Interview

ハワイ出身のマルチプレイヤー、ダニエル・ホーがB'z松本孝弘との邂逅を語る

ハワイ出身のマルチプレイヤー、ダニエル・ホーがB'z松本孝弘との邂逅を語る

ハワイ出身のダニエル・ホーは、そのアコースティックかつオーガニックなサウンドとマルチ・プレイヤー的な演奏スキルにより、これまでグラミー受賞もしてきた。自らの音楽性を保持しながら、今回、未開拓の音楽創出へと向かった、彼のキャリアと現在心中を聞いた。

取材・文 / 佐伯明


本当に未知の世界の中で自分が進んでいくみたいな感じだったので、非常に勉強になりました

今日は、Tak Matsumotoさんとレコーディングしたニュー・アルバム『Electric Island, Acoustic Sea』について、いろいろ聞いていきたいと思っています。ダニエルさん、日本語は?

高校時代に2年学びました。そんなに上手くないんですけど、ちょっと話せます。Gomennasai(笑)。

まずアルバムの話に行く前に、ダニエルさんの楽器遍歴を聞きたいんですけど。マルチ・プレイヤーのように、ダニエルさんはいろんな楽器ができるじゃないですか。慣れ親しんで習得してきた楽器の順番というか、遍歴は?

まずは、小学校2年生のときにオルガンから始まって、3年生からウクレレ、4年生からクラシカルギターを5年ぐらい勉強しました。5年生でクラシカルピアノを、中1からバンド活動用にドラムを始めて、中3でジャズバンドでベースを弾いていました。

それは指弾き?

そうです。エレクトリックベースで、アップライトはそんなに得意ではないです。ハイスクールから、ビッグバンドでのアレンジの理論を先生から学んで、高2でクラシックの作曲を学びました。主に18世紀のバッハを。その後、ハイスクールを卒業してからグローブスクール・オブミュージックに入学して、作曲、アレンジとフィルムスコアの勉強をしました。もともとプロになるための学校なので、プロの講師を招いて、っていう感じで講義を受けていました。

なので、主に学校で学んだトレーニングとしてはジャズとクラシック畑になります。レコーディングするたびに楽器がどんどん増えてくるんですけれども、ユニークな楽器とかユニークなサウンドというのをずっと探し求めているところがあるので、たとえば自分でも楽器をデザインしてしまうというか。ボンゴとウクレレをひとつに合わせた「ボンゴレレ」とか。パーカッションの弦が付いていないんですけれども、ウクレレのボディがボンゴになってるという(笑)。それとか、ベースウクレレだったり、自分で楽器のデザインもしてるんですね。「こういう音を聴きたい」というのを自分で自ら考案して。そのほかにもオペラのシンバルだったり、韓国のシンバルだったり、チベットの鐘でしたり、どんどんどんどん増えていくんですけれども(苦笑)。アーティストとしてとにかくユニークなサウンドを求め続けていて、サウンドのすべてにおいて――音、メロディ、ハーモニー、カウンターもすべてそうなんですけど、サウンドそのものにも興味があるので、そうするともうデザインから演奏方法からレコーディングしたときのサウンドだったりとか、そういうところまで興味が広がっていくんですね。

オルガンから始まったダニエルさんの楽器キャリアみたいなものがあるわけですが、鍵盤から打楽器から弦楽器から民族楽器まで非常に多くの楽器をやられているわけですけど、広がっていく趣味がある中で、敢えて自分が一番好きな楽器、自分で一番しっくりくる楽器があったら教えてください。

難しすぎる質問ですね(笑)。でもワールドミュージックは大好きで、何故かというと、やっぱり音楽そのものが好きなんですけれども、音楽の原点というものに非常に興味を持っていて、特にその地域や国独特の、外部からの影響がないような、オーストラリアのアボリジニだったりモンゴルのサウンドだったり、キューバ、アフリカのリズムだったり、インディアのタブラもそうなんですけれども、音楽の理論というのはメロディ、ハーモニー、リズム、これが3大原則になってるんですが、ジャズとかクラシカルの場合はメロディが非常に洗練されていますけれどもリズムに関してはそうでもないんですよね。でも逆にインドのタブラなんかはリズムが一番複雑と言えます。なので、アフリカだったりインドだったりラテンだったり、いろんな国からそういう要素を吸い上げて、自分の中に一回取り込んで新たなものとして生まれ変わらせるのが好きなんです。

今回松本さんとやってみて、松本さんと自分との音楽的な共通項みたいなものを何か見いだすことはできましたか?

