女だらけの新生ロマンポルノ  vol. 5

Interview

筒井真理子が『アンチポルノ』で女優としての覚悟を問われた台詞とは

筒井真理子が『アンチポルノ』で女優としての覚悟を問われた台詞とは

日活ロマンポルノの生誕45周年を記念して、クラシック作品の普及推進と同時に、5人の映画監督が撮り下ろしたロマンポルノの新作を劇場公開するという「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」において、園子温監督が撮り下ろしたのが、その名も『アンチポルノ』だ。
極彩色の部屋にこもりながら分刻みのスケジュールをこなす、小説家兼アーティストの京子の抱えた秘密を、虚構と現実が入り混じった実験的な演出でアーティスティックに描き出した本作において、京子のマネージャー・典子を演じているのが筒井真理子さん。
京子の従順な「犬」として理不尽な要求や辱めに黙って従っていたかと思いきや、不意に虚実が逆転。爽快なまでのドSっぷりを披露する。
その振り切れまくった演技と、艶めかしい肢体は、これぞ女優という凄みと同時に、現代女性の苦悩をシンボリックに浮き彫りにする。
ここでは、そんな彼女の目から、映画『アンチポルノ』とロマンポルノ・リブート・プロジェクトについて語ってもらった。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / キセキミチコ


誰もが自然に社会的な顔を演じている

筒井真理子

筒井さんは園監督とはすでに『希望の国』『みんなエスパーだよ!』でお仕事されてますよね。その流れで、監督から指名があったのでしょうか?

 

初めは日活さんから、事務所宛てに連絡があり、園さんが「ぜひに」と仰っていると聞きました。台本を読ませていただき、園さんの叫びのようなものを感じ、是非演じたいと思いました。ただ、「私が?」。園さんチャレンジャーだなとびっくりしました。「本当に私で大丈夫なんですか?」って事務所から確認してもらっちゃいましたね(笑)。

いえいえ、大丈夫どころじゃない美しさで、同性ながら見惚れてしまいました。ただ、筒井さんのキャリアを思うと、今回が初めての本格ヌードというのは意外でもありましたが、ご本人としては特に避けていたわけではなく?

たまたまですね。ただ、肌を晒すというのは自分の中でやはり覚悟がいることでした。作品として見てもらえることは嬉しいけど、その部分だけがクローズアップされることもあるでしょうし、そういう時に、凛としていられるだろうか? その自信がなければ役を受けてはいけないと思うし、その役を演じる資格もないと、女優としての覚悟を問われているように感じました。

それに、やはり家族の顔も浮かびました。今はスクリーンで裸を晒すことは、昔ほど社会的なリスクはないとは思うんですが、姉には話しましたね。すると姉は、「人間は細胞分裂で生まれてくるわけではないし、性的なものを避けて人間なんて描けないのだから、いいんじゃない?」と言ってくれて。どちらかといえば、姉は堅い人なんですけど、さっぱりと言い放ってくれたので、ホッとしました。

筒井真理子

©2016日活

筒井さんが演じられた典子は当初、京子に虐げられていたのが、一転して、荒っぽい口調で京子を責めたてる。あの豹変ぶりは、恐ろしくも痛快なカタルシスがありました。

現実には経験がないので、虫歯が痛いときにあえて自分で突くような感じ…… とか、自分の知る感覚の中から近いものを見つけて、イマジネーションを広げていきました。『縄と肌』(1979年日活製作 原作:団鬼六 監督:西村昭五郎)の谷ナオミさんのいたぶられながらも恍惚とする様をみたりして……。でも、いざ役に入っていくと辱めを受けているのに楽しいんですよね。お芝居に入っていくってそういうものだと思うんですけど、新たな体験をさせてもらいました。

あの主従関係の逆転は、ジェンダーとか、いろんな規範や常識をひっくり返してみせる行為の象徴のようにも感じられたのですが、筒井さんはどう思われましたか?

