女だらけの新生ロマンポルノ  vol. 4

Interview

“売女”なのに“処女”でなければならない矛盾した存在。『アンチポルノ』冨手麻妙

“売女”なのに“処女”でなければならない矛盾した存在。『アンチポルノ』冨手麻妙

日活ロマンポルノの生誕45周年を記念して、旧作のDVD発売やオンデマンド配信を推進すると同時に、5人の映画監督が撮り下ろしたロマンポルノの新作を劇場公開するという「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」。映画ファンならば興奮を禁じ得ない、この画期的プロジェクトにおいて、あの園子温監督が撮り下ろしたのが、その名も『アンチポルノ』だ。

時代の寵児となったアーティスト・京子は、極彩色の部屋に籠り、分刻みのスケジュールをこなす。秘書や取材相手に、女王のように自由奔放にふるまう京子だが、やがて現実と虚構が入り乱れる中で、京子の過去の秘密が暴かれてゆく…… というストーリーをシュールで実験的な映像で紡ぎ出した本作は、「濡れ場が入っていれば、あとは何をやってもオッケー」というロマンポルノ・マニフェストを見事に逆手にとった、自由でアナーキーなパワーに満ちみちている。

これぞ新しい時代のロマンポルノ! と叫びたくなる、振り切れまくった園子温流・ロマンポルノ『アンチポルノ』において、ヒロインの京子を体当たりで演じているのが、AKB48の研究生だった、女優の冨手麻妙だ。十代からグラビアアイドルとして人気を集めながらも、持ち前の豊満なボディとガッツで女優としての道を切り開き、見事、目標としてきた園子温監督作品の主演の座を射止めた彼女に、今回の『アンチポルノ』について、女性から見たロマンポルノの魅力について、話を聞いた。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 森崎純子


京子の「自由がない!」という叫びは、園子温監督の叫びでもある

©2016日活

『アンチポルノ』拝見しました。ロマン・ポルノという「企画モノ」でありながら、アナーキーなパワーみなぎる、見事なまでの園子温ワールドで。冨手さんも体当たりで挑まれた感じが爽快でした。

まさに、園子温ワールドでしたよね。園さんとしてはオリジナル作品を撮るのは『恋の罪』以来で。久しぶりの記念すべきオリジナル作品に主演させてもらえるのは本当に嬉しいことでした。「お前の話を書いてやる」って当て書きしてくださったんです。光栄なことです。

私が園さんに自分のことを事細かに話したことはないんですが、私の想いが台詞になっていて、「なんでわかるんだろ?」と驚きました。十代の頃にグラビアアイドルの仕事をやっていて、やっぱり自分が性の対象として扱われていると感じることが多かったんですね。自分としては男の人のためではなく、表現の一つという気持ちで自ら進んでやってたんですけど、結果として男性のために脱がされたような形で消費されてしまっている。「それは違う!」という怒りはずっとあって、園さんが私の気持ちを代弁してくれたような気がして脚本を見たときは感激しました。

確かに、作中の京子は世間からもてはやされるアーティストで、傲慢なまでに自由に振る舞ってはいるが、一方で虚構の世界に閉じ込められ、一方的に消費される存在でもある。そういった設定や現実と妄想が入り混じった構成や舞台的な演出、そして「これは私の人生じゃない!」というセリフも含めて、京子を演じる冨手さん自身と重なって、痛々しいほどのアリティがありました。その一方で、京子の「自由がない!」という叫びは、園監督自身の叫びにも感じられますよね。

私も台本を読んだとき、京子は私だと思うのと同時に、これって園子温じゃん!って(笑)。ちょうど『アンチポルノ』を撮ってた2015年の12月頃って、園さんも日本の映画業界に対して、「自由がない」と怒っているように見えました。やりたいことが思い通りにいかない時期だったと思うので、監督自身の怒りも多分に含まれていたと思います。映画って本当はもっと自由なもんじゃん!って訴えたかったのだと。

tomite_AK36929M

なるほど、現在の「映画」に対するアンチでもあると。園監督は自主制作の時代から、映画表現の自由を追求されてきた方だと思うのですが、今回はそれが爆発してますよね。ロマンポルノのルールを完全に逆手にとって、濡れ場が入ってたら後は何やってもいいじゃん!って、突き抜けまくってる。みんな脱ぎまくって、セックスしまくってるのに、全然いやらしくなくて(笑)。最後の方はシュールですらありました。

そうそう。セクシーなものを期待して見にきたのに、あれ…?って(笑)。でも、別にロマンポルノだからって男の人を興奮させなきゃいけないという決まりもないし、今回はいやらしいものにしたくないというのが、まずみんなの中にありましたね。

©2016日活

興奮なんかさせてやるもんか

じゃあ、世間的には冨手麻妙が脱ぐ! みたいなどよめきもありましたが、ご自身としてはヌードになること自体にはまったく躊躇はなく……?

