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窪塚洋介「役者人生最良の日」、スコセッシ「壮大な学びの旅」、監督・キャスト陣の『沈黙』にかける想い

窪塚洋介「役者人生最良の日」、スコセッシ「壮大な学びの旅」、監督・キャスト陣の『沈黙』にかける想い

スコセッシ監督が異例の再来日! ジャパンプレミアに世界が注目

世界20カ国以上で翻訳され、今もなお読み継がれている遠藤周作の名作『沈黙』を、巨匠マーティン・スコセッシ監督が映画化した『沈黙‐サイレンス‐』。1988年の原作との出合いから28年を経てついに完成した本作は、17世紀江戸初期の激しいキリシタン弾圧下の長崎を舞台に、宣教師が見た想像を絶する光景を通して、人間の弱さと強さ、信じることや、生きることの意味を問うスコセッシ渾身の一作だ。日本人キャストの出演も話題を集めるなか、昨年10月に続きスコセッシの再来日が実現、1月21日の公開に先駆けて都内でイベントが開催された。1月16日の記者会見にはスコセッシが、1月17日のジャパンプレミアには監督のほか、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮らが登場。それぞれ本作に込めた熱い想いを語った。

取材・文 / エンタメステーション編集部



アカデミー賞常連の巨匠マーティン・スコセッシの最新作であり、日本と大きな関わり合いを持つ『沈黙‐サイレンス‐』の記者会見には多くの報道陣が詰めかけた。割れんばかりの拍手のなか登場したスコセッシは「積年の想いでやっと完成することができました。日本のみなさんにも受け入れえてもらえて、夢が叶ったという思いです」と、長い歳月をかけてようやく完成した本作の公開への喜びを笑顔で語った。

日本で原作を読み、すぐに映画化を熱望したというスコセッシ。しかし「当時はこの原作をどう解釈するべきなのか、自分の答えが見つからずにいました。その頃は自分の宗教観や疑念、日本の文化に対する理解もそこまで深くなかったんです」と述懐し、「この作品と付き合っていくのは、壮大な学びの旅、試行錯誤の旅でした。作品は完成しましたが、これで終わりだとは思っておらず、今も自分の中に掲げていて、映画とともに生きているという感覚を持っています」と続けた。

本作で描かれる日本における隠れキリシタンについてどのようなことを学んだのか、と問われると、「日本のキリシタンたちの勇気と信念に感心せざるを得ません」と前置きしつつ、先日ローマで会ったというアジア系のイエズス会神父と「彼らが受けた拷問は確かに暴力だが、それと同じくらい、西洋から日本へ来た宣教師が『これが普遍的な唯一の真実である』とキリスト教を持ち込んだこと自体が、侵害であり暴力だった」と会話したことを明かし、「(アンドリュー・ガーフィールドが演じた、主人公であり長崎へ来る宣教師の)ロドリゴの傲慢さは少しずつ崩されていきます。彼の中にあった誤ったキリスト教の考え方が覆され、そしてロドリゴは真のキリシタンになっていく。日本のキリシタンのみなさんは、そういった慈悲心や人間の価値は平等であるという理念に、惹かれると思います」と作品への自信をのぞかせた。

完成までに28年間もの歳月がかかったことについては、「若い頃に撮っていたら、全く違う作品になっていたと思う」と語りながら、「そろそろ挑戦してもいいかもしれない、と思うようになったのは、『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)を撮っていた時。その頃、再婚して子供が生まれて、私生活でも変化がありました。その変化も、可能性を広げるきっかけになりました」と完成までの軌跡を回顧した。

近年、大きな変化が起こっている世界情勢のなか、本作で伝えたいメッセージについて「弱さや懐疑心をテーマにしていますが、そういったことを抱えた人に伝わればいいなと思います。この映画は、否定ではなく、受け入れることを描いた映画。(ロドリゴの長崎入りを手引きする)キチジローの『この世の中に弱き者が生きられる場所があるのか?』という台詞がありますが、これはまさに弱きを除外するのではなく、包容することを言っているんだと思うんです」と語気を強めて語った。また、「一番今危険にさらされているのが、若い世代だと思います。勝者が歴史を勝ち取っていく、勝者がこの世を制覇していくという世界しか知らない。それは、非常に危ないこと。今こそ、信じることや、人の“心”について考えることがとても重要だと思います」と続けた。

© 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

会見には、現在も長崎で隠れキリシタンの伝統を守り続けて信仰を続けている村上茂則氏も登壇した。村上氏が本作について、「自分の先祖たちがこんなにひどい目にあっていたと思うと涙が出てきました。ぜひ世界の人に、日本の人に観てほしい」と神妙な面持ちで感想を述べると、「この映画が、日本の文化、そして日本にいたキリシタンのみなさんの勇気を損なうことのないように描いたつもりです。忠実に、敬意と共感、慈悲心を持って、力の限りを尽くしました。撮影中は、例えば(隠れキリシタンの)モキチが水磔の刑に処されるシーンがありますが、あのシーンを撮影しているときは、アメリカのキャスト、そして日本人キャストもみんな、涙しました。そういう意味でも、本当に真剣に取り組んだ撮影でしたし、この映画の制作は私にとってひとつの通過儀礼のような、“巡礼”なんだという感覚を覚えました」と、改めて本作への想いを語った。

