Interview

舞台『春のめざめ』、志尊淳が思春期の葛藤とどう向き合う?

舞台『春のめざめ』、志尊淳が思春期の葛藤とどう向き合う?

性に目覚めたときの衝撃と好奇心、そして大人に対する不信感。5月5日よりKAAT神奈川芸術劇場ほかで上演されるフランク・ヴェデキント原作、白井晃演出の舞台『春のめざめ』は、そんな聞く耳を持たない大人たちに対し“叫ぶ”しかない葛藤を抱えた思春期の子供たちを描いた、ある種ショッキングな作品。物語の中心人物〈メルヒオール〉に挑むのは注目の若手俳優、志尊淳。自身の思春期を通して、子供たちの悲劇を背負う難しい役どころに何を思うのだろうか。

取材・文 / 恒川めぐみ 撮影 / 冨田望


答えを導き出さなくてもいい。ただ、何かを考えるきっかけになったら

まず『春のめざめ』の第一印象はいかがでしたか?

これまで原作を読ませていただくこともほぼなかったですし、1890年代に書かれた当時の社会性や宗教性があるなかで性について描くことはなおさら複雑なものがあったと思うので、やはり一度読んだだけで完璧に理解するのは難しい内容でした。でも、性について考える〈メルヒオール〉は、僕が思春期だった頃とほとんど歳が離れていないので、共感できる部分はたくさんあって。どの年代でも、どの環境、どの文化でも、根本的に感じることはみんな変わらないんだなと思いました。しかも、そういう感情を社会に対して媚びずにしっかりと表現している作品だなと。今の時代なら、〈メルヒオール〉と同じ14歳が性について知る手段はいくらでもあると思うんです。だからこそ、逆に言えば、現代の人にもちゃんとわかってほしい、ちゃんと考えてほしい議題でもあるんですよね。

志尊さんご自身が性について知ったときの衝撃や状況は覚えていらっしゃいますか?

衝撃とかショックよりも好奇心のほうが大きかったと思います。映画やテレビを観ていて性に関する描写が出てきたときに、知らない単語やわからない事柄を僕は母に聞いたことがあったんですけど、うちの母は言葉を濁したんですよね。それも当然のことだと思うんですけど。かたや〈メルヒオール〉の友人〈モーリッツ〉を演じる栗原類くんの話を聞いてみたら、逆に類くんの家は包み隠さず全部説明してくれたみたいなんです。だから伝え方は環境と教育でまったく違うし、そもそも正解もない。捉える子供によっても大袈裟に捉えてしまう子もいれば、すんなり受け入れられる子もいるので、本当にセンシティブな問題だと思います。さらに性に対する好奇心のベクトルが違うほうに向いてしまうと、現代でも取り返しのつかないことが起こり得るので、やはりすごく繊細なものなんだと改めて感じています。

その子供たちと大人たちとの対話の仕方や対立みたいなものも『春のめざめ』では大きなテーマになってくると。

それはあると思います。僕も、もっと若いときは環境に反発したくなる感情がたしかにありましたから。「教えてくれないのはどうしてなんだろう?」と不信感を抱くところから始まったりもして。正解がわからないなかでもがくのが思春期だったりしますよね。

ご自身の思春期を振り返ってみると、大人たちに対してどんな感情を持っていましたか?

あまり好きではなかったですね、大人って。今になって考えてみると、それは僕のわがままだったり、自我の表れだったんですけど、「そんなに怒らなくたっていいじゃん」「子供のわがままを聞いてくれてもいいじゃん」っていつも思っていました。逆の立場で考えると、本当にやっかいな子供だったんだろうな(笑)。特に小学生の頃は、目を見て向き合って一緒に考えてくれる大人は周りにはあまりいなくて、その都度「なんで?」ってガツガツ向かっていくタイプだったんです(笑)。

