黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 1

Interview

立川のショップから上場企業へ…名作ゲームを量産した秘訣とは? 日本ファルコム創業会長 加藤正幸氏(中)

立川のショップから上場企業へ…名作ゲームを量産した秘訣とは? 日本ファルコム創業会長 加藤正幸氏(中)

自分はすこしづつしか進めない人間だから

まず何をやりたいか、何をやるかみたいなことですよね。

加藤 僕はたまたま、当時勤めていた自動車会社のトップの方たちと知り合いだったんです。そこの会長が銀行から来られた方だったのですが、ウチの親父が将棋指しで、その銀行の将棋の顧問をやっていたんですよ。社長は親父の幼なじみでね。そういった間柄でしたから、会社を辞めることになって挨拶にいったのですが、そのとき「何をやるんだ?」と聞かれまして、当時の僕は起業とかそういう感覚はなかったので「商売をやるんです」と言ったんですよ。「ああ、そうなんだ」、「お前にそんな気概があるとは思わなかった」みたいに言われましたね。その言葉どおり「商売をやる」という感覚で始めたので自然にこう、ちまちまと。まあ、仕事は好きですけどね。でも、そういうヤツは大成しないんですよ。

そんなことはないでしょう。

加藤 だって、そういうことが好きな人が会社を興してビッグカンパニーになったのは、コーエーテクモゲームスさんくらいでしょう。エニックスを創業した福嶋康博さんとか、スクウェア創業者の宮本雅史さんとかは違いますよね?

言われてみると確かにそうですね。他のこともしつつゲームもやって成功したという。

加藤 そうじゃないと思い切ったことはできないですから。何かこう、少しずつしか進めないんですよね。

キャッシュフロー経営の原点は

加藤会長はいい意味ですごく身の丈に合われた経営をされてきたと僕は思っていますが、それはそういう起業時のお気持ちが常にあるからですか?

加藤 自動車会社時代、一緒にタイで仕事をした1つ下の後輩が、今、その日野自動車会社の会長なんですが、彼はずっと経理畑にいたので、辞めるときに「退社して会社を作るんだけど、会社経営で一番難しいことは何?」と聞いたんですよね。そうしたら「う~ん、資金繰りやね」って答えたんですよ。

それは大事なことですね。

加藤 じゃあ、資金繰りが必要ないやり方をすればいいんだなと。だから、僕は無いお金は使わない。入ってきたお金だけ使うみたいなね。僕は割とそういう言葉にとらわれるところがあるんです。ウチの親父は古い人で「どんなところでも入ったら10年は我慢しろ」と言っていたのですが、それを守って「あのー、12年いたからいいでしょ?」みたいなね(笑)。

ファミリーコンピュータなどの家庭用ゲーム機に参入するまでに時間があったように思いますが、パソコンへのこだわりのようなものがあったのでしょうか?

加藤 それは単純にパソコンが儲かったからです。量じゃなくて率ですよ。だいたいあの頃で、パソコンのほうが利益率は3倍か4倍。多いもので5倍くらいでしたからね。一方、当時のファミコンは非常に資金が必要で初期投資だけで5億くらいかかったらしいです。

そんなにですか!?

加藤 ファミコンカセットは生産に何カ月もかかるから、見込みで何本作るか決めなければいけないわけです。ああ、こういう商売はちょっと僕には向かないなと。さっきの話ではないですが、ある金しか使わないという主義ですから。いろいろ調べる中で、なんとなく足が遠のいちゃいましてね。誰の許可もいらないというのもパソコンゲームは自分向きでした。モノを作るのに、誰の許しを得る必要も頭を下げる必要もないというね。

1990年頃 社内風景

1990年頃 社内風景

長く愛されるキャラクターを創りたい

なるほど、分かるような気がします。

加藤 僕はサラリーマンを十何年もやっていたので。ちょっとサラリーマン商売なところがありました。ショップ時代も同じで、こっちが先生でしたから。昔の家電店がよくやっていた「えばり売り」みたいなものですね。

「えばり売り」とは何でしょう?

加藤 店員さんがえばっていると、その店員の技量みたいなものをお客さんが信用するわけですよ。知っている人がこう言っているんだから間違いないと。それに近い感じだったかなと。

御社の作品は続編が多いですが、それも会長の慎重さゆえですか?

1990年頃シカゴCES にて

1990年頃シカゴCES にて

加藤 僕にはミッキーマウスみたいなキャラクターを作りたいっていう夢があるんです。それで、まだまだ芽が出ないときにサンリオのキャラクター制作担当の方を紹介していただいて……今考えると馬鹿みたいですけど「キャラクターを作るコツは何ですか?」と聞いたわけです。そのときにその方に言われた言葉がもう一生の宝物みたいになっていて、それを今もかたくなに守っています。

なんとおっしゃったのか、教えてもらえますか?

加藤 それはね、「やっている方が飽きないことですよ」と。「あっ、なるほど~」となりましたね。ゲームもそうなんですけど、作っている方は新しいものをやりたがるんです。でも、シリーズものがないところって大成していないですよね。やっぱり、自分たちが育ててきたタイトルは大事にしないと。音楽もそうじゃないですか。本当に流行った曲は何十年経っても色あせないですよね。

確かにそうですね。自分たちも飽きないようにしたいし、ユーザーにも飽きないものを提供したいと。

加藤 いや、作っている方は絶対飽きちゃいます。ただ、これはどこもやっていることですが、そうなったら作り手を変えればいいんですよ。

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