vol.1 モリコメンド 一本釣り

Column

極めて冷静なリリックと独創的なサウンド。“電波少女”が凄い!

極めて冷静なリリックと独創的なサウンド。“電波少女”が凄い!

バンドからシンガーまで、森朋之が2017年ブレイク候補を毎週紹介する新コラム。あなたの感性にフィットする、NEWアーティストを発見してください。


“電波少女”はデンパ系の個性的な女の子のことではなく、ハシシ(ラップ)、nicecream(DJ&パフォーマー)によるヒップホップ・ユニット。2009年に結成された当初は複数のMCとトラックメイカーで構成されたグループだったのだが、メンバーチェンジと脱退を繰り返し、2015年に現在の2人体制になった。ハシシがラップし、nicecreamがDJ及びダンスを披露(得意技はアクロバティックなブレイクダンス。ライブの中盤では仲間のダンスクルーとともにパフォーマンスも)するというスタイルは、さまざまなタイプのアーティストが登場している現在のヒップホップ・シーンにおいても際立った個性を発揮している。また、ヒップホップ・シーンの超新星“ぼくのりりっくのぼうよみ”が彼らのファンであることを公言するなど、アーティストからも高く評価されている。

電波少女の活動は、インターネットのラップシーン(“ネットラップ”)からスタートした。インターネット上でトラックメイカーが楽曲を提供、ラッパーが自由にラップを乗せて発表するネットラップは00年代中盤に急激に拡大し、ヒップホップ/ラップを幅広いユーザーへと解放した。2009年にメジャーデビューを果たした“らっぷびと”を筆頭にブレイクを果たすアーティストも続出。そして電波少女もまた、ネットユーザーの支持を集めるところから存在感を強めていったのだ。

その音楽性はきわめて独創的。まず彼らのリリックには(当たり前だが)ハシシ自身の価値観、考え方が色濃く反映されている。たとえば2ndアルバム「WHO」に収録されている「INVADER feat.RAq」は、“コミュニティの一生”というネット上の有名なコピペ(「面白い人が面白いことをする→面白いから凡人が集まってくる→住み着いた凡人が居場所を守るために主張し始める→面白い人が見切りをつけて居なくなる→残った凡人が面白くないことをする→面白くないので皆居なくなる」)がもとになっている。昨今のフリースタイル・バトルの流行もそうだが、すべてのコミュニティには“流行った瞬間からつまらなくなる”という傾向がある。そこで「もうオワタw」と嘲笑するのではなく、たとえ途中参加であっても、そのシーンのなかで何ができるかを考え、自分らしいやり方で突破口を見つけることが大事——そう、「INVADER feat.RAq」に込められたメッセージは、電波少女の活動の在り方ともしっかりとリンクしているのだ。一方で「MO feat.NIHA-C」のように“あのクソ女、絶対許さない”と元カノを口汚くの罵る歌もあり、これはこれで驚くほどのリアリティがある。何かのフリをしたり、キャラクターを演じることなく、自分と社会を冷徹に見つめながら、本当に感じていることだけをリリックに刻む。このことを体現できているヒップホップ・アーティストは、じつはほとんどいないと思う。また、エレクトロからバンドサウンドまでを自由に取り込んだトラックメイク(ブラックミュージックのテイストはかなり抑えめ)、そして、メロディアスなフロウも電波少女の大きな魅力だ。

サウンド、リリック、活動のスタイルを含め、独自の路線を突き進んできた電波少女は、“被害妄想”をテーマにした7曲入りEP「パラノイア」で初のオリコンチャートTOP10入りを果たすなど、確実にリスナーの層を拡大。そして2017年の夏、満を持してメジャーデビューが決定した。メジャーデビューをかけて行われたのが「“電波少女的ヒッチハイクの旅”47都道府県ストリートライブTOUR」(そう、伝説的バラエティ番組のパロディです)。これはヒッチハイクをしながら47都道府県でストリートライブをするというもので、メンバー二人は2016年11月に北海道を出発し、今年1月4日に彼らの地元である宮崎県でで見事にゴール。この旅の模様は彼らのYouTube公式チャンネルにて公開され、大きな話題を集めた。さらに2月4日には渋谷WWWでワンマンライブ「“サライ”〜電波少女的ヒッチハイクの旅 完〜」を開催。この日、初めて披露された新曲「FOOTPRINTS」はヒッチハイク企画のなかで感じたことがベースになっているのだが、単なる前向きソングではなく、「正直もらった恩に 押し潰されそうになってる ゴミクズが俺だ」と自虐的とも言えるフレーズに帰着しているのが何とも電波少女らしい。ここで“ひと皮むけて、イイ人になった”みたいなことを歌わないところが彼らの真骨頂だと思う。

5月8日(月)にデジタルシングル「Re:カールマイヤー」を配信しリリース。6月18日(日)には渋谷WWWXでワンマンライブ「EST.」を開催する電波少女。ポップかエッジ—な音楽性とハシシのキャラクターが投影されたリリックが共存する彼らの楽曲は、ふだんヒップホップを聴かないリスナーにも必ず響くはずだ。

文 / 森朋之

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