Interview

B'z の稲葉浩志とスティーヴィー・サラスが挑んだ、はかり知れないグルーヴ感(前編)

B'z の稲葉浩志とスティーヴィー・サラスが挑んだ、はかり知れないグルーヴ感(前編)

“図太いグルーヴ”を獲得するための音紀行……今では、ほとんど人がやらなくなってしまったレコーディング行程に稲葉浩志とスティーヴィー・サラスが2016年の夏前から挑んだ。ロサンゼルス、オースティンからトロント郊外の内陸の街まで……踏破したあとに、できあがった作品は、聴く者の全身の毛穴を開かせていくような、とてつもないグルーヴ作品『CHUBBY GROOVE』だった。

取材・文 / 佐伯明


「素晴らしい曲を作る、素晴らしいグルーヴを出す」ということを一番重視して

今回のアルバムの「SAYONARA RIVER」のミュージックビデオを観たら、API MODEL 1608っていうアナログレコーダーが映ってたんですけど、アナログレコーディングもしたんですか?

SALAS アナログのボードだったりチャンネルだったりとか、あと古き良き時代のマイクロフォンとかも使ったんですけど、でも実際にはアナログでレコーディングではなく、最新技術に――やっぱりいまだにテープのほうが音がいいとは思ってるんですけれども、今ではちょっとした技術でデジタルをアナログ風に聴かせることもできるので、そういう処理をしました。プログラマーとドラマーで参加してくれたクラウデッドハウスのマット・シェロッドが参加していて、ベックともやっているんですけれども、そうすると、クラウデッドハウスっていうのはテープ的な音を一番美しく出しているし、それをまた理解している人なので、彼の力もあって、っていう。キックドラムも80年代のDMX的なものを使っていたんですけれども、そういうことでちょっとアナログに聞こえるっていうのは……。

聞こえるんだ。では、稲葉さんとスティーヴィーの間で2人で共通した今回のアルバムのテーマというか、「こういうアルバムを作ろう」みたいなものはあったんですか?

SALAS いわゆる“スティーヴィー・サラス”な音じゃなく、でもスティーヴィー・サラスの要素を残し、いわゆる“B’zのKOSHI”じゃなく、でもやはりKOSHIらしさが残っている、でも今までとはちょっと違う作品にしたいっていう気持ちがありました。あとは、みんなが踊れるアルバム。踊れたほうが楽しいよねっていうこともあり、あとはエゴとかはなしにして、「ここでカッコイイギターソロをキメてやるぜ!」とかそういうのは抜きで、KOSHIも最高潮の一番高い高音をガーンと出すようなのでもなく、どちらかといえば「素晴らしい曲を作る、素晴らしいグルーヴを出す」ということを一番重視して。

ギターソロのない曲もあるものね。

INABA いっぱいありますよ。

SALAS 必要なところには入れて、でも、必要がないのに入れる意味はないですよね。無理やりは入れなかったです。もう年も重ねたので、あんまり「自分だ自分だ!」っていうようなエゴを出さなくても、まあギターが弾けるというのも自分自身でちゃんとわかってるから、そんなに無理やり出さなくてもいいだろうと。

プッシュはしないと。

SALAS 曲のために必要なものをやるっていう感じです。

稲葉さんはいかがですか、2人のコンセンサスみたいなところっていうのは。

INABA アルバムの方向性というか音楽の方向性に関しては、彼が言ったように、僕も自分の中にないもので彼が持ってるものっていっぱいあるので、そういうものと自分の声を組み合わせてみたいっていう楽しみも期待していたし、B’zでもなくてソロでもない、で、まあ、さっき言った体が動くような音楽っていうのは思ってましたけどね。でも口では言っても、今までやったことがないような感じってなかなか難しくて(苦笑)。特にボーカルなんかはもう、自分のそのまま――声って聴けば誰かわかるようなものだから、だからそこを、自分の歌が鳴ってるんだけど今までと違うっていうもの、それで自分が満足できるものっていうのを作るのはなかなか難しいですよね。

そうね。そこは未知だけど怖いじゃないですか。

INABA うん、そうですね。「新鮮だったらいいのか」っていうところもありますし、そこで自己満足で終わっちゃうのもイヤだし(笑)。

SALAS でも、怖いっていう気持ちは大事ですよね。恐怖心があるからこそ新たなことに挑戦できるので――まあ何が怖いかって、これのせいで全部お金を使っちゃったら一番責任を感じるんだけれども(笑)。だから、はじめに作品を手がける前も勇気を持たなきゃいけないという話をしていて、U2なんかもそうですよね、『アンフォゲッタブル・ファイヤー』までのU2と、そこから突然『アクトン・ベイビー』で全然違うことをして今までやってきたことを全部捨て去るような作品を作って、あれはもうホントに勇気のある行動だし、ファンがついてきてくれることを祈るしかない。幸いファンがついてきてくれたっていうところはあるんですけれども、でもそれは非常に勇気があることで。でもアーティストとして勇気を持つことって大事で、その勇気を持って作ったことから学んで、さらにその学んだことが次の作品に繋がるっていう、それが大事だと思います。

稲葉浩志 スティーヴィー・サラス

ブレイブっていうことですね。今回は作曲がスティーヴィーでリリックが稲葉さんって完全に分かれてますけど、その線引きは決めたんですか?

