恋するB級ドーナツ盤~45回転のときめきと昭和の匂いを求めて~  vol. 7

Column

ドーナツ盤が描く未来〜ザッツ・SFセブンティーズ!〜

ドーナツ盤が描く未来〜ザッツ・SFセブンティーズ!〜

1969年、アポロ11号が初めて月面着陸したとき、あなたは「薔薇色の未来」を夢見た派?それとも1999年、予言どおり「恐怖の大王」が降ってくると信じた派?
今回のドーナツボーイズは一気に時空の彼方へスピンオフ!
ドーナツ型の円盤に乗って、ボーイズと一緒にタイムトラベル!!


ゴロー さてさて、「AIが人間の能力を超えるのはいつか?」なんて取り沙汰されている昨今ですが、ドーナツ盤の爛熟期、60年代から70年代にかけての頃って、そんなことはすぐ実現するだろうと思ってませんでした?

 シロー なんてったって鉄腕アトムが活躍していた時代やからな。アトムの誕生日は2003年ということらしいけど、未来はああなると子どもの頃、思ってました。もうアトムの時代を追い越したけどね。まあ、オイルショックが来るまでは、明るい未来に向かって、思いっきり浮かれてたよね。1964年に国家公務員上級職の初任給が1万9100円だったのが、74年には7万2800円と、ざっと4倍。これは楽しかったやろね、未来が。

 ゴロー この20年ぐらい、給料って上がってませんからね。おそらくドーナツ盤にも、「未来への想い」やら「未来への警鐘」が刻印されているのでは? と思いまして、今回もいろいろ探してきました。なかには「予言歌謡」と呼んでいいものや、いまだにアニメや映画で繰り返し表現されている「タイムリープ恋愛もの」のテーマソングにぴったりの「SF歌謡」なども見つかりました。

 シロー 「予言歌謡」ってのも、聞いたことないけどな。歌詞の内容が、未来を予言しているってことかな。じゃあ、最初に「未来への想い」から行こうじゃないの。

 ゴロー 明るい未来に向けて、やはり決定的だったのは、1969年7月20日、アポロ11号の人類初の月面着陸でしょうね。なんとその翌月にリリースされたのが、椿まみ「月の世界でランデブー」(1969年発売)。佐藤豹一郎作詞、しまむらこう作曲。若干マイナーだけれど、ディープなこだわりのある「ローヤル・レコード」というレーベルから出ました。

 シロー いや、普通にしれっと言うけど、だから聞いたことないって「ローヤル・レコード」。ドーナツ盤コレクターの間では有名なレーベルなの?

ゴロー そうなんです。不動産業・観光業で成功を収めた企業の社長が、1965年にポケットマネーで設立したと言われています。この企業が所有していた、原宿セントラルアパート2階で旗揚げされたようですね。

 シロー 「トランプ・レコード」って感じか。原宿セントラルアパートは、伝説のビルでね。当時、最先端にいたクリエイターたちが入居したり、遊びに来てた。雑誌「話の特集」編集部も入ってたな。

ゴロー このレーベルはロゴを含めてコレクター心をくすぐるといいますか。まあ、聴いてみましょうか。

逢えばお熱い 二人だけれど
君の来るまで 無重力
月に来てさえ 待つのは男
ああ いいじゃないの いいじゃないの
月の世界で ランデブー

シロー むむむっ……。テーマはえらく壮大やけど、曲調がまったくゆるいね(笑)。これじゃ月まで行けないでしょう。ノリはお座敷ソングやね。お銚子と小皿を箸で叩いてリズムを取る感じかな。

 ゴロー 「お座敷宇宙ソング」と言ってもいいかもしれません。宇宙というのは、ヒエラルキー、差別が全くない自由な世界。黒人も白人も女性も男性も自由なんです。月の世界で好きな人とランデブーする。二人の愛の空間が月の世界であるわけなんです。

 シロー 一種のユートピア思想か。ふむふむ。確かに、宇宙船がドッキングするイメージは、よく恋にたとえられたよね。「七夕」伝説もあるしね。

 ゴロー 宇宙は恋が生まれやすいんです。

 シロー おいおい、ほんまか!(笑)。しかし、月着陸のすぐ翌月に、こういうドーナツ盤を出すとはね。素早いというか、お調子者というか。

 ゴロー そしてやっぱり忘れてはいけないのが1970年の日本万国博覧会。21世紀はバラ色であるというイメージ。万博ムードを盛り上げるために登場したのが、佐良直美「二十一世紀音頭」(1969年発売)です。多幸感あふれる独特の世界観があります。山上路夫作詞、いずみたく作曲。聴いてみましょう。

 これから三十一年たてば この世は二十一世紀
 その時二人は どうしているの
 やっぱり愛しているかしら
 ハァ シャーララ シャーララ シャーララ ラララ
 シャーララ ララララ
 二十一世紀の世明けは近い 