なかったです。表面的に裸をさらけ出すことよりも、自分の内面や本音を曝け出すことの方が恥ずかしかったし、この作品で園さんの期待に応えないと、もう園さんと一緒に仕事できないんじゃないかってプレッシャーの方が大きくて。これまでにロマンポルノや映画でヌードになられた女優さんも、たぶん女優の仕事をすると決めたときから、脱ぐ必要があれば脱ぐって決意されてたと思うんです。でも、実際の作品になると、まるで誰かに脱がされたような描き方をされてしまう。そういう見られ方とは闘っていきたいと思うし、今回は「興奮なんかさせてやるもんか!」ぐらいの気持ちでのぞみました。

面白いことに今作では私以外の役者さんもヌードになってるんですが、どのシーンも自主的に脱いでるんです。作中で何者かによって服を脱がされるシーンを一切無くすることで、エロさをとっぱらったと園さんが仰ってました。

antiporno_

©2016日活

いわゆるロマンポルノって“いかに脱がせるか”という部分が、いちばんのエロスでありロマンだったと思うのですが、そういう男の勝手なファンタジーを真っ向からぶった斬ったという意味では、まさに「アンチポルノ」ですよね。

私が脱がされるシーンが1か所でもあったら作品のポリシーが変わってたと思うし、園さんはそういった細かい表現から意識して映画をつくってるんだなって、すごく女性的なものを感じましたね。キャストもほとんど女性だし、あれ、園さんって男性だよね?って(笑)。

たぶん、園さん自身も女性を見下してる感じが嫌いなんでしょうね。京子のセリフで「男性はみんな立ったままおしっこをする、便器すら見下してるのが男だ」っていうのがあるんですけど、わかりやすいですよね。私も「なんていいセリフだ!」と思いながら演じました。

tomite_AK36945M

それって、単にフェミニズム的なメッセージというよりは、○○ってこうゆうもんだよねっていう世の中の無言の抑圧に対するアンチのような?

でしょうね。園さんの『冷たい熱帯魚』は男性的な作品でしたが、ロマンポルノを撮るにあたって、女性が消費されてることへの怒りが出てきたと思うんです。だから今回に限っては園さんも女性的な目線に立って撮られたんじゃないかと。園さんのアトリエによく遊びに行くんですけど、トイレに園さんの字で、「男は黙って立ったままションベンしろ」みたいなことが書いてあったのが、今作の撮影に入ったあたりから、「男もちゃんと座ってトイレしろ」みたいな内容に変わっていました(笑)。

今回のリブートプロジェクトで新作を撮るにあたって、たぶん5人の監督全員が「今の時代のロマンポルノって何だろう?」と考えられたと思うんです。かつてのロマンポルノはまず男性のためのもので、女性は男性の欲望の対象として消費される側面が大きかったけど、今は女性の在り方自体が変わってきてて、生き方にしてもセックスにしても主体的な女性が増えてるし、ロマンポルノに求められるものも自ずと変わっている気がします。

女性の在り方自体、昔は専業主婦で家にいて家事をして男性の帰りを待って…… みたいなのが主流だったのが、今は女性もバリバリ働いて、主体的な人生を生きたいと、少しずつだけど変わってきてると思うんです。園さんも時代の変化を感じて、今、昔ながらのロマンポルノを作ってもそれは違うんじゃないか、新しいものを作ろうと思われたでしょうし、実際、ロマンポルノが男性のものだけじゃなくてもいいんじゃないかと仰っていたので、「アンチポルノ」のような作品になったのかなって。これをきっかけに新しいロマンポルノが作られていくと、映画業界としてもすごく面白いことになってくるんじゃないかと思います。

tomite_AK36908M

女を売り物にしているのに、処女でいなきゃいけない矛盾した存在

女性の在り方という意味では、作中で「売女」という言葉も連発されますよね。あの言葉は冨手さんとしては、どういうふうに捉えられましたか?

