vol.101 LIVE SHUTTLE

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「肉体のある音楽」大橋トリオが体現した生楽器による特別なライブ

「肉体のある音楽」大橋トリオが体現した生楽器による特別なライブ

ohashiTrio & THE PRETAPORTERS LIVE
2017.1.25 Bunkamura オーチャードホール

年に一度のお楽しみ、大橋トリオが大編成のバンドを従えて行なうライブ“ohashiTrio & THE PRETAPORTERS”だ。
デビュー当初から大橋は「生楽器の音を大切にしたい」と、自らの音楽観を語っていた。ジャズにインスピレーションを受けた大橋にとって、楽器を演奏することは作曲することと同じくらい大事なファクターなのだろう。コンピュータを使って、多くの人がある程度、複雑な音楽を作ることのできるようになった時代に、この大橋の言葉は異彩を放つ。コンピュータ・ミュージックが「頭の中のイメージの音楽」だとするなら、大橋が目指すのは「肉体のある音楽」だ。そこまで大袈裟に言わなくとも、彼の音楽観はずっと続いてきた伝統を踏まえた正統派のものだ。実際、大橋はピアノ、ギター、ベース、バンジョーなど、多くの楽器を弾きこなす。

ここで面白いのは、大橋はバンドとしてたくさんのミュージシャンと一緒に演奏するのも好きだが、たった一人で何種類もの楽器を演奏してレコーディングを行なうのも好きなことだ。その意味で言えば、歴史を踏まえた正統派であると同時に、大橋は最先端の音楽家だと言えるだろう。

そして、そんな大橋の“ohashiTrio & THE PRETAPORTERS”のライブは、大橋の信頼する楽器の名人たちを揃えて一緒に演奏する内容で、普段の小編成でのライブとはまったく異なる楽しみがある。恒例となるのにふさわしい人気を誇るのも、うなずける好企画なのだ。

大橋トリオ

Bunkamuraオーチャードホールに詰めかけたオーディエンスたちは、ハット(帽子)好きな大橋トリオのファンらしく、客席のハット率が異様に高い。
ステージの右側には、ブラス・セクションの使う譜面台が上下2段にわたって置かれている。上段が4台、下段が5台。今回は9人編成のブラスをフィーチャーしたビッグバンド・スタイルになるようだ。

舞台に最初に登場したのは、大橋のライブに欠かすことのできないドラマーの神谷洵平だった。神谷がタムタムを多用したワイルドなビートを叩き始める中、ベース、ピアノ、ギター、コーラスとブラス9名が位置に着いて「MELLOW SAXOPHONE」の演奏が始まる。落ち着いた雰囲気だ。テナー・サックスのソロからドラム・ソロに移ったあたりで大橋がステージに入ってきた。大橋はオーディエンスにハンドクラップをうながした後、突然、ピアニストの隣に座って“連弾”を開始。大橋がいきなりソロを取り始めると、それまでのややクールなサウンドに命が宿ったようにガクンと演奏の温度が上がった。心憎い演出だ。

続く「The Music Around Me」は、2014年末に行なわれた第1回目の“ohashiTrio & THE PRETAPORTERS”のオープニングを飾った曲。大橋は立ち上がってエレキギターを抱え、「どうも、皆さん。大橋トリオです」とひとこと言って、イントロのコード・カッティングを始める。演奏の中心は、あくまで大橋のグルーヴにあることが分かる。そして、そのグルーヴはとても心地がいい。そこに乗る柔らかな歌声が、さらに心地よい。ギター・ソロ、ピアノ・ソロの後、ブラス・セクションのフレーズがピックアップされ、そのアレンジのお陰で、単なるメンバー紹介以上にバンドとオーディエンスの距離が近くなったのだった。