最初にレコーディングをしたのが1曲目の「Soaring on Dreams」で、もともと自分のスタイルを気に入っていただけるかどうかということで最初に送ったデモなんですね。「じゃあレコーディングして、スタジオの中でのお互いの動きが馬が合うかどうか試してみよう」ということで。スタジオ入りしてわかったことは、音楽的な趣味というか、音楽への向き合い方がすごく似てるなと。自分は本当に音色だったり楽器使いだったり細かいところまですごくこだわるんですけれども、実はTakさんもそうだったということがわかって。Takさんは常に最高級の音にしようという姿勢が常にある方で、そこもまた共通項ですね。

Takさんの曲は逆にちょっとハワイ的な、ジャズ寄りな感じになっていて、役割を交換した感じですね

なるほど。今回ダニエルさんの作曲しているナンバーと松本さんが作曲しているナンバーがありますけど、松本さんの曲に関しては、コンポーズの部分でダニエルさんはどうお感じになりましたか?

美しいと思いますし、でも音楽的なスタイルは全然違いますよね。メロディとかハーモニーとかの構成も違いますし、自分のバックグラウンドはジャズとかクラシカルなので、ロックとなるとまったく対極的という感じはあるんですけれども。なので、Takさんからこういう曲があるよというのを提示されたとき、「ここで三線でも弾いてみて」と言われると、本当に未知の世界の中で自分が進んでいくみたいな感じだったので、非常に勉強になりました。あのレベルの楽曲エネルギーに合わせたアコースティックの演奏というのもまた自分にとっては新しい境地でした。

あのレベルというのは、ちょっとハイエナジーなんですね。

アコースティックだと(テーブルを指して)これぐらいのエネルギーレベルなんですけれども、Takさんだと(自分の頭の上を指して)ここぐらいまで来るような。で、Takさんは常にここでやっていらっしゃるので、そのふたつの音量というか音のニュアンスを融合させるのがなかなか面白い作業でした。僕は、子供の頃からロックスターを夢見ていたんですけれども(笑)、鏡の前でエレキを弾きまくるぞーみたいな感じで。でも実際は鏡の前だけだったので (笑)、何十年も経って、キャリアをこれだけ積んで、やっとその夢に近付けたというか、ロックの世界に近付けました。自分のこのアルバムでの曲、「Soaring on Dreams」だったり「Fujiyama Highway」というのはものすごくロックなんですよね。Takさんの曲は逆にちょっとハワイ的な、ジャズ寄りな感じになっていて、役割を交換した感じですね。

だから松本さんが、ダニエルさんは「Soaring on Dreams」とかこういう曲がやりたかったのかなって言ってましたよ。

そのとおりです!(笑) でも本当は、たぶん僕と仕事をしたいって言ってくださったのは、どちらかといえばイージー・リスニング、ハワイ的なものを期待してだったんだと思うんですけれども、でも今までずっとそれをやってたので「敢えてここでやらなくても良いかな?」っていうのが自分ではありましたね。

では、ダニエルさんはもっとハイエナジーな楽曲をやりたかったんですね(笑)。

やったことがなかったので。

ははは、ロックスターを夢見たのに?

Never. だけど、人生の中では遅すぎるっていうことはないですよね(笑)。

ここからはロックスターじゃないですか。

I hope so. Yoroshiku onegai shima-su!(笑)

(通訳 だといいんですけれども。こちらのスタッフの皆さんにそれはかかってるんですけれども(笑)。)

ちょっと今更感があるかなあ、遅すぎるかなあ(笑)。でも本当に素晴らしい勉強の機会になりましたね。

Takさんのファンクラブ会報の記事を読んだら、ダニエルさんの家に行って最初に音を出したというのが書かれてたんですね。そのときの、お互いをまだ知らない状態で出した音というのはどんな感じでしたか、というのもお聞きしたかったんです。

自分はレコーディングを全部家でやっていて、特に防音とかしてるような部屋でもなく普通の感じなんですけれども、でもそこで100枚以上のアルバムのレコーディングをしていて、一緒にやろうってなったときにTakさんにわざわざ来ていただいた。自宅の前に29段の階段があって、大変だったんですよね(笑)。ギター・テックの方がアンプだのギター5本だの全部それを積んで上へ上がらなきゃいけなくて。で、やっぱりレコーディングをして、「なんてビッグサウンドなんだろう」って。ホントに美しいなというのもあって。自分がそういうものをやったことがないので非常にエキサイティングに思ったんですけれども、エレキを弾いていないのでディストーションサウンドの出し方とかも、セッティングすら何もわからないんですよね。なので、すべてにおいて非常に興味深かったです。エレキ系のミキシングは自分にとって未開拓地というか、まだやったことがないので、エレキのサウンドをフルに存分に出すことは自分にはできなかったんですけれども、B’zのエンジニアの小林さんはB’zともうずっと一緒にやってらしたので、求めてるサウンドのレベルとかエネルギーとかも彼だったら全部出し切れるということで入っていただいたんですね。自分の使うアコースティックの楽器ってホントにデリケートで、マイクの付け方にしてもホントに小っちゃいところまでも影響してくるような感じなんですけれども、それとはやっぱりやり方が全然違うので、基本的に松本さんは小林さんと一緒にレコーディングをして、自分にとってはホントに素晴らしい経験になったなあと。