やっぱり、単純に失礼な言葉ではありますよね。マカオの映画祭の字幕では「Bitch」と訳されていたので、「やっぱりそうなんだ」って(笑)。ただ、私たちアイドルや女優の仕事って、ある意味売女だなと思います。女を売り物にしているのに、一方では処女でいなきゃいけない。すごく矛盾した存在なんですね。

「売女」というと、まるで自由なものであるかのような感じもするけど、実はそうでもなく。女優は、虚構の世界で生きてるんだから、別に人を殺してもいいし、何をやってもいい。そういう圧倒的に自由な表現の世界にいるのに、実際はなにかに動かされてて、自由がない。

私自身、もともとグラビア出身で、体型もどちらかというとムチムチしているので、セクシーな役をいただくことが多くて。それを自分のひとつの武器だと思って闘っていこうと、最近は「セックスシンボルになりたいんです」と自分から言ってるんですが、一方で、セクシーさだけを売り物にされたくない気持ちもあって……。だから「自分は売女にもなれない、処女でもない、クソみたいな女だ」「売春婦の自由すら手にしてない」という京子のセリフはまさに私の叫びでもあって、すごく重かったけど全力で叫んで、心身ともに丸裸になって、やっと役者としてスタートラインに立てた気がします。

そういう冨手さんが抱かれている矛盾は、仕事も家事もうまくこなして、何歳になってもセクシーで美しく…… みたいなものが求められる、現代の女性が抱える矛盾にも通じるように感じました。京子の「クソみたいな自由しかない!」という叫びは、すべての女性の叫びでもあると。

だからこそ女性に見てもらいたい作品です。試写会にも女性がたくさん来てくださって、みなさん「すごくわかるっ!」て言ってくださいました。男性はロマンポルノを観にきたはずなのに、「あれ?全然いやらしくないし、なんか怒られてる……? 」と戸惑うかもしれないけど(笑)。その裏切りが面白かったよって言ってくれる男性がいたら嬉しいし、この国もちょっとは変わるんじゃないかと思いますね。

tomite_AK36958M

冨手麻妙

1994年3月17日生まれ。神奈川県出身。15歳のとき芸能界入り。「わたしは女優になる」と決意し、本格的に芝居を始める。舞台「LOVE FAIRY」(11)で初主演を果たし、NHK連続テレビドラマ小説「花子とアン」(14)、『新宿スワン』(15)、『リアル鬼ごっこ』(15)、『みんな!エスパーだよ!』(15)、『闇金ドッグス』シリーズ、米MTV製作のオムニバス映画『MADLY』の中の園監督の短編映画『Love of Love』に出演。

映画『アンチポルノ』

2017年1月28日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

antiporno_h1

小説家兼アーティストとして時代の寵児となった京子(冨手麻妙)。極彩色の部屋に籠もり、マネージャー典子(筒井真理子)が伝えるスケジュールを分刻みでこなす毎日。寝ても覚めても終わらない悪夢。私は京子なのか?京子を演じているのか?虚構と現実の狭間で、京子の過去の秘密が暴かれていく――
園子温監督が脚本を書きおろした完全オリジナルの最新作。主演は、本作が長編映画の単独初主演となる女優・冨手麻妙。2015年に公開された園作品のほぼ全てに出演し、園が今もっとも成長を期待する若手女優。冨手麻妙は「園監督の作品のためなら脱ぐ」と 裸上等で難しい役所に挑戦している。冨手麻妙の相手役には、実力派女優・筒井真理子。カメレオン女優と評される幅の広い演技力で、映画に堂々たる存在感を残し、物語中盤の<ある仕掛け>に最大限の効果をもたらしている。園子温が表現の壁をぶち壊す、アナーキーで過激な美しき問題作。

監督・脚本:園子温
キャスト:冨手麻妙 筒井真理子
不二子 小谷早弥花 吉牟田眞奈 麻美 下村愛 福田愛美 貴山侑哉
長谷川大 池田ひらり 沙紀 小橋秀行 河屋秀俊 坂東工 内野智

企画製作・配給:日活
2016/日本/78分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル/R18+
©2016日活

オフィシャルサイトhttp://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/antiporno/


園子温監督作品
ヒミズ
vol.3
vol.4
vol.5