Column

Mr.Childrenの「虹はここにある」という確信【後編】

Mr.Childrenの「虹はここにある」という確信【後編】

彼らのCD作品は、そもそもジャケがアートなので、それを眺めることから始めよう。プロペラがついた家具のような乗り物に男の子が乗っていて、小さなギターを弾いている。空には飛行機雲。滑空したあとには光の帯が出来つつあるようだが、デザイン上、完全に目視出来るわけじゃない。そして裏ジャケは、これまたプロペラがついた家具のような乗り物の女の子で、誰か(男の子?)を待っている様子だ。まず、このイメージを頭に入れてから、聴き始めたい。
前半でも少し触れたが、「ヒカリノアトリエ」という歌は、冒頭に“虹”が出てくる。でもこれは比喩表現であり、単純に気象現象のことを言っているわけではないことが判ってくる。そしてそろそろ歌が終わろうとする時、「今だけがここにある」という、力強い言葉が聞こえる。「虹はもうここにある」、とも…。でもその間、この歌では“何があった”のだろうか?

まず音のことから。通常のロック・バンドの定位感とはまるで違う。良い意味で“おもちゃ箱をひっくり返した”かのような音だ。普通なら、バンドを支える役目はドラムとベースで、これらがどっしり構え、その上でギターやキーボードなどが表情を加えていく。

でもこの“ヒカリノアトリエ”サウンドは、全員が神出鬼没と言ってもいい。つまり、最初から設定された秩序に従うというより、演奏が始まり終わるまでの間に新たな秩序を探していくようなアンサンブルなのだ。そして時に調和し、シンフォニックに響く。小春のアコーディオンが空を駈けるかのように鳴り響く。

とはいえ、「さすがに桜井のボーカルに関しては、オケと歌、という関係において定位してるでしょ?」、とも思うけど、彼とバック・ボーカルのSUNNYとの関係性も、実に工夫されているのだ。それはまるで、赤のセロファンの横に青を添えることで立体化させるような、そんな工夫とでも言うか…。

改めて書くが、この演奏は、「虹」のツアーを共にした8人によるものである。Mr.Childrenの4人と、そして4人のミュ−ジシャンによる、混合物を越え、もはや化合物と言っていい響きだ。でもそれを実現するためには、Mr.Children自身も新たな化合を成さないといけない。

実は今回、ギターの田原はエレキを弾いていない。その代わり、彼が手にしたのはギタレレだった。クレジットには明記されてなかったけど、彼らのファンクラブ会報の田原のインタビューを確認したら、やはりそうだ。歌詞の“心地好い風”あたりのL側からその演奏は目立ち始め、まさに風を呼ぶのだ。
鈴木はどうだろうか。この曲での彼の重要な役割は、ドラム・ロール的アクセントを中盤で加え、後半になって曲全体がマーチング・バンド的に前を目指していくあたりを暗示させてる点である。バンドにおけるドラムは通常、ビートを生み出すという意味で“時間の番人”という職責を逃れられないが、今回はいつもより自由だ。中川のベースは時に、実に顕著なフレ−ズを全面に押し出す。このように顕在してみせることで、曲全体で彼が果たす潜在的意味合い(そもそもベースというのはそういう楽器だが)を明らかにする。山本拓夫とicchieのホーン・セクションは、この曲の場合、バリバリと金管として響くというより、染み入るように木管的であって(トランペットは木管じゃないけどイメージ的に)、もっともこの曲がトルクを増すところで重要な役割となっている。それは曲全体がマーチング・バンド的に、というあたりである。

歌詞に関しては、すでに「大量の防腐剤」という言葉が話題のようだが、この歌が光や虹を扱う以上、おそらくつまりは“太陽の防腐剤”ということだろう。地球は太陽の光なしには立ちゆかない。太陽の光の殺菌作用ということを、自分の胸の、気持ちのなかにも取り込めば…、ということではなかろうか。これ、「桜井らしいな」と思う。彼は時に、歌詞にはいっけんそぐわなそうな単語を敢えて採用してみせる。


カップリング曲解説

カップリングも超充実である。スタジオと実際の会場でのライブ音源が、5曲収録されている。この8人の最大の特徴は、彼らがいれば、レコーディングとライブに隔たりがないことだ。なので、今回、カップリングにライブ音源を入れた意味は大きい。 