大橋トリオ&林

「どうも。“大橋トリオとTHE PRETAPORTERS”です」と、まずは挨拶する。客席のあちこちから、鳥の鳴き声が聴こえる。大橋のライブでは、“バードコール”という木と木をこすり合わせて鳥の声を出す楽器をオーディエンスが持ってくるのが通例になっている。大橋がしゃべっている間、バードコールがあちこちから聴こえると、森の中のコンサートにいるような気持ちになるから不思議だ。

「いつもは年末にやるこのライブを、今年はなんで年明けにやることになったんだっけかな?・・・・(客席笑)。ビッグバンド編成って言っても、(ビッグバンド・ジャズをやるわけではなくて)僕のオリジナルにブラスをフィーチャーしたライブとして楽しんで下さい」。その言葉どおり次の「GOLD FUNK」はファンクのニュアンスがたっぷりのリズムで、硬質なブラス・セクションの音と、天井で回り始めたミラーボールの輝きがよく似合う。

2コーラス目で大橋は、自分の弾くリズムギターだけで歌ってみせる。そうすることで、その後のブラスのサウンドの厚みがより引き立つ。大人数バンドといっても、多くの楽器で空間を埋め尽くすわけではなく、音と音の隙間を活かしてスリルを増幅させる。つくづく“引き算”を上手く使ったアレンジメントだ。

大橋トリオ(&ホーン)

「次は去年のアルバム『10(TEN)』からの曲です。今回はアメリカの大御所バンド“Earth,Wind & Fire”風のアレンジにしてみました。自分で言うのもなんですが、歌わず、弾かず、踊り出したくなっちゃいます」と前置きして始まった「君は悪魔か少女になって」は、ステージと客席を一体化させたのだった。 

その後も「せっかくなので、今までライブでやったことのない曲を」と「存在」(『plugged』収録)を歌ったり、「本邦、初公開。あっと言う間に作ったニューアルバム『Blue』(2/15リリース)からの曲です」と「The Day Will Come Again」を披露したり、「デヴィッド・ボウイさんを思って歌います」と「The Man Who Sold The World」をカバーしたり。

大橋は自分の背景にあるさまざまな音楽のエッセンスを、惜しげもなく披露する。スウィング、ファンク、ソウル、フュージョン、果てはカントリー・ミュージックまでをカバーするサウンドは、本当に豊かだ。オーディエンスたちも、幅広いジャンルの音楽性を心から楽しむ。だから「今回は東京だけでなく、大阪でも“ohashiTrio & THE PRETAPORTERS”をやることになりました」という大橋の言葉が誇らしげに聞こえたのだった。

大橋トリオ ライブ

アンコールで大橋は、「年末感もニューイヤー感もないこの時期だけど、なぜか新鮮な感じがします」と語り出す。それは大橋の音楽が新鮮だからだ。常に新しいアレンジを加えることで、大橋は楽曲のカラーをフレッシュに保つ。

アンコールの1曲目は、NHKでオンエア中のアニメ・シリーズ『にゃんぼー!』のオープニング曲「宇宙からきたにゃんぼー」だった。ここで大橋はこのライブのホーン・アレンジを手掛ける武嶋聡(from EGO-WRAPPIN’AND THE GOSSIP OF JAXX)を紹介。「どうしてマンボのアレンジになったんですか?」と大橋が問うと、武嶋は「この編成でやるなら、これしかないでしょ」と答えて、有名な「マンボ No.5」のフレーズをフィーチャーしたアレンジで演奏する。大橋は「う~~~、にゃんぼ!」と掛け声をかける。オーディエンスも立ち上がって踊り出す。すると大橋がリズムに合わせて阿波踊りのステップを踏み出したから、客席は大喜びだ。シブくて静かなイメージの強い大橋のライブだが、このパフォーマンスは大受けだった。照れと自信が同居する大橋トリオのダンディディズムが、全開になったシーンだった。

大橋トリオ ライブ

女性コーラスとのデュエット曲「Be there」(アルバム『L』収録。オリジナルはBONNIE PINKとのデュエット)を歌った後、バンド・メンバーをすべて送り出し、一人残った大橋がピアノの前に座る。