マーティン・スコセッシ 村上茂則

翌17日には、ジャパンプレミアが開催され、スコセッシと窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮と、プロデューサーのエマ・ティリンジャー・コスコフ、脚本担当のジェイ・コックスが出席した。

舞台挨拶では、キャストに続いてスコセッシが最後に登場すると、会場はひと際大きなファンの拍手と歓声に包まれ、スコセッシはファンに笑顔で何度も「アリガト」と日本語で挨拶を繰り返した。
キャストとの久しぶりの再会についてスコセッシは、「東京でまたこうして再会できることは本当に感慨深いです。久しぶりの方もいますが、2年かけて編集作業をしてきたので、2年間ずっとみなさんと会っていたような、昨日会ったばかりのような感覚です。周りの友人や家族など大勢の人が映画を観ていて、日本人キャストもおなじみの顔になっています」とコメント。さらに日本人キャスト陣の演技を「本当に素晴らしいパフォーマンスをみせてくれました。おおげさに聞こえるかもしれませんが、これは心の底から言えることですが、キャストのみなさんは頑張りと力、深みを見せてくれました」と称えた。

加瀬亮 塚本晋也 窪塚洋介 マーティン・スコセッシ 浅野忠信 小松菜奈 イッセー尾形

キチジローを演じた窪塚は、「マーティン・スコセッシ監督、どんだけ日本に来てくれるんですか。日本や遠藤周作さんの想いに、どれだけの敬意を払ってくれているか。極東のどこの馬の骨ともわからないような俺に、毎日どれだけ敬意を払ってくれていたか。溢れるような敬意を感じて、毎日夢の中で仕事しているみたいでした」と感謝を述べ、「どれだけ山の上が厳しい寒さだろうが、どれだけ正座を長い時間やらされようが、どれだけ待ち時間が長かろうが、そんなのは幸せの一部だろって思えるくらい、本当に幸せな時間を過ごさせてもらいました。この映画が、マーティン・スコセッシの想いが、そして遠藤周作先生の想いが、みなさんに届いて、より良い明日が来ることを信じています。今日、この場所が僕の役者人生の最良の日です」と熱く力強くスピーチした。

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続いて、通訳である通辞に扮した浅野は「窪塚さんの素晴らしいスピーチの後で何を言ったらいいのかわからない……(笑)」とコメントして会場を沸かせつつ、「とても難しい役でしたが、常に僕らのことを見守ってくれて、繊細な動きや表現を監督が見逃さずに見てくれて。その中で新たなアドバイスをくれていて、そのおかげでこの役を乗り越えられたと思います。監督の優しさと、一緒に作り上げていくという姿勢は学ぶところがありました」と語った。

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一方、ロドリゴに棄教を迫る長崎奉行・井上筑後守で、全米でもその演技を大絶賛されているイッセー尾形は「(演じた井上筑後守は)悪役だということで知られていますが、撮影まで時間があったので、毎日、まるで我が子のように家で井上を育てました。そんな様子を監督は優しく温かく見守ってくださって、感謝しています」と謝辞を述べていた。

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隠れキリシタンであるモキチを熱演した塚本は、「僕自身は特別な宗教は持ち合わせていないですが、自分の中で“スコセッシ教”というのを作りました。スコセッシ監督のためなら何でもできます」と語りながら、現場での監督の演出について、「俳優に自由に演技をさせてくださる方。提案したことで却下されることはなく、全部『エクセレント(素晴らしい)!』って言ってくれるんです。俳優は常に不安になるものですが、そう言ってくれると、安心して次のシーンに進めるんです。今度から監督の時は真似させていただきます」とユーモアを交えながら話しつつ、「この映画は、長く歴史に残る映画。答えはひとつだけでなく、いくつもの答えが出る映画で、長く語り継がれる作品だと思います」と本作に賛辞を贈った。

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また、隠れキリシタンの村人・モニカ役でハリウッドデビューを果たし、撮影当時は19歳だったという小松は「監督がずっと撮りたかった作品に、10代で関われたことは、とても幸せで刺激的でした。慣れない英語の台詞で、壁にぶつかった時はありましたし、英語でどうお芝居をするのか、感情をどこに持って行けばいいのか、と迷った部分もありました」と振り返りつつ、「監督や英語の先生が丁寧に教えてくださって、周りの役者さんたちも生でお芝居を見せていただいて、貴重な体験ができたと思います」と感慨深げに語った。
そして、モニカの夫・ジュアンを演じた加瀬は、「小さな役ではありましたが、共演者と監督の名前を聞いた時に、自分の中で久しぶりにワクワクして、参加したいと思いました」と続けた。