この作品の中で「本当に自分の人生を生きられているのか?」 と問いかけられているような気がしました。社会のルールとか常識とか規範の中で生活していて、誰もが社会的な顔を持っている。普段は忘れているぐらい自然にその顔を演じてるんだけど、それをはぎ取ったらどうなるのか……? 典子と京子の主従関係が逆転したからといって「それが自分なの!? 」といえばどちらも違うのではないか、と。

すごく哲学的ですよね。

園さんは詩人だから台詞が哲学的で、園さんの真骨頂ともいえるアーティスティックな作品になった気がします。

筒井真理子

「売女」という言葉には怒りや叫びが込められているように思えるし、一方で神々しさも感じる

できあがった作品を見ると、生活感のまったくない観念的な世界で、みんな生身の肉体をさらけ出しているのに生々しさを全く感じませんでした。

確かに初めてでき上がった作品をみたときに、自分でも自分自身をオブジェのように客観的にみていました。外界から遮断された極彩色の部屋の中で、現実と虚構、正気と狂気の間を行ったり来たりして……。私も演じながら、園さんの脳の中をウロウロしてるような不思議な感覚がありました。

なるほど。今回の現場の雰囲気はいかがでしたか? これまでの園作品との違いはありましたか?

どんな現場も毎回違うといえば違うんですが、今回は、商業映画の中ではかなり小さいバジェットで、しかも一週間で撮るということもあって、監督もスタッフもいい意味で張り詰めてたし、熱気に満ちた現場でした。

私自身は台本を読んだときに、典子のラストシーンの台詞をどうしても言いたくて役を引き受けたので、この台詞をちゃんと届けたいという思いに賭けていたようなところはありました。それなのに、リハーサルで園さんが「この台詞、前にも同じような台詞があるからカットするか!」と言われたときは、降ろされるのを覚悟で「すみません、私この台詞があるから引き受けたんです」って直訴し、戻してもらいました(笑)。

基本、作品は監督のもので、女優はあくまで歯車だと思っているんですが、言わずにはいられないぐらいの思い入れがありました。このシーンの撮影の前の晩は、気持ちが高ぶってなかなか眠れず、何度も台詞を口にしては、「言えてない! 足りない!」と、なかなか納得できず。当日も、撮影所のお稲荷さんに「どうか私に力をかしてください」ってお祈りしたぐらい。本当に思い入れのあるラストシーンなので、ぜひ見てもらいたいです。

筒井真理子

確かに、あの長台詞は作品の象徴ともいえるシーンですよね。「この国の女はみんな自由に苦しめられてる」などという、ストレートな怒りの言葉が連ねられているんですが、どこか詩の朗読を聞くようなリリカルな抒情性もあって……。特に「売女」という言葉が象徴的だと感じたんですが、筒井さんはこの言葉をどのように解釈されましたか?

「売女」は考えました。本当にいろんな意味にとれるし、いろんなものに置き換えられると思うんです。女性だけでなく、みんな何かを売って収入を得て、生きているんですよね。例えば時間もそうだし。一方でなにか神々しさも感じる。時々によっていろんな意味に変化する、深いメタファーですよね。

「お前は売女か!?」って、園さんの自分の現状に対する怒りや叫びのようにも思えるし、世の中の常識や、“自分はこうあるべき”みたいな固定観念にアンチを突きつける言葉にも感じる。

だから、この映画を観るときは、自分の“こうあるべき”みたいなものをいったん置いて、まっさらな気持ちで浴びるように感じてもらえたら嬉しいです。そんな風にみてもらえたら、少し違う自分に出会えるんじゃないかと。

筒井真理子

©2016日活

白川和子さんという一滴の雫がロマンポルノの大河となった

最後に、今回「ロマンポルノ」のリブート・プロジェクトに、参加して感じられたことや思いがあれば教えてください。

昨年11月に、NHK BSプレミアム「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」という番組でロマンポルノの特集が放送されたのですが、白川和子さんがロマンポルノの開始当初から今回のリブート企画までを振り返って、「一滴の雫が大河になった」と仰っていたことに感動しました。そこで、以前に何年か続けて白川和子さんと母娘役で共演させていただいたこともあり、久しぶりにお電話させていただいたんです。