製作発表の席で演出の白井晃さんが「非常にソフトでナイーブな青年のように感じていたけれど、自分に与えられたものを乗り越えないと気がすまない、見た目以上に負けず嫌いで芯が強いところがある」と、志尊さんについてお話しされていましたが……。

そうなんです、負けず嫌いなのは小さい頃から(笑)。兄弟と比較されるようなことはまったくなかったんですけど、僕は末っ子だからか「兄弟にも、誰にも負けたくない!」というのと、好きなことにかける熱量みたいなものは昔から大きかった気がします。小学校・中学校の友達と比べてもそうでしたね。いちいち「どうしてそうなるの?」「絶対に僕が考えているほうがいい」って、もう本当に自分本位で、しかも遠慮なくそれを主張していたんですよ。主張していたというか、自然に表に出てしまっていたというか(笑)。当時は疑問に思ったことや納得できないことを隠す器用さはなかったので、「違うものは違う!」と、僕の言うことが正しいとは限らないのに、それでも正しいと思って主張をしていました。でも歳を重ねるごとに、それを内に秘めて、意識に留めて解決に向けていったり、人それぞれ考えがあって動いているんだなとわかるようになってからは、僕自身も変わってきたと思うんです。

そうやって自分だけの小さな世界を、大人や他人と交わることによって広げていくんですよね。そんなご自身なりに理想とする大人像はありましたか?

安心できる人、ですね、子供が一緒にいて。何か急なトラブルに対処するときだけでなく、普通に日常でご飯を食べているときでも「この人がいればなんか安心する」という感覚的なものなんですけど。そういう人になりたいなと小さい頃から思っていたし、今でも理想としています。たぶん『春のめざめ』では、〈メルヒオール〉や〈モーリッツ〉をはじめとする子供たちのそばには、そういう大人がいなかったんでしょうね。〈メルヒオール〉も主観的になりすぎてしまったから、いろいろな問題行動に出てしまったんだと思うんですよ。今の自分がその状況下に置かれたら、いろいろ自分なりに考えて答えを出せると思うんですよね、時間をかけてでも。だけど14歳のときの自分が〈メルヒオール〉と同じ状況になったらと考えると、今とは絶対に答えは違うと思うし、それこそ〈メルヒオール〉と同じことをしていたかもしれない。そのぐらい思春期の子供は視野が狭いのと同時に、大人の助けなしには自分の中だけで世界をどんどん膨らませていってしまうんだと思います。

〈メルヒオール〉は〈モーリッツ〉や〈ヴェントラ〉を巻き込んで悲惨な事件の中心になってしまう。それを演じるのは難しいですね。

本当に重大な事件になるんですけど、正直、その感情をどう演じればいいのだろう、ということにはまだ考えが及んでないですね。台本が完成して、共演者の方々と台詞と感情をぶつけ合ってみないと見えてこないところだと思うので。〈モーリッツ〉と会話をして、〈ヴェントラ〉と会話をして、同じ時間を共有して、そのときに感じたままの表現でいいのかなって。

たしかに登場人物の体当たりなアクションと台詞回しは、そのときのテンションの爆発度合にかかってくる気がします。

そうなんですよね。稽古を重ねていって、どういう感情になるのかは動きを付けて変わることだと思うので、今は全然予想がつかないです(笑)。だから「〈メルヒオール〉としてこんなふうに演じよう」と〈メルヒオール〉に対して芝居のプランニングを今はいっさいしていないですけど、どういう環境の下でどういう人となりなんだろうかとか、そういう知識はしっかりと自分に染み込ませたいなと準備しているところです。

稽古中に自分でも驚くような感情の爆発が起こることは予想できますか?

充分にあると思います。実際、そんな経験がありましたね、過去に。台本にはト書きなど何も書かれていないのに、大泣きしてしまったり。そのときも事前に「こうしよう」なんて考えていなかったんですけど、演技しているときに急に悲しくなってブワーッと涙が出てきてしまった、ということがあって。一歩踏み出したら何が生じるかわからない、自分で予想がつかないことが起こるのがお芝居の醍醐味なんだと思っています。……どうなるんですかね(笑)。自分でも楽しみです。

『春のめざめ』、現代の人にはどう受け止めて欲しいですか?

