LIVE SHUTTLE  vol. 97

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山崎育三郎。6年半ぶりのソロ・コンサートで追求した“エンタメ”とは?

山崎育三郎。6年半ぶりのソロ・コンサートで追求した“エンタメ”とは?

エンターテインメントの本質は“煌めき”だと思う。
映画でも舞台でもコンサートでも、エンターテインメントの要素が詰まっているだけでは駄目で、観客の心の奥深くまで光を届けることができて初めてそれは“エンターテインメント”になる。
淡々とした日常に華やぎを与え、辛い現実に立ち向かわせ、孤独な魂に寄り添う光。
それはやはり人間存在の深い底からしか立ち昇ってこない光だ。ぐる

2015年、ミュージカルという世界からTVドラマの世界へと大きくジャンプしてみせた山崎育三郎。
2016年はドラマからバラエティへと場を広げ、8月にはカヴァー・アルバム『1936~your songs~』で“歌手”としての存在感を見せつけ、年末にはそのアルバムで第58回日本レコード大賞企画賞を受賞。
波に乗る彼が、また一つステップを昇った。アルバム・リリース時のインタビューで「LIVEもやりたい」と語った、その夢の実現。
6年半ぶりとなるソロ・コンサート「山崎育三郎コンサート~1936 your songs~」が行われた1月15日は、コンサートのイメージを覆す新たな“エンターテインメント”が誕生した日だった。

山崎育三郎

会場は東日本大震災後、2014年10月にできた豊洲PIT。“PIT”は“POWER INTO TOHOKU”の頭文字で、ここでの収益はいわき、仙台、釜石のPITの運営とともにエンターテインメントを通じた復興支援活動に使われる。
遠景に高層ビル群を仰ぐ東京湾岸の埋立地は、公園やフットサル場、バーベキュースペースなど、進化を続ける一帯だ。
この日は快晴。広い歩道を真っ直ぐに会場へと急ぐ人々を、ほぼ水平に射し込む1月の光がひときわ美しく照らしていた。

1500の客席は埋め尽くされ、開演を待つオーディエンスは10代から60代とおぼしき女性まで幅広い。長く山崎を応援し続けてきたミュージカル・ファンに、TVや今回のアルバムで出会った新たなファンが加わっているのだろう。礼儀正しさと期待に満ちた表情が場を満たしている。

客電が落ち、ブルーの光に照らされて山崎が登場すると、会場から赤いペンライトが灯る。オープニングは「青春の影」。アルバムでも1曲目に収録されている1974年チューリップの名曲を、山崎は一つの言葉、一つの音を抱きしめるようにアカペラで歌い出す。

君の心へ続く 長い一本道は
いつも僕を勇気づけた

結婚式で歌われることも多い珠玉のラブソングを、古いガラスの花器を扱うように、天鵞絨で磨いて新たな光を与え、柔らかく差し出す。
その歌声をかけらもこぼすことのないように、客席の一人ひとりが息を詰めて聴き入る。
会場の空気が柔らかく溶けた直後、マニピュレーターの前田雄吾がブラスの印象的なイントロを奏でるとステージは一転、大輪の薔薇が咲いたように華やぐ。

勢いよくステージに登場するのは、4人のダンサー&コーラス・メンバーだ。
布施明の大ヒット曲「君は薔薇より美しい」。オリジナルよりアップテンポでダンサブルにアレンジされたナンバーを歌う艶やかな声が、天井を突き抜けるほどに伸びていく。
客席は総立ち、フロアを埋め尽くすペンライトの赤がリズミカルに揺れる。
この日のために誂えられた赤と黒のクラシカルな衣装が、中世の騎士のようにロマンティックに山崎の表情やパフォーマンスを引き立てる。

3曲目は最強の励ましソング、KANの「愛は勝つ」。アルバム全曲のアレンジを手がけた宗本康兵をバンマスに渡辺裕太(g)、須藤優(b)、藤原佑介(dr)、前田雄吾(mp)の5人が奏でるアンサンブルにはわずかな弛みもなく、会場のテンションを上げていく。

「皆さん、盛り上がってますか?」
息を切らせながら山崎が問いかけると、大きな歓声がそれにこたえる。
「今日は“山崎育三郎コンサート〜1936 your songs〜”にお越しいただき、ありがとうございます。赤いペンライト、素敵(笑)。ありがとう!」

ペンライトはこの日のためにつくられた限定グッズ。ここから山崎は、ステージの主役でありながら、同時にパーティーのホスト役を務めるように場の空気を束ねていく。
まずは、4人のダンサー&コーラス・メンバーを一人ひとり丁寧に紹介する。
樺島麻美、奥山寛、高橋卓爾、石原絵理。
幾つもの舞台を山崎とともにしてきた彼らは、それぞれが歌って、踊れて、演じられるミュージカル俳優。彼らと並んだ山崎の表情は、一人で立っているときよりずっと柔らかい。