じゃあレコーディングの部分でも、ダニエルさんのやり方と松本さんのやり方が違ったのが逆に面白かったんですね。

たとえば、(持参したものを指して)ウクレレ1本でアルバムを作る時は、20ヘルツから2万ヘルツのフリークエンシーレンジをこの1本でカバーしなくちゃいけないんですね。

周波数ということですね。

はい。ウクレレ1本でのレコーディングだと、本当にトントンってちょっと触っただけの音も、弦に触った爪の音も拾うので、そういう作業も全然違うんですね。それだけの振動をピックアップするので。でも非常に細かくてナチュラルなサウンドにはなるんですけど。

実際ダニエルさんはあんまりアンプリファイアした楽器の音というのは使わないでしょう。ライブとかではあるけど。

アンプはないですね。ライブでも使ってないです。アコースティックで、プラグインするのはPAシステム用のであって、アンプ用ではないですね。

なるほど。マイクを立てたりはするんですか。

すべてマイクです。ステレオマイクで。

では、ピックアップが入ってる楽器というのはないんですか。

ライブ用ですね。でもレコーディングでは使いません。自然なアコースティックサウンドというのを自分で見つけたいので。

そこはそれこそ独自のやり方があるんじゃないですか?

かな?(笑)

いや、あると思いますよ。

ははは!

その文化の音楽だけじゃなくて食べ物だったり民族について学ぶのが好きなんです

ハワイの民族音楽みたいなものもダニエルさんはずいぶん研究したと思うんですけど、ハワイの民族音楽の特徴って、ダニエルさんは何だと思っていますか?

結局フラ中心なんですよね。だからハワイの歴史、それが昔ながらの歴史もしくは現在の歴史を語りながらの音楽なので、基本的にバースの繰り返し。普通のポップソング的なAメロBメロサビとはちょっと違うんですよね。だからこそ歌詞とかストーリー性が入っていないと単調になってしまうんですね。わかりやすいフレーズで構成されていて。

親しみやすいという。

そうすると、「じゃあはじめから」みたいな感じで繰り返しまたダンスのフラのルーティンが新たに始まるという感じなんですけど。ただ、どこの伝統音楽も特徴というのがありますよね。だから音楽を通していろんな文化について学んで、その文化の音楽だけじゃなくて食べ物だったり民族について学ぶのが好きなんです。

音楽によって地域を知るみたいなところがあるんじゃないですか?

そうですね。だから幸運だなと思ってます。恵まれてるなと。でも大学は卒業もしてないんですけどね(笑)。無学です(笑)。

いやいや(笑)。

情熱はあります(笑)。教えるよりもやっぱり学ぶほうが好きですね。教えてないですけど。

ティーチャーよりもステューデント。

だけれども、スタンフォード大学では講座で講義をするんです(笑)。

ティーチャーじゃないですか(笑)。

毎日講義をしてないということで(笑)、ときどきはやるんですけれども。でも、学べば学ぶほど、まだまだ何も知らないなあって痛感させられます。

なるほどね。優れたステューデントはみんなそうです。

ははは! クリックをけっこう使っているので、通常の4分の4のリズムとかはできるんですけど、たとえばラテンのリズムだったりとか、違う世界のリズムになっちゃうと、それができるかっていうと「いやあ、イマイチだなあ」と自分では思います。インドのタブラとかも、ホントに洗練されているので。キューバのリズムはカウントもできないっていう、それだけ複雑。

キューバも難しいですよね

ほかの世界について学べば学ぶほど何も知らない何もわかってないっていうのがわかります(苦笑)。

でも松本さんは「Adrenaline UP!」に関しては、変拍子、7拍子で難しかったって言ってましたよ?

「Adrenaline UP!」のあのリックの部分っていうのは、思いついて「どうでしょう」って提案したら「あ、いいんじゃない?」って言って、それでBメロのメロディを書いていただいたんですけど、そのBメロを使って僕がAメロを考えて、あと琴だったりチェロとかの部分を入れて。自分としては、クラシックの作曲法を使っているので、そうするとカウンターポイント的にそれを、コール&レスポンス的に、ひとつの何かフレーズがあったらそれに対する別のカウンターがあるっていうことなんです。

メインとサブというわけじゃないんですね。

チェロもそうなんですけれども、「ここはちゃんと聞こえるように」と。そういうすべてがひとつのパズルのような感じだったので、どれが抜けても困るっていう。主旋律を引き立たせるためのサウンドではなくて、どちらも同じぐらい重要なので、「琴が聞こえないんじゃ困るんだよ」って。