『春のめざめ』という作品自体を考えてほしい。舞台を観て思うことであったり、観たその先に広がるものが、帰りの電車の中でもいいですし、観てくださった人の世界の中で広がってくれたらいいなと思います。そこには僕自身からの「こんなメッセージを受け取って欲しい」という強要はなくて、自分が表現したもの、作品が訴えたいことがすべてだと思っています。そんななかでも、やっぱり「思春期に子供はこんなに葛藤があるんだ」ということが伝わればいいですね。親世代の方でも子供だった時代は必ずあるわけだから、それを思い起こす瞬間はあると思いますし、性に関することだけじゃなく、いろいろなことに共通することでもあると思うんですよ。環境の変化で自分が抑圧されてしまう状況とか。そういうものをいろいろな日常に置き換えて……答えを導き出さなくてもいいんです、ただ、みなさんが何かを考えるきっかけになったらいいなと思います。

この作品を演じ切ったとき、志尊さんご自身にも何か変化は起きそうですか?

起きると思います、間違いなく。起こさなきゃダメだと思っています。やっぱりいままでとは表現するものがまったく違うし、同じお芝居を何度も繰り返して役と向き合っていくストレートプレイは、僕にとっては初めての経験であり、まったくゼロからのスタートなので、どれだけ役者としての自分が伸びるか、それだけのものが自分の身に付くのか……『春のめざめ』が閉幕したとき、何が自分に残るのかは未知数です。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『春のめざめ』

2017年5月5日(金・祝)〜23日(火)KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
※5月5日(金・祝)・6日(土)はプレビュー公演
 ■チケット一般発売日:2017年2月18日(土)
2017年5月27日(土)・28日(日)ロームシアター京都 サウスホール
 ■チケット一般発売日:2017年2月18日(土)
2017年6月4日(日)北九州芸術劇場 中劇場
 ■チケット一般発売日:2017年4月2日(日)
2017年6月10日(土)・11日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
 ■チケット一般発売日:2017年2月18日(土)

【原作】フランク・ヴェデキント
【翻訳】酒寄進一
【構成・演出】白井晃
【出演】
志尊淳 大野いと 栗原類
小川ゲン 中別府葵 北浦愛 安藤輪子
古木将也 吉田健悟 長友郁真 山根大弥 古木将也 吉田健悟 長友郁真 山根大弥
あめくみちこ 河内大和 那須佐代子 大鷹明良
【企画製作・主催】KAAT 神奈川芸術劇場

「春のめざめ」オフィシャルサイト

志尊淳

1995年3月5日生まれ、東京都出身。
2011年に俳優デビュー。主な舞台出演作に、ミュージカル『テニスの王子様』シリーズ(11~14)、『タンブリングvol.3』(12)があるほか、Dステ『TRUMP』(13)、近年の出演作に【テレビドラマ】『烈車戦隊トッキュウジャー』(主演・14~15/EX)、『表参道高校合唱部!』(15/TBS)、『あの日みた花の名前を僕たちはまだ知らない』(15/CX)、『ダマシバナシ』(15/NTV)、『5時から9時まで~私に恋したお坊さん~』(15/CX)、『そして誰もいなくなった』(16/NTV)【映画】『先輩と彼女』(主演・15/池田千尋 監督)、『疾風ロンド』(16/吉田照幸 監督)、『全員、片想い』(16/藤井道人 監督)、『サバイバルファミリー』(17/矢口史靖 監督)などに出演。2017年4月29日には映画『帝一の國』の公開が控えているほか、『きみはペット』(CX)の14年ぶりのテレビドラマ化で主演を務めている。