「つよがり」は、いわば“心の鎧”についての歌である。アルバム『Q』のなかでも根強い人気を誇る作品だ。1番の歌詞の「蚊の泣くような」のあたりから、すでに感涙である。曲が出来たのはひとつ前のアルバム『DISCOVERY』の頃だった。

「くるみ」はこの8人が、アコ−ディオンの入る編成ということで、ツアーのセットリスト入りということでは、まっさきに思い浮かんだ作品だった。発表された時のアレンジでもこの楽器がフィーチャーされていたのだ。1番の歌詞でまず提示したことを、2番でより深く伝えることが出来た、という点においては、「手応えを感じた」作品だったと桜井は言っていた。“良かった事”だけ思い出していると“年老いた気持ち”になる、というのは、まさに達観だろう。

「CANDY」はアルバム『I ♥ U』のなかの、飴玉の包み紙と包み隠さぬ心の歌。「恋愛は資本主義をも越える」という聴き方もできて、桜井史上、最強の恋の“残り香”を発する。ティーンエイジャーにこそ、こういうオトナの歌を(オトナも煮え切らず、たいしたことないんだな、ということを学ぶためにも)聴いて欲しい。

「ランニングハイ」は、ホーンがいる今回の8人、ということからも、ぴったりな曲だろう。もともと仮タイトルは「歪み」で、当時、Mr.Childrenがバンドとして“せーの”で演奏して得たアイデアで最後まで貫いた。ちなみに、“ランニングハイ”状態を解説した歌じゃなく、実際に演奏している彼ら自身がそういう状態なのだ、とうことからこんなタイトルとなった。

「PADDLE」はアルバム『シフクノオト』のなかの作品。歌詞を書く前に、録音された演奏を聴いていたら、ふと鈴木のドラムの疾走感から思い浮かべたのがこの歌詞の世界観だった。当時、桜井自身はサーフィンを趣味にしていて、実際に波に乗ってる時間より漕いでる(=PADDLE)時間のほうが多いという体験も、曲に活かされることとなった。
さて、実は今回のCD、すでにみなさんお気づきの通り、隠しトラックがある。アルバム『Atomic Heart』の最後を飾った「Over」だ。でも、弾き語りで歌いつつ、この作品についてのエピソードトークなどもしていて、こちらはぜひ、彼の絶妙な話術も含め、実際に楽しんでみて欲しい。

曲を聴きながら、ジャケの歌詞カ−ドを捲っていって、ここで最後のペ−ジに辿り着いた。さて、そこには何が見えるだろうか。そう。「虹はもうここにある」。

文 / 小貫信昭

ライブ情報

Mr.Children Hall Tour 2017
ヒカリノアトリエ

3月 4 日 ( 土 ) 【東京】オリンパスホール八王子
3 月 8 日 ( 水 ) 【広島】広島文化学園 HBG ホール
3 月 10 日 ( 金 ) 【福岡】福岡サンパレス 
3 月 16 日 ( 木 ) 【愛知】名古屋国際会議場センチュリーホール 
3 月 18 日 ( 土 ) 【三重】三重県文化会館大ホール 
3 月 22 日 ( 水 ) 【東京】NHK ホール
3 月 23 日 ( 木 ) 【東京】NHK ホール
3 月 30 日 ( 木 ) 【長崎】長崎ブリックホール 
4 月 1 日 ( 土 ) 【鹿児島】鹿児島市民文化ホール 
4 月 7 日 ( 金 ) 【石川】金沢歌劇座 
4 月 8 日 ( 土 ) 【富山】富山オーバード・ホール 
4 月 13 日 ( 木 ) 【和歌山】和歌山県民文化会館 
4 月 15 日 ( 土 ) 【京都】ロームシアター京都 
4 月 20 日 ( 木 ) 【東京】東京国際フォーラム ホール A


Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017

http://tour.mrchildren.jp/dome_stadium/

Mr.Children

1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 〜Be Strong」など数々の大ヒット・シングルを世に送り出す。これまでに35枚のシングル、18枚のオリジナルアルバム、4枚のベストアルバムをリリース。2017年1月11日にNew Single「ヒカリノアトリエ」をリリース。3月からは全国ツアー「Mr.Children Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ」、そして6月からは「Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017」の開催が決定している。

オフィシャルサイトhttp://www.mrchildren.jp