白川さんが主演をされた日活ロマンポルノの第一弾作品、『団地妻 昼下りの情事』(1971年日活製作 監督:西村昭五郎 主演:白川和子)を製作された当時の話を訊くと、「先がまったくわからない状況の中、もの凄い覚悟が必要だったし、同窓会にも出られなかったのよ……」と。でも、この女優さんたちの決意や覚悟があったからこそ、映画でたくさんの人が食べていくことができて、45年たってリブート・プロジェクトに繋がったんですよね。

まさに、白川さんという一滴の雫が大河になったわけで……。「私もあの言葉を使わせてもらっていいですか?」と聞いたら、「ぜひ使って。今回、真理子ちゃんが出てくれたことがすごく嬉しかったのよ」と言ってくださって。私もすごく嬉しかったです。

“10分に一度の濡れ場があれば何をしてもいい”というルールは、一方で懐が深く大きな器だと思うんです。今回のリブート・プロジェクトの作品はどれも監督の個性があふれていて素晴らしいと思います。そして、この園さんの哲学的でアーティスティックな作品に参加できて光栄に思います。これからもこのプロジェクトが、まさに「アンチなポルノ」や、多様性のある作品をのみこんで、大きな受け皿となって、いろいろな可能性が広がるといいですね。

筒井真理子

筒井真理子

山梨県甲府市出身。早稲田大学在学中より鴻上尚史主催の「第三舞台」で活動。1994年に映画『男ともだち』で主演デビュー。以後、舞台をはじめ映画・テレビ・CMと幅広く活躍。NHK連続テレビ小説「花子とアン」では嘉納家の女中頭・山元タミ役を好演。2016年には松本明子とともに漫才コンビ「つつまつ」を結成、初舞台を踏むなど様々な顔をみせている。主な映画出演作に『クワイエットルームにようこそ』(07)、『アキレスと亀』(08)、『ヒーローショー』(10)、『希望の国』(12)、『クロユリ団地』(13)、今年、第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞した『渕に立つ』での演技が高く評価される。米MTV製作の園監督の短編映画『Love of Love』では主演をつとめており、園監督から厚い信頼を得ている。

映画『アンチポルノ』

2017年1月28日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

映画『アンチポルノ』

小説家兼アーティストとして時代の寵児となった京子(冨手麻妙)。極彩色の部屋に籠もり、マネージャー典子(筒井真理子)が伝えるスケジュールを分刻みでこなす毎日。寝ても覚めても終わらない悪夢。私は京子なのか?京子を演じているのか?虚構と現実の狭間で、京子の過去の秘密が暴かれていく――
園子温監督が脚本を書きおろした完全オリジナルの最新作。主演は、本作が長編映画の単独初主演となる女優・冨手麻妙。2015年に公開された園作品のほぼ全てに出演し、園が今もっとも成長を期待する若手女優。冨手麻妙は「園監督の作品のためなら脱ぐ」と 裸上等で難しい役所に挑戦している。冨手麻妙の相手役には、実力派女優・筒井真理子。カメレオン女優と評される幅の広い演技力で、映画に堂々たる存在感を残し、物語中盤の<ある仕掛け>に最大限の効果をもたらしている。園子温が表現の壁をぶち壊す、アナーキーで過激な美しき問題作。

監督・脚本:園子温
キャスト:冨手麻妙 筒井真理子
不二子 小谷早弥花 吉牟田眞奈 麻美 下村愛 福田愛美 貴山侑哉
長谷川大 池田ひらり 沙紀 小橋秀行 河屋秀俊 坂東工 内野智

企画製作・配給:日活
2016/日本/78分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル/R18+
©2016日活

オフィシャルサイトhttp://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/antiporno/


園子温監督作品
ヒミズ
vol.4
vol.5
vol.6