SALAS 長年友だち関係を続けている中でアイディアもあったりとか、車の中でザ・クラッシュ(UKのバンド)がたまたま掛かったりするとKOSHIがガッとボリュームを上げて突然歌い出して、まさかB’zのKOSHIがクラッシュを好きだなんてそれまでは知らなかったというか、予想もつかなかったんですけれども。そうするとクラッシュの話になって、「何がそんなに惹かれるんだろうね、もしかしたらクラッシュの持つエネルギー感なのかなあ」とか。そういうクラッシュのエネルギーを取って、またいろんなことを足してみて、ね。もちろん難しいんですけれども、フェスとかでキッズがDJテントで踊ってるようなもののエネルギーとかにクラッシュのエネルギーをまたさらに加えたりして、また別な要素を加えたりとか、そういうふうに作っていきたいなあと思っていました。

ミックスされてたんですね。

SALAS 好きなものをいろいろミックスしていて。

正解を探しながら作業を始めたっていう感じですかね

稲葉さんはスティーヴィーの曲の特徴とか良さ、好きなところって、どこら辺に捉えているんですか?

INABA これを一緒にやる前までに聴いてたスティーヴィーの曲っていうのはやっぱり、まあ彼のギターがメインになってて、ファンク系のリズムで、ちょっとラップに近いような歌が鳴ったりとか、メロディアスなものもあったりするんですけど、それが彼がギターを弾いて歌うっていうスタイルのもとに、一点のルールのもとに制作されて作られたもので、それが僕はすごい好きだったんです。だから実際自分と組んだときに、彼の音楽のアウトプットの一部として自分がそこに加わるわけで、そうすると自分がイメージしてたものとやっぱり違うものが出てくるんですよね。それはたぶん、彼が歌うっていうところが外されたりしてるところで、その作るものも変わってきてると思うんですけど。だから一番最初は「ああ、こういう感じなのか」って、ある意味戸惑いみたいなものもあるし、「こういう感じでこの先どうなっていくのかな」みたいな気持ちもやっぱりありました。

でしょうね。稲葉さんとやるとこんなテイストになるんだっていう変化が、その前までと較べてあるわけでしょう?

INABA うんうん。だから、まあ2人で始めて最初に音を出したところから少し探り合いでやってたとは思うんですけども、だからそこの正解を探しながら作業を始めたっていう感じですかね。

稲葉さんのリリックはトランスレーションしてスティーヴィーは――

INABA してないです。

読まない?

SALAS ときどき歌詞の一部について「これはどういう意味なんですか?」って訊くことはあったんですね。というのは、歌の持つ意図と音楽的な意図がちゃんと同じ方向を向いているかどうかっていうのをチェックしたかったときに意味を聞いたんです。ただ「シラセ」に関してはすごく美しいフィーリングについて曲に託していたので、一応歌詞の確認として「ベトナム戦争的なものじゃないよね?」っていうことを訊いてみたりはしました(笑)。

INABA サメに襲われたときの歌じゃないかとかそういうことばっかり(笑)。

(一同笑い)

なるほどね(笑)。

INABA でも、いわゆる“訳(やく)”みたいなものは一切渡さなかったし、それがある意味大きな特徴というか。もう、聴感上的で。だから、歌詞がわかって、たとえば説明を聞いた人が出すよりもっと多くの注文をこの人は出してくるんですよ。

たとえば?

INABA 基本は全部僕が歌ってる言葉の響きとノリに関してのリクエストですね。意味がわかってなくても、その言葉が歌詞の中で意味合い的にどういう役割をしてるかっていうのをわかってなくても、ノリ、響きが自分の思ってるのと違うっていうことになると、「変えてもらいたい」と。「この言葉はこういうふうに歌えるの?」って訊かれて、「こうはちょっと無理じゃない?」って言うと「違う言葉ないかなあ」って言われて、「だってそこはもう音がないから、この言葉」っていう。

それはワンワードとかなの?

INABA ワンワードとか、フレーズとか。まあ基本的にはワンワード、ワンスポットかなあ。

SALAS 最初の決めごととして、メロディ、グルーヴ感ありきなので、メロディに合わせて歌詞を変える方向で行こうと。歌詞のためにメロディを変えない、っていう決めごとがあったんです。っていうのも、やっぱりボーカルのリズムがギターだったり他の音楽のパーツと一緒になるようにっていう考え方だったんですね。なので、あとは意味がまた同じポジティブなエネルギーを持って音楽と一緒に動いているかどうかっていう問題があるので、ちょっと気になることとかがあると、その言葉だけ変えてもらえばいいのかなあって、まさかそんなフレーズ全体を変えなきゃいけないっていうのは思ってなかったんですよね(笑)。