山崎育三郎

「お座りください。今日のコンサートはアルバムからの歌が中心なんですが、ここからはミュージカル俳優ということで。
コンサート・グッズ、ご覧になりましたか? タオル、Tシャツには、子どもの頃からずっと好きで憧れて、そして舞台に出ることができた作品の役のアイコンが入っているんです」
『レ・ミゼラブル』のマリウス、『モーツァルト!』のヴォルフガング・モーツァルト、『ミス・サイゴン』のクリス、『エリザベート』のルイジ・ルキーニ。
小学6年でオーディションに受かり、いきなり主役で舞台を踏んだ山崎だが、その後の道のりは決して順風満帆ではなかった。声変わり、スランプ、祖父母の介護……。それでも夢を諦めず、想いを行動する勇気にかえて、憧れの役を掴み取った彼の半生を象徴するデザインを紹介する彼は、地元の野球チームの大会で優勝したことを両親に報告する少年みたいに見えた。

そして「マリウスが歌います」と「カフェソング」。
共に闘い、散っていった友を想う曲を、ピアノで歌い上げる。
続いて『ミス・サイゴン』より、アメリカ兵がサイゴンの女性に恋をして歌う「WHY GOD,WHY? 」。動きながら熱唱する様子はクリスそのままに情熱的だ。
ミュージカルからの3曲目はアルバムにも収録されている「僕こそ音楽(ミュージック)」。アルバム同様、ギター、ドラム、ベースの音が強調されたバンド・サウンドで聴かせる。

「2016年はミュージカル『エリザベート』イヤーでした。『エリザベート』から『最後のダンス』と『ミルク』、そして『モーツァルト!』から『影を逃がれて』。お聴きください」

メドレーで歌われた3曲はまさにミュージカル・スター、山崎育三郎の本領発揮。4人のミュージカル俳優とともに感情を揺さぶるシーンを立体的に創出する。群衆劇の興奮を見事に伝える5人の歌とパフォーマンス。とくに「影を逃がれて」は圧巻だ。

自分の影から自由になりたい
自分の影から逃れられるのか?

フィジカルでドラマティックな演出、ロック・アレンジのサウンドと相まって、コンサートの中盤、ひときわ高く美しい稜線を描いた。

「ミュージカルの楽曲は歌うとその場面が蘇ってきて……。改めてミュージカルの力を感じます」
しみじみとした語り口には、ステージ上だけでない人生の起伏、さまざまなシーンが去来しているのが感じられる。
ここからステージは180度展開する。
自分の得意なフィールドからあえて細く険しい道へ分け入るように、ピアノの弾き語りで尾崎豊の「Forget-me-not」。
「初めて聴いたとき涙が出るくらい感動した」というこの曲を、ステージで初披露するのにあえて「弾き語り」というスタイルを選んだ山崎。相当練習してこの日を迎えたのだろう、滑らかで柔らかい鍵盤のタッチと繊細な歌声は、尾崎とは違う「忘れな草」を華麗に咲かせてみせた。

山崎育三郎

バンドの音が加わってスキマスイッチの「奏(かなで)」、そして福山雅治の「桜坂」。ダイナミックな照明にバンドのグルーブも加速して、ライブらしい熱気が会場を覆っていく。
バンド・メンバーが「Friend Like Me」を演奏している間に着替えを終えた山崎は、ブラック&ホワイトのコスチュームでディズニー映画から「A Whole New World」~「君はともだち」~「under the sea」と3曲。
後半の衣装はさながら囚われの姫を救い出すプリンスのようだ。

続く1曲は、この日最もたくさんの拍手を集めた曲になった。
「おっくん」「あさみちゃん」「えりちゃん」「たくちゃん」の4人のミュージカル俳優らとの寛いだやりとり。
敬意と感謝と親しみを込めて、山崎が「ミュージカル俳優は最強なんじゃないかと思うんです。歌もうたえて、踊りもできて、演技もできて、ピアノも弾けて、野球もできて、ゴルフも……」と言ったところで「自分に引き込むんじゃねぇ!」と明るいツッコミが入る。
その後、山崎は単身アメリカに渡った高校留学の思い出を話し始める。

「アダムという友人が車内でよくかけていた曲。ビリー・ジョエルの『The Longest Time』を今日はアカペラで、この5人で歌いたいと思います」

深呼吸し、アイコンタクトで息を合わせる5人の表情に緊張と集中が浮かぶ。そして放たれたのは、息を飲むハーモニーだった。
力強く、繊細で、瑞々しく、温もりを持った5人の声、息が、縒り合わされ、縦横に絡み合いながら、美しいタペストリーを紡いでいく。
曲が終わり、一瞬の間を置いて起こった嵐のような拍手と歓声に、5人の顔は一斉に綻んで満面の笑顔が開いたのだった。

