間宮夕貴、永岡佑
都会の喧噪を避け山小屋で暮らす男・高介は、野性味溢れる魅力を放つ女・汐里との出会いによって、欲望の渦に巻き込まれていくはめに…。欲を捨ててきたはずの男と、欲に純粋な女。塩田明彦監督が、本能むきだしでヒートアップする男と女の♥バトルを軽妙に描く。


『牝猫たち』
2017年1月14日(土)より全国順次公開

監督:白石和彌
出演:井端珠里、真上さつき、美知枝
音尾琢磨、郭智博、村田秀亮、吉澤健、白川和子(特別出演)
池袋の夜街を漂う3人の女。呼び出された男たちと体を重ね、また夜が明ける。ネットカフェ難民、シングルマザー、不妊症…それぞれの悩みを抱えながら、明日に向かって性活する女たちの群像ドラマ。逞しく生きる女性たちの現在(いま)を白石和彌監督が活写する。


 『アンチポルノ』 
2017年1月28日(土)より全国順次公開

監督:園子温
出演:冨手麻妙、筒井真理子
小説家として時代の寵児となった女・京子。極彩色の部屋に籠もり、マネージャー典子が伝えるスケジュールを分刻みでこなす毎日。私は京子なのか?京子を演じているのか?虚構と現実の狭間で、京子の過去の秘密が暴かれていく―。園子温監督が贈るアナーキーな美しき問題作。


中田秀夫 監督『ホワイトリリー』
2017年2月11日(土)より全国順次公開

監督:中田秀夫
出演:飛鳥凛、山口香緖里
傷ついた過去を慰めあうように寄り添い生きてきた二人の女。彼女たちの秘密に踏み込んできた男によって、それぞれの愛が暴走をはじめるー。ホラー映画の名匠・中田秀夫監督が、レズビアンの世界に挑み、歪んだ愛の果てにある女同士の究極の純愛を描く。


©2016日活

ロマンポルノの時代

ロマンポルノの時代

寺脇研 (著)
光文社 / 光文社新書

vol.2
vol.3
vol.4