「楽しいなあ。いつもはここで『生まれた日』という曲をやるんですが、今日はちょっと違う曲をやります。ニューアルバム『Blue』の曲で、CDではバンドでやってるんですが、弾き語りでやってみたらよかったので、今日はそのスタイルでやります」と歌い始めた。ゆったりとしたピアノ・バラードに、会場が水を打ったように聴き入る。

まだ誰も聴いたことのない曲の“ニューバージョン”を、ライブの最後にやる勇気と音楽欲が大橋の今を語っている。10周年を迎えた2017年は、アルバム・リリースやツアー、さらにはスペシャル・ライブとプロジェクトが年末まで目白押しに続く。今年もまた「見たことのない大橋トリオ」にきっと会えることだろう。そんなことを予感させる充実のライブだった。

文 / 平山雄一

ohashiTrio & THE PRETAPORTERS 2017
SETLIST

1.MELLOW SAXOPHONE
2.The Music Around Me
3.sing sing
4.GOLD FUNK
5.君は悪魔か少女になって
6.君は雨
7.存在
8.The Day Will Come Again
9.りんごの木
10.KOE
11.The Man Who Sold The World
12.Turn our world around
13.Dearest Man
14.アネモネが鳴いた
アンコール
EN1.宇宙からきたにゃんぼー
EN2.Be there
EN3.タイムマシーン(弾き語り)

ライブ情報

大橋トリオ 10th Anniversary 全国ツアー
“ohashiTrio HALL TOUR 2017”

4月1日(土) [神奈川県] 関内ホール
4月6日(木) [岩手県] 盛岡劇場
4月8日(土) [北海道]共済ホール
4月13日(木) [福島県] 福島テルサFTホール
4月15日(土) [宮城県] 若林区文化センター
4月20日(木) [香川県] サンポートホール高松第1小ホール
4月22日(土) [広島県]JMSアステールプラザ大ホール
4月30日(日) [兵庫県]オリエンタル劇場
5月4日(木・祝) [静岡県] 静岡市民文化会館中ホール
5月6日(土) [福岡県]福岡市民会館
5月12日(金) [石川県] 金沢市文化ホール
5月14日(日) [愛知県] 愛知県芸術劇場大ホール
6月2日(金) [鹿児島県] かごしま県民交流センター 県民ホール
6月4日(日) [熊本県] 熊本県立劇場 演劇ホール
6月9日(金) [大阪府] オリックス劇場
6月11日(日) [長崎県] とぎつカナリーホール
6月15日(木) [新潟県] 新潟市音楽文化会館
6月17日(土) [長野県] キッセイ文化ホール(松本文化会館)中ホール
6月22日(木) [東京都]かつしかシンフォニーヒルズ・モーツァルトホール

大橋トリオ 10周年記念公演
「ohashiTrio 10th ANNIVERSARY SPECIAL CONCERT “TRIO ERA”」開催決定!
2017年12月8日(金) 東京国際フォーラム ホールA

大橋トリオ(ohashiTrio)

2009年5月のメジャーデビュー以降、毎年コンスタントに作品をリリースし、全国ツアー、フェス出演も精力的に行っている。
また、ジャズ及びアコースティックをベースに、映画やドラマ、CMなどの音楽制作、アーティストら(小泉今日子、SMAP、山下智久ほか)への楽曲提供、アレンジプロデュース等でも幅広く活動中。
デビュー10周年イヤーとなる今年2017年は、2月に最新アルバム「Blue」をリリース。
4月からは全国19カ所をまわる”ohashiTrio HALL TOUR 2017″と年末には10th Anniversary スペシャルライブ(国際フォーラムホールA)が決定している。

オフィシャルサイトhttp://ohashi-trio.com

大橋トリオの楽曲はこちらから!

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