山崎育三郎

拍手が鳴り止まないなか、「皆さん、立てますか?」と山崎。
ラスト3曲はゴールデンボンバー「女々しくて」、郷ひろみ「男の子女の子」、沢田研二「TOKIO」。
「女々しくて」ではペンライトが一斉に上がり、チャーミングでキレの良いダンスに合わせてリズムを刻む。ミラーボールからは光の乱反射。
「男の子女の子」では、♫GO GOのレスポンスに「いっくん!」と叫ぶことをあえて指示し、「恥ずかしくない! 僕が一番恥ずかしい……」と素をのぞかせる。さらに野球で鍛えた肩で客席後方までサインボールを飛ばしてみせた。
本編最後の「TOKIO」はエンターティナー・山崎育三郎の独壇場。ミラーボールに負けない圧倒的な光を包むように放たれたテープが銀の弧を描くなか、おもちゃ箱をひっくり返したようなショータイムは幕を閉じた。

アンコールでは全員がコンサートTシャツに着替えて登場。
「今後こういうコンサートも絶対やっていきたいし、CDも出していきたいので、よろしくお願いします」と改まった調子で挨拶して、「ずっと応援してくださっているファンの皆さんとの絆だと思っている曲を歌います」と中島みゆき「糸」。
ピンスポットを浴び、胸に手を当ててうたう歌は、彼の歌唱力、表現力が存分に発揮された“持ち歌”のような一曲だ。
再度コーラス・メンバーを呼び込んで、総勢10人がズラリとステージに。

山崎育三郎

「レコード大賞、観ていただけたでしょうか? 『プリシラ』千秋楽の翌日、ボロボロだったんですが、精いっぱい歌わせていただきました。本当に、ここにいらっしゃる皆様がレコードを買ってくださったおかげだと思っています。まだまだ、もっと楽しいことをやっていきたいと思っていますのでよろしく!」
アンコール最後の曲はもう一度「君は薔薇より美しい」。
ステージから溢れる煌めき、瑞々しさは、アメリカのハイスクールのダンス・パーティーのよう。ステージの一人ひとりが心から楽しんでいる様子が会場全体に広がっていく。

全てが終了し、9人を送り出した山崎が改めてオーディエンスに感謝を述べる。
「まだオープンにできないんですが、初の月9の撮影が始まっています。今年は去年以上の育三郎イヤーになると思います。皆さん、ずっとついてきてください!」

1500人のオーディエンス一人ひとりへの想い、エンターティナーとしての覚悟が溢れたひと言に、客席から大きな歓声が上がった。
舞台の世界ではたまにあっても、コンサートで最後に一人残って挨拶をするアーティストは少ない。
歌とパフォーマンスだけでなく、コンサート全てに責任を持つ姿勢と、とことん夢を生きようとする鉄の意志こそが“煌めき”を生み出すのだろう。
山崎育三郎が追求する“エンターテインメント”は、もっと遥かな高みを目指していくはずだ。

文 / 村崎文香

山崎育三郎 コンサート ~1936 your songs~
2017.1.15 豊洲PIT セットリスト

1. 青春の影
2. 君は薔薇より美しい
3. 愛は勝つ
4. カフェソング
5. WHY GOD, WHY?
6. 僕こそ音楽
7. 最後のダンス
ミルク
影を逃がれて
8. Forget-me-not
9. 奏(かなで)
10. 桜坂
11. BAND 紹介(Friend Like Me)
12. A Whole New World
君はともだち
under the sea
13. The Longest Time
14. 女々しくて
15. 男の子女の子
16. TOKIO
アンコール
EN1. 糸
EN2. 君は薔薇より美しい

ステージ情報

ミュージカル「レディ・ベス」 
 ロビン・ブレイク役

2017年10月~11月 帝国劇場
 2017年11月~12月 梅田芸術劇場メインホール

山崎育三郎

俳優、歌手。1986年1月18日生まれ、東京都出身。A型。1997年、全国童謡コンクールにて審査員特別賞を受賞。1998年、12歳で初めてアルゴミュージカルに主演。2007年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役に抜擢。以降、ミュージカル俳優として活動。2015年、ドラマ『下町ロケット』(TBS系)真野賢作役で、一躍注目を浴びる。2016年、ドラマ『お義父さんと呼ばせて』(フジテレビ系)では、コミカルなキャラを演じるなど幅広い演技をみせ、個性派俳優として活躍。趣味はゴルフ、特技はダンス、ピアノ、野球。7月には初の自叙伝「シラナイヨ」発売。

オフィシャルサイトhttp://www.ken-on.co.jp/1936/

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