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壮絶だったことが予想される撮影現場については、窪塚は改めて「それも幸せの一部なんです」と前置きしつつ、「ただやっぱり想像していたより、集中力や忍耐力が必要な現場でした。簡単に超えられる壁ではなかったですが、やっぱりスコセッシ監督は、最高に良い芝居ができる状態にしてくれる監督。いてくれるだけで良い緊張感があるけど、ニコニコしていらっしゃるからリラックスもできる。そこにいるだけで、一番良い状態のテンションに持って行ってくれる人なんです。それは長年のキャリアがそうさせているのか、生まれながらに持っているのか、わからないですけど、改めて偉大な監督だと思いました」とスコセッシの手腕を絶賛した。

“スコセッシ教の信者”を自称する塚本は、劇中での過酷な水磔のシーンについて問われると、「苦行も喜びの一つです」と回答しつつ、「でも波が大きいんですよ。波に打たれながら台詞を言うのが僕の使命なんですけど、どうしても波で鼻に水が入って咳き込むんです。その咳をおさめてから台詞を言うんですけど、そうすると次の波が来てしまう。それがシビアで、その悲壮感がリアリティを生んでいるんじゃないかと思います」と独自の分析を披露して会場をさらに沸かせた。

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アンドリューとの共演について聞かれた小松は「アンドリューさんは過酷な役でストイックに減量をしていて、現場ではあまりお話もできなかったですが、クランクアップした時はハグしてくださいました」と思い出を振り返った。さらにあるシーンの撮影について「自分の感情を出す印象的なシーンで、監督のOKが出たんですが、翌日になって、スタッフさんたちに『ごめん……。編集の都合でつながらなくて、もう1回やってくれる……?』って言われたんです。その時は大変で辛かったですけど、もう1回見ていただけるって、幸せなことだなって思いました」と述懐すると、監督は「彼女が激しいリアクションをするのですが、その芝居に驚きました。もう1回お願いするのが心苦しくて……。でも、同じくらい素晴らしい演技を見せてくれました」と小松の演技を絶賛した。また、加瀬も「小松さんは普段だるそうなのに……(笑)、でも芝居に入ると、200倍くらいの力が出るんです。そのシーンの撮影のことはよく覚えていますし、その日の撮影が終わると倒れちゃうんじゃないかっていうくらいに力を出し切っていて。でも、次の日も、全く同じ力強さで演じていました」と小松の女優魂に驚きを隠せない様子だった。

キャストが本作や監督に対してコメントする度に、「アリガト」と何度も日本語でお礼を言っていたスコセッシは「長年、映画監督をやってきていますが、今回ほど、体力的にも精神的にもチャレンジした作品はありません。日本人キャストのみなさんは、辛くても平気な顔をして演じてくれた。彼らは、この作品の礎になってくれました」と日本人キャスト陣に、笑顔で最大級の称賛を贈っていた。

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映画『沈黙‐サイレンス‐』

2017年1月21日公開

17世紀の江戸初期、幕府による激しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕えられて棄教したとされる宣教師〈フェレイラ〉を追い、弟子の〈ロドリゴ〉と〈ガルペ〉は日本人の〈キチジロー〉の手引きでマカオから長崎へと潜入する。日本にたどり着いた彼らは、弾圧を逃れた“隠れキリシタン”と呼ばれる日本人らと出会う。しかし、幕府の取り締まりは厳しさを増し、〈ロドリゴ〉らも囚われ、長崎奉行〈井上筑後守〉に「お前のせいでキリシタンどもが苦しむのだ」と棄教を迫られる。守るべきは大いなる信念か、目の前の弱々しい命か。心に迷いが生じたことで知った自分自身の弱さ。追い詰められた彼の決断は――。

監督:マーティン・スコセッシ
原作:遠藤周作「沈黙」(新潮⽂庫刊)
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
美術:ダンテ・フェレッティ
編集:セルマ・スクーンメイカー
出演:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、 塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
配給:KADOKAWA

オフィシャルサイトhttp://chinmoku.jp


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原作本 「沈黙」
chinmoku
沈黙

遠藤周作(著)
新潮社

島原の乱が鎮圧されて間もないころ、キリシタン禁制の厳しい日本に潜入したポルトガル人司祭ロドリゴは、日本人信徒たちに加えられる残忍な拷問と悲惨な殉教のうめき声に接して苦悩し、ついに背教の淵に立たされる……。神の存在、背教の心理、西洋と日本の思想的断絶など、キリスト信仰の根源的な問題を衝き、〈神の沈黙〉という永遠の主題に切実な問いを投げかける長編。