 これから三十一年たって この世は どうなっているの
 火星に金星 遠くの星に 旅行に出かけて いるかしら

シロー まさに、盆踊り的やねぇ。小学生のときは思ってたな。69年に月着陸なら、大学に入る頃は、修学旅行は宇宙に飛び出してるんやないかって。給料が10年で4倍、やから。あのころの展開、スピード感はそう思わせるくらいやった。

 ゴロー まさにそういう未来が刻印された曲です。

 シロー 21世紀と「音頭」を組み合わせる、という発想が、その頃じゃないと考えられない。ぼくら、大阪の子どもは、夏には河内音頭で踊ってた。万博へも行くし、音頭も踊る。三波春夫が歌う万博の歌も音頭やったからな。

 ゴロー で、その万博ということで、ぜひ紹介したいのが、冨田勲の「EXPO ’70 東芝IHI館グローバル・ビジョンのためのマルチプル・サウンズ」(1970年発売)。大阪万博における東芝とIHIの共同出展パビリオンのために制作されたドーナツ盤で、オープニング時に配布されたと言われています。石丸寛指揮の読売日本交響楽団と、ロック・バンドの共演による演奏が収録されています。バンドのメンツがすごくて、歌とギターが六文銭、ハモンドオルガンがミッキー吉野、パーカッションとキーボードが石川晶グループ他。この時代、欧米ではオーケストラとロック・バンドの共演がいろいろ試みられてきましたが、このドーナツ盤はそれらに勝るとも劣らない隠れた名盤と言っていいでしょう。

シロー 万博って、建築、デザイン、ファッションから科学まで、全ジャンルの総動員やったけど、このサウンドも総動員やね。やれることはみんなやりました、みたいな。

 ゴロー これは12チャンネル・マルチ可動音響システム音響効果からの抜粋ということで、映像に合わせてホール内をサウンドが駆け巡ったのではないでしょうか。洋楽に詳しい友人に聴かせたところ、「これはフランク・ザッパだ!」と興奮していましたね。冨田勲さんはこの後シンセサイザーで有名になっていくんですけど、未来的な音の構築というイメージをこのあたりから決定づけた。

 シロー これまでオーケストラでやっていた音楽を一人で、シンセサイザーで表現した。当時は画期的だったよね。音もいったい、これ何の音なんだろう? どこから出てるんだろう? と。音自体が目新しくて未来的だった。

 ゴロー それまでは音から楽器が想像できましたからね。となれば冨田勲さんが映画と結びつくのは当然で、こんなドーナツ盤もあります。「ノストラダムスの大予言~メインテーマ~」(1974年発売)、舛田利雄監督の映画のサントラです。

シロー 観てないなー。

 ゴロー これ、実は1974年に公開された映画なんですが、クレームがついたシーンがいくつか入っていて、今では上映できない映画になっているんです。

 シロー え? そうなの? めちゃくちゃやな。『日本沈没』が大ヒットして、勢いに便乗したのか?

 ゴロー ううーん。なんでしょう。サントラのなかで、冨田さんのサウンドは重要な役割を担っています。サウンド自体にある種の未来が象徴されているというか。荘厳かつきらびやかな電子音響。これはディストピアというか破滅的な未来をも想像させます。
さて、高度経済成長の時代には、負の側面として公害問題も出てくるわけです。そこで、加藤知典さんという、山本コータローとソルティシュガーなんかに楽曲を提供していた作曲家なんですが、この人の「地球への旅」(1975年発売)という曲があります(岩永嘉弘作詞)。環境に対して意識的。未来は決してバラ色ではないと歌っています。

緑の山と聞いてきたのに 
僕の目にうつるのは ああ
大地を埋めつくす コンクリートの山
くずれおちたビルディング
地球は死んだのだろうか
地球は死んだのだろうか

いのちの星と聞いてきたのに
青い星と聞いてきたのに ああ

シロー ディストピアのイメージって、こんなものだろうけど、いまも現実的にこういうシーンを目にするわけだから、たしかにずいぶん予言的な歌と言ってもいいかも知れんね。

 ゴロー さて、それから、時代はもっとストレートに宇宙人、エイリアンを描くようになっていきます。映画だと『スターウォーズ』『未知との遭遇』(ともに日本公開1978年)。そこでドーナツ盤の世界では「円盤ソング」っていうのが出てくるんですよ。

 シロー 円盤ソング! そんなんあるの? 作家の出久根達郎さんがまだ古本屋の主人だった頃、宇宙服を着て、「円盤の本ありませんか?」って店に来た客がいたらしい(笑)。

 ゴロー 四人囃子「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」(1975年発売)というドーナツ盤がありますし、ここでは、ラブ・ストーリー「ノアの円盤」(1976年発売)を紹介しましょう。門間裕作詞、木森敏之作曲です。

空飛ぶ円盤がやってきたら
君をさらって乗り込もう
二人の愛に夢をかけ
さよならは忘れよう

汚れた星が消えるとき
君の涙も消えてゆく
広がる闇に二人きり
さよならは云えないよ

ああ青い空
ああ青い海
さあさがそうよ

ゴロー 汚れた地球から円盤で逃げ出す歌です。

 シロー 1970年まではなかったよね、未来を憂う歌は。トイレット・ペーパーの買い溜めに狂乱したオイルショック以降、空気が変化するよね。

 ゴロー あれ? 未来はそんなに明るくないぞ、となっていきました。こうして80年代に入るわけですが、未来のイメージはさらなる多様化と深化を遂げていきます。洋画では『E.T.』(日本公開1983年)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(日本公開1985年)などのSF・ファンタジーものが話題になりました。邦画では、その後の影響力を考えると、大林宣彦監督の『時をかける少女』(1983年公開)が挙げられるでしょう。主題歌の原田知世「時をかける少女」(松任谷由実作詞・作曲)も大ヒットしました。聴いてみましょう。

ゆうべの夢は金色
幼い頃に遊んだ庭
たたずむあなたのそばへ
走ってゆこうとするけれど
つれて もつれて 涙 枕を濡らすの

時をかける少女
空は宇宙の海よ
褪せた写真のあなたのかたわらに
飛んでいく

シロー 原作は筒井康隆(1967年刊行)で、角川文庫から出てたね。ユーミン、自分でもカヴァーしているけど、こうして聞くとやっぱりいい曲やね。原田知世の消えそうなはかない声が、この曲の透明感とぴったりやった。

 ゴロー 筒井康隆の『時をかける少女』の何が凄いかというと、いまだにこれをモチーフにして、「タイムリープ恋愛もの」がリメイクされ続けているところです。時を超えて男と女が出会い、そして別れていく。その切なさ。松任谷由実の「時をかける少女」は、幼い頃に遊んだ彼のもとへ時空を超えて飛んでいこうとします。で、ここで、おや?と思ったんです。

 シロー なんや? またゴローくん得意の妄想が始まったか! ちょっと待って、眉毛に唾つけとくわ。

 ゴロー また、そんな(笑)。なんだか、この詞の世界に近い歌をどこかで聞いたことがあったような気がして。なんだったっけ? とずーっと考え続けて、ドーナツ盤の棚をせせっていたとき、ついに思い至りました。ああ、これだ! これも「時をかける少女」じゃないか、と。それが由紀さおり「故郷」(1972年発売)です。山川啓介作詞、大野雄二作曲。この曲、何度聴いてもジーンときてしまうぐらい好きなんですよ。

二度と会えないあなた 
いつかは私をなつかしむかしら
ああ そんな時はひとりで
私のふるさと たずねてほしいの

金色の風が拭く 山かげのあの村
声あげて丘へかけてく
15の私が 今でもいるわ

虫の音がしみわたり 星が降るあの村
いつか会う人を夢見て
まどろむ私が 今でもいるわ

ゴロー 私のことがなつかしくなったら、ふるさとを訪ねてくれれば、時空を超えて、いまだに15の私があなたを夢見てまどろんでいるわ……と。どうです? タイムリープものとして十分通用すると思いませんか? 「SF歌謡」として聞けますよ。

 シロー 由紀さおりには「初恋の丘」(北山修作詞・渋谷毅作曲)っていう1971年発の名曲があってね、ぼく、カラオケでよく歌う。これも独身の女性が、初恋をした頃の故郷の丘へ「もう一度帰りたい」って夢見る歌でした。「故郷」と対になってるね。

 ゴロー そう言わればそうですね。ヒット曲「生きがい」(山上路夫作詞・渋谷毅作曲)も、別れた彼氏のことを、今でも思い、一緒に思い出の中で「生きている」って歌ですからね。

 シロー 由紀さおり、ちょっと怖いなあ(笑)。

 ゴロー 私としては「故郷」……これをぜひテーマソングにして、ぜひ映画を撮ってほしいものです。由紀さおりさんには主役は無理としても、ぜひカメオ出演していただきたい!

ドーナツボーイズの相棒、1960年代生まれの真空管ステレオVictor BR-340。国立市にある、おうちギャラリーGALLERY BIBLIOで活躍中。ドーナツボーイズによるトークイベント「45回転の人々」も近々開催予定。

ドーナツ・シロー

1957年大阪府出身。上京して30年近くになるが、大阪弁がいっこうに抜けない。「シロー」はB面で、A面では古本と昭和に関する著作多数のライター。

http://d.hatena.ne.jp/okatake/

ドーナツ・ゴロー

1958年、名古屋市出身。B面の「ゴロー」としては「100円レコード・ハンターとして全国行脚中。A面は、某社の編集者という噂あり。

構成・村崎文香  協力・おうちギャラリー“GALLERY BIBLIO”

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